本文へスキップ
スキルアップカレッジ

民法改正・下請法・独禁法・反社条項・準拠法

レッスン7:民法改正・下請法・独禁法・反社条項・準拠法

このレッスンで学ぶこと

  • 民法改正(2020/4)の債権法 5 論点を契約書チェック視点で扱える
  • 独禁法 3 大禁止行為の契約書上チェックポイントを持てる
  • 反社対応条項の 4 要素と最新版文言を扱える
  • 準拠法・裁判管轄・仲裁条項(JCAA/SIAC/HKIAC)の使い分けを持てる
  • 英文契約への入口を扱える

前レッスンでは修正コメント文の書き方と Word 実務を扱いました。本レッスンでは、契約書レビューを支える 5 つの法令領域——民法改正・下請法・独禁法・反社条項・準拠法・仲裁条項・英文契約——を契約書チェックの視点で深掘りします。姉妹コース コンプライアンス関連の入門コースが「法律の解説そのもの」を扱ったのに対し、本コースは「契約書上どうチェックするか」に振り切ります。

民法改正(2020/4)の債権法 5 論点

2020 年 4 月 1 日に施行された改正民法(債権法改正)は、契約書レビューに直接影響する 5 つの論点を扱います。改正から 6 年経過した 2026 年時点でも、旧法時代の雛形をそのまま使っている企業が少なくないため、雛形の総点検が Must です。

論点 1:定型約款(民法 548 条の 2〜4)

改正民法で新設された概念で、多数の相手方との定型的な取引に用いる約款(利用規約・SaaS 利用規約・保険約款など)を規律します。

  • 定型約款の定義:定型取引において契約内容とする目的で準備された条項
  • 契約への組入れ要件:合意または「約款を契約内容とする」旨の表示
  • 相手方の権利を一方的に害する条項(不当条項)は無効

契約書レビューでは、SaaS 利用規約・オンラインサービス利用規約のような定型約款に、消費者の権利を一方的に害する条項がないかチェックします。

論点 2:法定利率(民法 404 条)

改正民法で法定利率が年 5% から年 3% に変更され、3 年ごとに見直される変動制になりました。契約書上、遅延損害金の利率を「年 5%」と規定している旧雛形は、次のいずれかで修正します。

  • 年 3%(改正民法の法定利率)
  • 年 14.6%(旧商法の法定利率、廃止済みだが商取引では実務標準として残る)
  • 独自の合意利率(実務では年 6-10% が多い)

論点 3:保証(民法 465 条の 6〜10)

改正民法で個人保証の要件が厳格化されました。事業債務を主債務とする保証契約について、次の要件が追加されました。

  • 公正証書による保証意思の表示(改正民法 465 条の 6)
  • 主債務者の情報提供義務(改正民法 465 条の 10)

契約書レビューでは、保証人となる相手方が個人の場合、公正証書要件を満たしているかを確認します。

論点 4:時効(民法 166 条)

改正民法で消滅時効の起算点・期間が整理されました。

  • 主観的起算点(債権者が権利を行使できることを知った時)から 5 年
  • 客観的起算点(権利を行使できる時)から 10 年

改正前は「10 年(一般)」「5 年(商事)」など複数の時効が併存していましたが、改正後は上記の 2 段階に統一されました。契約書上「請求権は 5 年で時効消滅する」といった旧法時代の条項は、改正民法に合わせた表現に修正します。

論点 5:契約不適合責任(民法 562 条〜566 条)

改正民法で「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に名称変更され、実質的な内容も変わりました。本コースの L3 で扱った通り、4 つの請求権(追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除)が新たに規定されました。

⚠️ 注意 民法改正から 6 年経過しても、次の 3 つの旧文言が雛形に残っているケースが多いです。契約書レビュー時に必ずチェックします。(1)「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」/(2)「年 5% の遅延損害金」→「年 3% または合意利率」/(3)旧商法時代の「商事時効 5 年」→「改正民法の 2 段階時効」。

独禁法 3 大禁止行為の契約書チェック

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の 3 大禁止行為——私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法——を、契約書チェックの視点で扱います。姉妹コース コンプライアンス関連の入門コースでは法律の解説を扱いましたが、本レッスンは契約書上どう表れるかに集中します。

私的独占の契約書チェック

独占的な地位を利用した排除行為・支配行為を禁止します。契約書上のチェックポイント:

  • 排他的取引義務(他社との取引禁止)が過度に広い期間・地域で設定されていないか
  • 抱き合わせ販売の条項(本製品と組み合わせて別の商品を購入する義務)がないか

不当な取引制限の契約書チェック

いわゆるカルテル・入札談合を禁止します。契約書上のチェックポイント:

  • 価格・取引条件を他社と共通に定める合意条項がないか
  • 販売地域・顧客を他社と分担する合意条項がないか

不公正な取引方法の契約書チェック

19 類型の不公正な取引方法(拘束条件付取引・差別対価・不当廉売・優越的地位の濫用・排他条件付取引など)を禁止します。契約書上の主要チェックポイント:

  • 拘束条件付取引:転売価格の指定・転売先の指定(RPM:Resale Price Maintenance)がないか
  • 優越的地位の濫用:取引相手に不当な負担を強いる条項(返品・押し付け販売・従業員派遣強要)がないか
  • 排他条件付取引:競合他社との取引を禁止する条項が過度に広くないか

独占禁止法の適用除外

独占禁止法には適用除外(一定の場面では独禁法違反にならない)があります。契約書上「独占禁止法適用除外」を主張する場合、根拠となる法律・ガイドラインを明確にする必要があります。

反社対応条項——4 要素と最新版文言

暴力団排除条項(反社対応条項、暴排条項)は、2000 年代後半から契約書の必須条項となりました。金融庁「反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007/6 公表)を契機に、上場企業・金融機関を中心に契約書への挿入が実務標準となっています。

反社対応条項の 4 要素

  • 要素 1:表明保証:契約当事者が現在および将来にわたり反社会的勢力に該当しないことを表明保証
  • 要素 2:無催告解除権:反社該当が判明した場合、無催告で契約解除できる権利
  • 要素 3:損害賠償請求権の放棄:無催告解除により相手方に生じた損害の賠償請求を放棄
  • 要素 4:不当要求排除義務:暴力・脅迫・威圧的言動などの不当要求があった場合、これに応じない義務

反社対応条項の実務標準文言

第○条(反社会的勢力の排除)

1. 甲および乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号に該当しないことを表明し、
   保証する。
   ① 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から 5 年を経過しない者、
      暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標榜ゴロまたは
      特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」という)
   ② 反社会的勢力が経営に実質的に関与している法人
   ③ 反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなど、
      反社会的勢力の維持、運営に協力し、もしくは関与している者
   ④ 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有している者

2. 前項に違反していることが判明した場合、相手方は何らの催告なく本契約を
   解除することができる。

3. 前項の解除により相手方に生じた損害について、解除された当事者は
   賠償請求できない。

4. 甲および乙は、自らまたは第三者を利用して、相手方に対して暴力的な要求、
   法的な責任を超えた不当な要求、脅迫的言動、暴力を用いる行為、または風説の
   流布、偽計もしくは威力を用いた業務妨害・信用毀損行為を行わない。

反社対応条項の年次点検

反社対応条項の文言は、警察庁・都道府県公安委員会の指針改定に応じて年次点検が必要です。特に「暴力団員でなくなった時から 5 年」「暴力団準構成員」「特殊知能暴力集団」などの用語は、時代とともに追加・変更されるため、最新版文言への更新が Must です。

準拠法条項の使い分け

準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・履行・紛争解決に適用される国・地域の法律を定める条項です。国際契約では準拠法条項が特に重要になります。

準拠法の選択基準

  • 国内契約:日本法を選択(実務標準)
  • 国際契約:契約当事者の所属国、または中立国の法律を選択

国際契約で準拠法を選択する場合、次の 3 選択肢が多用されます。

  • 日本法:日本企業が交渉主導権を持つ場合
  • 相手方の国の法律:相手方が交渉主導権を持つ場合
  • 英国法・ニューヨーク州法:国際商取引の中立法として実務標準

相手方の国の法律を選ぶ際の注意点

準拠法を相手方の国の法律とする場合、その国の弁護士による契約審査が必須となります。予算・時間の観点から、可能な限り日本法を選択できるよう交渉するのが実務標準です。

裁判管轄条項——専属的合意管轄

裁判管轄(Jurisdiction)は、契約に関する紛争が発生した場合の第一審裁判所を定める条項です。実務では次の 3 パターンがあります。

3 パターン

  • 専属的合意管轄:特定の裁判所を第一審管轄とし、別の裁判所への提訴を禁止
  • 付加的合意管轄:特定の裁判所を第一審管轄として付加するが、別の裁判所への提訴も可能
  • 管轄合意なし:民事訴訟法の一般ルール(被告の住所地・不法行為地)で決定

実務標準は「専属的合意管轄」で、東京地方裁判所を第一審管轄とするのが多数派です。契約書レビュー時には「専属的」の記載があるかを必ず確認します。

仲裁条項——JCAA / SIAC / HKIAC の使い分け

国際契約では、裁判ではなく仲裁(Arbitration)で紛争を解決するのが実務標準です。仲裁は非公開・専門家による判断・強制執行の国際性(ニューヨーク条約 1958)というメリットがあります。

主要 3 仲裁機関

  • JCAA(日本商事仲裁協会):1950 年設立。東京仲裁センターが主要拠点。日本企業と外国企業の仲裁に多用
  • SIAC(シンガポール国際仲裁センター):1991 年設立。アジア・太平洋地域の中立仲裁地として世界的に評価
  • HKIAC(香港国際仲裁センター):1985 年設立。中国・アジア地域の仲裁で優位。中国企業との仲裁で多用

使い分けの基準

  • 日本企業同士または日本法が準拠法の場合:JCAA が実務標準
  • アジア企業との契約で中立性を重視:SIAC を選択
  • 中国企業との契約:HKIAC を選択(中国企業から見て信頼性が高い)
  • 欧米企業との契約:ICC(国際商業会議所仲裁裁判所)または LCIA(ロンドン国際仲裁裁判所)を選択

仲裁条項の主要 6 項目

  • 仲裁機関の指定
  • 仲裁地(Seat of Arbitration)
  • 仲裁言語(英語・日本語)
  • 仲裁人の数(1 名・3 名)
  • 準拠法(実体準拠法と手続準拠法の区別)
  • 仲裁費用の負担

英文契約への入口——ドラフティングの型

英文契約は、日本語契約とは異なるドラフティングの型を持ちます。本コースは英文契約の専門コースではありませんが、法務担当者が英文契約に向き合う際の入口となる 5 項目を扱います。

英文契約の 5 大要素

  • Whereas 条項(前文:契約の背景と目的を「Whereas ...」の形式で列挙。日本契約の前文と同じ役割
  • Definitions(定義条項:契約書全体で使う用語を定義。日本契約より詳細で厳密
  • Representations and Warranties(表明保証):SPA で扱ったのと同じ概念。契約全体で頻出
  • Indemnification(補償:契約違反時の補償責任を規定。日本契約の「損害賠償」より広い概念
  • Governing Law(準拠法):末尾に配置。国際契約では英国法・ニューヨーク州法が実務標準

英文契約の 3 特徴

  • 精密なドラフティング:日本契約より条項数・文字数が多い(1 契約 30-50 ページも標準)
  • 明示的な定義:曖昧さを排除するため、契約書内で「本契約における『重要』とは以下を意味する」など明示定義
  • 判例法の影響:英米法系の契約書は判例(Case Law)の影響を受け、特定用語の解釈が判例で確立

📖 もっと詳しく 英文契約の本格的な学習は、司法試験・弁護士資格取得後の専門研修または英文契約専門書で扱われる領域です。本コースは「英文契約書を見た時に何が書かれているかわかる」レベルの入口に留めます。

講師の現場メモ

私が大手法律事務所からインハウス法務、そして商社の法務に転じて、最も痛感したのは「準拠法と管轄の選択が契約書の全てを左右する」ということです。準拠法を日本法にできれば、契約解釈・紛争対応・弁護士費用のすべてで大幅な有利性が得られます。逆に、準拠法を相手方の国の法律にしてしまうと、その国の弁護士を起用する必要があり、コストが数倍に跳ね上がります。国際契約の初期交渉で必ず主張すべきは「準拠法:日本法」「管轄:東京地裁または JCAA 仲裁」の 2 点です。この 2 点を最初に落とすと、契約書全体の力関係が相手方に傾くため、初期の押しの強さが重要になります。

次のステップ

本レッスンでは民法改正・下請法・独禁法・反社条項・準拠法・仲裁条項・英文契約への入口を扱いました。次の最終レッスンでは、リーガルテック実装・事業部向け契約書レビュー研修・契約書レビュー担当のキャリアと修了後の学び方をまとめて本コースの締めとします。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。