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スキルアップカレッジ

貨物自動車運送事業法・改善基準告示・標準的な運賃

レッスン3:貨物自動車運送事業法改善基準告示標準的な運賃

このレッスンで学ぶこと

  • 貨物自動車運送事業法の 3 事業区分と営業ナンバー制度を理解する
  • 改善基準告示(2024 年 4 月改正版)の 3 大数字(拘束時間・連続運転時間・休息期間)を扱える
  • 標準的な運賃(2020 年告示・2024 年 3 月改訂)と荷主勧告制度を把握する
  • 下請 3 階層と軽貨物一人親方、運行管理者の役割を理解する

前のレッスンでは、運輸・物流業のバリューチェーンと 6 業態の収益モデル、時間・コスト・品質のトリレンマを扱いました。このレッスンでは、業界のもっとも根源にある法制度——貨物自動車運送事業法と改善基準告示、そして 2024 年 3 月に 8 % 引き上げが告示された標準的な運賃——に踏み込みます。この 3 つの制度が、業界の会話のほとんどの前提を作っています。

貨物自動車運送事業法——1990 年物流二法の中核

貨物自動車運送事業法は 1989 年 12 月に成立、1990 年 12 月に施行された、日本のトラック運送業を規律する基本法です。物流分野の規制緩和を進めた「物流二法」(貨物自動車運送事業法と貨物利用運送事業法)の一方を担います。

この法律のポイントは、それまで免許制だった参入規制を「許可制」に緩和し、参入障壁を下げた点にあります。事業者数はこの規制緩和以降急増し、1990 年時点で約 4 万社だった事業者数は、2007 年頃には約 6 万 3,000 社まで増えました。過当競争と運賃低下の一因になった一方、荷主にとっては選択肢が広がった変化でした。

同法は 3 種類の事業区分を定めています。順に見ていきましょう。

第 1 の一般貨物自動車運送事業は、他人(不特定多数の荷主)の需要に応じて有償で貨物を運ぶ事業です。トラック運送業の主流で、事業者数は約 6 万 3,000 社(令和 5 年度、国土交通省 自動車輸送統計)です。営業ナンバーは緑地に白文字(通称「緑ナンバー」)で、車両側面にも表示されます。

第 2 の特定貨物自動車運送事業は、特定の 1 社の荷主(親会社の物流子会社など)の貨物のみを運ぶ事業です。参入・料金の届出手続きが簡素化されているため、大手メーカー・小売の物流子会社に多い形態です。ただし 2003 年の規制緩和以降は一般貨物との差が縮小し、新規許可はほとんど行われていません。

第 3 の貨物軽自動車運送事業は、軽自動車(125cc 超のバイク含む)で貨物を運ぶ事業です。参入手続きは「届出」のみで済み、参入障壁が最も低い区分です。EC 拡大とラストマイル配送需要の急増で、事業者数は急拡大しており、2024 年時点で 30 万事業者(多くは個人事業主)を超えています。営業ナンバーは黒地に黄文字(通称「黒ナンバー」)です。

💡 ポイント 「営業ナンバー」(緑・黒)で運ぶことができるのは「他人の貨物を有償で運ぶ」場合だけです。自社の商品を自社の車両で自社の従業員が運ぶ場合は「自家用ナンバー」(白ナンバー、乗用車と同じ)で構いません。白ナンバーで他人の貨物を有償で運ぶと「白タク行為(貨物版)」として貨物自動車運送事業法違反になります。

営業ナンバーと自家用ナンバーの境目

営業ナンバーと自家用ナンバー(白ナンバー)の境目を、もう少し掘り下げます。この区別は、業界外の方が最初につまずくポイントです。

営業ナンバーが必要になる条件は「他人」「有償」「貨物」の 3 拍子が揃った場合です。3 拍子のうちどれかが欠ければ許可なしで運べます。例えば、以下は白ナンバーで問題ありません。

  • 自社の商品を自社のトラックで自社の従業員が運ぶ(他人ではない)
  • 友人の引越しを無償で手伝う(有償ではない)
  • タクシー・乗合バス(貨物ではなく人)

一方、以下は営業ナンバーが必要です。

  • 他社から荷物を預かって配達する(他人 × 有償 × 貨物)
  • 個人が副業で荷物配達を請け負う(他人 × 有償 × 貨物、貨物軽自動車運送事業の届出必要)
  • EC の Amazon Flex 型プラットフォームで配達する(同上、黒ナンバー登録が必要)

Amazon Flex や PickGo のような個人配達プラットフォームで働くには、事前に貨物軽自動車運送事業の届出と、車両の黒ナンバー登録が必要です。副業で始める方が急増しており、フリーランス新法(2024 年 11 月施行、姉妹コース フリーランスの確定申告 で扱う)の対象領域とも重なります。

改善基準告示——2024 年 4 月改正の全体像

改善基準告示は、正式名称を「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」といい、1989 年に労働省告示第 7 号として策定されました。その後、2022 年 12 月に大幅改正され、2024 年 4 月から改正版が施行されています。トラックドライバー、バス運転者、タクシー運転者の労働時間の上限を定めるもので、労働基準法とセットで運用されます。

改正の背景は、物流 2024 年問題と直結しています。働き方改革関連法(2018 年 6 月成立、2019 年 4 月順次施行)で時間外労働の上限規制(年 960 時間、自動車運転業務は 5 年猶予)が定められ、その具体的な運用基準として改善基準告示も改正されました。詳細はレッスン 6 で扱いますが、改善基準告示の 3 大数字はここで押さえます。

第 1 の数字は拘束時間です。拘束時間とは「使用者に拘束される時間」で、労働時間(運転時間+作業時間)と休憩時間(食事・仮眠を含む)の合計です。トラックドライバーの場合、1 日の拘束時間は原則 13 時間以内、最大 15 時間(週 2 回まで)、1 か月の拘束時間は原則 284 時間以内、最大 310 時間(年 6 回まで、労使協定で延長可)です。1 年間の拘束時間は原則 3,300 時間、最大 3,400 時間となっています。

第 2 の数字は連続運転時間です。連続運転時間は原則 4 時間以内で、4 時間を超える前に 30 分以上の休憩(分割可、1 回 10 分以上)を取る必要があります。長距離幹線輸送では、この基準を守るための SA /PA(サービスエリア/パーキングエリア)での休憩計画が配車業務の中核になっています。

第 3 の数字は休息期間です。休息期間とは「1 日の勤務終了から次の勤務開始までの時間」で、原則 11 時間以上(最低 9 時間、8 時間から改正で引き上げ)を確保する必要があります。この改正で、長距離配送の翌日再出発のスケジュールが大きく変わりました。

⚠️ 注意 改善基準告示の数字は 2024 年 4 月改正で厳しくなりました。改正前と改正後を混同する記事も多いため、業界資料を読む際は必ず日付を確認してください。本コースは 2024 年 4 月改正後の数字で統一しています。

標準的な運賃——2020 年告示と 2024 年 3 月改訂

標準的な運賃は、貨物自動車運送事業法第 63 条の 2 に基づき、国土交通大臣が告示する運賃の目安です。2020 年 4 月に初めて告示され、2024 年 3 月に約 8 % 引き上げの改訂が行われました。

この制度の背景は、長年の下請多重構造と過当競争で運賃が抑え込まれ、ドライバーの処遇改善が困難になっていた構造にあります。ドライバーの平均年収は全産業平均より 5 〜 10 % 低い水準(厚生労働省 令和 4 年賃金構造基本統計調査)にとどまり、若年層の入職が細っていました。標準的な運賃は、事業者が荷主と交渉する際の「参考価格」を国が示すことで、運賃引き上げの後押しをする制度です。

告示は、車両区分(2 トン、4 トン、7 トン、10 トン、20 トンなど)、地区区分(北海道・東北・関東など 12 地区)、輸送距離区分(100km、200km、500km、1,000km など)ごとに、時間制運賃(1 時間あたり)と距離制運賃(1km あたり)の 2 種類で示されます。実勢運賃(実際に取引されている運賃)は地域や取引関係で幅がありますが、標準的な運賃はほぼ「実勢の中で高めの水準」に設定されています。

2024 年 3 月の 8 % 引き上げは、物流 2024 年問題の対応として、ドライバーの労働時間短縮に必要な処遇改善原資を確保するためのものです。ただし、標準的な運賃はあくまで「目安」であり、法的強制力はありません。荷主が承諾しなければ実現しない構造で、経営者にとっては交渉ツールの位置づけです。

📝 補足 標準的な運賃と混同しやすい概念に「タリフ運賃」があります。タリフ運賃は事業者が個別に設定・届出する運賃で、標準的な運賃とは別物です。1990 年の規制緩和以前はタリフ運賃制度が強く、値引きが制限されていましたが、規制緩和後は個別の交渉が主流になっています。

荷主勧告制度——荷主側への責任追及

荷主勧告制度は、貨物自動車運送事業法第 64 条に基づき、荷主の要求が原因で運送事業者が法令違反(過労運転など)を起こした場合に、国土交通大臣が荷主に対して勧告できる制度です。1990 年の同法制定時から存在しましたが、実効性が弱く、勧告件数は限られていました。

2019 年の改正で、勧告の内容と経緯を公表できるようになり、荷主側への抑止力が強化されました。さらに 2024 年 4 月の改正物流法(レッスン 6 で詳述)では、荷主・元請事業者への規制が強化され、以下の 3 責任が明確化されています。

  • 荷待ち時間・荷役時間の短縮責任(1 運行あたり 2 時間以内を目安)
  • 適正な運賃・料金の負担責任
  • ドライバー確保のための取り組み責任

これまで「荷主が絶対的な力を持ち、運送事業者が我慢する」構造だったものが、「荷主も応分の責任を負う」構造に転換する動きです。物流 2024 年問題の解決には、この荷主側の変化が不可欠と位置づけられています。

下請 3 階層と一人親方

貨物自動車運送業には、建設業と同様に多重下請構造があります。荷主 → 元請運送会社 → 一次下請 → 二次下請 → 三次下請 → 一人親方(軽貨物)という 5 階層を形成することも珍しくありません。

この構造は、荷量の変動に対応する柔軟性を業界に与える一方で、下位に行くほど運賃が薄くなり、末端の一人親方が最も過酷な条件で働く状況を生んでいます。元請が荷主から受け取る運賃を 100 とすると、二次下請では 70 〜 80、三次下請では 60 〜 70、一人親方では 50 〜 60 まで薄まるケースがあります(帝国データバンク 一般貨物自動車運送業 業界動向調査 2024 年)。

軽貨物の一人親方は、貨物軽自動車運送事業として届出を出せば、車 1 台で開業できる参入障壁の低さから、EC 拡大に伴い急増しました。2024 年時点で軽貨物事業者は約 30 万を超え、多くが個人事業主です。この領域はフリーランス新法(2024 年 11 月施行)の対象にも該当し、書面交付義務、報酬支払期日 60 日以内、禁止行為(受領拒否・報酬減額・返品・買いたたきなど)が適用されます。

運行管理者制度

貨物自動車運送事業法は、事業者に「運行管理者」の選任を義務付けています。運行管理者は、ドライバーの点呼、乗務記録の管理、勤務時間・拘束時間の管理、事故防止措置などを担う責任者で、資格試験の合格が必要です(貨物運行管理者試験、合格率 30 〜 35 %)。

営業所ごとに、車両 30 台までは 1 名、それ以上は 30 台ごとに 1 名追加で選任する必要があります。一般貨物自動車運送事業者は、営業所を新設するたびに運行管理者の確保が必要となり、この人材確保が中小事業者の営業拡大のボトルネックになっています。

同様に、整備管理者の選任も義務付けられており(車両 5 台以上の営業所)、車両の日常点検・定期整備の管理を担います。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 貨物自動車運送事業法は 3 事業区分(一般貨物/特定貨物/貨物軽自動車)を定め、営業ナンバー(緑・黒)が必要
  • 改善基準告示(2024 年 4 月改正)の 3 大数字は、拘束時間 1 日 13 時間原則/連続運転 4 時間/休息期間 11 時間
  • 標準的な運賃は 2020 年 4 月告示・2024 年 3 月に 8 % 引き上げ改訂、参考価格として機能
  • 荷主勧告制度は 2019 年改正で公表可能に、2024 年改正物流法で荷主責任が強化
  • 下請 3 階層と軽貨物一人親方の運賃階層は元請 100 に対して末端で 50 〜 60 まで薄まる
  • 運行管理者・整備管理者の選任が事業者に義務付けられている

次のレッスンでは、トラック以外の輸送モード——フォワーダー・海運・鉄道貨物・航空貨物——を扱います。国際物流の主戦場である外航コンテナ、そのコンテナを扱うフォワーダーと NVOCC の役割分担、港湾運送業、JR 貨物、航空貨物までを俯瞰していきます。


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