電気事業法・ガス事業法・石油業法・原子力規制法——4 法体系と自由化 3 施策
レッスン3:電気事業法・ガス事業法・石油業法・原子力規制法——4 法体系と自由化 3 施策
このレッスンで学ぶこと
- 電気事業法(1964 年制定)と 2016 年電力小売全面自由化・2020 年発送電分離を理解する
- ガス事業法(1954 年制定)と 2017 年ガス小売全面自由化の枠組みを掴む
- 石油の備蓄の確保等に関する法律(旧石油業法 2002 年廃止)と原子炉等規制法(1957 年制定)を扱う
- 電力広域的運営推進機関 OCCTO と原子力規制委員会の役割を把握する
前回のレッスンでは、エネルギー業のバリューチェーンと 4 領域別のビジネスモデル、業態別組織構造、業界横断の 5 経営課題を扱いました。今回は、エネルギー業を規律する 4 法体系(電気事業法・ガス事業法・旧石油業法・原子炉等規制法)と、自由化 3 施策(電力自由化 2016 年 4 月・発送電分離 2020 年 4 月・ガス自由化 2017 年 4 月)を扱います。
電気事業法——電力業のパスポート
電気事業法は 1964 年 7 月に制定された、電気事業界の営業規制・料金規制・技術基準の中核をなす法律です。目的は電気の安定供給の確保、電気事業の健全な発達、電気工作物の保安の確保です。
電気事業法は幾度も改正され、以下のマイルストーンで電力自由化が段階的に進みました。
1995 年改正:卸電力の部分自由化、IPP(独立系発電事業者)参入解禁
1999 年改正:特別高圧(2 万ボルト以上)需要家(大規模工場)向けの小売自由化
2004 年改正:高圧(6,000 ボルト以上)需要家(中規模事業所)向けの小売自由化拡大
2011 年 3 月:福島第一原発事故 → 原子力の位置づけ再検討
2013 年 11 月改正:電力システム改革 3 段階のスタート
- 第 1 段階:広域系統運用機関(OCCTO)設立 2015 年 4 月
- 第 2 段階:電力小売全面自由化 2016 年 4 月
- 第 3 段階:発送電分離 2020 年 4 月
これら 3 段階により、日本の電力業は「垂直統合型独占構造」から「発電・送配電・小売の水平分離+競争市場」へと構造転換しました。
電気事業の 4 分類
現行の電気事業法では、電気事業を以下の 4 分類に整理しています。
第 1 の発電事業は、発電設備の合計出力が 1 万 kW を超え、その電気を電気事業のために供給する事業です。旧一般電気事業者、電源開発(J-POWER)、日本原子力発電、IPP(独立系発電事業者)、Jera(東京電力・中部電力の合弁)などが該当します。
第 2 の一般送配電事業は、送配電網の建設・維持・運用を行う事業です。発送電分離後は各エリア 1 社(10 社体制)に完全分離されており、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力パワーグリッドなどが該当します。中立性が厳格に求められ、他事業からの情報遮断(ファイアウォール)が義務付けられています。
第 3 の小売電気事業は、需要家に電気を販売する事業です。旧一般電気事業者の小売部門(東京電力エナジーパートナー、関西電力の小売事業など)と、新電力(700 社超)が該当します。参入は登録制で、資源エネルギー庁への登録が必要です。
第 4 の特定送配電事業は、限定区域で送配電事業を行う事業です。工業団地内、大規模再開発地区内などの限定エリアで実施される小規模な事業です。
託送料金制度
発送電分離後、発電・小売事業者は一般送配電事業者に「託送料金」を支払って送配電網を利用します。託送料金は経済産業省の認可事項で、5 年ごとに料金水準が見直されます(レベニューキャップ制度、2023 年 4 月導入)。
託送料金は電気料金の 3-4 割を占める重要な構成要素で、送配電網の維持・更新・スマートグリッド投資の原資となります。
💡 ポイント 電気事業法 3 段階改革(2013 年→ 2020 年)は、日本の電力業を根本から変えた歴史的制度改革です。旧一般電気事業者による垂直統合独占構造から、発電・送配電・小売の水平分離+競争市場に移行し、現在の新電力 700 社超の競争環境が生まれました。
ガス事業法——都市ガス業のパスポート
ガス事業法は 1954 年 8 月に制定された、都市ガス業界の営業規制・料金規制・保安規制の中核法律です。目的はガス使用者の利益保護、都市ガス事業の健全な発達、公共の安全の確保です。
ガス事業法も、電気事業法と類似の段階的自由化を経て以下のマイルストーンを辿りました。
1995 年改正:年間契約ガス量 200 万立米以上の大口需要家向け小売自由化
1999 年改正:100 万立米以上に拡大
2004 年改正:50 万立米以上に拡大
2007 年改正:10 万立米以上に拡大
2015 年改正:ガスシステム改革
- 第 1 段階:ガス小売全面自由化 2017 年 4 月
- 第 2 段階:導管分離(法的分離)2022 年 4 月
現行のガス事業法では、ガス事業を以下の 3 分類に整理しています。
第 1 のガス製造事業は、LNG 基地からガスを製造する事業。第 2 の一般ガス導管事業は、導管網の建設・維持・運用を行う事業。第 3 のガス小売事業は、需要家にガスを販売する事業です。
ガス小売全面自由化 2017 年 4 月以降、都市ガス市場は新規参入者を受け入れる形になりましたが、電力自由化と比べると新規事業者の参入は限定的です。理由は、導管網への接続コストの高さ、LNG 調達のスケールメリット、都市ガス大手の垂直統合構造などです。
導管分離(法的分離)2022 年 4 月
2022 年 4 月、大手都市ガス 4 社(東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・西部ガス)に対して法的分離が義務化されました。導管事業を別会社化することで、他事業と分離し、公平な導管網利用を担保する制度です。ただし完全な所有権分離までは求められず、機能分離+会計分離+法的分離の 3 段階の中間形態です。
石油関連法制——旧石油業法から石油備蓄法へ
石油業法は 1962 年 5 月に制定された、石油業界の営業規制の法律でしたが、2002 年 1 月に廃止されました。廃止の理由は、石油市場の国際化と自由化の進展で、規制の必要性が低下したためです。
現在、石油関連の主要法律は以下です。
石油の備蓄の確保等に関する法律(1975 年制定・通称「石油備蓄法」)は、国家備蓄と民間備蓄の枠組みを定める法律です。日本は 1974 年の第 1 次オイルショックの教訓から国家備蓄制度を構築し、現在は国家 90 日分・民間 70 日分・産油国共同備蓄(サウジアラビア、UAE の日本向け原油)を合わせて約 200 日分の備蓄を保有しています。
揮発油等の品質の確保等に関する法律(1976 年制定)は、ガソリン等の石油製品の品質基準を定める法律です。硫黄分、鉛分、ベンゼン分などの上限が定められています。
エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法、1979 年制定・2022 年抜本改正)は、エネルギー消費量の削減と非化石エネルギーへの転換を促進する法律です。
原子炉等規制法と原子力規制委員会
原子炉等規制法は 1957 年 6 月に制定された、原子力の平和利用を規制する法律です。正式名称は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で、原子炉施設の設置許可、運転、廃止措置、放射性廃棄物の管理などを規律しています。
福島第一原発事故 2011 年 3 月を受けて、日本の原子力規制体制は大改革されました。従来の経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会が廃止され、環境省の外局として原子力規制委員会が 2012 年 9 月 19 日に設置されました。原子力規制委員会は独立性の高い 3 条委員会(環境省の管轄下だが、指揮命令を受けない)として運営されます。
新規制基準は 2013 年 7 月に施行され、既存の全ての原子力発電所は新規制基準への適合審査を受けることが義務化されました。この審査を通過した発電所のみが再稼働可能で、2024 年 8 月時点で 12 基(PWR /BWR 合計)が再稼働しています。
運転期間の制度も 2023 年 5 月に改正され、GX 実現に向けた基本方針(2023 年 2 月閣議決定)に基づき、原則 40 年 + 一度限り 20 年延長(最長 60 年)が、原子力規制委員会の審査による停止期間を除外する形で、実質 60 年超も可能な制度に変更されました。
原子力損害賠償法
原子力事故時の賠償責任は、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法、1961 年制定)で定められています。原子力事業者に無限責任・無過失責任を課す仕組みで、福島第一原発事故後の東京電力の賠償金支払い枠組み(原子力損害賠償・廃炉等支援機構、2011 年 9 月設立)はこの法律に基づきます。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)
電力広域的運営推進機関(OCCTO 、Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators)は、電力システム改革の第 1 段階として 2015 年 4 月に設立された組織です。全国大の需給調整、系統整備計画、託送料金審査、災害時の応援指令などを担います。
OCCTO の主要業務は以下です。
- 全国大の需給計画策定と広域運営調整
- 需給ひっ迫時の広域応援指令
- 系統整備マスタープラン策定(2023 年 3 月初版策定)
- 容量市場の運営(2020 年制度化・2024 年 4 月本格運用)
- 需給調整市場の運営(2021 年 4 月開始)
- 発電・小売事業者への各種認可・登録手続
系統整備マスタープラン 2023
2023 年 3 月に OCCTO が策定した系統整備マスタープランは、2050 年カーボンニュートラル実現に向けた広域連系系統の整備計画です。北海道と本州を結ぶ 800 万 kW クラスの海底直流送電、日本海側の再エネ電力を関東・関西の需要地に送る新設ルート、既存基幹送電線の増強計画などが含まれます。総投資額は 6 兆〜 7 兆円と試算されています。
📝 補足 OCCTO は「電力業界の中央銀行」と例えられる中立機関です。個別の電力会社の利益を超えて全国最適な需給運用を担うため、旧一般電気事業者の力が及ばない独立性が保たれています。発送電分離とセットで機能する制度設計です。
自由化 3 施策の実務インパクト
自由化 3 施策(電力小売全面自由化 2016 年 4 月・発送電分離 2020 年 4 月・ガス小売全面自由化 2017 年 4 月)が、実務にどう影響したかを整理しておきましょう。
電力小売全面自由化 2016 年 4 月では、家庭・小規模事業所の低圧需要家(合計約 6,000 万口)が自由に電力会社を選べるようになりました。新電力の登録数は当初約 300 社から現在約 700 社に増加し、電気料金の選択肢が広がりました。ただし 2021 年冬季と 2022 年ロシア・ウクライナ以降の卸電力価格高騰で、新電力の倒産・撤退が相次ぎ、市場再編が進んでいます。
発送電分離 2020 年 4 月では、旧一般電気事業者の発電・送配電・小売事業が制度的に分離されました。特に送配電事業は「一般送配電事業者」として厳格に他事業と分離され、他事業への情報遮断(ファイアウォール)、経営者の兼務禁止などが義務化されました。この分離により、新電力が旧一般電気事業者の送配電網を公平に利用できる仕組みが整いました。
ガス小売全面自由化 2017 年 4 月では、都市ガスの家庭・小規模事業所の需要家が自由にガス会社を選べるようになりました。ただし電力自由化と比べると新規事業者の参入は限定的で、大手電力(東京電力エナジーパートナー、関西電力)の都市ガス小売参入が中心となっています。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 電気事業法は 1964 年制定、電力システム改革 3 段階(OCCTO 2015 年→ 電力自由化 2016 年 4 月→ 発送電分離 2020 年 4 月)
- 電気事業の 4 分類:発電事業/一般送配電事業/小売電気事業/特定送配電事業
- 託送料金制度は 5 年ごと見直しのレベニューキャップ制度 2023 年 4 月導入、電気料金の 3-4 割を占める
- ガス事業法は 1954 年制定、ガス小売全面自由化 2017 年 4 月・法的分離 2022 年 4 月で 3 分類(製造・導管・小売)
- 旧石油業法は 2002 年廃止、現在の石油関連法は石油備蓄法(1975 年制定)・揮発油品質確保法・省エネ法
- 原子炉等規制法は 1957 年制定、原子力規制委員会は 2012 年 9 月 19 日設置、新規制基準 2013 年 7 月施行、運転期間 60 年超も可能に 2023 年改正
- OCCTO は 2015 年 4 月設立の中立機関、系統整備マスタープラン 2023 年 3 月策定(総投資 6-7 兆円)
次のレッスンでは、旧一般電気事業者 10 社と新電力、JEPX 卸電力取引所、容量市場、需給調整市場のプレイヤー構造と電力取引の実務を扱います。
確認クイズ
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