PropTech と不動産業の未来——VR 内見・電子契約・IT 重説・空き家対策・修了後の継続学習
レッスン8:PropTech と不動産業の未来——VR 内見・電子契約・IT 重説・空き家対策・修了後の継続学習
このレッスンで学ぶこと
- PropTech の 5 領域と日本の代表スタートアップを俯瞰する
- VR 内見・電子契約・IT 重説・AI 査定など不動産 DX の実装を扱う
- 空き家問題(900 万戸)と空家対策特別措置法(2023 年改正)を把握する
- 修了後の継続学習方向(統計・業界誌・PropTech 情報源)を提示する
前のレッスンでは、J-REIT /私募 REIT /SPC /GK-TK /TMK /不動産クラウドファンディングという不動産金融スキームを扱いました。最終レッスンとなるこのレッスンでは、業界の未来を左右する PropTech と不動産 DX、空き家対策、地方創生、そして修了後の学び方までを扱い、コースを締めくくります。
PropTech の 5 領域——業界の生産性革命
PropTech(Property Technology)は、不動産分野のテクノロジー活用の総称です。2010 年代半ばから米国で概念化され、日本では 2016 年頃から本格拡大しました。PropTech は大きく 5 領域に分類されます。
第 1 領域の Marketplaces(マーケットプレイス)は、不動産の売買・賃貸情報を提供するオンラインプラットフォームです。SUUMO(リクルート)、LIFULL HOME'S、athome(アットホーム)、Yahoo!不動産、いえらぶ、ietty、Ownersagent などが日本の代表プレイヤーです。
第 2 領域の Real Estate FinTech(不動産金融テック)は、不動産の資金調達・投資・与信を扱う領域です。前のレッスンで扱った不動産クラウドファンディング(COZUCHI /FANTAS /CREAL /利回りくん)、住宅ローン比較(住宅本舗、モゲチェック)、住宅ローン AI 審査などが該当します。
第 3 領域の Smart Real Estate(スマート不動産)は、IoT・AI・センサーで物件を運営する領域です。スマートロック(Qrio /SESAME /bitlock)、スマート内覧(無人内覧)、AI 空室予測、エネルギー管理(スマートホーム)などが該当します。
第 4 領域の Sharing Economy(シェアリング)は、不動産の共有・時間貸しを扱う領域です。Airbnb(民泊)、SPACEE(会議室シェア)、instabase(貸し会議室)、Coworkerz(コワーキング)などが該当します。
第 5 領域の CRE Tech(企業不動産テック)は、企業のオフィス・工場などの不動産管理を扱う領域です。VACAN(オフィス空席可視化)、WORK PLACE ANALYST(オフィス最適化)、PocketRD(オフィス面積管理)などが該当します。
これら 5 領域は独立ではなく、複数領域を横断するスタートアップも多く存在します。
日本の代表 PropTech スタートアップ
日本の PropTech スタートアップは 2016 年頃から急拡大しました。2024 年時点の代表プレイヤーを紹介します。
GA technologies(東証グロース上場、2013 年設立)は、中古マンション売買プラットフォーム RENOSY を運営、AI 査定・オンライン完結取引で急拡大しました。2024 年 10 月期の売上は約 1,700 億円です。
WealthPark(2011 年設立)は、賃貸オーナー向けの資産管理プラットフォーム。オーナーと管理会社の情報共有・レポート自動化を提供します。
VACAN(2016 年設立)は、オフィス・トイレ・会議室などの空室状況をリアルタイムで可視化する IoT プラットフォームで、大手企業のオフィス運営で採用が進みます。
SPACEE(2013 年設立)は、貸し会議室・レンタルスペースのシェアリングプラットフォームです。
リノべる。(Renoveru、2010 年設立、株式会社リノベる運営)は、中古マンション購入 + リノベーションのワンストップサービスです。
Housmart(2014 年設立)は、AI マンション査定アプリ「カウル」を運営、中古マンション売買仲介プラットフォームです。
musubell(2019 年設立、旧・SunSelf)は、AI 賃貸物件マッチング、オーナー向け空室対策サービスを提供します。
VR 内見・360°写真の分野では、株式会社ナーブ(NURVE、2015 年設立)が業界代表で、大手不動産会社と連携しています。
電子契約と IT 重説の実装
2022 年 5 月の宅建業法改正で電子交付が完全解禁され(レッスン 3 参照)、不動産取引の電子化が急速に進んでいます。実装は以下 3 レイヤーで進行しています。
第 1 レイヤーは、IT 重説の実装です。Zoom、Microsoft Teams、Google Meet などの汎用 Web 会議システム、または不動産業界特化の Web 会議システムを使って重要事項説明を実施します。全国の宅建業者の約 4 割が IT 重説を実施経験ありという状況です(2024 年時点、不動産流通機構調査)。
第 2 レイヤーは、35 条書面・37 条書面の電子交付です。DocuSign、Adobe Sign、クラウドサイン(弁護士ドットコム)、GMO サイン、freee サインといった電子契約サービスが利用されます。物件の重要事項説明書・契約書を電子データで交付し、電子署名で契約を成立させます。
第 3 レイヤーは、契約書類の電子保存です。宅建業者は契約関連書類を 5 年間保存する義務があり、電子化した契約書類の管理システム(e-文書法対応の文書管理システム)が求められます。
これらの電子化により、契約プロセスの所要時間が従来の 2 〜 3 週間から 1 週間程度まで短縮された事例も報告されており、業界の生産性向上に貢献しています。
AI 査定と空室予測
AI 査定は、住宅・区分マンションの査定価格を機械学習で算出する仕組みです。過去の取引事例、物件属性、立地、築年数、間取りなどのデータから査定価格を算出し、従来の宅建士による手作業査定を大幅に効率化します。
GA technologies「RENOSY」、Housmart「カウル」、リブセンス「IESHIL」、SBI エステートファイナンス、住宅本舗など、多数の事業者が AI 査定サービスを提供しています。査定精度は、宅建士のレンジ査定と比較して同水準以上に達したと言われるサービスも登場しています。
AI 空室予測は、賃貸物件の空室リスクを機械学習で予測する仕組みです。過去の入退去データ、周辺競合、季節性、経済指標などから、今後 6 か月 〜 1 年の空室リスクを予測し、事前の家賃調整・リノベーション判断に活用します。賃貸管理会社での導入が進んでいます。
スマートロック・無人内覧・IoT センサー
スマートロックは、鍵の物理的な受け渡しを不要とする電子ロックです。Qrio Lock、SESAME、bitlock、SwitchBot Lock などが代表製品で、賃貸物件の内覧・鍵引き渡し・入居者交代の効率化に活用されています。
無人内覧は、スマートロックと連動して、内覧希望者がスマホで解錠して物件を自由に見学できる仕組みです。仲介会社の営業マンによる内覧同行が不要となり、内覧の稼働時間を大幅に増やせます。地方物件・投資用物件で特に採用が進んでいます。
IoT センサーは、物件の使用状況・エネルギー消費・水漏れ・不法侵入などを検知するセンサーです。スマートホーム化と連携し、賃貸物件の運営コスト削減・入居者満足度向上に貢献しています。
空き家問題——900 万戸と空家対策特別措置法
空き家問題は、日本の不動産業界の最大の構造課題の 1 つです。総務省の住宅・土地統計調査(2023 年)によると、全国の空き家は約 900 万戸(住宅ストックの 14.6 %)に達しています。
空家対策特別措置法(正式名称:空家等対策の推進に関する特別措置法)は、2015 年 5 月に本格施行されました。同法により、以下の対応が可能になりました。
第 1 の対応は、空家等の実態把握です。市町村は空家等の所在・所有者情報を把握し、データベース化します。
第 2 の対応は、特定空家の指定です。倒壊・衛生・景観・生活環境に著しく悪影響を及ぼす空家を「特定空家」に指定し、除却・修繕・立木伐採などの助言・指導・勧告・命令・行政代執行が可能になります。
第 3 の対応は、固定資産税の住宅用地特例の解除です。特定空家に指定されると、住宅用地の固定資産税軽減特例(最大 6 分の 1 軽減)が解除されます。空家所有者への経済的圧力として機能します。
2023 年 12 月には空家対策特別措置法が改正され、「管理不全空家」(放置すれば特定空家になるおそれのある空家)の指定制度が新設されました。特定空家より一段階前の空家にも、固定資産税特例解除の対応が可能になりました。
空家活用・地方創生の動き
空家問題への対応として、以下 4 つの取り組みが業界横断で進行しています。
第 1 の取り組みは、空家バンクです。市町村が運営する空家情報の登録・紹介プラットフォームで、全国 700 以上の自治体が運営しています。国土交通省の「全国版空き家・空き地バンク」も 2018 年に開始されました。
第 2 の取り組みは、リノベーション・古民家再生です。中古住宅・古民家をリノベーションして活用する事業で、専門事業者(さくらリノベ、リノベる。、株式会社リビタなど)が展開しています。
第 3 の取り組みは、地域振興・移住促進です。移住者向けの補助金、テレワーク移住プログラム、二拠点居住支援などが自治体と連携で展開されています。
第 4 の取り組みは、DID(Densely Inhabited District、人口集中地区)と特定 UR(Urban Regeneration、都市再生機構)の連携です。DID 外の空家対策、UR 都市機構の団地再生、地方都市のコンパクトシティ化などが進行しています。
修了後の継続学習方向——業界情報源
本コース修了後、不動産業界を継続的に学ぶための情報源を紹介します。
政府・公的機関の情報源として、国土交通省「不動産市場動向調査」「土地白書」「住宅経済関連データ」、総務省「住宅・土地統計調査」(5 年ごと)、国税庁「路線価図・評価倍率表」、法務局「不動産登記情報」が基本です。
業界団体の情報源として、公益社団法人日本不動産流通推進機構、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連、ハトマーク)、公益社団法人全日本不動産協会(全日、ウサギマーク)、社団法人不動産協会(大手デベロッパー会)、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会、一般社団法人不動産証券化協会(ARES)などがあります。
業界誌・専門誌の情報源として、週刊住宅新聞、日刊不動産経済通信、住宅新報、月刊「不動産流通」、月刊「マンション管理新聞」、「不動産経済ファンドレビュー」、日経不動産マーケット情報が主要媒体です。
書籍としては、田原武彦『不動産ビジネスの基礎知識』(住宅新報出版)、鈴木輝隆『不動産投資の実務』(東洋経済新報社)、白鳥和生『不動産の証券化がわかる本』(東洋経済新報社)、山田尚之『REIT の教科書』(日経 BP)、日建設計『これからの不動産開発 全指針』(日経 BP)などが定番です。
英語ソースとしては、Bisnow(米国、不動産業界ニュース)、Real Capital Analytics(不動産投資データ)、CBRE Research Reports、JLL Research Reports、Cushman & Wakefield MarketBeats などが主要媒体です。
PropTech 情報源として、PropTech Zeitgeist、Unissu、CRE Tech、Propmodo、また日本語では PropTech Startup Guide、PropTech ONLINE、不動産テック協会などが挙げられます。
修了にあたって
本コースでは、不動産業を「業界として読み解く眼鏡」を、業界外の方に向けて 8 レッスンで届けてきました。
第 1 レッスンで業界の現在地と本コースの守備範囲、第 2 レッスンでバリューチェーンと 4 事業、第 3 レッスンで宅地建物取引業法と宅建士・IT 重説、第 4 レッスンで借地借家法・賃貸管理業法・サブリース新法、第 5 レッスンで不動産登記法・都市計画法・建築基準法・住宅品確法・改正建築物省エネ法、第 6 レッスンで不動産鑑定評価と CAP レート・NOI ・DCF 法、第 7 レッスンで J-REIT /SPC /不動産クラウドファンディング、そしてこの第 8 レッスンで PropTech と不動産業の未来を扱いました。
業界の 3 共通言語「制度・立地・時間」を軸に、業界の全体像を俯瞰できる状態になっていれば、本コースの目的は達成です。不動産業に転職・配属された方、担当することになったコンサル・SIer・金融・建設・広告代理店の方、業界に提案する営業職の方——それぞれの立場で、業界会議での議論が理解しやすくなり、次の学習の方向が見えてきているはずです。
不動産業界は、2025 年 4 月の改正建築物省エネ法適合義務化、2024 〜 2026 年の金利上昇局面、空き家 900 万戸への対応、PropTech の本格浸透——これら複数の構造変化の真っただ中にあります。これらすべてが 2024 〜 2027 年に集中して動いており、業界の景色が今後 5 年で大きく変わります。この変化を「読む眼鏡」を持って、日々のニュース・会議・提案に臨んでいただければ幸いです。
「制度・立地・時間」の 3 語を思い出しながら、業界の続報を追いかけてください。不動産業は、日本の生活と経済を支える生態系そのものです。住まい・オフィス・商業空間・物流施設——人々の暮らしと事業のあらゆる場面が不動産の上に成り立っています。ここに関わる仕事は、社会の基盤を作る仕事です。
確認クイズ
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