宅地建物取引業法と宅建士——重要事項説明・IT 重説・宅建業免許
レッスン3:宅地建物取引業法と宅建士——重要事項説明・IT 重説・宅建業免許
このレッスンで学ぶこと
- 宅地建物取引業法の 3 本柱(免許制・重要事項説明義務・営業保証金)を理解する
- 宅建士(宅地建物取引士)の役割と国家試験の位置づけを把握する
- 重要事項説明(35 条書面)・37 条書面と IT 重説・電子交付(2022 年 5 月完全電子化)を扱える
- 宅建業免許(都道府県知事免許・国土交通大臣免許)の区別を理解する
前のレッスンでは、不動産業の 4 事業別ビジネスモデルと大手デベロッパー・ハウスメーカー・仲介 5 社を扱いました。このレッスンでは、業界のもっとも根源にある法制度——宅地建物取引業法(宅建業法)と宅建士(宅地建物取引士)——に踏み込みます。この 2 つが、不動産取引のほぼすべての前提を作っています。
宅地建物取引業法——1952 年制定、業界のパスポート
宅地建物取引業法(宅建業法)は、1952 年に制定された、日本の不動産取引を規律する基本法です。1972 年に「宅地建物取引業法」に名称改称されました(元は 1952 年の「宅地建物取引業法」ですが、1971 年の改正で大きく整備)。
この法律の目的は、購入者・借主の保護と、宅地建物取引業の適正な運営の確保です。日本の不動産取引で最も特徴的なのは「情報の非対称性」で、売主・貸主に比べて買主・借主は物件情報が乏しく、不利な取引をされやすい構造にあります。宅建業法はこの情報格差を制度で是正する狙いを持ちます。
宅建業法の対象は、「宅地建物取引業」を営む事業者です。宅地建物取引業とは、以下の 8 つの行為のいずれかを「業として」(反復継続して営利目的で)行うことを指します。
- 宅地または建物の売買
- 宅地または建物の交換
- 宅地または建物の売買の代理
- 宅地または建物の交換の代理
- 宅地または建物の売買の媒介
- 宅地または建物の交換の媒介
- 宅地または建物の貸借の代理
- 宅地または建物の貸借の媒介
賃貸物件の「貸主自身の賃貸」は宅建業に該当しないため、大家業(自己所有物件の賃貸)は宅建業免許が不要です。一方、賃貸の「代理」「媒介」を業として行う場合は宅建業に該当し、免許が必要です。
宅建業法の 3 本柱——免許制・重要事項説明義務・営業保証金
宅建業法の中核は 3 本柱で構成されます。
第 1 の柱は免許制です。宅建業を営むには、都道府県知事または国土交通大臣の免許が必要です。免許なしで宅建業を営むと 3 年以下の懲役または 300 万円以下の罰金となります。免許は 5 年ごとに更新が必要で、欠格要件(暴力団関係、破産・懲役刑履歴など)に該当する者は免許を受けられません。
第 2 の柱は重要事項説明義務です。宅建業者は、契約締結前に、宅建士が買主・借主に対して物件の重要事項を書面で説明する義務があります。この書面が「35 条書面」(重要事項説明書)で、宅建業法第 35 条に基づく名称です。
第 3 の柱は営業保証金制度です。宅建業者は、営業所ごとに 1,000 万円(主たる事務所)+ 500 万円(従たる事務所)を法務局に供託する必要があります。この供託金は、宅建業者との取引で損害を被った買主・借主が優先弁済を受けるためのもので、消費者保護の担保となります。営業保証金の代替として、宅建業保証協会(全国宅地建物取引業保証協会、全日本不動産保証協会)に加入することで、弁済業務保証金分担金 60 万円(+30 万円/従たる事務所)の納付で済ませることもできます。
宅建士(宅地建物取引士)——2015 年 4 月の名称変更
宅地建物取引士は、宅建業法第 15 条に基づく国家資格で、宅建業者の営業所ごとに、業務従事者 5 人に 1 人以上の設置義務があります。2014 年 6 月の宅建業法改正により、2015 年 4 月から「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」に名称変更されました。
宅建士のみが行える独占業務は 3 つです。
第 1 の独占業務は、重要事項の説明(35 条書面)です。契約前の物件の重要事項を、宅建士が対面(または IT 重説)で口頭説明する必要があります。宅建士でない者による重要事項説明は宅建業法違反です。
第 2 の独占業務は、35 条書面(重要事項説明書)への記名です。かつては記名押印でしたが、2022 年 5 月の宅建業法改正で押印義務が撤廃され、記名のみで足りることになりました。
第 3 の独占業務は、37 条書面(契約書、宅建業法第 37 条に基づく名称)への記名です。同じく 2022 年 5 月改正で押印義務は撤廃されました。
宅建士試験は、国家試験として毎年 10 月に実施されます。合格率は 15 〜 17 % 程度で、宅建業関連の試験の中では最も需要が大きい試験です。受験者数は年間約 22 万人(令和 5 年度)で、合格者数は約 4 万人前後です。
📝 補足 宅建士試験の受験・合格を目指す場合、本コースは試験対策コースではありません。宅建士試験の対策は、TAC、LEC、大原、フォーサイト、資格スクエアといった資格予備校の講座を活用してください。本コースは業界を俯瞰する視座を提供するもので、試験に必要な条文暗記・過去問対策は扱いません。
重要事項説明——35 条書面と 37 条書面
35 条書面(重要事項説明書)に記載する内容は、宅建業法第 35 条第 1 項で以下 12 項目が定められています。
- 登記された権利の内容
- 都市計画法・建築基準法などの法令上の制限
- 私道負担
- 飲用水・電気・ガスの供給、排水施設
- 未完成物件の場合の完成時における形状・構造
- 建物の場合の建物の構造・耐力上主要な部分の材料、設備の内容
- 敷金・そのほかの金銭の授受と保管方法
- 契約の解除に関する事項
- 損害賠償額の予定・違約金
- 手付金等の保全措置
- 支払金・預り金の保全措置
- 金銭の貸借のあっせん
売買・賃貸に応じて追加項目もあり、実務では 35 条書面は 20 〜 40 ページ以上に及ぶ大部の書類です。
37 条書面(契約書)には、契約当事者、物件、代金・賃料、支払時期、引渡時期、契約解除、損害賠償額の予定など、契約の基本条件が記載されます。売買契約書・賃貸借契約書として、日本の不動産取引の中心となる書面です。
35 条書面は「契約前の説明用書面」、37 条書面は「契約成立後の契約書」として役割が明確に異なります。
⚠️ 注意 35 条書面と 37 条書面はまったく別物です。35 条書面は「契約前に買主・借主に対して宅建士が説明する重要事項説明書」、37 条書面は「契約成立後に交付する契約書」です。実務では 35 条 → 契約 → 37 条の順で進みます。この 2 書面の区別は、業界の初心者が最初に混同するポイントです。
IT 重説と電子交付——2017 年・2022 年の 2 段階解禁
重要事項説明は、伝統的には対面で行われてきました。しかし、2017 年 10 月から賃貸取引で「IT 重説」(Web 会議システムを使ったオンライン重要事項説明)が本格運用開始、2021 年 3 月から売買取引でも本格運用となり、非対面での重要事項説明が可能になりました。
IT 重説の要件は 4 つです。
- 説明者と説明を受ける者(買主・借主)が映像と音声でやり取りできる Web 会議システムの利用
- 説明を受ける者に 35 条書面をあらかじめ交付済み
- 説明を受ける者が書面を確認できる環境
- 説明中に映像・音声が途絶した場合の一時中断
2022 年 5 月の宅建業法改正では、35 条書面・37 条書面の「電子交付」が完全解禁されました。従来は書面での交付が義務だったものが、電子データ(PDF などの電磁的方法)での交付が可能になり、契約プロセスの完全電子化が実現しました。同時に、35 条書面・37 条書面への宅建士の押印義務も撤廃され、記名のみで足りることになりました。
この 2022 年 5 月改正は、業界の商慣行を大きく変える改正でした。従来の「対面契約・紙契約・押印契約」の 3 点セットから、「オンライン契約・電子契約・電子署名」の 3 点セットへの移行が可能になり、PropTech(レッスン 8 で詳述)が業界に本格浸透する基盤となりました。
宅建業免許——都道府県知事免許と国土交通大臣免許
宅建業免許は、営業所の設置場所に応じて 2 種類に区分されます。
第 1 の都道府県知事免許は、1 つの都道府県内にのみ営業所を設置する場合に必要な免許です。都道府県知事が管轄し、申請・更新は各都道府県に対して行います。中小の地場不動産会社の多くはこの免許を取得しています。
第 2 の国土交通大臣免許は、2 つ以上の都道府県にまたがって営業所を設置する場合に必要な免許です。国土交通省が管轄し、申請・更新は国土交通省に対して行います。大手デベロッパー、大手仲介、全国展開する住宅メーカーなどはこの免許を取得しています。
免許番号の表記は「東京都知事(3)第 XXXXX 号」のような形式で、括弧内の数字は更新回数(初回は 1、5 年ごとに 1 増える)を示します。この数字が大きいほど営業年数が長いことを示し、業界内では「(10) 以上は老舗」といった目安があります。
免許制度は消費者保護の重要な仕組みで、無免許業者との取引は買主・借主にとってリスクが高いものです。物件広告や名刺に免許番号が表示されているかを確認するのが、健全な取引の第一歩です。
苦情・紛争処理と監督処分
宅建業者への苦情・紛争が生じた場合、以下の 4 経路で対応が図られます。
第 1 の経路は、宅建業者との直接交渉です。まずは当事者間での話し合いで解決を目指します。
第 2 の経路は、宅建業保証協会への苦情申出です。全国宅地建物取引業保証協会(ハトマーク)、全日本不動産保証協会(ウサギマーク)が業界の 2 大保証協会で、加盟業者に対する苦情処理を担当します。
第 3 の経路は、都道府県宅建業免許担当課への苦情申出です。免許を出している行政庁が監督権限を持ち、業者に対する指導・監督処分(業務停止処分、免許取消処分)を行います。
第 4 の経路は、宅地建物取引業指導センター、消費者センター、弁護士会などの外部相談窓口です。第三者の相談機関が仲介・調停を行います。
宅建業法違反による監督処分としては、指示処分、業務停止処分(1 年以内)、免許取消処分の 3 段階があります。悪質な業者には行政処分と刑事罰の両方が科されるケースもあります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 宅地建物取引業法(宅建業法)は 1952 年制定、購入者・借主保護と宅建業の適正運営の確保が目的
- 宅建業法の 3 本柱は免許制、重要事項説明義務、営業保証金制度
- 宅建士(宅地建物取引士、2015 年 4 月名称変更)は業務従事者 5 人に 1 人以上の設置義務
- 宅建士の独占業務は 35 条書面(重説)の説明・記名、37 条書面(契約書)への記名
- IT 重説は 2017 年 10 月賃貸・2021 年 3 月売買で本格運用、電子交付は 2022 年 5 月完全解禁
- 宅建業免許は都道府県知事免許(1 都道府県内)と国土交通大臣免許(2 都道府県以上)に区分
次のレッスンでは、賃貸取引の中核法制度である借地借家法と、賃貸管理業法・サブリース新法を扱います。普通借家契約と定期借家契約の違い、原状回復ガイドライン、業務管理者制度、大東建託モデルの構造まで踏み込んでいきます。
確認クイズ
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