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スキルアップカレッジ

水素・アンモニア・CCUS ・EV 化と系統整備・修了後の継続学習

レッスン8:水素・アンモニア・CCUS ・EV 化と系統整備・修了後の継続学習

このレッスンで学ぶこと

  • 水素基本戦略 2017 年 12 月策定・2023 年 6 月改定と水素サプライチェーンを理解する
  • アンモニア混焼・専焼、CCUS (CO₂ 回収・利用・貯留)、CCS 事業法 2024 年 5 月成立を扱う
  • EV 化(2035 年新車販売 100 % 目標)と系統整備マスタープラン 2023 年 3 月を把握する
  • 電気料金激変緩和対策事業と修了後の継続学習方向を掴む

前回のレッスンでは、GX 経済移行債、GX-ETS、TCFDISSB /SSBJ、CBAM の脱炭素金融の枠組みを扱いました。本コース最終回の今回は、業界の未来を規定する技術と政策——水素・アンモニア・CCUS、EV 化、系統整備、電気料金激変緩和——と、修了後の継続学習方向を扱います。

水素基本戦略と水素サプライチェーン

水素は、燃焼時に CO₂ を排出しないクリーンな二次エネルギーとして、日本のエネルギー戦略の中核技術と位置付けられています。日本は 2017 年 12 月に世界初の「水素基本戦略」を策定し、2023 年 6 月に大改定しました。

水素基本戦略の主要目標

  • 水素供給量:2030 年 300 万トン → 2050 年 2,000 万トン
  • 供給コスト:2030 年 30 円 / Nm³ → 2050 年 20 円 / Nm³(現状 100 円 / Nm³)
  • 水素・アンモニアの発電での活用:2030 年に発電電力量の 1 %、2050 年に相当割合

水素の 3 分類(色による分類)

水素は製造方法によって色で分類されます。

  • グレー水素:化石燃料(天然ガス、石炭)から製造、CO₂ 排出あり。現在流通する水素の 9 割超がグレー水素
  • 青色水素:化石燃料から製造するが、CCUS で CO₂ を回収・貯留、実質的に低炭素
  • 緑色水素:再エネ電力による水電解で製造、CO₂ 排出なし
  • ピンク水素:原子力電力による水電解で製造、CO₂ 排出なし

日本の水素基本戦略では、当面は青色水素・グレー水素からの移行を経て、2040 年代以降に緑色水素の主流化を目指しています。

水素サプライチェーン

日本は水素の生産適地に乏しく、海外からの輸入が中長期の主軸となります。輸入水素の運搬方式は 3 種類あります。

  • 液化水素:-253℃ に冷却して液化、体積を 800 分の 1 に。川崎重工業が豪州から液化水素を運ぶプロジェクトを 2022 年 2 月に世界初実施
  • 有機ハイドライド(MCH、メチルシクロヘキサン):常温常圧で液体、既存タンカーで運搬可能。千代田化工建設が豪州・ブルネイからの実証を実施
  • アンモニア:既存のインフラで運搬可能、混焼発電・専焼発電で直接利用も可能

主要な水素関連企業は、川崎重工業(液化水素運搬・水素利用機器)、岩谷産業(水素販売の国内最大手・水素ステーション網)、ENEOS ホールディングス(水素製造・SS 水素ステーション)、東京ガス大阪ガス(都市ガス改質水素)、トヨタ自動車(燃料電池 MIRAI)、パナソニック(家庭用燃料電池 ENE-FARM)などです。

水素ステーションは全国約 160 か所(2024 年時点)に整備されており、燃料電池自動車(FCV)の普及と共に拡大予定です。ただし FCV の普及は EV に大きく遅れており、水素モビリティの本格普及は 2030 年代以降の見通しです。

アンモニア混焼・専焼

アンモニア(NH₃)は水素キャリアとして注目される化学物質で、燃焼時に CO₂ を排出しません。既存の石炭火力発電所でアンモニアを混焼することで、既存インフラを活用しつつ CO₂ 排出を削減できるため、日本の脱炭素戦略の中核技術の 1 つです。

Jera は 2021 年 5 月から愛知県碧南火力発電所でアンモニア 20 % 混焼の実証を進め、2024 年 4 月から実機での 20 % 混焼を開始しました。将来的には 50 % 混焼・専焼へと移行する構想です。

課題は、大量のアンモニア調達(100 万 kW クラス石炭火力の 20 % 混焼で年間約 50 万トンのアンモニア)と、コスト(現状のアンモニア価格 60-80 円 / kg は石炭より高価)です。海外での「グリーンアンモニア」(再エネで製造)プロジェクトが世界各地(豪州、中東、南米、アフリカ)で進行しており、日本の商社・電力会社が投資・購入契約を結んでいます。

CCUS(CO₂ 回収・利用・貯留)

CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage、CO₂ 回収・利用・貯留)は、化石燃料利用や産業プロセスから排出される CO₂ を回収し、地下貯留(CCS)または利用(CCU)する技術群です。

CCS(貯留)

CCS は回収した CO₂ を地下深部(帯水層、廃油田、廃ガス田)に注入・貯留する技術です。世界の主要 CCS プロジェクトは、ノルウェー Sleipner(1996 年運転開始、世界最古)、カナダ Boundary Dam(2014 年、世界初の商用石炭火力 CCS)、豪州 Gorgon LNG(2019 年)などがあります。

日本の CCS は北海道苫小牧沖の実証事業(2016-2019 年、累計約 30 万トン CO₂ 貯留)が代表例で、商用化はまだこれからです。日本政府は 2030 年までに年間 600-1,200 万トン、2050 年までに年間 1.2-2.4 億トンの CO₂ 貯留を目標としています。

CCS 事業法 2024 年 5 月成立

CCS の商用化に向け、CCS 事業法(正式名称「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」)が 2024 年 5 月 17 日に成立、2026 年に施行予定です。法律の主要内容は以下です。

  • CCS 事業の許可制導入(探査・貯留の 2 段階許可)
  • CO₂ 貯留の長期的責任(一定期間経過後は国が引き継ぎ)
  • 貯留サイトの環境影響評価
  • 事業者間の安全共同管理

CCS の商用化は 2030 年前後の見通しで、日本の主要プロジェクトは、苫小牧、東京湾、九州、日本海側などで検討が進んでいます。JOGMEC が国内外の CCS 事業に対する資金支援・技術支援を行う枠組みも整備されました。

CCU(利用)

CCU は回収した CO₂ を化学原料、燃料、建材、コンクリートに利用する技術です。代表的な CCU は、e-Fuel(合成燃料、CO₂ +水素からメタノール・ガソリン・ジェット燃料)、e-methane(合成メタン、CO₂ +水素)、藻類による CO₂ 固定、コンクリートへの CO₂ 埋め込み(CarbonCure 社の技術)などです。

日本では e-Fuel の商用化目標が 2030 年、e-methane の商用化目標が 2030-2050 年に設定されており、東京ガス、大阪ガス、三菱重工業、ENEOS ホールディングスなどが実証を進めています。

EV 化と系統整備

日本の EV 化は、ほかの先進国と比べると緩やかに進行しています。乗用車新車販売の EV 比率は 2024 年時点で約 2 %(BEV +PHEV 合計)と、中国 30 % 超、欧州 20 % 超と比べて低水準です。政府目標は 2035 年に新車販売乗用車の 100 % を電動車(BEV /PHEV /HEV /FCV)とすることで、純 BEV への完全移行は目指していません(HEV も電動車の一部として認める柔軟な設計)。

EV 化の障害は、車両価格の高さ(BEV は同型 HEV より 100-200 万円高価)、航続距離への不安、充電インフラの不足、電力系統の負荷などです。EV 充電インフラは全国約 5 万口(急速 1 万口+普通 4 万口)に整備されていますが、欧米中と比較すると質・量ともに劣る状況です。

系統整備マスタープラン 2023 年 3 月

OCCTO は 2023 年 3 月に「日本の広域連系系統のマスタープラン」を策定しました。2050 年カーボンニュートラル実現に向けて、再エネ大量導入に対応する広域連系系統の整備計画です。

マスタープランの主要プロジェクトは以下です。

  • 北海道と本州を結ぶ 800 万 kW クラスの海底直流送電(新設)
  • 東北と関東を結ぶ既存基幹送電線の増強
  • 日本海側から関東・関西の需要地への新設ルート
  • 九州と本州を結ぶ既存連系線の増強

総投資額は 6-7 兆円と試算され、投資回収期間は 30-40 年です。工事は 2020 年代後半から 2040 年代にかけて段階的に実施される予定です。

海底直流送電

海底直流送電は、直流(DC)で電力を長距離送電する技術で、海底ケーブルで長距離伝送する場合に交流よりロスが少ないメリットがあります。世界の海底直流送電の代表例は、英仏インターコネクター、ノルウェー・ドイツ NordLink、豪州・シンガポール Sun Cable プロジェクトなどです。

日本国内では、北海道と本州(東京電力エリア)を結ぶ 800 万 kW クラスの海底直流送電が計画されており、北海道の風力・太陽光発電を関東の需要地に送電することを目的としています。事業化は 2020 年代後半、運用開始は 2030 年代半ばの見通しです。

電気料金激変緩和対策事業

2022 年からの燃料費高騰を受けて、政府は 2023 年 1 月から「電気・都市ガス料金激変緩和対策事業」を開始しました。事業内容は以下です。

  • 電気料金:家庭・低圧事業所向けに 3.5 円 / kWh(当初)→ 1.8 円 / kWh(2024 年度後半)、高圧事業所向けに 1.8 円 / kWh の補助
  • 都市ガス料金:家庭・小規模事業所向けに 15 円 / 立米 の補助

補助金は電力会社・都市ガス会社を通じて需要家に支給される仕組みで、需要家の請求額から自動的に差し引かれます。2024 年時点で予算総額約 4 兆円、2025 年度以降の継続の是非が国政の争点となっています。

激変緩和対策は「エネルギー価格の急激な上昇から国民生活を守る」というセーフティネットとして評価される一方、「化石燃料使用を実質的に補助することは脱炭素と矛盾する」という批判もあり、脱炭素政策との整合性の議論が続いています。

エネルギー業の未来と経営課題

エネルギー業界は 2020 年代後半に、以下の 5 つの経営課題に同時対応が求められます。

第 1 は「脱炭素と安定供給の両立」——再エネ拡大、原子力再稼働、石炭火力の段階廃止、火力の脱炭素化(水素・アンモニア混焼、CCUS)を組み合わせて、電力の安定供給と CO₂ 削減を両立させる複雑な設計。

第 2 は「電力自由化下での投資回収」——発送電分離後、発電事業者は市場価格に晒される中で長期投資(火力 5 年・洋上風力 8-10 年・原子力 10 年)の回収リスクを負う。容量市場・需給調整市場・非化石価値取引市場が段階的に整備される中で、事業者はどの市場でどう収益を確保するかの戦略が問われる。

第 3 は「地政学リスクへの備え」——ロシア・ウクライナ、中東、米中エネルギー覇権など、エネルギー安全保障が国家的課題。日本の一次エネルギー自給率 12 % という構造は変わりにくく、輸入先の多様化、備蓄増強、国産再エネ・原子力の活用が焦点。

第 4 は「DX と AI 活用」——スマートメーター、需要予測 AI、電力トレーディング AI、系統運用 AI、EV 充電ネットワーク、太陽光遠隔監視、原子力運転支援 AI など、業界横断で DX が進行。

第 5 は「人材確保と技術継承」——原子力技術、火力運転、送配電技術など、業界特有のスキルの継承。原子力技術者・熟練運転員の高齢化と若手不足が中長期の課題。

修了後の継続学習方向

本コースは、エネルギー業を俯瞰する眼鏡を提供する入門教材です。修了後の継続学習の方向を示しておきます。

統計と一次資料

エネルギー業のリアルタイム動向を追う最良の方法は、行政・業界団体の統計と一次資料です。

  • 資源エネルギー庁「エネルギー白書」年 1 回・「電力調査統計」月次
  • OCCTO「広域機関年報」年次・系統情報 Web 公表
  • JEPX 卸電力取引所 スポット価格 Web 公表(毎日更新)
  • 石油連盟「石油業界の統計」年次
  • 電気事業連合会「電気事業のデータベース」年次
  • 日本ガス協会「都市ガス事業年報」年次
  • 経産省「発電コスト検証に関する報告書」5 年ごと
  • IEA「World Energy Outlook」年 1 回(10 月頃公表)
  • BP「Statistical Review of World Energy」年 1 回(6 月頃公表)

定期購読・専門メディア

  • 電気新聞(電気事業関連の日刊専門紙)
  • ガスエネルギー新聞(ガス業界の週刊専門紙)
  • 石油通信(石油業界の日刊専門紙)
  • 日経エネルギー Next(Web メディア)
  • リクルート系「電気新聞デジタル」

業界イベント・カンファレンス

  • スマートエネルギー Week(毎年 3 月・東京、9 月・大阪、日本最大級のエネルギー展示会)
  • Wind Expo(風力発電の展示会)
  • FC EXPO(燃料電池・水素の展示会)
  • ENEX(エネルギー・環境総合展示会)
  • COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議、毎年 11-12 月)

資格・学習プログラム

本コースの守備範囲外ですが、実務でさらに学びたい方には以下の資格・プログラムがあります。ただし本コースは資格試験対策ではありません。

  • 電気主任技術者(第 1 種〜第 3 種)
  • エネルギー管理士
  • 原子炉主任技術者
  • 電気工事士(第 1 種・第 2 種)
  • LP ガス設備士
  • 高圧ガス製造保安責任者
  • 東京大学・京都大学・九州大学のエネルギー科学系大学院

生成 AI 時代のエネルギー業経営

生成 AI ・エージェント経済の到来は、エネルギー業にも変化をもたらしています。需要予測 AI の高度化、電力トレーディング AI、系統運用 AI、原子力運転支援 AI、フィールドサービスの AR/VR、需要家向けの AI チャットボット、送配電設備の異常検知 AI などが実装されつつあります。

一方、エネルギー業の「物理インフラを維持する」本質価値は変わりません。AI に代替されない「物理設備の運転・保守」「地元合意形成」「災害時対応」「長期的な戦略判断」といった要素が、AI 時代の重要価値になっていくと見立てられます。

本コース全体のまとめ

本コースでは、エネルギー業を「制度・技術・時間」の 3 共通言語で読み解く眼鏡を、8 レッスンで提供しました。

  • レッスン 1:現在地と守備範囲、4 領域と 3 大機能、4 構造変化、3 共通言語
  • レッスン 2:バリューチェーンと業態別ビジネスモデル、5 経営課題
  • レッスン 3:電気事業法・ガス事業法・原子炉等規制法の 4 法体系、自由化 3 施策
  • レッスン 4:旧一般電気事業者 10 社・新電力 700 社超、JEPX、容量市場、需給調整市場
  • レッスン 5:都市ガス 4 大手、LP ガス、石油元売 4 社、石油備蓄制度、SAF
  • レッスン 6:再エネ特別措置法FITFIP)、5 電源、洋上風力ラウンド、発電コスト検証
  • レッスン 7:GX 経済移行債、GX-ETS、TCFD /ISSB /SSBJ、Scope 1-3、CBAM
  • レッスン 8:水素・アンモニア・CCUS、EV 化、系統整備、電気料金激変緩和、継続学習方向

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 水素基本戦略 2017 年 12 月世界初策定・2023 年 6 月改定、供給目標 2030 年 300 万トン → 2050 年 2,000 万トン、供給コスト 2050 年 20 円 / Nm³
  • 水素の色分類:グレー(化石燃料由来・CO₂ 排出あり)/青色(化石燃料+CCUS)/緑色(再エネ水電解)/ピンク(原子力水電解)
  • 水素輸入 3 方式:液化水素(-253℃ 、川崎重工が豪州から世界初 2022 年 2 月)/有機ハイドライド MCH(千代田化工建設)/アンモニア
  • アンモニア混焼は Jera 碧南火力で 2024 年 4 月 20 % 混焼開始、100 万 kW クラス石炭火力 20 % 混焼で年間約 50 万トンのアンモニアが必要
  • CCUS:世界の主要 CCS プロジェクトはノルウェー Sleipner 1996 /カナダ Boundary Dam 2014 /豪州 Gorgon 2019 、日本は苫小牧実証 2016-2019 年
  • CCS 事業法 2024 年 5 月 17 日成立、2026 年施行、探査・貯留の 2 段階許可制と長期責任枠組み
  • EV 化は 2024 年新車販売 EV 比率約 2 %(中国 30 % 超、欧州 20 % 超と大差)、2035 年新車販売 100 % 電動車目標(HEV も含む柔軟設計)
  • 系統整備マスタープラン 2023 年 3 月策定、総投資 6-7 兆円、北海道・本州間 800 万 kW クラス海底直流送電が中核
  • 電気料金激変緩和対策事業 2023 年 1 月開始、2024 年時点で予算総額約 4 兆円、2025 年度以降の継続議論
  • 修了後の継続学習:資源エネルギー庁エネルギー白書・電力調査統計、OCCTO 広域機関年報、JEPX、IEA WEO、電気新聞、スマートエネルギー Week などを定期的にフォロー

本コースが「エネルギー業を読み解く眼鏡」として、皆さまの業務の入り口になれば幸いです。学びを継続し、業界の変化と共に自身の視座もアップデートしていきましょう。


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