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スキルアップカレッジ

修正コメント文の書き方と Word 実務

レッスン6:修正コメント文の書き方と Word 実務

このレッスンで学ぶこと

  • 修正コメント 3 要素(修正案テキスト+理由+代替案)を扱える
  • 温度感の書き分け——相手先の力関係別・案件性質別の型を持てる
  • Word トラック変更+色分け(Must 赤/Should 黄/Nice to Have 青)の実務運用を持ち帰れる
  • Cover Note 5 パターンを持ち帰れる
  • 想定質問文書の作り方を扱える

前レッスンでは M&A の NDA・LOI・SPA レビューの入口を扱いました。本レッスンでは、6 大類型のレビューで抽出したリスクをどう修正コメントに落とし込むか——修正コメントの型、Word 実務、Cover Note、想定質問文書——を深掘りします。姉妹コース法務担当者向け入門コースの L3 では「3 要素の指摘」まで扱いましたが、本レッスンでは実際の文例と運用の詳細まで踏み込みます。

修正コメントの型——3 要素

修正コメントは、単なる指摘ではなく「提案」として書きます。姉妹コースで扱った 3 要素(修正案テキスト+理由+代替案)を、実務の文例で深掘りします。

3 要素の構造

  • 要素 1:修正案テキスト——具体的にどう書き換えるか(削除・追加・置き換え)
  • 要素 2:理由——なぜ修正が必要か(自社リスク・法令適合・実務標準)
  • 要素 3:代替案——相手方が受け入れやすい妥協案(複数選択肢の提示)

修正コメント基本テンプレート

【修正案】:(削除/追加/置き換えの具体的な文言)
【理由】:(修正が必要な自社リスク・法令適合・実務標準の観点)
【代替案】:(相手方が受け入れやすい妥協案 A・B)

実例:業務委託契約の再委託条項

元の条項(相手方案): 「乙は自らの判断で本業務を第三者に再委託することができる」

修正コメント

  • 【修正案】:「乙は、甲の事前書面承諾を得た場合に限り、本業務の一部を第三者に再委託することができる。乙は、再委託先の秘密保持義務・成果物の権利帰属・下請法遵守について、甲と同等の義務を再委託先にも負わせるものとする」
  • 【理由】:受託者の判断による自由な再委託は、成果物の品質と秘密情報の管理を委託者が制御できないリスクを生じます。実務では書面承諾による再委託許可が実務標準です
  • 【代替案】:A. 全業務の書面承諾/B. 主要業務のみ書面承諾(付随業務は自由)

温度感の書き分け

修正コメントの温度感は、相手先との力関係・案件の性質・修正の緊急度で 3 段階に書き分けます。

温度感 3 段階

  • 強め(Must 相当):「本条項については、以下の修正が必要と考えます」「以下の修正なしには合意が困難です」——譲れない条項
  • 中程度(Should 相当):「本条項については、以下の修正をご検討いただけないでしょうか」——できれば直したい条項
  • 弱め(Nice to Have 相当):「参考までに、以下のような修正も選択肢としてご検討いただけます」——余裕があれば直したい条項

相手先の力関係別

  • 相手方が力関係で上(大企業から中小企業への発注など):温度感を柔らかく、丁寧な文体で書く
  • 対等な力関係:中程度の温度感で書く
  • 相手方が力関係で下:直接的な文体でも問題ないが、譲れない部分は明確に伝える

案件の性質別

  • 長期関係を築く相手方:柔らかい温度感で信頼関係を築く
  • 単発案件:直接的な文体でも問題ない
  • 利益相反的な案件(訴訟前段階):明確で断定的な文体

💡 ポイント 温度感は「相手先の目線」で決めます。自社の立場で書きたい文面を、相手先の担当者が読んだ時にどう感じるかを想像してから、温度感を調整します。強すぎると交渉が拗れ、弱すぎると相手方に「大事なポイントではない」と受け取られます。

Word トラック変更+色分け——実務運用

姉妹コース法務担当者向け入門コースの L3 で「Word トラック変更+色分け」の概念を扱いました。本レッスンでは実務運用の詳細を深掘りします。

色分けの実務標準

  • 赤(Must):譲れない修正。合意が得られない場合は契約締結を断る覚悟の修正
  • 黄(Should):できれば修正したい。合意が得られない場合は担当上長へ相談
  • 青(Nice to Have):余裕があれば修正したい。合意が得られなくても契約締結可能

Word トラック変更の設定手順

  • 手順 1:Word の「校閲」タブ →「変更履歴の記録」を ON
  • 手順 2:「校閲」タブ →「変更履歴とコメントの表示」で「すべての変更履歴/コメント」を選択
  • 手順 3:削除は取消線、追加は下線で自動表示される
  • 手順 4:修正コメントは「新しいコメント」で該当箇所に紐付ける

コメント欄の書き方

コメント欄の中に「【修正案】:〜/【理由】:〜/【代替案】:〜」の 3 要素を書き込みます。長文になる場合は次のような工夫が実務的です。

  • コメントの冒頭に「■ Must / ■ Should / ■ Nice to Have」と分類を明示
  • コメントの末尾に「担当:山田」など担当者名を明記(複数人でレビューする場合)
  • コメント番号を付与し、Cover Note で番号ごとにサマリーを付ける

Cover Note の型——5 パターン

Cover Note(カバーノート)は、修正案を戻す際に添えるメールまたは文書で、修正の全体像と交渉ポイントを説明します。実務では 5 つのパターンがあります。

パターン 1:軽度修正——サマリー型

修正が少なく、Must 項目もない場合の Cover Note。数行のメール本文で済ませる。

「ご送付いただいた契約書を確認しました。3 点、書式的な修正(誤字修正・日付更新・条項番号ずれ)を Word トラック変更でお戻しします。実質的な修正は入れておりません。ご確認のうえ、ご返送をお願いします」

パターン 2:標準修正——3 分類型

Must ・ Should ・ Nice to Have を分類して伝える型。中程度の修正がある場合の実務標準。

「ご送付いただいた契約書を確認しました。Word トラック変更+コメントで修正案をお戻しします。修正の分類は次の通りです。

  • Must(5 項目、赤):譲れない修正——秘密情報の定義・再委託承諾・準拠法・裁判管轄・反社条項
  • Should(3 項目、黄):できれば直したい修正——検収みなし・SLA 補償額・データ削除期間
  • Nice to Have(2 項目、青):参考修正——通知方法の記載追加・附則の日付更新

Must 項目については合意なしには契約締結が困難ですので、優先的にご検討をお願いします」

パターン 3:重度修正——論点別型

修正が多く、論点別に整理が必要な場合の Cover Note。SPA など長大な契約書で使う型。

「ご送付いただいた SPA を確認しました。修正は 25 項目に及びます。論点別に整理してお戻しします。

  • 論点 1:対価と対価調整(Must 3 項目・Should 2 項目)
  • 論点 2:表明保証と補償(Must 5 項目・Should 4 項目)
  • 論点 3:エスクローとアーンアウト(Must 2 項目・Should 3 項目)
  • 論点 4:ノンコンピート(Must 1 項目・Nice to Have 1 項目)
  • 論点 5:その他条項(Should 2 項目・Nice to Have 2 項目)

Must 項目については、次週の会議で優先的に議論させていただければ幸いです」

パターン 4:交渉打ち切り検討型

Must 項目が受け入れられない場合の Cover Note。契約締結を断る可能性を示唆する重い文書。

「先般ご返送いただいた契約書について確認しました。当社が Must として提示した秘密情報の定義変更・再委託承諾・準拠法変更の 3 項目については、当社の内部承認上、譲歩が困難な状況です。もし本案件について貴社にてもご譲歩が困難な場合、恐縮ですが本契約締結の断念を検討させていただく必要がございます。今週中に本論点について協議のお時間をいただけますでしょうか」

パターン 5:クロージング前最終確認型

契約締結直前の最終確認 Cover Note。全論点の合意状況と署名予定日を明示する型。

「本日、貴社より最終版契約書をご送付いただきました。修正合意状況と署名予定を確認します。

  • 論点 1:対価と対価調整 → 合意済み(当社案採用)
  • 論点 2:表明保証と補償 → 合意済み(折衷案採用)
  • 論点 3:エスクロー → 合意済み(貴社案採用)
  • 論点 4:ノンコンピート → 合意済み(当社案採用)

上記合意事項が最終版に正確に反映されていることを確認しました。当社側では明日 15 時までに社内最終承認を取得し、明後日に電子署名にて締結完了予定です」

想定質問文書の作り方

修正コメントに対して相手方から出される質問・反論を予想し、事前に想定質問文書(Q&A 集)を用意する実務が実務標準です。

想定質問文書の 3 要素

  • 想定質問:相手方が出しそうな質問・反論を列挙
  • 回答方針:質問に対する回答の方向性(受け入れる/説明する/再修正提案する)
  • バックアップ資料:回答の根拠となる法令条文・実務標準・過去の類似案件

想定質問文書の実例

修正コメント:秘密情報の定義を折衷型に修正

想定質問:「弊社の雛形包括型で運用してきており、変更に社内承認が必要になるため、包括型のまま契約締結してほしい」

回答方針

  • 第 1 段:折衷型は実務標準であり、受領側の情報特定困難というリスクは業界共通の論点である旨を説明
  • 第 2 段:折衷型でも「本契約の目的に関連して開示された情報」という広い定義とすることで、包括型と実質的に同等の保護レベルを確保できる旨を提案
  • 第 3 段:それでも合意困難な場合、包括型を受け入れる代わりに「重要な機密情報については書面での秘密表示」を追加する妥協案を提示

バックアップ資料:日本弁護士連合会「秘密保持契約書のひな型」・経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」

📖 もっと詳しく 想定質問文書は、株主総会想定問答(法務担当者向け入門コースの L5)と共通の考え方に基づく実務ツールです。契約書レビューでも同じ発想で事前準備を行うことで、交渉の主導権を握れます。

Word 実務のツール——2026 年時点

Word のトラック変更+色分けは、20 年以上にわたり契約書レビューの実務標準ですが、2026 年時点では次のような補助ツールも活用されています。

補助ツール 3 分類

  • リーガルテック(レビュー支援):LegalOn Cloud ・ Hubble などが Word ファイルを解析し、条項リストと修正候補を自動提示
  • CLM(契約管理システム):ContractS ・ Hubble などが契約書のバージョン管理・レビュー履歴を一元管理
  • 生成 AI:ChatGPT ・ Claude が特定条項の修正案・想定質問を生成(機密情報の入力に注意)

生成 AI 利用の注意点

生成 AI に契約書全文を入力することは、機密情報保護の観点から慎重な判断が必要です。実務では次の 3 原則が実務標準として推奨されつつあります。

  • 会社名・具体的な金額・当事者名は「A 社」「X 円」など匿名化してから入力
  • 生成された修正案はそのまま採用せず、必ず法務担当者が精査
  • 契約書レビュー AI 専用ツール(企業内データが外部に流出しない設計)を優先利用

講師の現場メモ

私が大手法律事務所からインハウス法務に転じた時、最初に驚いたのは「Word トラック変更の運用ルールが会社ごとに違う」ことでした。ある会社では色分け(Must 赤/Should 黄/Nice to Have 青)が徹底されていましたが、別の会社では「すべての修正が赤」「コメントは日本語のみ」といった独自ルールがありました。転職・異動時には、まず「自社の Word 運用ルール」を確認し、事業部との共通言語を作ることが最初のタスクです。ルールが整備されていない場合は、業界標準のルールを提案して社内 Word マニュアルを整備するところから始めるとよいでしょう。

次のステップ

本レッスンでは修正コメント文の書き方と Word 実務を扱いました。次のレッスンでは、契約書レビューを支える 5 つの法令——民法改正・下請法・独禁法・反社条項・準拠法・仲裁条項・英文契約への入口——を契約書チェックの視点で深掘りします。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。