再エネ特別措置法(FIT /FIP)と発電コスト・洋上風力
レッスン6:再エネ特別措置法(FIT /FIP)と発電コスト・洋上風力
このレッスンで学ぶこと
- 再エネ特別措置法(2012 年 7 月施行)と FIT /FIP の仕組みを理解する
- 太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの 5 電源の構造と稼働状況を掴む
- 洋上風力ラウンド(第 1 回 2021 年 12 月・第 2 回 2023 年 12 月)と落札価格動向を扱う
- 発電コスト検証 2021 年と IEA WEO 2024 の電源別コスト比較を把握する
前回のレッスンでは、都市ガス 4 大手、LP ガス市場、石油元売 4 社、石油備蓄制度、SAF を扱いました。今回は、再エネ特別措置法と 5 電源(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)の構造、洋上風力ラウンド、発電コスト検証を扱います。
再エネ特別措置法——FIT /FIP の枠組み
再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、正式名称「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(略称:再エネ特別措置法)に基づく制度で、2012 年 7 月 1 日に施行されました。以降、日本の再エネ導入量は急拡大し、10 年間で太陽光は約 30 倍、風力は約 2 倍に増加しました。
FIT(Feed-in Tariff、固定価格買取制度)
FIT は、再エネ発電事業者から電力を「固定価格で 20 年間(住宅用太陽光は 10 年間)電力会社が買い取る」制度です。買取価格は毎年度、経済産業省が電源別・設備容量別に決定します。買取費用は電力会社が負担しますが、その原資として全消費者から「再エネ賦課金」を電気料金の一部として徴収する仕組みです。
FIT の主要買取価格の推移(事業用太陽光 10-50 kW 未満):
- 2012 年度:40 円 / kWh(施行時、事業者呼び込みのため高価格設定)
- 2015 年度:29 円 / kWh
- 2018 年度:18 円 / kWh
- 2020 年度:12 円 / kWh
- 2024 年度:10 円 / kWh
再エネ賦課金は全国一律の単価で、電気料金 kWh あたりに上乗せされます。2024 年度単価は 3.49 円 / kWh、標準家庭の月額負担は約 1,000 円程度です。累積の賦課金額は 2024 年度で年間約 2.8 兆円に達し、電気料金上昇の主要因の 1 つとなっています。
FIP(Feed-in Premium、フィード・イン・プレミアム)
FIP は 2022 年 4 月から新たに開始された、市場連動型のプレミアム制度です。FIT の「固定価格買取」に対し、FIP は「卸電力市場価格+一定のプレミアム」で報酬が決まります。再エネ事業者は市場価格の変動リスクを負う代わりに、市場での適正取引が促されます。
FIP 対象は当初、50 kW 以上の事業用太陽光と 1,000 kW 以上の風力に限定されましたが、2024 年度から対象範囲が拡大されています。FIP への移行は、再エネの「市場統合」を進める世界的な流れに沿ったものです。
系統接続保留問題と出力制御
再エネ導入量が急拡大する中で、送配電系統への接続が制約となる「接続保留問題」が生じました。特に太陽光の適地(九州、東北、北海道)では、既存の送電線容量を超える接続申請が集中し、一部で接続が一時停止する事態が発生しました。
対応策として、既存送電線の容量増強、日本版コネクト&マネージ(設備の運用ルールを見直して既存設備を効率活用する仕組み、2018 年 4 月導入)、ノンファーム型接続(混雑時に出力抑制を条件に接続する仕組み、2021 年 1 月導入)が導入されました。
出力制御(発電量が需要を上回る時に一部の再エネ発電所を停止する仕組み)は、九州電力管内で 2018 年 10 月に初実施され、2024 年時点では全国 10 エリア中 9 エリア(沖縄除く)で実施されています。太陽光発電事業者にとっては出力制御による売上減少がリスクとなっています。
💡 ポイント FIT の高価格設定は「初期段階で再エネ事業者を市場に呼び込む」政策目的で、この目的は 10 年で概ね達成されました。次のステップとして、市場価格に晒される FIP への移行が段階的に進められており、再エネの経済的自立が中長期のテーマです。
太陽光発電の構造
太陽光発電(PV 、Photovoltaic)は、日本の再エネ導入の中心的電源です。累計導入量は 2024 年時点で約 90 GW に達し、中国・米国に次いで世界第 3 位です。
日本の太陽光市場は 3 分類されます。
第 1 の住宅用(10 kW 未満):戸建住宅の屋根に設置される小規模設備。累計約 320 万件、約 20 GW。FIT 買取期間 10 年で、2019 年から順次「卒 FIT」の家庭が増加し、余剰電力売買と自家消費の判断が広がっています。
第 2 の事業用小中規模(10 kW 以上 1,000 kW 未満):工場屋根・倉庫屋根・地上設置型の設備。累計約 45 GW、事業者数約 30 万。屋根設置型は自家消費+余剰売電、地上設置型(メガソーラー)は売電中心のビジネスモデルです。
第 3 の事業用大規模(1,000 kW 以上のメガソーラー):郊外の山林・農地転用・造成地に設置される大型発電所。累計約 25 GW、事業者数約 3,000。土地の確保、地元合意、系統接続、環境影響評価が事業化のボトルネックです。
太陽光の代表的な事業者は、日本アジアグループ・レノバ(2000 年設立、東証プライム上場)、リニューアブル・ジャパン、エクソル、エコスタイル、SB エナジー(ソフトバンクグループ)、ジャパン・リニューアブル・エナジーなどです。
太陽光関連法規として、宅地造成等規制法・森林法・農地法・自然環境保全法・景観条例などの複数法規に該当する場合が多く、開発リードタイム 3-5 年、地元合意プロセス 1-2 年が業界の実務標準です。
風力発電——陸上と洋上
風力発電は、陸上風力と洋上風力に大別されます。
陸上風力
陸上風力は、風況が良い地域(北海道、東北日本海側、九州)に設置される風力発電です。累計導入量は約 5 GW、事業者数約 200、代表的事業者は電源開発(J-POWER)、ユーラスエナジー、エコ・パワーなどです。
陸上風力のリードタイムは 5-8 年と長く、環境影響評価法(1999 年施行、風力発電は 2012 年から対象追加)に基づく評価手続に 3-4 年を要します。日本の陸上風力の適地は既に多くが開発済みで、新規適地の確保が課題です。
洋上風力
洋上風力は、海上に設置する大型風力発電で、日本の再エネ拡大の切り札と位置付けられています。日本の洋上風力導入量は 2024 年時点で約 0.14 GW と、欧州(英国 15 GW、ドイツ 8 GW、オランダ 4.7 GW)と比べて大幅に小さいですが、2040 年までに 30-45 GW の導入目標を政府が掲げています。
洋上風力の日本のプレイヤーは、欧州の大手が主導する構造です。オーステッド Ørsted(デンマーク発、世界最大の洋上風力事業者)、Iberdrola(スペイン発)、RWE(ドイツ発)、Copenhagen Infrastructure Partners(CIP、デンマーク)などが日本市場に参入し、日本側パートナー(三菱商事、住友商事、丸紅、東京電力、東北電力)と組んでプロジェクトを進めています。
洋上風力ラウンド
日本の洋上風力は「再エネ海域利用法」(2019 年 4 月施行)に基づく促進区域制度で開発されます。政府が促進区域を指定し、公募入札で 30 年間の海域占用権を得た事業者が発電所を建設・運営する仕組みです。
第 1 回ラウンド(2021 年 12 月結果公表)は 3 区域(秋田県能代・三種・男鹿沖 480 MW、秋田県由利本荘沖 819 MW、千葉県銚子沖 391 MW)で、三菱商事コンソーシアム(三菱商事+千代田化工建設+シーテック+ウィンド・パワー・エナジー)が全 3 区域を落札。落札価格は 11.99 円 / kWh、13.26 円 / kWh、16.49 円 / kWh でした。三菱商事の一括受注に対して評価基準の見直し要請が業界から相次ぎ、第 2 回ラウンド以降は評価基準が改定されました。
第 2 回ラウンド(2023 年 12 月結果公表)は 4 区域(秋田県男鹿・潟上・秋田市沖 315 MW、新潟県村上・胎内沖 700 MW、長崎県西海市江島沖 424 MW、秋田県八峰・能代沖 336 MW)で、5 コンソーシアムに分散して落札されました。落札価格は 3-4 円 / kWh 台と、第 1 回より大幅に低下しています。
浮体式洋上風力(水深 50 m 以上の海域に浮かべる方式)は、日本の海域特性に適した技術として期待されており、2030 年以降の商用化が目標です。長崎県五島市沖、福島沖などで実証事業が進んでいます。
水力発電
水力発電は日本の再エネの中で最も歴史が古く、累計導入量は約 50 GW(大規模水力、揚水式を含む)に達します。ただし新規開発の余地は少なく、大規模ダム式水力は既に開発適地の多くが利用済みです。
主要プレイヤーは、電源開発(J-POWER、大規模ダム式)、旧一般電気事業者 10 社(各エリアの水力発電)、地方自治体(公営水力)、独立系(中小水力)です。
小水力発電(1,000 kW 未満)は、農業用水路・砂防ダム・上下水道などを活用した小規模発電で、地域振興と組み合わせて全国で導入が進んでいます。
地熱発電
地熱発電は、火山国日本の適地に恵まれた電源です。累計導入量は約 0.6 GW と少なめですが、稼働率が 80 % 超と高く、ベースロード電源として重要視されています。
主要な地熱発電所は、松川地熱発電所(1966 年運転開始、日本初の商用地熱、23.5 MW)、大沼地熱発電所(1974 年運転開始)、八丁原地熱発電所(大分県、110 MW、日本最大)、山川地熱発電所、山葵沢地熱発電所(2019 年運転開始、46 MW、22 年ぶりの大型地熱)などです。
地熱の開発リードタイムは 10-15 年と長く、温泉業者との調整、国立公園規制、初期投資リスク(試掘の失敗リスク)などが業界の課題です。
バイオマス発電
バイオマス発電は、木質チップ・PKS(パームヤシ殻)・木質ペレット・農業残渣・食品廃棄物などを燃料とする発電です。累計導入量は約 6 GW に達しますが、燃料の輸入依存度が高く、燃料コスト変動と持続可能性認証(RSB、FSC など)の問題を抱えています。
大型バイオマス発電所は、住友共同電力(愛媛県)、東京ガス日立バイオパワー(茨城県)、四国電力・大王製紙 三島バイオマス発電所(愛媛県)などです。近年は木質バイオマスの持続可能性論議、FIT 対象からの除外議論が続いています。
発電コスト検証と IEA WEO
経済産業省は 2011 年から「発電コスト検証」を実施し、電源別の発電コストを継続的に評価しています。最新の 2021 年検証(2030 年時点の目安)では以下のコスト(円 / kWh、条件により変動)が示されました。
- 事業用太陽光:8-11
- 陸上風力:9-17
- 洋上風力:14-27
- 原子力:11.7-(事故リスク対応費含む)
- 大型 LNG 火力:10.7-14.3
- 石炭火力:13.6-22.4
- 中水力:10.9
太陽光と陸上風力のコストは、2015 年検証時点(太陽光 24.3 円 / kWh、陸上風力 21.9 円 / kWh)から約半分に低下しており、再エネの経済性が大幅に改善しています。IEA World Energy Outlook 2024 でも同様の傾向が示され、太陽光と風力が最も安価な新規電源として位置付けられています。
⚠️ 注意 「発電コスト」は評価条件(燃料価格、割引率、稼働率、耐用年数、CO₂ 対策費など)で大きく変動する数字です。単純比較は難しく、電源特性(ベースロード/ミドル/ピーク、天候依存性、CO₂ 排出量、地政学リスク)を踏まえた総合評価が必要です。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 再エネ特別措置法は 2012 年 7 月 1 日施行、FIT は固定価格 20 年買取(住宅用 10 年)、FIP は 2022 年 4 月開始の市場連動型プレミアム制度
- 再エネ賦課金は 2024 年度 3.49 円 / kWh、年間約 2.8 兆円、電気料金上昇の主要因
- 太陽光は累計約 90 GW(世界 3 位)、3 分類(住宅用 10 kW 未満/事業用小中規模/事業用大規模メガソーラー)、開発リードタイム 3-5 年
- 陸上風力は約 5 GW・環境影響評価 3-4 年、洋上風力は約 0.14 GW から 2040 年 30-45 GW 目標
- 洋上風力ラウンド:第 1 回 2021 年 12 月(三菱商事コンソーシアムが全 3 区域一括落札、11.99-16.49 円 / kWh)、第 2 回 2023 年 12 月(5 コンソーシアムに分散、3-4 円 / kWh 台)
- 水力約 50 GW(新規開発余地少)、地熱約 0.6 GW(稼働率 80 % 超・八丁原 110 MW が最大)、バイオマス約 6 GW(輸入燃料依存)
- 発電コスト検証 2021 年(2030 年時点):太陽光 8-11、陸上風力 9-17、洋上風力 14-27、原子力 11.7-、LNG 火力 10.7-14.3、石炭火力 13.6-22.4 円 / kWh
次のレッスンでは、GX 経済移行債 2024 年 2 月世界初発行、GX-ETS 2026 年 4 月本格開始、TCFD /ISSB /CBAM の脱炭素金融の枠組みを扱います。
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