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スキルアップカレッジ

病院・診療所・薬局のビジネス基礎——業態分類と経営 KPI

レッスン4:病院診療所・薬局のビジネス基礎——業態分類と経営 KPI

このレッスンで学ぶこと

  • 病院の業態分類(急性期/回復期/慢性期・特定機能病院地域医療支援病院・DPC 対象病院・ケアミックス病院・療養病床)
  • 地域医療構想(2025 年に向けた病床機能分化)
  • 病院経営 KPI(平均在院日数病床稼働率・入院単価・外来単価・医業利益率)
  • 看護配置基準(7 対 1・10 対 1・13 対 1)と診療報酬の関係
  • 診療所(内科・外科・専門科・在宅療養支援診療所)
  • 薬局の 3 分類(地域連携薬局専門医療機関連携薬局かかりつけ薬局)と調剤薬局・ドラッグストア

前回の振り返り

レッスン 3 では、国民皆保険制度、保険給付(自己負担・高額療養費)、診療報酬制度(点数体系・出来高払い・DPC/PDPS)、2 年ごと改定サイクル、薬価制度(2021 年から毎年改定)、レセプトと審査支払機関、医療費適正化計画、介護報酬 3 年ごと改定を学びました。今回は、6 サブ領域の中核である「病院・診療所・薬局」を深く掘り下げます。


病院の業態分類——多層構造の理解

日本の病院は、機能・規模・役割で複雑に分類されます。主要区分を整理します。

病床機能による分類

医療法上、病院は次の 4 機能で病床を保有します。

  • 急性期病床:急性期治療を提供、平均在院日数 10 〜 14 日
  • 高度急性期病床:高度な急性期医療(救命救急・集中治療室)
  • 回復期病床:急性期治療後のリハビリ・在宅復帰支援、平均在院日数 60 日程度
  • 慢性期病床:長期療養(療養病床)、平均在院日数数百日

制度上の分類

  • 特定機能病院:高度先端医療を提供する大学病院本院と一部大規模病院(現在約 88 施設)。病床数 400 床以上、10 標榜科以上、査読付論文実績、臨床研修体制など高い要件
  • 地域医療支援病院かかりつけ医との連携中核(現在約 700 施設)。紹介率・逆紹介率、地域研修、開放病床など要件
  • 臨床研究中核病院:臨床研究・治験の中核(現在約 15 施設)
  • DPC 対象病院:DPC/PDPS が適用される急性期病院(約 1,800 施設)
  • DPC 準備病院:DPC 導入準備中の病院

開設主体による分類

  • 国公立病院:国立病院機構、公立病院(都道府県立・市区町村立)、独立行政法人など
  • 公的病院:日赤・済生会・厚生連(JA)などが運営
  • 公私協力型:地方独立行政法人など
  • 民間病院:医療法人(社団・財団)、個人開設

日本の病院約 8,100 施設のうち、民間病院が約 7 割を占め、諸外国(欧州の公立主導、米国の非営利主導)と比べて民間主導の特徴を持ちます。

💡 ポイント 病院は「業態」で経営環境が根本的に異なります。特定機能病院(大学病院本院)と地域中核民間病院とケアミックス病院では、収益構造、KPI、意思決定プロセスが全く違います。「どの業態か」を最初に把握することが、病院を理解する第一歩です。


地域医療構想——2025 年に向けた機能分化

地域医療構想は、2014 年医療法改正で導入された制度で、都道府県が「2025 年時点の病床機能配分」を推計し、地域ごとに病床機能の分化・連携を推進する政策です。

背景:日本の病院病床は約 155 万床(一般+療養+精神+結核)と、人口比で世界最多水準です。急性期病床が過剰、回復期病床が不足という機能ミスマッチもあり、少子高齢化と財源制約の中で機能分化が必要になっています。

2025 年病床推計:厚生労働省の 2025 年病床機能推計では、高度急性期 13 万床、急性期 40 万床、回復期 38 万床、慢性期 28 万床の合計 119 万床が必要と推計され、現状より約 35 万床の削減が求められる方向性を示しました。

構想区域:都道府県内の医療圏(二次医療圏、約 340)ごとに病床機能配分を推進し、地域医療構想調整会議で医療機関間の合意形成を進めます。

急性期→回復期病床転換は、地域医療構想の中核テーマです。急性期の入院基本料(1 日 15,000 円前後)と回復期リハビリテーション病棟入院料(1 日 20,000 〜 25,000 円前後、リハビリ時間や実績指数で変動)では、収益構造が変わるため、転換は経営判断として慎重に行われます。


病院経営 KPI の詳細

病院経営の主要 KPI を詳しく見ていきます。

収益系 KPI

  • 医業収益 = 入院収益 + 外来収益 + その他医業収益
  • 入院単価 = 入院収益 / 延べ入院患者数:DPC 対象急性期病床で 5 〜 6 万円
  • 外来単価 = 外来収益 / 延べ外来患者数:一般病院で 1 〜 2 万円
  • 医業利益率 = 医業利益 / 医業収益:民間 3 〜 5 %、国公立は低め〜赤字も多い

稼働系 KPI

  • 病床稼働率 = 延べ入院患者数 / (稼働病床数 × 日数):80 〜 90 % が目安
  • 平均在院日数:急性期 10 〜 14 日、回復期 60 日、慢性期数百日
  • 紹介率/逆紹介率:地域医療支援病院要件の中核指標

生産性 KPI

  • 医師 1 人あたり医業収益:規模・機能による差が大きい
  • 看護師 1 人あたり患者数:看護配置基準で規定
  • 人件費率:医業収益の 50 〜 60 %

病棟別 KPI(DPC 対象病院)

  • 効率性係数:全国平均入院日数との比較
  • 複雑性係数:診療密度の指標
  • カバー率係数:疾患のカバー範囲
  • 地域医療係数:地域貢献度の評価

これらの係数が DPC 病院別の機能評価係数として設定され、入院基本料の一部となります。

📝 補足 病院経営は「医業損益 → 経常損益 → 当期純損益」の 3 段階で最終利益に至ります。医業損益は本業の収益力、経常損益は補助金・寄付金など医業外を含む、当期純損益は特別損益を含む最終値です。特に国公立病院では「医業収支の赤字を経常収支の補助金で埋める」構造が一般的です。


看護配置基準——診療報酬を規定する経営の生命線

看護配置基準は、入院基本料の点数を規定する重要要件です。急性期一般入院基本料の主要区分を整理します。

  • 急性期一般入院料 1(7 対 1):入院患者 7 人に対して看護師 1 人(実質は 24 時間 3 交代の平均で約 10 対 1)。急性期の中核区分、入院基本料 1 日 15,910 円
  • 急性期一般入院料 2 〜 6:段階的に基準が緩和され、入院基本料も減額
  • 地域一般入院基本料(13 対 1):入院患者 13 人に看護師 1 人。中規模一般病院向け
  • 療養病棟入院基本料(20 対 1):慢性期療養向け

急性期一般入院料 1(7 対 1)を維持するには、看護師の絶対数が必要で、看護師採用が経営の生命線になります。看護師不足で 7 対 1 を維持できなくなった病院は、10 対 1 に転落することで年間数億円規模の減収を経験します。

さらに、「重症度、医療・看護必要度」の基準(患者の重症度を測る指標)を満たす患者比率も 7 対 1 維持要件に含まれ、単純に人員だけでなく患者ミックスも管理対象です。


診療所——一般外来と在宅医療の主戦場

診療所は病床 20 床未満(0 床の無床診療所、19 床以下の有床診療所)の医療機関で、日本で一般診療所約 10.5 万・歯科診療所約 6.8 万が存在します。

診療所の主な分類:

  • 内科系:内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科など。生活習慣病管理の主戦場
  • 外科系:外科、整形外科、皮膚科、眼科、耳鼻科など
  • 専門科:小児科、産婦人科、精神科、心療内科、麻酔科、放射線科など
  • 在宅療養支援診療所(在支診):24 時間対応、往診・在宅看取り対応の要件を満たす診療所。地域包括ケアの中核

外来収益が中核で、初診料 288 点・再診料 73 点(診療所)が基本、これに医学管理料・検査料・処方料などが加算されます。診療所 1 施設あたりの月平均レセプト件数、患者 1 人あたり単価が主要 KPI です。

在宅医療は、2000 年代以降拡大している領域です。往診料、在宅患者訪問診療料、在宅時医学総合管理料、看取り加算などの点数が整備され、在宅療養支援診療所を中心に在宅医療専門診療所も増えています。

電子カルテ普及率は、診療所で約 55 %(2023 年時点)と病院(約 90 %)より低く、DX 対応が進行中です。

⚠️ 注意 診療所は「1 人医師の小規模事業体」が多く、経営と診療の両立が最大の課題です。院長の高齢化・後継者不足で「無承継廃業」が地域医療の欠落を招くケースも増えており、承継支援・診療所 M&A も業界の話題です。


薬局——3 分類制度と地域連携

薬局は、医療用医薬品の調剤と OTC 販売を行う施設で、全国約 6.2 万薬局が存在します。

2021 年に薬局の 3 分類制度が導入されました。

  • 地域連携薬局地域包括ケアシステムで在宅医療・多職種連携に対応する薬局
  • 専門医療機関連携薬局:がん・HIV など専門医療機関と連携し、専門的薬剤師が常駐する薬局
  • かかりつけ薬局:24 時間対応・在宅対応可能な、患者のかかりつけ機能を持つ薬局

3 分類の認定を取得すると、診療報酬(調剤報酬)で加算が取得でき、経営的な差別化になります。

薬局の主要 KPI

  • 処方箋受付枚数:月平均枚数
  • 1 枚あたり調剤技術料
  • 1 枚あたり薬剤料薬価差益
  • 1 枚あたり患者単価
  • かかりつけ薬剤師指導料算定件数

業態別分類

  • 調剤薬局:処方箋調剤が中核。大手はアインホールディングス、日本調剤、クオール、総合メディカルなど
  • ドラッグストア併設調剤:ウエルシア、ツルハなど大手ドラッグストアが調剤機能を併設
  • 病院前薬局(門前薬局):特定の医療機関の処方箋に特化
  • 医療モール薬局:複数の診療所と併設された薬局

医薬分業率は 2024 年時点で 75 % 前後で、処方箋発行率で見ると病院・診療所からの処方の 75 % が院外薬局で調剤される状態です。


講師の現場メモ

私が大学病院に勤めていた時期、病床機能転換の議論が本格化しました。急性期病床の一部を回復期リハビリテーション病棟に転換する検討で、収益シミュレーション、必要な人員配置、リハビリ室の改装コスト、地域医療構想での位置づけまで、半年がかりで検討しました。結局その時は転換を見送りましたが、後の大学病院グループでは同様の転換を進めた事例が増えています。「地域医療構想は静かに、しかし確実に病床機能を動かしている」というのが実感です。

看護配置 7 対 1 の維持は、大学病院時代の最大テーマでした。看護師の離職を減らすため、育児支援、シフト柔軟化、キャリアパス整備、給与処遇改善——複合的な対策を続けました。「看護師 1 人が退職すると、7 対 1 のカバレッジ計算が崩れ、次の四半期の点数維持が危うくなる」という緊迫感の中で、人事施策が経営施策に直結する構造です。

DPC コーディング精度の話は、既に触れました。診療科ごとにコーディング担当を配置し、退院サマリーの記載、コード付番の精度、査定対応まで、専門部署で管理する体制を作りました。DPC 病院で年間 3 〜 5 億円の収益差を生む領域です。

診療所の話は、コンサル時代に地域医療構想調整会議の支援で経験しました。ある地域で、閉院を検討している内科診療所の後継者候補を探すプロジェクトで、地域住民の医療アクセス維持のため、医師人材紹介、承継スキームの設計、行政との連携を並行しました。「診療所の 1 施設閉院が、地域の 5,000 人の医療アクセスに影響する」構造を目の当たりにしました。

薬局の話は、独立後のクライアントで頻繁に議題になります。ある地域中堅薬局チェーンで、3 分類制度への対応プロジェクトを支援しました。地域連携薬局の要件を満たすため、在宅対応薬剤師の増員、多職種連携会議への参加、時間外対応体制の整備を並行しました。認定取得後は、加算取得で経営が改善しましたが、要件維持の運用負担も大きく、「制度対応と現場運営のバランス」が長期テーマです。

医薬分業率の推移は、政策動向として重要です。1990 年代の 20 % 台から、2020 年代の 75 % 前後まで拡大してきましたが、頭打ち感もあります。「院内処方が残る領域(診療所・小規模病院)」の医薬分業をどう進めるかが、次の政策論点です。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 病院の業態分類は病床機能(急性期・高度急性期・回復期・慢性期)、制度上(特定機能病院・地域医療支援病院・DPC 対象病院)、開設主体(国公立・公的・民間)で多層構造
  • 日本の病院約 8,100 施設のうち民間病院が約 7 割、諸外国と異なる民間主導
  • 地域医療構想は 2014 年医療法改正で導入、2025 年目標の病床機能分化推進、急性期→回復期病床転換が中核テーマ
  • 病院経営 KPI は入院単価・外来単価・医業利益率・病床稼働率・平均在院日数・紹介率・逆紹介率・機能評価係数
  • 看護配置基準(7 対 1・10 対 1・13 対 1)が入院基本料を規定、看護師採用が経営の生命線
  • 診療所は病床 20 床未満、一般 10.5 万・歯科 6.8 万、在宅療養支援診療所が地域包括ケア中核
  • 薬局は全国約 6.2 万、2021 年から地域連携薬局・専門医療機関連携薬局・かかりつけ薬局の 3 分類制度
  • 医薬分業率は 2024 年で 75 % 前後、頭打ち感あり

次のレッスンでは、6 サブ領域の第 2 のグループ「医薬品業界」を扱います。先発品・後発品・OTC・バイオ、新薬 R&D プロセス、薬価改定、日本と外資の主要プレイヤーを順に学びます。


確認クイズ

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