本文へスキップ
スキルアップカレッジ

NDA・秘密保持契約のレビュー

レッスン2:NDA・秘密保持契約のレビュー

このレッスンで学ぶこと

  • 秘密情報の定義 3 パターンと、事業部が持ち込む NDA の典型リスクを把握できる
  • 目的外使用禁止条項・有効期間・残存条項の設計軸を持てる
  • 返還・破棄・派生成果物の取扱いを条項レベルで扱える
  • 片務 NDA と双務 NDA の使い分け、DD 前 NDA と一般 NDA の違いを扱える
  • 修正コメント文例 5 パターンを持ち帰れる

前レッスンでは契約書レビューの心構えと 14 大条項の全体構造を扱いました。本レッスンでは 6 大類型の第 1 号として、契約書レビューの入口となる NDA・秘密保持契約を条項レベルで深掘りします。

NDA・秘密保持契約とは

NDA(Non-Disclosure Agreement/秘密保持契約)は、契約当事者間で開示された秘密情報を目的外に使用しない、第三者に開示しない、契約終了後に返還・破棄することを取り決める契約です。取引の入口として、業務委託契約や共同開発契約・M&A 交渉の前段階で締結されることが多く、法務担当者が最も頻繁にレビューする契約類型です。

NDA の 3 大目的

  • 商談・見積りのために自社の情報を渡す前の防御
  • 業務委託・共同開発のために技術・顧客情報を交換する前の防御
  • M&A 交渉のために財務・従業員情報を開示する前の防御

秘密情報の定義——3 パターン

NDA レビューで最初に確認すべきは「何が秘密情報なのか」の定義です。定義が曖昧だと、後日紛争になった際に「これは秘密情報ではない」と主張されるリスクがあります。実務では、次の 3 パターンが存在します。

パターン A:包括型(すべての開示情報を秘密情報とする)

「本契約の履行に関して開示・提供した一切の情報」を秘密情報とするパターン。開示側が有利ですが、受領側は「何が秘密情報か特定できない」という問題を抱えます。事業部間の情報の取り違えや口頭情報の扱いをめぐって後日紛争になりがちです。

パターン B:マーキング型(秘密情報と明示された情報のみ)

「書面には『秘密』の表示を付し、口頭で開示した情報は開示後 14 日以内に書面で秘密と特定する」と限定するパターン。受領側が有利で、実運用のコストが低く抑えられますが、開示側にとっては「マーキング漏れ」で情報が秘密情報から外れるリスクがあります。

パターン C:折衷型(本契約に関連する情報+書面の秘密表示)

「本契約の目的に関連して開示された技術・営業・顧客情報」を対象とし、書面の秘密表示を任意とするパターン。両者のバランスを取った実務標準で、多くの企業の雛形はこのパターンで整備されています。

💡 ポイント 相手方から包括型(パターン A)で NDA を送ってきた場合は、折衷型(パターン C)への修正提案が定番です。受領側の立場では「情報の特定困難」というリスクを負ってしまうため、書面での特定を求める修正が Must です。

秘密情報から除外される 4 類型

多くの NDA では、次の 4 類型は秘密情報から除外されます。この除外規定が抜けているケースがあるため、必ずチェックします。

  • 開示時点ですでに公知になっていた情報
  • 開示後に受領側の責によらず公知となった情報
  • 受領側が第三者から適法に取得した情報
  • 受領側が自ら独自に開発した情報

目的外使用禁止条項

秘密情報を「本契約の目的」以外に使用しないことを取り決める条項です。「本契約の目的」が広く書かれていると、事実上目的外使用禁止が機能しなくなるため、目的条項の記載を必ず確認します。

目的の書き方 3 段階

  • 狭い書き方:「本製品 A の共同開発のみ」——受領側の使用範囲が明確に限定される
  • 中程度:「本製品 A の共同開発およびその評価・検証のため」——実務でよく使う
  • 広い書き方:「両者間の取引全般の検討のため」——事実上目的外使用禁止が機能しにくい

自社が受領側の場合は広い書き方(「取引全般の検討」)が有利、開示側の場合は狭い書き方(「本製品 A の共同開発のみ」)が有利です。

有効期間 3-5 年と残存条項

NDA の有効期間は、契約類型と業界慣行により標準が異なります。

有効期間の実務標準

  • 商談・見積り目的の NDA:1-3 年
  • 業務委託・共同開発目的の NDA:3-5 年
  • M&A 交渉前の NDA:2-3 年

残存条項——契約終了後も生きる条項

秘密保持義務は、契約期間終了後も一定期間存続するのが実務標準です。この「残存期間」を設定する条項を残存条項と呼びます。実務では次の 3 パターンで運用されます。

  • 契約期間内のみ(残存条項なし):受領側有利で、実務では稀
  • 契約終了後 3-5 年:実務標準
  • 無期限:技術情報や顧客名簿など、時間経過で価値が減らない情報に限定

⚠️ 注意 相手方から「無期限の秘密保持義務」を求められた場合、受領側の立場では「業務上の記憶」と「契約上の秘密情報」の区別が困難になり、実務での運用が破綻するリスクがあります。技術情報の一部に限定する(例:ソースコードのみ無期限、それ以外は 5 年)といった修正提案が定番です。

返還・破棄・派生成果物

契約終了時に、受領した秘密情報をどう処理するかを定める条項です。

返還・破棄の 3 パターン

  • 返還:紙媒体・USB メモリなど物理的な媒体を返却する
  • 破棄:シュレッダー・データ削除で処分する
  • 返還または破棄の選択:開示側の指示に従う

派生成果物の取扱い

秘密情報を利用して受領側が作成したメモ・分析資料・派生ファイルは、原則として「派生成果物」として扱われ、契約終了時には秘密情報と同様に返還・破棄の対象となります。しかし、雛形には派生成果物条項が抜けているケースが多く、追加提案が Must になることがあります。

片務 NDA と双務 NDA

NDA には、片務型(一方のみが情報を開示)と双務型(両者が情報を交換)の 2 種類があります。

使い分けの判断軸

  • 片務型を選ぶ場面:見積り依頼・調達検討(開示側が明確)
  • 双務型を選ぶ場面:共同開発・業務提携(両者が技術・顧客情報を交換)

雛形が片務型のまま双務案件に使われるケースが多く、受領側の義務のみが規定されている契約書を双務案件で使うと、自社が情報を開示した際に相手方の秘密保持義務が発生しないリスクがあります。契約の目的から双務型が必要かを判断し、双務型への修正を提案します。

DD 前 NDA と一般 NDA の違い

M&A の DD(デューデリジェンス)前に締結される NDA は、一般 NDA とは目的も範囲も異なります。

DD 前 NDA の 4 特徴

  • 目的が広い:「両者間の M&A 検討全般」となり、対象案件が特定されない
  • 秘密情報の範囲が広い:財務諸表・従業員名簿・取引先リストなど、通常業務で外部提供しない情報を含む
  • 従業員引き抜き禁止条項:DD で知り得た従業員情報を悪用した引き抜きを禁止(Non-Solicitation)
  • 有効期間が短めで残存期間が長め:交渉が成立せずとも情報が漏れないよう、契約期間 1-2 年+残存 3-5 年が実務標準

📖 もっと詳しく DD 前 NDA については本コースのレッスン 5「M&A の NDA・LOI・SPA レビュー入口」で詳しく扱います。本レッスンでは「一般 NDA と切り分けて雛形を持つ必要がある」という視点に留めます。

修正コメント文例 5 パターン

NDA レビューで頻出する修正コメントの文例を、実際の文面に近い形で示します。修正コメントの型については本コースのレッスン 6 で詳しく扱いますが、ここでは 5 パターンの入口を提示します。

パターン 1:秘密情報の定義を折衷型に修正

「本条第 1 項について、包括的な定義では受領側にとって秘密情報の特定が困難となります。実務標準として、書面には『秘密』の表示を付し、口頭で開示した情報は開示後 14 日以内に書面で秘密として特定する運用への修正をご検討いただけないでしょうか」

パターン 2:目的条項を絞る

「本契約の目的について、『両者間の取引全般の検討』では目的外使用禁止が事実上機能しません。本案件の性質を踏まえ、『本製品 A の共同開発およびその評価・検証』への限定をご検討いただけないでしょうか」

パターン 3:残存期間を有限に修正

「本条第 3 項の『無期限の秘密保持義務』について、受領側の実務運用上、業務上の記憶と契約上の秘密情報の区別が困難となります。ソースコードのみ無期限とし、それ以外は契約終了後 5 年間への修正をご検討いただけないでしょうか」

パターン 4:秘密情報の除外規定を追加

「本条に、秘密情報から除外される類型(開示時点で公知の情報、受領側の責によらず公知となった情報、第三者から適法に取得した情報、受領側が独自開発した情報)の 4 類型を追加いただけないでしょうか」

パターン 5:派生成果物条項を追加

「本条に、秘密情報を利用して受領側が作成した派生成果物(メモ・分析資料・派生ファイル)について、秘密情報と同様に返還・破棄の対象とする条項の追加をご検討いただけないでしょうか」

💡 ポイント 修正コメントは「反論ではなく提案」——理由と代替案をセットで書きます。相手方の立場を否定するのではなく、「実務運用上」「業界標準として」といった第三者的な理由を添え、代替案を具体的に提示するのが実務標準です。

次のステップ

本レッスンでは NDA・秘密保持契約のレビューを扱いました。次のレッスンでは、6 大類型の第 2・第 3 号として、取引基本契約と業務委託契約の条項別レビューを深掘りし、民法改正・下請法・フリーランス新法の契約書チェック視点まで踏み込みます。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。