GX 経済移行債 2024/GX-ETS 2026/TCFD /ISSB /CBAM
レッスン7:GX 経済移行債 2024/GX-ETS 2026/TCFD /ISSB /CBAM
このレッスンで学ぶこと
- GX 推進戦略(2023 年 5 月閣議決定)と GX 経済移行債 2024 年 2 月世界初発行を理解する
- GX-ETS 2023 年 4 月試行・2026 年 4 月本格開始・GX リーグ 700 社超の脱炭素金融を扱う
- TCFD 2015 年 12 月設立 → 2023 年 10 月 ISSB 承継、IFRS S1 /S2 、SSBJ 日本基準の開示制度を把握する
- EU CBAM(炭素国境調整措置)2026 年 1 月本格施行の日本影響と Scope 1-3 ・J-クレジットの位置を掴む
前回のレッスンでは、再エネ特別措置法(FIT /FIP)、5 電源、洋上風力ラウンド、発電コスト検証を扱いました。今回は、脱炭素金融の枠組み——GX 経済移行債、GX-ETS、TCFD、ISSB、CBAM——を扱います。
GX 推進戦略と GX 経済移行債
GX(Green Transformation、グリーン・トランスフォーメーション)は、化石燃料中心の経済社会から脱炭素社会への転換を指す造語で、日本政府が 2022 年から本格採用した政策概念です。
GX 実現に向けた基本方針
GX 実現に向けた基本方針は 2023 年 2 月 10 日に閣議決定された、脱炭素と経済成長の両立を目指す政府方針です。主な内容は以下です。
- 今後 10 年で官民合わせて 150 兆円超の GX 投資
- そのうち政府支援 20 兆円(GX 経済移行債で調達)
- 原子力の最大限活用(運転期間 60 年超も可能に)
- 再エネの主力電源化
- 水素・アンモニアなど新技術の実装
- カーボンプライシング(GX-ETS /炭素賦課金)の段階導入
この方針を法制化した「GX 推進法」(正式名称「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」)は 2023 年 5 月に成立、2023 年 6 月施行されました。
GX 経済移行債 2024 年 2 月世界初発行
GX 経済移行債(正式名称「脱炭素成長型経済構造移行債」、通称「GX 移行債」)は 2024 年 2 月 14 日に日本政府が世界初発行した国家発行の移行債(トランジション・ボンド)です。
トランジション・ボンド(移行債)は、化石燃料依存の高い産業(鉄鋼、化学、電力など)が脱炭素に移行するための資金調達手段です。従来の「グリーンボンド」(純粋な再エネ・省エネプロジェクトに限定)と異なり、「まだ完全にグリーンではないが、脱炭素への移行を目指す取り組み」に資金を投じることが認められます。
GX 経済移行債の発行総額は 10 年で 20 兆円が計画されており、第 1 回発行分(2024 年 2 月)は 1.6 兆円規模、10 年債と 5 年債の 2 種類で発行されました。国際的な信頼獲得のため、ICMA(国際資本市場協会)のクライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック(2020 年 12 月公表)と経産省の日本版クライメート・トランジション・ファイナンス指針(2022 年 12 月改訂版)に準拠しています。
資金使途は、脱炭素研究開発(水素、CCUS、次世代エネルギーなど)、再エネ導入、エネルギー効率化投資、脱炭素インフラ整備などに配分されます。日本は「アジアの脱炭素金融のリーダー」として、GX 経済移行債の枠組みをアジア諸国に展開する構想を掲げています。
💡 ポイント GX 経済移行債の世界初国家発行は、日本の脱炭素金融戦略の中核政策です。「純粋なグリーンだけでは間に合わない、移行期の重厚長大産業も金融で支える」という現実路線を、国際的な標準として提唱する試みです。
GX-ETS /GX リーグ
GX-ETS(Emissions Trading Scheme、排出量取引制度)は、企業の CO₂ 排出量に上限を設定し、上限超過分を市場で取引する制度です。日本では GX リーグの枠組みで 2023 年 4 月から試行が始まり、2026 年 4 月から本格運用に移行します。
GX リーグ
GX リーグは、GX 推進に賛同する企業が参加する自主的な枠組みで、経済産業省が 2022 年 2 月に構想を発表、2023 年 4 月に本格始動しました。2024 年時点で参加企業は 700 社超(日本の CO₂ 排出量の 4 割超をカバー)に達しています。
GX リーグ参加企業は、以下の 3 領域で活動します。
第 1 は「未来社会像対話」——脱炭素社会のビジョンを議論 第 2 は「市場ルール形成」——GX 関連の新市場(水素・アンモニア・カーボンクレジット)のルール形成 第 3 は「排出量取引 GX-ETS」——自主的な削減目標設定と排出量取引
GX-ETS の 3 段階
GX-ETS は 3 段階で本格運用に移行します。
第 1 段階(2023-2025 年度):自主参加型排出量取引フェーズ。GX リーグ参加企業が自主削減目標を設定し、目標達成のための排出量取引を実施。ただし取引量は限定的(2024 年度時点で数百万トン規模)。
第 2 段階(2026-2032 年度):発電事業者への有償オークション導入。電力会社などの発電事業者に対して、排出量枠の一部を有償オークションで購入させる仕組みが 2026 年 4 月から開始されます。
第 3 段階(2028 年度以降):化石燃料賦課金の導入。化石燃料の輸入・国内生産業者に対して、CO₂ 排出量に応じた賦課金を課す仕組みが 2028 年度から段階的に導入予定です。
GX-ETS の本格運用は、日本の排出量取引制度が「自主的」から「規制的」に段階移行するプロセスであり、企業経営に大きなインパクトを持ちます。EU-ETS(2005 年開始、世界最大の排出量取引)と比べると規模と規制水準は小さいものの、日本の脱炭素施策の中核として位置付けられています。
TCFD → ISSB → SSBJ の開示制度
気候関連情報開示の国際的な枠組みは、TCFD から ISSB へと進化しています。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
TCFD は、G20 財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて金融安定理事会(FSB)が 2015 年 12 月に設置した、気候関連財務情報の開示に関するタスクフォースです。マイケル・ブルームバーグ(元ニューヨーク市長)が議長を務めました。
2017 年 6 月に最終提言を公表し、企業が気候関連情報を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の 4 分野で開示することを推奨しました。この提言は世界中の企業・投資家・規制当局に広く採用され、日本では 2022 年 4 月から東証プライム市場上場企業に TCFD 提言に沿った開示が事実上義務化されました。
TCFD は 2023 年 10 月に活動を終了し、その役割は ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)に引き継がれました。
ISSB(International Sustainability Standards Board)
ISSB は 2021 年 11 月の COP26 で設立が発表された、国際的なサステナビリティ開示基準を策定する組織です。IFRS 財団(国際会計基準審議会 IASB の親組織)の下に設置され、財務諸表基準(IFRS)と並ぶ「サステナビリティ基準」を策定します。
2023 年 6 月に最初の 2 基準を公表しました:
- IFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
- IFRS S2「気候関連開示」
IFRS S1 /S2 は 2024 年 1 月から任意適用が開始され、各国が段階的に義務化を進めています。英国、カナダ、シンガポール、ブラジル、ナイジェリアなどが 2025-2026 年に義務化予定です。
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)——日本基準
SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan、サステナビリティ基準委員会)は 2022 年 7 月に設立された、日本のサステナビリティ開示基準を策定する組織です。財務会計基準機構(FASF)の下に設置されており、IFRS S1 /S2 と整合的な日本基準を策定します。
SSBJ の日本基準案は 2024 年 3 月に公開草案が公表され、2025 年 3 月 に最終基準が確定しました。適用は 2027 年 3 月期から東証プライム上場企業(時価総額 3 兆円以上)が段階的義務化される見込みで、2028-2030 年に対象拡大の予定です。
Scope 1-3 と GHG プロトコル
企業の CO₂ 排出量は Scope 1 、Scope 2 、Scope 3 の 3 段階で管理されます。国際基準は GHG プロトコル(2001 年、WRI 世界資源研究所と WBCSD 世界経済人会議 の共同策定)で規定されています。
- Scope 1:自社の直接排出(社内の燃料燃焼、化学プロセスなど)
- Scope 2:自社が購入した電気・熱・蒸気の間接排出
- Scope 3:バリューチェーン全体の間接排出(原材料、輸送、製品使用、廃棄など、15 カテゴリに細分化)
エネルギー業界は Scope 1(発電所の CO₂ 排出)が特に大きい業種で、業界全体の CO₂ 排出量の 3-4 割を占めます。加えて、Scope 3 の Category 11(販売した製品の使用)——顧客が使用した電力やガスの排出量——も膨大で、この評価と削減が業界の中核課題となっています。
EU CBAM(炭素国境調整措置)
EU CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism、炭素国境調整措置)は、EU 域外から EU 域内に輸入される高炭素製品に対して、EU-ETS 相当の炭素価格を追加課税する制度です。
CBAM は 2023 年 5 月に採択され、2023 年 10 月から移行期間(申告のみ・課税なし)、2026 年 1 月から本格施行される予定です。対象は当初 6 分野(鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素)で、日本からの輸出品(特に鉄鋼、アルミニウム)に影響します。
CBAM 対応のため、日本の鉄鋼・アルミニウム企業は EU 輸出時の CO₂ 排出量算定・報告体制の整備が求められます。日本製鉄、JFE スチール、UACJ、日本軽金属などが対応を進めています。
J-クレジット制度
J-クレジット制度は 2013 年 4 月に開始された、日本国内の CO₂ 削減・吸収量をクレジットとして認証・売買する国内制度です。省エネ、再エネ、森林管理、農地管理、廃棄物処理、燃料転換など多様な削減方法が対象となっています。
J-クレジットの累計認証量は 2024 年時点で約 1,000 万 t-CO₂、価格は取引ごとに変動しますが 1,000-4,000 円 / t-CO₂ が業界目安です。企業のカーボンオフセット、CDP 対応、GX-ETS 参加企業の目標達成手段として活用されています。
非化石証書と 3 種類
非化石証書は 2018 年 5 月から取引が開始された、非化石電源(再エネ・原子力)で発電された電力の「環境価値」を表す証書です。3 種類あります:
- FIT 非化石証書:FIT 対象の再エネ由来
- 非 FIT 再エネ指定なし非化石証書:卒 FIT ・大型水力・原子力由来
- 非 FIT 再エネ指定あり非化石証書:卒 FIT 太陽光など
RE100(再エネ 100 % 事業活動)認定を目指す企業や、CDP 気候変動質問書対応、GX 関連ルールへの適合に使われます。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- GX 実現に向けた基本方針 2023 年 2 月閣議決定、10 年で 150 兆円 GX 投資(うち政府支援 20 兆円)、GX 推進法 2023 年 5 月成立
- GX 経済移行債は 2024 年 2 月 14 日世界初国家発行、10 年で総額 20 兆円計画、日本版クライメート・トランジション・ファイナンス指針に準拠
- GX リーグは 2023 年 4 月本格始動、2024 年時点で 700 社超参加(日本 CO₂ の 4 割超)
- GX-ETS 3 段階:第 1 段階 2023-2025 年度自主参加、第 2 段階 2026-2032 年度発電事業者へ有償オークション、第 3 段階 2028 年度以降化石燃料賦課金
- TCFD は 2015 年 12 月 FSB 設置、2017 年 6 月最終提言 4 分野(ガバナンス/戦略/リスク管理/指標と目標)、2023 年 10 月に ISSB 承継
- ISSB は 2021 年 11 月 COP26 で設立発表、2023 年 6 月 IFRS S1 /S2 公表、SSBJ 日本基準は 2025 年 3 月確定、2027 年 3 月期から東証プライム時価総額 3 兆円以上に段階義務化
- Scope 1-3 は GHG プロトコル(2001 年 WRI /WBCSD)、Scope 3 は 15 カテゴリ、Category 11 販売製品使用が業界の中核課題
- EU CBAM は 2023 年 5 月採択・2023 年 10 月移行期間・2026 年 1 月本格施行、当初 6 分野(鉄鋼/アルミ/セメント/肥料/電力/水素)
- J-クレジット制度 2013 年 4 月開始、累計約 1,000 万 t-CO₂・価格 1,000-4,000 円 / t-CO₂ 、非化石証書 3 種類(FIT /非 FIT 指定なし/非 FIT 指定あり)
次のレッスンでは、水素基本戦略、アンモニア、CCUS、e-Fuel、EV 化、系統整備マスタープラン、電気料金激変緩和対策事業、修了後の継続学習方向を扱います。
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