放送業界 6 分類・視聴率・TVer /SVOD /AVOD /FAST
レッスン5:放送業界 6 分類・視聴率・TVer /SVOD /AVOD /FAST
このレッスンで学ぶこと
- 放送業界 6 分類(地上波民放キー局・ローカル局・衛星・ケーブル・NHK・ネット配信)を理解する
- 視聴率(世帯視聴率・個人視聴率・コア視聴率)とビデオリサーチ調査を扱える
- TVer(民放公式配信、2015 年開始)と NHK の位置づけを把握する
- 動画配信 4 モデル(SVOD /AVOD /TVOD /FAST)と Netflix /Amazon Prime Video /Disney+ /Hulu /U-NEXT を俯瞰する
前のレッスンでは、通信技術の進化と料金国際比較・iOS /Android エコシステム経済圏を扱いました。このレッスンでは、放送業界の全体構造と、動画配信ビジネスの 4 モデルを扱います。
放送業界 6 分類
日本の放送業界は、以下の 6 分類に整理できます。
第 1 分類の地上波民放キー局は、日本テレビ、TBS テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の 5 社です。それぞれ全国ネットワーク(日テレ系列、TBS 系列、フジ系列、テレ朝系列、テレビ東京系列)を持ち、番組を全国に配信します。
第 2 分類のローカル局(地上波民放)は、キー局と系列を組む地方の民間放送局で、全国約 130 局が該当します。系列局への番組供給と、地元密着の自社制作番組を組み合わせて運営しています。
第 3 分類の衛星放送(BS /CS)は、BS 放送(BS 日テレ、BS-TBS、BS フジ、BS 朝日、BS テレ東、BS 松竹東急、BS よしもと、WOWOW など)と CS 放送(スカパー!系列、その他 CS チャンネル)の 2 種類があります。BS は無料広告モデル、WOWOW は有料モデル、CS は多くが有料モデルです。
第 4 分類のケーブルテレビ(CATV)は、地域限定でケーブル経由の放送を提供する事業者で、全国約 500 社が該当します。J:COM(JCOM、KDDI 傘下)、TOKAI コミュニケーションズ、CTY(中部電力系)などが大手です。地上波再送信、BS /CS 配信、独自チャンネル、光ファイバー通信サービスの複合事業が特徴です。
第 5 分類の NHK(日本放送協会)は、放送法に基づく公共放送事業者です。地上波(総合・教育)、BS(BS1・BS プレミアム、2024 年 4 月から BS のみに)、ラジオ放送を提供、受信料で運営される公共放送です。2024 年度予算の受信料収入は約 6,900 億円です。
第 6 分類のネット配信は、TVer(民放公式無料配信)、NHK プラス(NHK の見逃し配信)、Netflix・Amazon Prime Video・Disney+・Hulu・U-NEXT・ABEMA・DAZN・YouTube などの多様な事業者が含まれます。従来の「放送」の概念を拡張する新しい分類で、業界の再定義が進行中です。
📝 補足 「放送業界」を「地上波民放キー局+ローカル局」と狭く捉えるか、「衛星+ケーブル+ NHK+ネット配信」まで含めて広く捉えるかで、業界の見え方が大きく変わります。本コースでは 6 分類の広い視点で扱います。
日本の放送 4 分野
放送番組は、以下の 4 分野に大別されます。
第 1 分野の総合(ジェネラルエンタメ)は、ニュース、ドラマ、バラエティ、映画などの複合的な番組編成です。地上波民放キー局と NHK 総合の主軸番組がここに入ります。
第 2 分野の教育(エデュケーション)は、教育番組、子ども番組、ドキュメンタリーなどです。NHK 教育(Eテレ)が中核で、民放でも「世界一受けたい授業」「シルシルミシル」などの教養寄り番組があります。
第 3 分野のエンタメ(エンターテインメント)は、音楽番組、お笑い、バラエティ特化、映画専門、アニメ専門、韓流ドラマなどです。衛星 CS チャンネル、動画配信サービス(Netflix、Disney+、Hulu)が幅広く展開しています。
第 4 分野のスポーツは、プロ野球、サッカー、ゴルフ、テニス、格闘技、モータースポーツ、オリンピック、ワールドカップなどのスポーツ中継です。DAZN(Perform Group、2016 年日本上陸)、WOWOW スポーツ、スカパー!スポーツなどが主要プレイヤーです。
視聴率——ビデオリサーチ独占調査
視聴率は、日本の放送業界で最も重要な KPI の 1 つで、株式会社ビデオリサーチが独占的に調査しています。ビデオリサーチは 1962 年設立、電通・大手広告代理店の出資により設立された調査会社で、日本の視聴率調査の唯一の公式データを提供します。
ビデオリサーチの視聴率は、以下 3 種類に分類されます。
第 1 の世帯視聴率は、全世帯のうち視聴した世帯の割合です。従来から日本の視聴率調査の主軸だった指標で、番組の総合的な視聴到達を示します。
第 2 の個人視聴率は、個人単位の視聴割合です。世帯視聴率は「テレビがついている世帯の割合」で、実際に見ている人が何人かは反映されません。個人視聴率は個人ベースで測るため、より正確な視聴実態を示します。
第 3 のコア視聴率は、13 〜 49 歳の男女個人視聴率です。広告主が最も重視するターゲット層(購買力の高い若年層)の視聴率で、2020 年代以降、業界での重視度が高まりました。従来の世帯視聴率では捉えきれない「若者・現役世代のテレビ離れ」を測る指標です。
ビデオリサーチの調査世帯数は、関東地区で 2,700 世帯、関西地区で 900 世帯、名古屋地区で 600 世帯、その他 24 地区合計で 6,600 世帯(2024 年時点、テレビ視聴率調査 PM /PPM 世帯数)です。統計的サンプリングにより、全世帯の視聴率を推計します。
視聴率と広告料金の関係
放送業界の広告収入は、視聴率と密接に連動します。テレビ広告の売買には、以下 2 種類があります。
第 1 のタイム CM は、特定番組の提供枠として買う広告です。番組と広告主のイメージ一致を重視する広告主が使用します。継続的な出稿が前提で、料金は視聴率に応じて変動します。
第 2 のスポット CM は、放送局の時間帯・番組を指定せずに、期間指定で広告を放送する形態です。柔軟な出稿が可能で、料金は GRP(Gross Rating Point、延べ視聴率)で計算されます。
GRP は、視聴率 × 出稿本数の累積で算出します。「500GRP のスポット CM」は、視聴率 10 % の枠で 50 本、または視聴率 5 % の枠で 100 本などの組み合わせで達成されます。
TVer——民放公式無料配信、2015 年開始
TVer(ティーバー)は、日本の民放 5 社(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)が共同運営する無料動画配信サービスです。2015 年 10 月に開始、以降ラインナップと視聴者数を拡大してきました。
TVer の月間ユニークブラウザ数(UB)は、2024 年時点で約 3,700 万ブラウザに達しています(TVer 公式データ)。地上波放送の見逃し配信(放送後 1 週間程度の無料視聴)が中核サービスで、リアルタイム同時配信、番組アーカイブ、TVer オリジナル番組なども展開しています。
TVer の収益モデルは、動画広告収入です。放送前・放送中・放送後の広告枠を販売し、地上波広告と組み合わせたクロスメディア広告として提案しています。2023 年度の TVer の広告売上は約 260 億円と推定され、地上波民放キー局各社の連結業績に貢献し始めています。
TVer の成長は、若年層の「テレビ離れ」に対応する重要な事業として位置づけられています。地上波放送を見ない層に、ネット経由で民放コンテンツを届ける役割を担います。
NHK 受信料と経営計画
NHK(日本放送協会)は、放送法に基づく公共放送事業者で、受信料で運営されます。2024 年度予算の受信料収入は約 6,900 億円、事業支出は約 6,500 億円で、公共性と経営健全性のバランスを重視した運営が行われています。
NHK の受信料は、地上契約(月 1,225 円)と衛星契約(月 2,170 円、地上を含む)の 2 種類が基本で、2023 年 10 月に受信料の 10 % 値下げが実施されました。
NHK の受信料徴収の法的根拠は、放送法第 64 条(受信設備を設置した者は、NHK と受信契約を締結しなければならない)にあります。最高裁判所 2017 年 12 月判決で、この受信契約義務は合憲と確認されました。
NHK は 3 か年経営計画を策定・公表しており、2024 〜 2026 年度は「軽量スリム化・DX 強化・良質コンテンツ集中」を柱とする計画です。BS の再編(2024 年 4 月から BS1 /BS プレミアムを BS のみに統合)、NHK プラス(見逃し配信)強化、番組制作の外部委託・AI 活用などが進行中です。
動画配信 4 モデル——SVOD /AVOD /TVOD /FAST
動画配信サービスは、収益モデルにより以下 4 モデルに分類されます。
第 1 モデルの SVOD(Subscription Video On Demand、定額制動画配信)は、月額料金を支払うことで見放題の動画を提供する仕組みです。Netflix、Amazon Prime Video、Disney+、Hulu、U-NEXT、DAZN、ABEMA プレミアムなどが該当します。日本の SVOD 市場は約 5,000 億円(2024 年、映像産業振興機構)と推定され、Netflix ・Amazon Prime Video の 2 強が市場をリードしています。
第 2 モデルの AVOD(Advertising Video On Demand、広告付き無料動画配信)は、広告を挟むことで無料で動画を提供する仕組みです。TVer、ABEMA(無料枠)、YouTube などが該当します。広告収入が収益源で、視聴者層の広さが強みです。
第 3 モデルの TVOD(Transactional Video On Demand、都度課金型動画配信)は、動画を購入・レンタルする形態で、Amazon Video の購入・レンタル、Apple TV のレンタルなどが該当します。SVOD の普及で市場は縮小傾向にありますが、新作映画・スポーツの単体視聴で残る形態です。
第 4 モデルの FAST(Free Ad-supported Streaming TV、広告付き無料ストリーミングテレビ)は、テレビ的なチャンネル編成で、無料視聴・広告収入の仕組みです。米国発の形態で、Pluto TV(Paramount 傘下)、Tubi(Fox 傘下)、Roku Channel、Xumo などが代表的です。日本では The Roku Channel Japan(2024 年 7 月開始)、Watchdogs(Xumo 系)などが進出中です。FAST は「AVOD のテレビ的編成版」と位置づけられます。
動画配信サービス日本市場の主要プレイヤー
日本の動画配信市場(SVOD)の主要プレイヤーは以下の通りです(2024 年時点、GEM Partners などの市場調査を参考にした推計)。
第 1 位の Netflix(米国、2015 年 9 月日本上陸)は、日本国内契約者数約 900 万人、月額料金 790 円(広告付き)〜 1,980 円(プレミアム)。オリジナル番組と海外番組が強み。
第 2 位の Amazon Prime Video(米国、2015 年 9 月日本上陸)は、Amazon Prime 会員(日本国内 1,000 万人以上)が無料で視聴できる特典としての位置づけ。月額 600 円(Prime 会員費)で動画・配送・音楽など複合特典が魅力。
第 3 位の U-NEXT(日本、2007 年開始、2007 年 USEN の子会社として発足)は、月額 2,189 円、日本国内契約者数約 400 万人。日本ドラマ・アニメ・韓流に強み。
第 4 位の Disney+(米国、2020 年 6 月日本上陸)は、月額 990 円(スタンダード)〜 1,320 円(プレミアム)、Disney ・Marvel ・Star Wars ・National Geographic 系コンテンツで日本国内契約者数約 300 万人。
第 5 位の Hulu(日本、2011 年開始、2014 年に日本テレビが権利取得)は、月額 1,026 円、日本国内契約者数約 300 万人。地上波民放局の見逃し配信・海外ドラマが強み。
第 6 位の DAZN(英国、2016 年日本上陸)は、月額 4,200 円、スポーツ特化。プロ野球、J リーグ、モータースポーツ、格闘技などのライブ中継が中核。
第 7 位の ABEMA(サイバーエージェント運営、2016 年 4 月開始)は、無料版と ABEMA プレミアム(月額 960 円)の 2 モデル。ニュース、スポーツ、恋愛リアリティ、アニメが強み。2022 年 FIFA ワールドカップ・カタール大会の全 64 試合独占無料生中継で話題となりました。
YouTube 経済圏
YouTube(Google 傘下、2005 年設立・2006 年 Google 買収)は、日本の動画配信で最も広範な視聴者層を抱えるプラットフォームです。日本国内の月間視聴ユーザー数は約 7,000 万人(Google 公式)に達しています。
YouTube の収益モデルは、以下 4 つがあります。
第 1 の広告収入モデルは、動画再生前・再生中・再生後の広告(インストリーム広告)と、動画横に表示されるバナー広告(ディスカバリー広告)です。1 動画あたり CPM は 300 〜 1,500 円程度で、視聴者層・広告主により変動します。YouTuber は広告収入の 55 % をシェアされます。
第 2 の YouTube Premium 収益モデル(サブスク)は、月額 1,280 円で広告なし視聴・バックグラウンド再生・YouTube Music を提供する仕組みです。日本の YouTube Premium 会員数は非公表ですが、数百万人規模と推定されます。
第 3 のスーパーチャット・スーパーサンクスは、ライブ配信中に視聴者から YouTuber にチップを送る仕組みです。日本は世界的にもスーパーチャット金額が大きい市場です。
第 4 のショッピング機能は、動画内に商品タグを表示し、視聴者が直接購入できる仕組みです。ライブコマース対応も進んでいます。
YouTube 経済圏の日本の主要プレイヤーとしては、UUUM(ヒカキン・はじめしゃちょーなど MCN)、GENESIS(東海オンエア・水溜りボンドなどが所属)、ADD ONE(ぬこーさま平山などが所属)、キョロちゃんの MCN などがあります。UUUM は 2017 年 8 月に東証マザーズ上場、2024 年時点で日本のインフルエンサー経済の代表企業です。
放送と通信の融合——2020 年 4 月常時同時配信解禁
放送と通信の融合は、日本の放送業界の 20 年以上にわたる課題です。2010 年の放送法改正(放送・通信融合改正)で「認定放送持株会社」制度が導入され、通信事業と放送事業の兼営が可能になりました。
決定的な変化は、2020 年 4 月の放送法改正で、地上波放送の「常時同時配信」(テレビと同じ番組をリアルタイムでネット配信すること)が解禁された点です。それまでは著作権処理・広告主対応・地上波と配信の重複視聴問題などで実現困難だった常時同時配信が、法的に可能になりました。
これを受けて、TVer では 2022 年 4 月から民放 5 局の常時同時配信が開始されました。NHK プラスも 2020 年 4 月から常時同時配信を実施しています。地上波放送とネット配信の垣根が下がりつつあり、視聴者の「テレビを見る」体験が、テレビ受像機 + スマホ + タブレット + PC の複数端末で連続的に行われる状態が定着しました。
放送と通信の融合は、今後も業界の中心テーマとして続きます。VOD(Video on Demand)と放送、SNS 連動、ARPU 型サブスクなど、境界を越えたビジネスモデルが継続的に登場する見込みです。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 放送業界 6 分類(地上波民放キー局・ローカル局・衛星・ケーブル・NHK・ネット配信)
- 地上波民放キー局は日本テレビ・TBS・フジテレビ・テレビ朝日・テレビ東京の 5 社、ローカル局は約 130 局
- 日本の放送 4 分野(総合・教育・エンタメ・スポーツ)
- 視聴率はビデオリサーチ独占調査で世帯視聴率・個人視聴率・コア視聴率(13 〜 49 歳)の 3 種類
- テレビ広告はタイム CM(特定番組)とスポット CM(GRP で計算)の 2 種類
- TVer(2015 年 10 月開始)は民放 5 社共同運営の無料配信、月間 UB 約 3,700 万、2023 年度広告売上約 260 億円
- NHK 受信料収入約 6,900 億円、2023 年 10 月に 10 % 値下げ、BS 統合 2024 年 4 月
- 動画配信 4 モデル(SVOD /AVOD /TVOD /FAST)、日本市場は Netflix・Amazon Prime Video の 2 強
- 放送と通信の融合は 2020 年 4 月常時同時配信解禁、TVer で 2022 年 4 月から民放 5 局同時配信開始
次のレッスンでは、広告業界と広告主要 KPI(GRP /CPM /CPC /CPA /ROAS)を扱います。電通・博報堂の 2 大代理店、運用型広告、Google /Meta /TikTok /Amazon の広告プラットフォームまで俯瞰していきます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。