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スキルアップカレッジ

医薬品業界のビジネス基礎——新薬・後発品・OTC・バイオ

レッスン5:医薬品業界のビジネス基礎——新薬・後発品・OTC・バイオ

このレッスンで学ぶこと

  • 医薬品業界の分類(先発品・後発品/ジェネリック・OTC /一般用医薬品・バイオ医薬品・バイオシミラー・再生医療等製品
  • 日本の主要製薬(武田・アステラス・第一三共・中外・大塚 HD ・エーザイ)と外資系(Pfizer・Novartis・Merck・GSK・Roche)
  • 新薬 R&D プロセス(基礎研究→非臨床→臨床試験フェーズ I/II/III →承認→上市、10 〜 15 年 / 数千億円)
  • 薬価改定と後発医薬品促進政策
  • OTC 医薬品と要指導医薬品・スイッチ OTC
  • 薬剤師の関わり、MR(医薬情報担当者)
  • CSO /CRO /SMO の外部委託エコシステム
  • バイオ医薬品とバイオシミラーの拡大

前回の振り返り

レッスン 4 では、病院の業態分類(病床機能・制度・開設主体)、地域医療構想、病院経営 KPI、看護配置基準診療所(在宅療養支援診療所を含む)、薬局の 3 分類制度と医薬分業率を学びました。今回は、6 サブ領域の第 2 のグループ「医薬品業界」を深く掘り下げます。


医薬品業界の分類

医薬品は、次の主要区分で分類されます。

用途別分類

  • 医療用医薬品:医師の処方箋が必要な医薬品。日本市場約 10 兆円の大半
  • 要指導医薬品:スイッチ OTC(元は医療用)で薬剤師の対面販売必須
  • 一般用医薬品(OTC):ドラッグストア・薬局で店頭販売、第 1 類・第 2 類・第 3 類の 3 分類

開発段階別分類

  • 先発医薬品(新薬):特許で保護された新規開発薬。10 〜 15 年・数千億円の R&D 投資
  • 後発医薬品(ジェネリック、GE):先発品の特許切れ後に同一有効成分で製造される医薬品。日本の数量シェアは 2024 年時点で 80 % 超
  • オーソライズドジェネリック(AG):先発メーカーの承諾を得て製造される後発品、先発品と同一処方

化学構造別分類

  • 化学合成品(低分子医薬品):伝統的な合成有機化学の医薬品
  • バイオ医薬品:生物学的技術で製造される抗体医薬品・タンパク質医薬品・遺伝子治療薬など。高分子で、化学合成品より製造・品質管理が複雑
  • バイオシミラー:バイオ医薬品の後続品。化学合成品の後発品より承認プロセスが複雑
  • 再生医療等製品:細胞治療薬・遺伝子治療薬・組織工学製品(例:CAR-T 細胞療法のキムリア)

💡 ポイント 医薬品業界は「化学」から「バイオ」への構造転換期にあります。売上高上位のブロックバスターは、抗体医薬品・遺伝子治療薬などのバイオ医薬品にシフトしており、日本の製薬会社の R&D 戦略もバイオへの投資強化が主流です。「日本製薬の競争力はバイオでどう戦うか」が業界共通の中期テーマです。


主要プレイヤー

日本の主要製薬

  • 武田薬品工業:日本最大の製薬会社、2019 年 Shire 買収でグローバル大手入り、消化器・血友病・希少疾患・オンコロジー・ニューロサイエンスに強い
  • アステラス製薬:2005 年に山之内製薬と藤沢薬品の合併で誕生、泌尿器・オンコロジーに強い
  • 第一三共:2005 年に第一製薬と三共の統合で誕生、心血管・オンコロジーに強い、抗体薬物複合体(ADC)の Enhertu で急成長
  • 中外製薬:ロシュとの戦略的アライアンス、抗体医薬品・希少疾患に強い、日本のオンコロジー市場リーダー
  • 大塚ホールディングス:医薬品(大塚製薬)、ニュートラシューティカル(大塚食品)を統合、独自の複合型ビジネスモデル
  • エーザイ:アルツハイマー病治療薬レカネマブ(2023 年米国承認)で注目、認知症領域の世界的プレゼンス
  • その他大手:小野薬品(オプジーボ)、田辺三菱、大正製薬 HD、住友ファーマ、塩野義製薬など

外資系グローバル大手

  • Pfizer(米国、世界最大):COVID-19 mRNA ワクチンで有名、循環器・オンコロジー
  • Johnson & Johnson(米国):医薬品・医療機器・コンシューマー製品の複合コングロマリット
  • Roche(スイス):バイオ医薬品最大手、オンコロジー・診断
  • Novartis(スイス):オンコロジー・希少疾患・眼科・循環器
  • Merck & Co.(米国、Merck Sharp & Dohme/MSD):ワクチン・オンコロジー(Keytruda)
  • AbbVie(米国、Abbott から分社):免疫・オンコロジー・神経
  • GSK(英国):ワクチン・呼吸器
  • AstraZeneca(英国/スウェーデン):オンコロジー・呼吸器
  • Sanofi(フランス):ワクチン・希少疾患・糖尿病
  • Novo Nordisk(デンマーク):糖尿病・肥満(ウゴービ、オゼンピック)

日本市場は「日系 vs 外資」の競争が長年繰り広げられており、市場シェアで見ると医療用医薬品市場の 30 〜 40 % 程度を外資系が占めます。


新薬 R&D プロセス

新薬開発は、次の 7 段階を経て市場投入されます。

段階と期間

  1. 基礎研究(2 〜 3 年):ターゲット探索、化合物スクリーニング、リード化合物同定
  2. 非臨床試験(3 〜 5 年):動物実験で有効性・安全性を評価
  3. 臨床試験フェーズ I(1 〜 2 年):健康な成人 20 〜 100 人で安全性・薬物動態を評価
  4. 臨床試験フェーズ II(1 〜 2 年):少数の患者 100 〜 300 人で有効性と最適用量を評価
  5. 臨床試験フェーズ III(3 〜 5 年):多数の患者 1,000 〜 3,000 人で有効性・安全性を確認
  6. 承認申請と審査(1 〜 2 年):PMDA での審査、厚生労働省の承認
  7. 市販後調査(フェーズ IV):市販後の安全性・有効性を継続監視

合計 10 〜 15 年、投資額は数百億〜数千億円規模になります。成功確率は 3 万分の 1 とも言われ、フェーズ III でも約 5 割が承認に至らない極めて高リスクな産業です。

R&D 経済性

  • R&D 費/売上比率:15 〜 25 %(業界随一の高比率、Tech 業界の 10 〜 15 % を上回る)
  • ブロックバスター:年間売上 1,000 億円超の医薬品。1 品のブロックバスターが会社全体の売上の 20 〜 30 % を占めることも
  • 特許切れの崖(Patent Cliff):特許切れ直後に後発品参入で売上が急減衰(先発品売上が 50 〜 90 % 減少)
  • パイプライン:開発中の候補品リスト。Phase III 品目数が近い将来の売上ドライバー

承認プロセスと PMDA

PMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、独立行政法人医薬品医療機器総合機構)は、日本の医薬品・医療機器の承認審査機関で、2004 年設立です。医薬品の承認申請は PMDA で審査され、厚生労働大臣が最終承認します。

  • 通常審査:新薬の標準審査
  • 優先審査:希少疾患用医薬品や有用性の高い医薬品
  • 先駆的医薬品指定制度:革新的医薬品の早期承認
  • 条件付き早期承認制度:小規模データで承認、市販後実データで検証

日本では、欧米で承認済みの新薬が日本承認まで数年遅れる「ドラッグ・ラグ」問題が長年議論されてきましたが、近年は解消傾向にあります。


薬価制度と後発品促進

薬価収載

新薬承認後、中央社会保険医療協議会(中医協)での審議を経て薬価基準に収載され、保険適用となります。薬価は次の 2 方式で算定されます。

  • 類似薬効比較方式:既存の類似薬に基づく(多くの新薬)
  • 原価計算方式:類似薬がない画期的新薬

これに、画期性加算(最大 120 %)、有用性加算(最大 60 %)、市場性加算、小児加算、先駆加算、外国平均価格調整が加わります。

薬価改定

薬価改定は 2 年ごと(診療報酬改定と同時)でしたが、2021 年度以降毎年改定に移行しました。市場実勢価格と公定薬価の乖離を、より頻繁に補正する仕組みです。

新薬創出等加算:革新的新薬の薬価維持特例で、特許期間中は薬価を維持することで新薬創出を促進する制度。要件を満たさなくなると、通常改定で薬価が下がります。

後発品促進政策

政府は継続的に後発品使用促進の目標を設定しています。

  • 2020 年目標:数量シェア 80 % → 達成
  • 2024 年目標:数量シェア 80 % 以上を安定的に維持

後発品数量シェアの拡大により、先発品メーカーの売上構造は「特許切れの崖」への対応が経営中心テーマになっています。

バイオシミラーは、バイオ医薬品の後続品として、後発品より複雑な承認プロセスを経て市場投入されます。日本では 2013 年以降段階的に承認事例が増え、抗体医薬品の特許切れに応じて拡大しています。


MR と CSO /CRO /SMO

MR(Medical Representative、医薬情報担当者)

MR は製薬会社の営業職で、医療機関の医師・薬剤師に医薬品の情報を提供する役割です。医薬品の売上に直結するため、日本全体で約 4 万人が働いていました。しかし、次の変化により MR 数は減少傾向にあります。

  • 後発品拡大による先発品市場縮小
  • 医療機関の面談規制強化(コンプライアンス視点)
  • オンライン MR ・デジタル MR の拡大
  • 専門疾患領域(オンコロジー・希少疾患)へのシフト

外部委託エコシステム

製薬企業は、コア機能に集中するため、次の外部サービスを活用します。

  • CSO(Contract Sales Organization):営業アウトソーシング、MR 派遣・共同販促
  • CRO(Contract Research Organization):臨床試験受託、モニタリング・データマネジメント・統計解析
  • SMO(Site Management Organization):治験実施施設管理、治験コーディネーター派遣

日本の主要 CRO:シミック、パレクセル、Iqvia、EPS ホールディングス、A2 ヘルスケア など。 日本の主要 CSO:シミック(CMIC ヘルスケア)、EPS 総合コンサルティング など。

📝 補足 製薬業界の「外部委託エコシステム」は、R&D の高度化・専門化に応じて拡大しています。1 つの新薬プロジェクトが、製薬会社・CRO ・SMO ・治験実施医療機関の複数プレイヤーの協働で運営される時代です。医療業界の見えない支え手として、CSO /CRO /SMO の存在は重要です。


講師の現場メモ

私が大学病院時代、新薬治験の受入が定期的に行われました。CRO の担当者、SMO の CRC(治験コーディネーター)、製薬会社の CRA(Clinical Research Associate)と協働して、症例組入れ・データ収集・モニタリング対応を進めます。「1 つの治験が 3 〜 5 年、数十億〜数百億円の投資」という規模感を、大学病院時代に体感しました。治験の成否が製薬会社の株価を大きく動かす構造を、内側で経験できました。

コンサル時代に手掛けた印象深いプロジェクトが、中堅製薬会社の後発品対応戦略でした。特許切れが 3 年後に迫った売上 500 億円のブロックバスターについて、後発品参入後の売上減衰予測、価格戦略、営業体制縮小、次期新薬パイプラインへの投資シフト——多面的な対応を並行しました。「特許の崖」を経験する製薬会社の切迫感を、経営陣と共に肌で感じました。

バイオ医薬品の話は、コンサル時代の中堅製薬クライアントで戦略転換を支援した経験があります。従来の低分子中心の研究体制から、抗体医薬品の R&D 体制構築へ、開発人材の再教育、外部との提携、生産設備の投資判断まで、5 年計画で移行しました。「日本製薬がバイオでどう戦うか」は業界共通の中期テーマですが、実装は簡単ではありません。

MR の話は、独立後のクライアントで頻繁に議題になります。ある中堅製薬クライアントで、MR 体制の再設計プロジェクトを支援しました。全国 800 人体制を専門疾患領域中心の 600 人に絞り、オンライン MR ・デジタルツール活用を強化、CSO 活用でリソース補完——伝統的な「多人数で全国カバー」から「専門特化と外部連携」への構造転換です。MR 職の方々のキャリア転換支援も含めて、多方面での配慮が必要でした。

ブロックバスター後の話は、コンサル時代に大手製薬クライアントで議論しました。単一のブロックバスターへの依存度を下げるため、複数の中小型新薬を並行して育てる戦略、地域選択(新興国戦略)、疾患領域選択(希少疾患・オンコロジー)——ポートフォリオ戦略の再設計を伴いました。日本の主要製薬各社が、この戦略転換を並行して進めています。

医療機関側から見た製薬会社の話も付け加えます。大学病院時代、製薬会社からの情報提供は、多くの場合有益な臨床情報でした。しかし、過度な販促活動は医師の利益相反問題を招くため、医療機関側でも「MR 面会ルール」「奨学寄付金の透明化」など、コンプライアンスが強化されました。「医療機関と製薬会社の健全な連携」は、両業界の永続的テーマです。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 医薬品業界の主要分類は用途別(医療用・要指導・OTC)、開発段階別(先発・後発/ジェネリック・AG)、化学構造別(化学合成・バイオ・バイオシミラー・再生医療等製品)
  • 日本の主要製薬は武田・アステラス・第一三共・中外・大塚 HD ・エーザイ・小野・田辺三菱など、外資系は Pfizer・J&J・Roche・Novartis・Merck・AbbVie・GSK ・AstraZeneca・Sanofi・Novo Nordisk など
  • 新薬 R&D プロセスは 7 段階(基礎研究→非臨床→フェーズ I /II /III →承認申請→市販後)で 10 〜 15 年・数百億〜数千億円、成功確率は 3 万分の 1
  • 承認審査は PMDA(2004 年設立)が担当、優先審査・先駆的医薬品指定・条件付き早期承認制度など
  • 薬価は類似薬効比較方式か原価計算方式で算定、画期性加算・有用性加算・外国平均価格調整、2021 年度から毎年改定
  • 後発品数量シェアは 80 % 超、先発品メーカーは「特許切れの崖」への対応が経営中心テーマ
  • MR は約 4 万人体制から減少傾向、専門疾患領域と CSO /CRO /SMO 活用へ構造転換
  • 「日本製薬がバイオでどう戦うか」が業界共通の中期テーマ

次のレッスンでは、6 サブ領域の第 3 のグループ「医療機器業界」を扱います。業態分類、リスク分類、薬機法、主要プレイヤー、SaMD(プログラム医療機器)などを順に学びます。


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