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スキルアップカレッジ

EC 物流と宅配クライシス——ラストマイル・置き配・再配達

レッスン7:EC 物流と宅配クライシス——ラストマイル・置き配・再配達

このレッスンで学ぶこと

  • EC 拡大がもたらした物流構造の変化を把握する
  • 宅配 3 社(ヤマト・佐川・日本郵便)とヤマト 2017 年総量規制の背景を理解する
  • 置き配・再配達率宅配ボックス・PUDO の制度と現状を扱う
  • 軽貨物急拡大とフリーランス新法、Amazon Flex 型プラットフォームの動きを俯瞰する

前のレッスンでは、物流 2024 年問題と改正物流法・CLO 選任義務を扱いました。このレッスンでは、業界の中でもっとも急拡大している領域——EC 物流と宅配——を見ていきます。ヤマト 2017 年総量規制、置き配、再配達率、軽貨物の急拡大、Amazon Flex 型プラットフォームまで、EC 経済圏を支える物流の内側に踏み込みます。

EC 物流の急拡大——約 24 兆円市場の裏側

日本の BtoC-EC 市場は、2024 年時点で約 24 兆円(うち物販系が約 15 兆円、サービス系約 7 兆円、デジタル系約 2 兆円、経済産業省 電子商取引に関する市場調査)に拡大しました。10 年前(2014 年)の約 12 兆円から 2 倍以上に成長した領域です。

この EC 拡大が物流業界にもたらした変化は 3 つあります。

第 1 の変化は、小口化・多頻度化です。従来の物流は「トラック 1 台で数十件のロット貨物を配送する」構造でしたが、EC では「1 個の商品を 1 軒の家に個別配送する」ニーズが急拡大しました。1 個あたりの配送コストは高くなり、輸送効率は低下する構造です。

第 2 の変化は、宅配便取扱個数の急増です。宅配便取扱個数は、2013 年度の約 36 億個から 2023 年度の約 50 億個へと 14 億個増加しました(国土交通省 宅配便取扱実績)。10 年間で年平均約 3 % の成長率です。

第 3 の変化は、ラストマイル配送の負荷増大です。ラストマイル(Last Mile)は「消費者の家までの最後の配送区間」を指し、物流全体の 40 〜 60 % のコストがこの区間で発生します。人件費・車両費・燃料費が集中する高コスト構造で、EC 拡大に伴い最大の課題領域となりました。

宅配 3 社——ヤマト・佐川・日本郵便の 90 % 寡占

日本の宅配便市場は、宅配 3 社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)が約 90 % を占める寡占構造です。2023 年度の宅配便取扱個数シェアは、ヤマト運輸「宅急便」約 44 %、佐川急便「飛脚宅配便」約 28 %、日本郵便「ゆうパック」約 18 %、その他(西濃運輸「カンガルー特急便」、福山通運「フクツー宅配便」、EC プラットフォーマーの自社物流など)約 10 %(国土交通省 宅配便取扱個数調査)です。

ヤマト運輸は、1976 年に「宅急便」を開始し、日本の宅配便市場を創出した企業です。持ち株会社ヤマトホールディングス(YHD、東証プライム上場)の中核事業として運営されています。2024 年時点で従業員約 22 万人(連結)、営業収入約 1.7 兆円(2024 年 3 月期)の規模です。

佐川急便は、SG ホールディングス(東証プライム上場)傘下の中核事業で、法人向け配送に強みを持ちます。従業員約 5 万人、SG ホールディングスの連結営業収入約 1.6 兆円(2024 年 3 月期)です。

日本郵便は、日本郵政(東証プライム上場)傘下で、全国 24,000 の郵便局ネットワークを活かした地方配送に強みがあります。ゆうパックの取扱個数は約 9 億個(2023 年度)です。

ヤマト 2017 年総量規制——業界を変えた分水嶺

ヤマト 2017 年総量規制は、日本の宅配業界を根本から変えた出来事です。ヤマト運輸は 2017 年 3 月、大口取引先(Amazon など)からの荷物受け入れの制限を発表しました。

背景には、EC 拡大による取扱個数の急増と、それに追いつかない現場のドライバー不足がありました。同社は 2015 年度に取扱個数 17.3 億個を扱いましたが、翌 2016 年度には 18.7 億個へと 1.4 億個増加し、ドライバーの残業時間が慢性的に上限を超える状況が発生していました。同年 4 月に発覚した「サービス残業問題」(未払い残業代の是正で約 190 億円を支給)が引き金となり、経営判断としての総量規制に踏み切りました。

具体的な措置は 3 つです。第 1 に、Amazon など大口顧客との取引量の適正化(受け入れ量の削減交渉)。第 2 に、基本運賃の値上げ(1990 年以来の値上げ、平均 15 % 増)。第 3 に、時間帯指定の削減(12 〜 14 時と 20 〜 21 時の時間帯枠を廃止)。

この総量規制は業界全体に波及し、佐川急便、日本郵便も同様に運賃値上げと荷主との条件見直しに動きました。日本の宅配業界は、この 2017 年を境に「時間優先」から「コスト(人件費)優先」に軸が移ったと言えます。同時に、Amazon が自社物流(Amazon Flex、Amazon Logistics)を急速に強化する引き金にもなりました。

💡 ポイント ヤマト 2017 年総量規制は「宅配クライシス」と呼ばれ、業界の分水嶺として記憶されています。それ以前の「翌日配達・時間帯指定・再配達無料」の 3 点セットが持続不能であることが認められ、業界の価格構造・サービス水準が再定義されました。この文脈を踏まえないと、その後の置き配普及・軽貨物急拡大・EC プラットフォーマー自社物流強化の動きが読み解けません。

再配達率——2024 年 10 月の目標 10 % と現状 11.4 %

再配達率は、配送物のうち初回配達で受け取られず、再配達となった割合を指します。国土交通省が半期ごとに調査を公表しており、業界の重要 KPI となっています。

再配達率の推移は以下の通りです。

  • 2015 年 4 月時点:約 20 %
  • 2020 年 4 月時点:約 16.6 %
  • 2023 年 4 月時点:約 11.4 %
  • 2024 年 4 月時点:約 10.4 %
  • 2024 年 10 月時点:約 11.4 %

国土交通省は 2024 年度の目標を「再配達率 10 %」と設定し、業界にその達成を求めています。目標達成のための施策として、置き配・宅配ボックス・PUDO ステーション・コンビニ受け取りといった多様な受け取り手段の普及が推進されています。

再配達を 1 回減らすと、CO2 排出量で約 42 万トン/年、労働時間で約 1.8 億時間/年の削減効果があるとの試算があります(国土交通省)。ドライバー不足対応と脱炭素の両面から、再配達削減は業界の重要課題です。

置き配——2020 年国交省ガイドラインで本格化

置き配(おきはい)は、配達員が受取人不在時に指定場所(玄関ドア前、宅配ボックス、車庫、物置など)に荷物を置いて配達完了とする配送方法です。日本では 2018 年頃から Amazon が試験的に導入し、2020 年 3 月に国土交通省が「置き配の適切な実施に関するガイドライン」を公表して本格化しました。

ガイドラインでは、置き配の実施条件として以下が示されています。

  • 受取人の事前同意(EC 注文時の選択、配送業者のマイページ設定など)
  • 置き配指定場所の明確化(玄関前、宅配ボックス、物置、車庫など)
  • 荷物の保護(防水対策、盗難対策、写真撮影による証拠保全)
  • 完了通知(メール・アプリ通知で完了を報告)

置き配は、Amazon Prime 配送では 2020 年 3 月から標準設定となり、他社(楽天、Yahoo!ショッピングなど)も対応が進んでいます。宅配 3 社(ヤマト・佐川・日本郵便)でも、指定場所配送サービスとして提供されています。

一方、置き配には課題もあります。盗難被害(2023 年時点で年間数千件、都市部中心)、荷物破損、集合住宅での実施難、悪天候時の対応など、運用上の細かな調整が続いています。

宅配ボックス・PUDO ステーション・コンビニ受け取り

多様な受け取り手段が普及しています。

宅配ボックスは、集合住宅・戸建住宅に設置される鍵付きロッカーで、配達員が投入することで受取人不在時でも配送を完了できます。集合住宅では 2010 年代以降、新築物件で標準装備化が進み、既存物件への後付け設置も広がっています。戸建向けにはパナソニック COMBO、リクシル、YKK AP などが専用ボックスを販売しています。

PUDO ステーション(Pick Up Delivery Optional)は、駅・スーパー・コンビニ・オフィスビルなどに設置されるオープン型宅配ロッカーで、受取人が任意のタイミングで受け取れる方式です。日本では Packcity Japan(フランス Neopost 系)と ヤマト運輸が展開する PUDO ネットワークが主流で、2024 年時点で全国に約 7,000 か所設置されています。

コンビニ受け取りは、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなどの店頭で荷物を受け取る方式です。24 時間対応、営業時間中いつでも受け取れる利便性から、EC ユーザーに広く利用されています。特に若年層の利用率が高く、EC の受け取り選択肢として重要な位置を占めています。

軽貨物の急拡大——事業者 30 万超

軽貨物運送事業(黒ナンバー、レッスン 3 参照)の事業者数は、2015 年頃の約 15 万から 2024 年時点で約 30 万超へと 2 倍に急拡大しました。EC ラストマイル配送、フードデリバリー、企業間配送などの需要増が背景にあります。

軽貨物事業者の多くは個人事業主で、副業・複業として参入するケースも急増しています。Amazon Flex(Amazon の個人配達員委託ネットワーク)、Uber Eats(フードデリバリー)、出前館、Wolt などのプラットフォーム経由で仕事を受注する働き方が一般化しました。

この急拡大に伴い、労働環境の課題も顕在化しました。長時間労働、事故率の高さ、不安定な収入、社会保障の未整備など、個人事業主特有の課題が業界横断のテーマとなっています。労災の特別加入制度(貨物軽自動車運送事業者)は 2024 年 11 月に拡充され、任意加入が可能になりました。

フリーランス新法——2024 年 11 月施行

フリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、2023 年 4 月成立、2024 年 11 月 1 日施行された、個人事業主・小規模事業者の取引適正化を目的とした法律です。物流業界では特に、軽貨物一人親方への発注に影響します。

主な規制内容は以下の 4 つです。

第 1 の書面交付義務は、発注時に業務内容・報酬額・支払期日などを書面(電子データ含む)で明示する義務です。従来の電話・口約束による発注が禁止されます。

第 2 の報酬支払期日規制は、給付を受けた日から 60 日以内での支払いを義務付けます。物流業界の慣行だった 90 日以上の長サイトは違法となります。

第 3 の禁止行為は、受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置など 7 類型を禁止します。

第 4 のハラスメント対策は、育児介護等への配慮、就業環境整備、ハラスメント対応窓口設置などを求めます。

これらの規制は、荷主・元請運送会社と軽貨物一人親方の関係に大きな影響を与え、既存の下請取引の見直しが業界横断で進んでいます。

📝 補足 フリーランス新法の詳細は、姉妹コース フリーランスの確定申告 で扱われている論点でもあります。物流業界の視点では、荷主・元請から軽貨物への発注が対象となり、書面化義務・支払期日規制が実務上の大きな変化となります。

Amazon Flex 型プラットフォームの拡大

Amazon Flex は、Amazon が 2019 年に日本で開始した個人配達員委託ネットワークです。個人ドライバーが専用アプリで配送スポットを予約し、Amazon の配送センターから荷物を受け取り、指定エリアの配達を行う仕組みです。時給換算で 2,000 〜 2,800 円が業界水準とされ、副業・複業ドライバーの入口として拡大しました。

同様のプラットフォームは他社でも展開されています。PickGo(CBcloud 運営、企業間配送マッチング)、ハコベルカーゴ(ラクスル系、旧・ハコベル)、Uber Eats(フードデリバリー、Uber Technologies)、出前館(LINE ヤフー傘下)、Wolt(フィンランド発、Doordash 傘下)などが主要プレイヤーです。

これらのプラットフォームは、荷主・受取人と個人配達員を直接マッチングすることで、従来の宅配業者を介在させない配送を実現します。宅配 3 社の寡占構造を揺さぶる新しい業界レイヤーとして注目されています。

生鮮 EC のコールドチェーン——Amazon フレッシュ、Oisix

生鮮食品の EC(Amazon フレッシュ、Oisix ラ・大地、楽天西友ネットスーパー、Yahoo!マートなど)は、コールドチェーン(レッスン 5 参照)の 3 温度帯配送を必要とする高難度領域です。

配送単価は通常配送の 1.5 〜 2 倍かかり、冷蔵冷凍車両、専用ドライアイス、温度管理シールなどの追加コストが必要です。それでも、コロナ禍以降の在宅需要拡大と、共働き世帯増加による買い物代行需要から、市場は年 10 〜 20 % のペースで成長しています。

Oisix ラ・大地(東証プライム上場)は、有機野菜・こだわり食材の EC 大手で、Oisix / 大地を守る会 / らでぃっしゅぼーやの 3 ブランドを運営。年間売上約 1,150 億円(2024 年 3 月期)の規模です。楽天西友ネットスーパーは、楽天と西友の合弁事業として 2018 年に開始しました。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • BtoC-EC 市場は約 24 兆円(物販系 15 兆円)、宅配便取扱個数は 50 億個で 10 年で 1.7 倍
  • 宅配 3 社(ヤマト・佐川・日本郵便)が市場の約 90 % を寡占
  • ヤマト 2017 年総量規制は業界の分水嶺で、時間優先からコスト優先への転換点
  • 再配達率は 2024 年 10 月時点で約 11.4 %、目標は 10 %
  • 置き配は 2020 年 3 月国交省ガイドラインで本格化、Amazon Prime 標準設定
  • 宅配ボックス・PUDO・コンビニ受け取りが多様な受け取り手段として普及
  • 軽貨物事業者は 30 万超に急拡大、フリーランス新法(2024 年 11 月施行)の対象
  • Amazon Flex /PickGo などの個人配達員プラットフォームが宅配 3 社の寡占構造を揺さぶる

次のレッスンでは、業界の未来を左右する物流 DX を扱います。TMS /WMS の役割分担、AI 配車、自動運転レベル 4 トラック、ドローン配送、隊列走行、経産省フィジカルインターネット構想、EV トラック・SAF・水素トラックの脱炭素動向、そして修了後の学び方までを俯瞰し、コースを締めくくります。


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