借地借家法・賃貸管理業法・サブリース新法
レッスン4:借地借家法・賃貸管理業法・サブリース新法
このレッスンで学ぶこと
- 借地借家法(1991 年制定)の 2 大契約(普通借家契約・定期借家契約)を理解する
- 正当事由・立退料・原状回復ガイドライン(2004 年国交省)を扱える
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸管理業法、2021 年 6 月施行)と業務管理者制度を把握する
- サブリース新法と大東建託モデルの構造を俯瞰する
前のレッスンでは、宅地建物取引業法と宅建士・重要事項説明・IT 重説を扱いました。このレッスンでは、賃貸取引の中核法制度である借地借家法と、2021 年に本格施行された賃貸管理業法・サブリース新法を扱います。日本の賃貸市場を特徴づける「借主保護構造」と、その構造の中で生まれた「サブリース事業」の光と影を見ていきます。
借地借家法——1991 年制定、日本特有の借主保護
借地借家法は、1991 年 10 月に制定・1992 年 8 月に施行された、土地・建物の賃貸借契約を規律する法律です。それ以前の旧借地法(1921 年)・旧借家法(1921 年)を統合・改正したものです。
この法律の最大の特徴は、借主(借地人・借家人)を強力に保護する構造にあります。日本の賃貸市場は、明治から昭和にかけての持家困難な社会情勢から、借主を保護する制度が積み重ねられてきました。その結果、貸主(大家・オーナー)にとっては、いったん貸したら「返してもらいにくい」構造が定着しました。
具体的には、以下のような借主保護規定があります。
- 契約更新は借主に強い権利がある(原則として更新される)
- 貸主からの契約解除には「正当事由」が必要
- 家賃減額請求権(借主から貸主への一方的な減額請求が可能)
- 造作買取請求権(借主が付加した造作の買取を貸主に請求可能)
この借主保護構造は、日本の賃貸市場の特徴を大きく左右してきました。
普通借家契約と定期借家契約——2 大契約類型
借地借家法の下では、賃貸借契約は 2 つのタイプに区分されます。
第 1 のタイプは普通借家契約です。契約期間(通常 2 年)が満了しても、借主に更新する意思があれば原則として契約は更新されます。貸主から契約解除・契約更新拒絶をするには、以下の 4 要件をすべて満たす必要があります。
- 契約期間満了の 6 か月前までに更新拒絶の通知
- 正当事由(貸主自身の使用必要性、借主の契約違反、建物の老朽化・建替え、立退料の提供など)
- 立退料の提供(正当事由の 1 要素として重視される)
- 期間満了後も借主が使用継続していないこと
このため、日本の賃貸市場では「貸したら返ってこない」という感覚が広く共有されています。実際には正当事由が認められる立退きも多いのですが、立退料が数百万〜数千万円に達するケースも珍しくなく、貸主のリスクとなります。
第 2 のタイプは定期借家契約です。1999 年の借地借家法改正で 2000 年 3 月から新設された制度で、契約期間の満了により確実に契約が終了する(更新のない)契約です。貸主にとっては、期間満了で確実に物件を返してもらえるメリットがあります。
定期借家契約を有効にするには、以下 4 要件を満たす必要があります。
- 契約書に「更新がない」ことを明示
- 公正証書などの書面での契約
- 貸主が契約前に「更新がない」旨を書面で説明
- 期間満了の 6 か月前から 1 年前までに終了通知
定期借家契約は、当初想定されたほど普及していません。2024 年時点で全賃貸物件の 5 % 未満と推定されます。理由は、借主にとって不利な契約であるため、借主が定期借家契約を選ぶインセンティブが弱いためです。
💡 ポイント 「定期借家契約」と「普通借家契約に定めた期間」を混同しないでください。普通借家契約でも「契約期間 2 年」と定めますが、期間満了しても借主に更新権があります。定期借家契約は「期間満了で確実に終了」する契約で、性質がまったく異なります。
正当事由と立退料
正当事由の判断は、以下の 4 要素を総合考慮して裁判所が判断します。
第 1 の要素は、貸主が建物を必要とする事情です。貸主自身または家族が住むために必要、事業目的での使用が必要、建物の老朽化による建替えが必要、といった事情が該当します。
第 2 の要素は、借主が建物を必要とする事情です。長年住んでいる、事業拠点として活用している、代替物件がない、といった事情が該当します。
第 3 の要素は、賃貸借の従前の経過です。契約期間の長さ、家賃の支払状況、借主の建物使用状況などが該当します。
第 4 の要素は、財産上の給付(立退料)の提供です。貸主が借主に対して立退料を提供することで、正当事由の不足を補うことができます。
実務では、都市部のオフィスビルの立退きでは坪単価 100 〜 300 万円程度、住宅の立退きでは家賃の 6 か月〜 3 年分程度の立退料が支払われる目安です。ただし個別の事情で大きく変動します。
原状回復ガイドライン——2004 年国交省
原状回復(賃貸物件を借主が退去する際に、貸主に返す状態にすること)は、日本の賃貸市場でトラブルが最も多い領域の 1 つです。国土交通省は 1998 年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を初版公表、2004 年に改訂版、2011 年に再改訂版を公表しました。
ガイドラインの基本原則は、以下の 3 点です。
- 通常の使用による損耗(経年変化・通常損耗)は、家賃に織り込まれているため借主負担ではない
- 借主の故意・過失、注意義務違反による損耗は、借主の負担
- 経年劣化の考え方(設備・内装の残存価値を考慮した負担割合)
具体的には、通常の生活で発生する日焼け、家具設置による軽微な床のへこみ、テレビ・冷蔵庫後方の壁の電気焼けなどは借主負担ではありません。一方、タバコによる壁の変色、ペットによる引っかき傷、掃除を怠ったカビなどは借主負担となります。
このガイドラインは法的拘束力を持ちませんが、消費者契約法との整合性を持たせ、賃貸借契約書に反映することが実務標準となっています。国民生活センターへの相談件数も、ガイドラインの普及とともに減少傾向にあります。
賃貸管理業法——2020 年 6 月成立、2021 年 6 月施行
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸管理業法)は、2020 年 6 月に成立、2021 年 6 月に本格施行された、賃貸住宅管理業を規律する新しい法律です。
背景には、賃貸住宅管理業の急拡大と、それに伴う消費者トラブルの増加がありました。特に、後述するサブリース事業のトラブル(レオパレス 21、大東建託などのマスターリース契約をめぐる問題)が社会問題化し、業界の適正化が急務となりました。
賃貸管理業法の主要規定は以下 4 つです。
第 1 の規定は、賃貸住宅管理業者の登録制です。管理戸数 200 戸以上の管理業者は、国土交通大臣への登録が義務付けられます。無登録営業は罰則対象です。
第 2 の規定は、業務管理者の設置義務です。事業所ごとに 1 人以上、以下いずれかの資格を持つ「業務管理者」の設置が義務付けられます。
- 賃貸不動産経営管理士(2007 年に業界資格として発足、2021 年 4 月に国家資格化)
- 宅建士 + 実務経験 2 年以上 + 指定講習修了
第 3 の規定は、重要事項説明義務です。管理受託契約前に、業務管理者による重要事項説明が義務付けられました。管理業務の内容、報酬、契約解除条件などを説明する必要があります。
第 4 の規定は、財産の分別管理義務です。オーナーから預かった家賃・敷金は、管理業者自身の財産と分別して管理する必要があります。
サブリース新法——2020 年サブリース事業者向け規制
賃貸管理業法のうち、サブリース事業者(一括借上業者)に対する規制部分を「サブリース新法」と呼ぶことがあります。2020 年 12 月から先行施行された部分です。
サブリース事業の構造は以下の通りです。
サブリース事業者(大東建託、レオパレス 21、東建コーポレーション、大和ハウスリビング、レオンユナイテッド、他)が、オーナーから物件を一括借上し、サブリース事業者が入居者に転貸します。オーナーは、空室リスク・入居者管理リスクをサブリース事業者に転嫁でき、代わりに家賃の 80 〜 90 % 程度を保証賃料として受け取ります。
この構造で問題となったのは、以下 3 点でした。
第 1 の問題は、家賃保証の減額です。「30 年一括借上、家賃保証」とうたって契約したものの、途中で保証賃料が大幅に減額される事例が多発しました。契約書には「賃料改定条項」があり、法的には減額が可能な仕組みでしたが、契約時にこの説明が不十分でした。
第 2 の問題は、契約解除の困難さです。オーナー側から契約解除を申し出ると、多額の違約金を請求されるケースが発生しました。借地借家法上の借主(サブリース事業者)保護が働き、オーナー側から解除しにくい構造がありました。
第 3 の問題は、建築請負との抱き合わせ販売です。サブリース事業者が、自社のアパート建築を推奨し、その建築請負契約と一括借上契約をセットで提案する営業手法が問題化しました。オーナーが正確な事業性を判断できないまま契約するケースが目立ちました。
サブリース新法(2020 年サブリース事業者向け規制)では、以下の規制が導入されました。
- 誇大広告の禁止(「家賃保証」「30 年一括借上」といった断定的な表現の規制)
- 不当勧誘の禁止(不利益事実の不告知など)
- 契約前の重要事項説明義務(家賃減額の可能性など)
- 契約締結時の書面交付義務
これらの規制は、業界の商慣行を大きく変える改正となりました。
大東建託モデルとレオパレス 21 問題
大東建託モデルは、日本のサブリース事業の代表例です。土地オーナー(多くは相続対策目的の農地・遊休地保有者)に対して、大東建託が賃貸アパート・マンションを建築し、竣工後は大東建託パートナーズが一括借上・入居者管理を行う仕組みです。「30 年一括借上」「家賃保証」を訴求ポイントとして急拡大しました。
大東建託の 2024 年 3 月期の連結売上は約 1 兆 6,000 億円、賃貸事業管理戸数は約 121 万戸で、日本最大の賃貸管理事業者です。
一方、レオパレス 21 は、同様のサブリースモデルで急拡大したものの、2018 年 5 月に施工不良問題(界壁・小屋裏の建築基準法違反)が発覚し、経営危機に陥りました。全国約 40 万戸の物件で施工不良が確認され、補修工事に数千億円を投じる状況となりました。この問題が、業界のガバナンス強化とサブリース新法制定の背景となりました。
サブリース事業自体は、土地オーナーの空室リスク回避手段として一定の需要があります。ただし、契約前の説明と、契約期間中の商慣行の透明性が業界の重要な論点として残っています。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 借地借家法(1991 年制定、1992 年施行)は借主保護を強く打ち出した日本特有の法律
- 普通借家契約は借主の更新権が強く、貸主からの解除には正当事由と立退料が必要
- 定期借家契約(1999 年改正で新設)は期間満了で確実に終了する契約だが、普及率は低い
- 原状回復ガイドライン(国土交通省、2004 年改訂・2011 年再改訂)が業界標準
- 賃貸管理業法(2020 年 6 月成立、2021 年 6 月施行)で管理戸数 200 戸以上の管理業者に登録制、業務管理者設置義務
- サブリース新法(2020 年 12 月先行施行)で誇大広告禁止、重要事項説明義務、契約書面交付義務
- 大東建託モデル(賃貸事業管理戸数約 121 万戸)は日本最大のサブリース事業、レオパレス 21 の 2018 年施工不良問題が業界ガバナンス強化の契機
次のレッスンでは、不動産の物的な側面を規律する法律群——不動産登記法・都市計画法・用途地域・建築基準法・住宅品確法・改正建築物省エネ法——を扱います。「制度」の共通言語をさらに深めていきます。
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