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スキルアップカレッジ

物流 DX と業界の未来——TMS /WMS /AI 配車/自動運転/ドローン/フィジカルインターネット

レッスン8:物流 DX と業界の未来——TMS /WMS /AI 配車/自動運転/ドローン/フィジカルインターネット

このレッスンで学ぶこと

  • TMS /WMS /基幹系の役割分担と、AI 配車・動的ルーティングの実装を扱う
  • 自動運転レベル 4 トラック(2027 年頃実用化目標)・隊列走行・ドローン配送の 3 分野を俯瞰する
  • 経産省フィジカルインターネット構想と物流 DX スタートアップを把握する
  • 脱炭素対応(EV トラック・SAF・水素トラック・Scope 3)と修了後の継続学習方向を提示する

前のレッスンでは、EC 物流と宅配クライシス、ラストマイル、置き配、軽貨物急拡大とフリーランス新法、Amazon Flex 型プラットフォームまでを扱いました。最終レッスンとなるこのレッスンでは、業界の未来を左右する物流 DX と脱炭素対応、そして修了後の学び方までを俯瞰し、コースを締めくくります。

物流 DX の 3 レイヤー——現場端末・基幹系・経営ダッシュボード

物流 DX は、大きく 3 つのレイヤーに分けて理解できます。

第 1 の現場端末レイヤーは、ドライバーの車載端末、倉庫内のハンディターミナル、フォークリフトの車載端末、配達員のスマホアプリなど、現場のオペレーションを支えるツール群です。運転日報、荷役実績、位置情報、温度モニタリング、配達完了報告などのデータを収集します。

第 2 の基幹系レイヤーは、TMS(Transport Management System、輸配送管理システム)と WMS(Warehouse Management System、倉庫管理システム)を中心とする業務システム群です。受注管理、配車、進捗管理、在庫管理、請求管理などの日次オペレーションを担います。

第 3 の経営ダッシュボードレイヤーは、KPI 集計、原価分析、収支管理、荷主別採算、シミュレーションなどの経営判断支援ツールです。SAP、Oracle、Workday といった ERP との連携が中核で、CFO /CLO の意思決定を支えます。

物流 DX の遅れは、この 3 レイヤーがそれぞれ独立したシステムで構築され、データ連携が不十分な点にあります。特に中小事業者では、電話・FAX・ホワイトボードで配車を運用している事業所が今も多く残っており、業界全体でのデジタル化格差が生産性格差を拡大しています。

TMS と WMS——役割分担と代表製品

TMS(Transport Management System)と WMS(Warehouse Management System)は、物流 DX の基幹系を担う 2 大システムです。役割は明確に異なります。

TMS は、輸配送業務を管理するシステムで、以下の機能を持ちます。

  • 受注管理(荷主からの受注データ取り込み)
  • 配車計画(車両・ドライバーへの割当)
  • ルート最適化(配送ルート算定)
  • 進捗管理(GPS 追跡、遅延検知)
  • 実績集計(運行日報、KPI レポート)
  • 請求管理(運賃計算、荷主への請求書発行)

TMS の代表製品は、日立ソリューションズ「配送計画ソリューション」、フューチャーアーキテクト「Loogia」、Hacobu「MOVO」、日本電気「NEC 中継輸送マッチングサービス」、TransOpt などです。海外製では Descartes、Manhattan Associates、SAP TM が大手です。

WMS は、倉庫内業務を管理するシステムで、以下の機能を持ちます。

  • 入庫管理(入荷検品、格納指示)
  • 在庫管理(ロケーション管理、ロット管理、賞味期限管理)
  • 出庫管理(ピッキング指示、パッキング、出荷検品)
  • 棚卸管理(実地棚卸、循環棚卸)
  • 流通加工管理(値札貼り、セット組み実績)
  • 荷主別採算管理

WMS の代表製品は、パナソニック EW「EWMS」、日立製作所「HITPRO」、日本電気「WAREHOUSE」、キヤノン IT ソリューションズ「WMS」、Blue Yonder、Manhattan Associates、SAP EWM、Oracle WMS などです。海外製 SaaS の 6 River Systems、Fishbowl、Deposco も日本進出中です。

TMS と WMS を統合的に扱うプラットフォームとして、SAP や Oracle のような ERP 系、そして物流特化 SaaS の Hacobu、Ascend Corporation、Loggi なども成長中です。

AI 配車と動的ルーティング

配車業務は、物流業のバリューチェーンで最も差別化が起きる領域です(レッスン 2 参照)。従来は熟練配車マンの経験と勘に依存していた領域が、AI 配車・動的ルーティングの技術で自動化・最適化されつつあります。

AI 配車の中核技術は、以下の 3 つです。

第 1 の技術は組合せ最適化です。数十台の車両、数百件の配送先、時間指定・積載制限・ドライバー拘束時間などの制約条件を組み合わせ、最適解を計算します。従来の VRP(Vehicle Routing Problem、配送計画問題)は組合せ爆発により厳密解が困難で、遺伝的アルゴリズム、シミュレーテッド・アニーリング、量子アニーリング(D-Wave など)などの手法が研究されてきました。

第 2 の技術は動的ルーティングです。当日の交通状況、突発の受注、キャンセル、渋滞情報、天候などをリアルタイムで反映し、走行中のルートを動的に更新します。GPS・IoT・交通データ連携が実装のカギです。

第 3 の技術は需要予測です。過去の受注データ、季節性、イベント情報、天候などから翌週・翌月の配送需要を予測し、車両・ドライバーの適正配置を事前に計画します。機械学習(時系列予測モデル)が主流です。

AI 配車の代表製品は、日立ソリューションズ「配送計画ソリューション」、Hacobu「MOVO Fleet」、Ascend Corporation「TruckAssist」、フューチャーアーキテクト「Loogia」、Uber Freight(米国、B2B 求荷求車マッチング)などです。

自動運転レベル 4 トラック——2027 年頃実用化目標

自動運転は、SAE(Society of Automotive Engineers、米国自動車技術会)の定義でレベル 0(運転支援なし)〜レベル 5(完全自動運転)の 6 段階に分類されます。トラックの自動運転で本格実用化が期待されているのがレベル 4(特定条件下での完全自動運転、運転手不要)です。

日本では、経済産業省・国土交通省が「新東名高速道路の一部区間で 2025 年度中に自動運転トラック(レベル 4)の実証、2027 年度中に商用化」を目標に掲げています。豊田自動織機、いすゞ、日野、ホンダ、Preferred Networks、T2、Momenta などが実証に参加しています。米国では TuSimple、Aurora、Waymo Via、Kodiak Robotics が高速道路レベル 4 の実用化に取り組んできましたが、TuSimple は 2024 年に破産、Waymo Via も 2023 年に事業停止と、実用化は当初想定より難航しています。

自動運転レベル 4 トラックが実現すれば、以下のインパクトがあります。

  • ドライバー不足の抜本解決(高速道路区間で運転手不要)
  • 24 時間連続運行が可能(人間の拘束時間制約なし)
  • 燃費・事故率の改善

一方で、実装課題も多く残ります。SA /PA での接続作業(自動運転区間の始点・終点での有人運転への切替)、悪天候対応、事故時の責任分担、コスト(車両単価の高さ)などが本格普及の障壁です。

隊列走行——後続無人と後続有人

隊列走行(Truck Platooning)は、複数のトラックが車間距離を短く保ちながら車列を組んで走る技術です。空気抵抗の低減で燃費が改善し、先頭車両のみに運転手を配置すれば人件費も削減できます。

隊列走行には 2 パターンがあります。

第 1 の後続無人隊列走行は、先頭車両のみに運転手を配置し、後続 2 〜 3 台は無人で自動追従します。人件費削減効果が大きく、日本では 2020 年頃から新東名高速道路で実証が行われました。実用化は 2020 年代後半 〜 2030 年代前半と見込まれています。

第 2 の後続有人隊列走行は、各車両に運転手を配置しつつ、車間距離を短く保つ運転支援システムで燃費改善を狙います。無人化ほどのインパクトはありませんが、法制度の障壁が低く、比較的早期の商用化が可能です。

ドローン配送——レベル 4 飛行と 2022 年改正航空法

ドローン配送は、無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を使った小型貨物配送です。日本では 2022 年 12 月の改正航空法施行で「レベル 4 飛行」(有人地帯上空での目視外自律飛行)が解禁され、都市部での配送実用化への道が開けました。

飛行レベルは以下の 4 段階に分類されます。

  • レベル 1:目視内・手動操縦
  • レベル 2:目視内・自律飛行
  • レベル 3:無人地帯上空での目視外自律飛行(山間部、離島など)
  • レベル 4:有人地帯上空での目視外自律飛行(都市部)

レベル 3 飛行は 2018 年から解禁されており、離島・山間部での医薬品配送、災害時の物資輸送などで実運用が始まっています。長崎県五島列島、東京都奥多摩、北海道の郵便局などで実施例があります。

レベル 4 飛行は 2023 年 3 月に第 1 号機の飛行認証(型式認証)が交付され、2024 年時点で東京都西多摩郡奥多摩町、埼玉県秩父市、静岡県磐田市などで実証が進んでいます。ラストマイル配送、医療品配送、山間部の買い物代行などのユースケースで実用化を目指しています。

物流 DX スタートアップ——2020 年代の急拡大

2020 年代に急拡大した物流 DX スタートアップの主要プレイヤーを紹介します。

Hacobu(2015 年設立)は、動態管理・バース管理・トラック運行管理の SaaS「MOVO」シリーズを展開する物流 DX スタートアップです。トラック運行管理サービス MOVO Fleet、動的バース予約 MOVO Berth、輸送データプラットフォーム MOVO Vista を提供します。

CBcloud(2013 年設立)は、企業間軽貨物マッチングプラットフォーム「PickGo」を運営します。企業の急ぎ配送ニーズと個人ドライバーをマッチングする B2B ラストマイル配送プラットフォームです。

SmartDrive(2013 年設立)は、車両データを活用した業務効率化と安全管理のプラットフォーム「SmartDrive Fleet」を提供します。GPS・加速度・エンジンデータを分析し、安全運転・燃費改善・車両稼働率改善を支援します。

Ascend Corporation(2019 年設立)は、AI 配車計画 SaaS「TruckAssist」を提供し、中小運送事業者のデジタル化を支援しています。

Buysell Technologies(2001 年設立、2019 年東証グロース上場)は、リユース物流と買取査定の統合プラットフォームを展開。物流ではないが、二次流通市場を支える物流インフラの一角として拡大しています。

海外では、Convoy(米国、2015 年設立、2023 年 10 月事業停止)、Uber Freight(米国 Uber Technologies 傘下)、Flexport(米国、国際貨物フォワーダー SaaS)が主要プレイヤーとして展開しています。

フィジカルインターネット構想——経産省 2022 年ロードマップ

フィジカルインターネット(Physical Internet、PI)は、インターネットで情報が最適経路で運ばれるように、物流ネットワークを標準化・オープン化し、貨物を最適経路で自動的に運ぶ構想です。2013 年頃からフランスの Benoit Montreuil 教授などが提唱し、日本では経済産業省が 2022 年 3 月に「フィジカルインターネット・ロードマップ」を公表しました。

このロードマップでは、2040 年までに以下を実現することを目標にしています。

  • 物流ネットワークの完全共同利用(複数荷主・複数事業者の共同配送)
  • 貨物・積載容器・ハブ倉庫の標準化
  • 物流データのオープン化とプラットフォーム化
  • 自動運転・ドローン配送との統合

現時点では構想段階ですが、共同配送、標準パレット化、モーダルシフトの取り組みが積み重なる先に、この構想が位置づけられます。物流業界の 20 年先の姿として理解しておくと、業界の中長期戦略が読み解きやすくなります。

脱炭素対応——EV トラック・SAF ・水素トラック・Scope 3

物流業界の脱炭素対応は、業界を横断する重要テーマです。

第 1 の EV トラックは、小型・中型(積載 3 〜 8 トン)を中心に商用化が進んでいます。三菱ふそう eCanter、いすゞ ELF EV、日野 デュトロ Z EV、フォロフライ、そして海外では BYD、Tesla Semi、Volvo Trucks の EV モデルが展開されています。ラストマイル配送・都市部配送での実用化が先行し、長距離幹線輸送は充電インフラの整備待ちです。

第 2 の SAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)は、廃食用油・バイオマス・水素などから合成する航空燃料です。ANA、JAL、日本貨物航空、DHL Express、FedEx などが導入を進めており、2030 年に SAF 使用率 10 % を業界目標としています。ただし、生産コストが従来のジェット燃料の 2 〜 5 倍と高く、価格転嫁が実装課題です。

第 3 の水素トラックは、水素燃料電池を使うトラックで、長距離幹線輸送での実用化が期待されています。トヨタ・日野・いすゞの合弁の Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)が 2021 年設立され、大型 FC(燃料電池)トラックの開発を進めています。米国では Nikola Motor(2020 年ナスダック上場、その後経営難)が水素トラックで話題を集めましたが実用化は難航し、Hyzon Motors、Daimler Trucks、Volvo Trucks が代替として実用化に取り組んでいます。

第 4 の Scope 3 対応は、荷主側の CO2 開示要請に応える取り組みです。荷主は Scope 3(購入品・輸送・出張などの間接排出)の 15 カテゴリのうち、カテゴリ 4(Upstream Transportation、上流輸送)とカテゴリ 9(Downstream Transportation、下流輸送)が物流事業者からの CO2 データに依存します。物流事業者は、車両別・案件別の CO2 排出量算定・報告体制を求められる時代になりました。CBAM(EU 炭素国境調整メカニズム、2026 年 1 月本格施行)や CSDDD(EU 企業サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令、2024 年 5 月採択)も、輸出入貨物への Scope 3 開示要請という形で影響を与えます。

修了後の継続学習方向——業界情報源

本コース修了後、運輸・物流業界を継続的に学ぶための情報源を紹介します。

政府・公的機関の情報源として、国土交通省「自動車輸送統計年報」「内航船舶輸送統計年報」「宅配便取扱実績」、経済産業省「電子商取引に関する市場調査」、国土交通省「物流政策」ページが基本です。制度改正・統計データの一次ソースとして重宝します。

業界団体の情報源として、公益社団法人日本物流団体連合会(物流連)、公益社団法人全日本トラック協会(全ト協)、日本内航海運組合総連合会、公益社団法人日本冷蔵倉庫協会、日本パレット協会、日本 3PL 協会などがあります。業界の声・調査データを発信しています。

業界誌・専門誌の情報源として、月刊 LOGI-BIZ(ロジビズ)、月刊 マテリアルフロー、日刊カーゴ、輸送新聞、日本流通新聞、物流ニッポン、日経 MJ(物流特集)が主要媒体です。業界動向・新技術・企業事例を掘り下げて扱います。

書籍としては、湯浅和夫『物流とロジスティクス入門』(日本能率協会マネジメントセンター)、苦瀬博仁『新・物流の基礎知識』(大成出版社)、鈴木邦成『物流の基本』(日本実業出版社)、ラリー・ダウンズ『物流の未来』(日経 BP)などが定番です。

英語ソースとしては、Journal of Commerce(米国、海運・国際物流の権威)、Logistics Management、Supply Chain Dive、Freightwaves(米国、物流業界ニュース)が主要媒体です。

修了にあたって

本コースでは、運輸・物流業を「業界として読み解く眼鏡」を、業界外の方に向けて 8 レッスンで届けてきました。

第 1 レッスンで業界の現在地と本コースの守備範囲、第 2 レッスンでバリューチェーンと 6 業態、第 3 レッスンで貨物自動車運送事業法改善基準告示標準的な運賃、第 4 レッスンでフォワーダー・海運・鉄道貨物・航空貨物、第 5 レッスンで倉庫業法・危険物・コールドチェーン・パレット、第 6 レッスンで物流 2024 年問題と改正物流法・CLO 選任義務、第 7 レッスンで EC 物流と宅配クライシス、そしてこの第 8 レッスンで物流 DX と業界の未来を扱いました。

業界の 3 共通言語「時間・規制・階層」を軸に、業界の全体像を俯瞰できる状態になっていれば、本コースの目的は達成です。運輸・物流業に転職・配属された方、担当することになったコンサル・SIer・金融・保険・不動産の方、業界に提案する営業職の方——それぞれの立場で、業界会議での議論が理解しやすくなり、次の学習の方向が見えてきているはずです。

物流業界は、2024 年 4 月の物流 2024 年問題を起点に、20 年に一度の構造変化の真っただ中にあります。改善基準告示改正、改正物流法、CLO 選任義務、特定技能自動車運送業、EV トラック、フィジカルインターネット構想——これらすべてが 2024 〜 2026 年に集中して動いており、業界の景色が今後 5 年で大きく変わります。この変化を「読む眼鏡」を持って、日々のニュース・会議・提案に臨んでいただければ幸いです。

「時間・規制・階層」の 3 語を思い出しながら、業界の続報を追いかけてください。運輸・物流業は、日本の生活と経済を支える生態系そのものです。ここに関わる仕事は、意味深い仕事です。


確認クイズ

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