電気通信事業法・放送法・電波法——3 法体系と 4 キャリア/MVNO
レッスン3:電気通信事業法・放送法・電波法——3 法体系と 4 キャリア/MVNO
このレッスンで学ぶこと
- 電気通信事業法・放送法・電波法の 3 法体系を理解する
- 通信キャリア 4 社体制と楽天モバイルの 2020 年 4 月新規参入を把握する
- MVNO の位置づけと通信市場の階層構造を扱える
- 電気通信事業法 2019 年改正(分離プラン・2 年縛り・キャッシュバック規制)と 2022 年改正(外部送信規律)を扱える
前のレッスンでは、通信・メディア業のバリューチェーンと 5 領域別のビジネスモデル、業界横断の 5 経営課題を扱いました。このレッスンでは、通信領域の中心となる法制度——電気通信事業法・放送法・電波法の 3 法体系——と、通信キャリア 4 社/MVNO の構造を扱います。
3 法体系——電気通信事業法・放送法・電波法
日本の通信・放送業を規律する法律は、以下の 3 本柱で構成されます。
第 1 の電気通信事業法(1985 年成立、1985 年 4 月施行)は、電気通信サービスを提供する事業者を規律する法律です。通信キャリア、MVNO、光ファイバー事業者、Web 会議事業者、SNS 事業者などが規制対象で、通信の秘密(憲法 21 条 2 項に基づく通信の秘密保護)、通信サービスの公平提供、消費者保護などが規定されます。
第 2 の放送法(1950 年成立、1950 年 6 月施行)は、放送事業者を規律する法律です。地上波放送、衛星放送、ケーブルテレビ、ネット同時配信などが規制対象で、放送の公共性(政治的公平性、事実に基づく報道、多角的な論点提供など)、番組編集の自由、放送番組の適正化などが規定されます。
第 3 の電波法(1950 年成立、1950 年 6 月施行)は、電波の利用を規律する法律です。通信キャリアの周波数割当、放送局の免許、無線 LAN、Wi-Fi、Bluetooth などのライセンスフリー機器の技術基準などが規制対象です。
3 法は密接に連携しており、通信キャリアの事業運営には電気通信事業法と電波法の両方が関わり、放送局の運営には放送法と電波法の両方が関わります。3 法の連携を理解することが、業界の制度理解の第一歩です。
💡 ポイント 「電気通信事業法・放送法・電波法」の 3 法体系は、業界のパスポートです。制度を知らずに業界のニュースは読み解けません。特に電気通信事業法の 2019 年・2022 年改正は、業界の直近の重要トピックです。
電気通信事業法——2 種類の事業者区分
電気通信事業法は、事業者を規模と役割で以下 2 区分に分けています。
第 1 の区分は、電気通信回線設備を設置する事業者(旧・第一種電気通信事業者)です。通信キャリア(NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)、光ファイバー事業者(NTT 東西、電力系、CATV 系)などが該当し、設備投資と回線設備の運用を担います。
第 2 の区分は、電気通信回線設備を設置しない事業者(旧・第二種電気通信事業者)です。MVNO(後述)、ISP(インターネット接続業者)、Web メール事業者、Web 会議事業者、SNS 事業者、動画配信事業者などが該当します。他社の回線設備を借りて、または OTT(Over The Top)としてサービスを提供します。
2004 年の電気通信事業法改正で第一種・第二種の区分は廃止されましたが、実務では今も上記の区分けが使われることが多くあります。
通信キャリア 4 社——2020 年 4 月に楽天モバイル参入
日本のモバイル通信市場は、以下 4 社が主要プレイヤーです。
第 1 のプレイヤーは NTT ドコモ(NTT グループ、2020 年 12 月に NTT 完全子会社化)です。1992 年 7 月に NTT モバイル通信網株式会社として発足、日本の携帯電話事業の最大手です。2024 年 3 月期のドコモ事業収入は約 5.4 兆円、契約数約 8,900 万回線(NTT ドコモ + サブブランド ahamo)です。
第 2 のプレイヤーは KDDI /au です。1984 年 6 月に第二電電(DDI)として設立、以降複数の統合を経て 2000 年 10 月に KDDI として発足しました。2024 年 3 月期の売上約 5.8 兆円、モバイル契約数約 6,500 万回線(au + サブブランド povo + UQ mobile)です。
第 3 のプレイヤーはソフトバンクです。1994 年に日本テレコムとして携帯電話事業に参入、複数の統合と 2006 年のボーダフォン日本法人買収を経て、2015 年に現社名になりました。2024 年 3 月期のソフトバンク(親会社)売上約 6.0 兆円、モバイル契約数約 5,600 万回線(ソフトバンク + サブブランド Y!mobile + LINEMO)です。
第 4 のプレイヤーは楽天モバイルです。2019 年 10 月に MVNO からキャリア事業者に転換、2020 年 4 月に自社回線サービスを本格開始した後発参入者です。2024 年 3 月期のモバイル事業売上約 2,700 億円、契約数約 800 万回線(2024 年 12 月時点)です。
楽天モバイルの参入は、業界の競争構造を大きく変えました。それまで 3 社寡占だった市場に、大幅な料金競争を持ち込む起点となり、後述する 2019 年改正・2020 年ドコモ ahamo などの新料金プラン発表につながりました。
📝 補足 楽天モバイルは大手 3 社と比較して契約数・売上ともに桁違いに小さい規模ですが、それでも市場の料金水準を大きく引き下げた影響力があります。「4 社目の参入者」が業界競争構造を変えた事例として、経済学・産業組織論の教科書事例に近い動きです。
MVNO——2001 年制度化、通信市場の階層構造
MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)は、自社で無線通信設備を持たず、通信キャリアからネットワーク設備を借り受けて通信サービスを提供する事業者です。日本では 2001 年に制度化され、2014 年 10 月の総務省ガイドライン改正で参入が容易になり、以降 MVNO 事業者数は 200 社超まで急拡大しました。
MVNO は、以下の 2 タイプに区分されます。
第 1 のタイプは通信キャリア系 MVNO です。UQ mobile(KDDI 傘下)、Y!mobile(ソフトバンク傘下)、LINEMO(ソフトバンク傘下)、ahamo(NTT ドコモ)、povo(KDDI)が該当します。厳密には ahamo /povo /LINEMO は MVNO ではなく、キャリア自身のサブブランド/新プランです。
第 2 のタイプは独立系 MVNO です。IIJmio、mineo、OCN モバイル ONE(NTT コミュニケーションズ)、b-mobile、BIGLOBE モバイル、y.u mobile、ロケットモバイル、日本通信などが該当します。通信キャリアからネットワーク設備を借り受けて、独自のサービス・料金プランで提供します。
MVNO のシェアは 2024 年時点で契約数ベースで約 15 %、料金の安さと自由なプラン設計が魅力となっています。一方、通信品質は借用元のキャリアに依存するため、混雑時間帯の速度低下などの制約もあります。
電気通信事業法 2019 年改正——分離プラン義務化・2 年縛り規制・キャッシュバック 2 万円上限
電気通信事業法は 2019 年 5 月に大きく改正され、2019 年 10 月から施行されました。改正の目的は、モバイル通信市場の競争促進と消費者保護の強化です。
主要規制は以下 3 つです。
第 1 の規制は、分離プランの義務化です。それまでの通信サービス料金と端末代金の抱き合わせ販売(「実質 0 円」など)を禁止し、通信料金と端末代金を明確に区別して表示することを義務付けました。
第 2 の規制は、2 年縛りの規制です。それまでの通信契約に付随する「2 年縛り」(途中解約時に高額の違約金を請求する仕組み)を規制し、違約金の上限を 1,000 円に引き下げました。
第 3 の規制は、端末購入補助(キャッシュバック)の 2 万円上限規制です。それまで数万円のキャッシュバックが競争激化の要因となっていましたが、2 万円を上限とする規制を導入しました。
これらの規制導入により、モバイル通信市場の料金競争のあり方が根本的に変わりました。同時に、楽天モバイル参入と菅政権(2020 年 9 月〜 2021 年 10 月)の値下げ圧力が重なり、2020 〜 2021 年に各社が新料金プランを発表することにつながりました。
ドコモ ahamo /au povo /ソフトバンク LINEMO /楽天 UN-LIMIT
2020 〜 2021 年に、通信キャリア各社が新料金プランを発表しました。菅政権の値下げ圧力と楽天モバイルの参入圧力が重なった動きで、日本のモバイル通信料金体系を大きく変えました。
第 1 の ahamo(NTT ドコモ)は、2021 年 3 月にスタート。20GB /月 2,970 円(税込)の格安プラン。ドコモ本体のサブブランドで、Web 契約専用のシンプルなプラン設計です。
第 2 の povo(KDDI)は、2021 年 3 月にスタート、2021 年 9 月に povo 2.0 にアップグレード。基本料金 0 円+トッピングでカスタマイズ可能な、Web 契約専用の柔軟なプラン。
第 3 の LINEMO(ソフトバンク)は、2021 年 3 月にスタート。3GB /月 990 円のミニプラン、20GB /月 2,728 円のスマホプラン。LINE 通信量無制限が特徴です。
第 4 の楽天 UN-LIMIT(楽天モバイル)は、2020 年 4 月本格開始。20GB 以下 2,178 円、無制限 3,278 円のシンプルなプラン。楽天エコノミー内の連携が特徴です。
これら新料金プランで、日本のモバイル通信料金の相場は月 3,000 〜 4,000 円が主流となり、以前の 7,000 〜 10,000 円から大幅に下がりました。総務省の電気通信サービスに係る内外価格差調査(2024 年 3 月版)でも、日本の 20GB プランは主要 6 か国の平均以下の水準まで低下しました。
電気通信事業法 2022 年改正——外部送信規律の導入
電気通信事業法は 2022 年 6 月に再度改正され、2023 年 6 月から施行されました。改正の目玉は、外部送信規律の導入です。
外部送信規律とは、Web サイト・アプリで利用者の情報(Cookie、端末情報、行動履歴など)を第三者に送信する場合に、利用者に対する明示的な情報提供と同意取得を義務付ける規制です。ヨーロッパの GDPR(一般データ保護規則、2018 年 5 月施行)や、日本の個人情報保護法(2022 年 4 月改正)と補完する規制として位置づけられます。
規制対象は、電気通信事業を営む事業者(通信キャリア、SNS 事業者、Web メール事業者、Web 会議事業者、動画配信事業者、SEO 支援事業者など)で、利用者に対して「どんな情報を、誰に、何の目的で送信するか」を明示する必要があります。
この規制は、それまで各サイトが独自の Cookie ポリシーで運用していたトラッキングを、法的な枠組みで規律する動きです。Web メディア・広告代理店・動画配信事業者などにとって、コンプライアンス対応の重要な変化となりました。
⚠️ 注意 外部送信規律は、既刊のコンプライアンス基礎で扱った改正個人情報保護法・Cookie 同意・ターゲティング広告の論点と密接に関係しますが、根拠法が異なります。個人情報保護法は「個人情報」の取り扱いを規律するのに対し、電気通信事業法の外部送信規律は「通信内容・利用者情報の外部送信」を規律します。両者は補完関係にあり、Web サービス事業者は両方に対応する必要があります。
通信キャリアの海外展開と KDDI /SoftBank の投資戦略
通信キャリア各社は、国内モバイル通信市場の飽和を背景に、海外事業・非通信事業への多角化を進めています。
NTT グループは、2022 年 10 月に NTT 完全子会社化された NTT ドコモを中核に、NTT データ(IT サービス、東証プライム上場)、NTT コミュニケーションズ(法人 IT)、NTT グローバルデータセンター(データセンター)などのグループ会社を持ちます。海外での通信事業は限定的ですが、IT サービス事業を通じて世界展開しています。
KDDI は、Mongolia、Cambodia、Myanmar などのアジア諸国で通信事業に投資しています。また、非通信事業(DX、金融、エネルギー、ライフデザインなど)への多角化を強化しています。
ソフトバンクグループ(ソフトバンクの親会社)は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じて世界のテック企業への投資を大規模に展開しています。ARM(半導体設計)、Uber、DiDi、WeWork、コーラン、Rappi、Slack などへの投資が有名です。
楽天モバイルは、日本国内のモバイル通信事業に集中しており、海外展開は限定的です。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 3 法体系は電気通信事業法(1985 年)・放送法(1950 年)・電波法(1950 年)
- 電気通信事業法は 2 種類の事業者区分(回線設備あり/なし)を規定(2004 年に第一種・第二種区分は廃止)
- 通信キャリア 4 社体制(NTT ドコモ・KDDI /au・ソフトバンク・楽天モバイル)、楽天モバイルは 2020 年 4 月本格参入
- MVNO は 2001 年制度化・2014 年参入容易化、2024 年時点で契約数シェア約 15 %
- 電気通信事業法 2019 年改正で分離プラン義務化・2 年縛り規制・キャッシュバック 2 万円上限
- ahamo(2021 年 3 月)・povo(2021 年 3 月)・LINEMO(2021 年 3 月)・楽天 UN-LIMIT(2020 年 4 月)で日本のモバイル通信料金体系が大きく変化
- 電気通信事業法 2022 年改正で外部送信規律(利用者情報の外部送信の明示・同意取得)を導入、2023 年 6 月施行
次のレッスンでは、通信技術の進化(5G /Beyond 5G /Open RAN)と、消費者保護規制の詳細、iOS /Android エコシステム経済圏を扱います。
確認クイズ
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