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スキルアップカレッジ

カーボンプライシングと国内制度——GX-ETS・EU-ETS・J-クレジット・非化石証書

レッスン6:カーボンプライシングと国内制度——GX-ETS・EU-ETS・J-クレジット・非化石証書

このレッスンで学ぶこと

  • カーボンプライシングの 2 系統(炭素税排出量取引制度)を整理する
  • GX-ETS の試行 2023/4 〜 2026/3、本格開始 2026/4 の実務を把握する
  • GX 経済移行債 2024 年 2 月世界初国家発行の意義を捉える
  • EU-ETS の系譜と第 4 期(2021-2030)を理解する
  • J-クレジット制度(2013 年 4 月)と非化石証書(2018 年 5 月)を使い分けられる
  • Scope 2 のマーケットベース/ロケーションベースの 2 手法を区別できる
  • 内部炭素価格(Internal Carbon Price)の設計と用途を捉える

前レッスンでは、削減施策の 5 段階の階層を扱いました。本レッスンでは、削減施策の費用対効果の判断軸として不可欠な「カーボンプライシング」を扱います。中核メッセージ「カーボンプライシングは 3 年で企業の会計を変える」の、そのものの主題です。

カーボンプライシングの 2 系統

カーボンプライシング(Carbon Pricing、炭素価格付け)は、GHG 排出に価格を付ける政策手段の総称。排出削減を経済的インセンティブで促す仕組みです。大きく 2 系統に分けられます。

  • 炭素税:排出 1 t-CO₂ あたり課税(フランス、スウェーデン、日本の地球温暖化対策税など)
  • 排出量取引制度(ETS):排出枠を割当・取引(EU-ETS、GX-ETS など)

世界の導入状況

2024 年時点で、世界の約 25% の GHG 排出量がカーボンプライシング(炭素税または ETS)の対象となっています。EU-ETS、中国 ETS、韓国 ETS、カリフォルニア州 ETS、GX-ETS など、拡大の一途です。「10 年前は例外、5 年後は前提」——これが実務の温度感です。

GX-ETS——2026 年 4 月本格開始

GX-ETS(Green Transformation - Emissions Trading Scheme、GX リーグ排出量取引制度)は、日本独自の排出量取引制度です。経済産業省が推進する「GX 実現に向けた基本方針」(2023 年 2 月閣議決定)の一環として、段階的に導入されています。

時系列

  • 2023 年 4 月:GX-ETS 第 1 フェーズ(試行段階)、自主参加型で開始
  • 2023 年〜2026 年 3 月:試行段階、参加企業は自主的に排出枠を提出、超過分・余剰分を取引
  • 2026 年 4 月第 2 フェーズ本格開始、参加企業の裾野拡大、排出量算定・報告の義務化強化予定
  • 2027 年以降:第 3 フェーズ以降、排出枠の有償割当(オークション)拡大予定

GX リーグの参加

GX リーグは経済産業省が組成する官民パートナーシップで、GX-ETS の実施主体を含みます。2024 年時点で 700 社超が参加、日本の GHG 総排出量の約 5 割をカバー。GX-ETS のスコアは「参加企業の削減目標達成状況」の可視化に使われます。

GX 経済移行債——2024 年 2 月、世界初の国家発行

GX 経済移行債(Climate Transition Utilization Bonds)は、日本政府が発行する GX 実現に向けた財源調達の国債で、2024 年 2 月に世界初の国家発行を実施しました。20 兆円規模(2033 年度までの累計)を目標としており、GX-ETS の収入も財源に充てる設計。

使途

  • 産業構造の GX水素アンモニア・CCUS・SAF 等の技術開発と実証
  • エネルギー供給の GX:再エネ導入拡大、電力系統整備
  • 需要側の GX:住宅・建築物の省エネ、EV 普及

「国家が GX トランジションの財源を長期国債で調達する」——これは世界的にも先進的な取り組みで、日本の GX 政策の中核をなす仕組みです。

EU-ETS——2005 年開始、世界最大の ETS

EU-ETS(European Union Emissions Trading System)は、2005 年に始まった世界最大の排出量取引制度。以下のフェーズで段階的に強化されてきました。

  • 第 1 期(2005-2007):試行、無償割当が中心
  • 第 2 期(2008-2012):京都議定書対応
  • 第 3 期(2013-2020):オークション比率拡大、対象部門拡大
  • 第 4 期(2021-2030):削減率年 2.2% → 4.3% に強化、Fit for 55 パッケージで 2030 年 55% 削減目標に整合

排出枠価格(EUA)は 2020 年代に大きく上昇——2020 年頃は 20〜30 ユーロ/t-CO₂ が、2023 年には 100 ユーロ/t-CO₂ 前後に達しました。EU 域内で事業を展開する日本企業も直接影響を受ける——次レッスンの CBAM とも関連。

J-クレジット制度——2013 年 4 月開始

J-クレジット制度は、日本国内のカーボンオフセットクレジット制度で、2013 年 4 月に「国内クレジット制度」と「オフセット・クレジット(J-VER)制度」を統合して開始しました。環境省・経済産業省・農林水産省の共同運営

主な用途

  • カーボン・オフセット:他社の排出量削減・吸収を、自社の排出量とオフセット
  • 温対法・省エネ法の報告:義務排出量算定で控除
  • RE100 対応:一部の J-クレジット(再エネ由来)は RE100 対応可
  • SBTi 対応:主目標には使用不可、beyond value chain mitigation で使用可

種類

  • 省エネ由来:LED 照明・高効率設備導入で削減分
  • 再エネ由来:太陽光・風力・バイオマス発電で削減分
  • 森林由来:森林管理による CO₂ 吸収分

非化石証書——2018 年 5 月導入

非化石証書は、非化石電源(再エネと原子力)で発電された電力の「環境価値」を切り離して取引する証書。2018 年 5 月に導入され、電力小売事業者が高度化法(エネルギー供給構造高度化法)で求められる非化石電源比率を達成するために活用されます。

種類

  • FIT 非化石証書:再エネ FIT 電源由来、需要家(企業)向け
  • 非 FIT 非化石証書(再エネ指定あり):FIT 卒業の再エネ、需要家向け
  • 非 FIT 非化石証書(再エネ指定なし):原子力、電力小売向け

企業の Scope 2 削減で使えるのは、再エネ由来の非化石証書。RE100 の追加性の議論では、「新規発電の追加性」が問われるため、非化石証書のみでの達成は年々厳しくなっています。

Scope 2 の 2 手法——マーケットベースとロケーションベース

Scope 2 算定の実務で重要なのが、「マーケットベース(市場ベース)」と「ロケーションベース(電源構成ベース)」の 2 手法です。GHG プロトコル Scope 2 Guidance(2015 年)が体系化しました。

ロケーションベース(Location-based)

購入電力の物理的な電源構成に基づく係数を用いる。日本の場合、電力会社ごとの実排出係数、または全国平均。「電力を使う場所の物理的な排出」を反映する。

マーケットベース(Market-based)

購入契約に基づく契約上の電源構成を用いる。再エネメニュー、非化石証書、PPA、グリーン電力証書などの「契約に反映される再エネ価値」を計上できる。「企業が意図的に選んだ電源」を反映する。

両手法の位置づけ

GHG プロトコル Scope 2 Guidance は「両手法での並行開示」を推奨します。RE100 や SBTi 認定の Scope 2 目標は、マーケットベースを主に用いる——契約による再エネ化を評価するため。開示の際は両手法での数値を並記するのが実務の透明性。

内部炭素価格(ICP、Internal Carbon Price)

内部炭素価格は、企業が自主的に設定する「社内での炭素価格」。投資判断や事業計画で、GHG 排出に社内的な費用を割り当てるツールです。

3 種類

  • Shadow Price(シャドー価格):仮想の価格を投資判断に組み込む。実際の資金移動はない
  • Internal Carbon Fee(社内課金):事業部門から社内で徴収し、CN 施策の原資にする
  • Implicit Price(暗黙価格):削減施策のコストと排出削減量から逆算した価格

設計の実務

  • 価格水準:CDP 公表では、2024 年時点で $40〜100/t-CO₂ が中央値
  • 適用範囲:新規大型投資(例:5 億円以上)、新規製品開発、M&A 検討
  • 見直し頻度:年次、または GX-ETS・EU-ETS 価格動向に合わせて随時

内部炭素価格を設定した企業は、投資判断が「CN との整合」を意識する組織文化に転換します。中核メッセージ「カーボンプライシングは 3 年で企業の会計を変える」の実装が、内部炭素価格の設計から始まります。

中核メッセージの再確認

  • カーボンプライシングは 3 年で企業の会計を変える:GX-ETS 本格開始 2026 年 4 月、CBAM 本格施行 2026 年 1 月、EU-ETS 価格の上昇——3 年間で企業の投資判断・調達方針が根本的に変わる
  • オフセットは「使う」ものであって「頼る」ものではない:J-クレジット・非化石証書は使う道具、削減を代替する道具ではない

まとめ

  • カーボンプライシングは炭素税と排出量取引制度(ETS)の 2 系統、世界の GHG 排出の約 25% が対象
  • GX-ETS:試行 2023 年 4 月〜2026 年 3 月、本格開始 2026 年 4 月、GX リーグ 700 社超参加
  • GX 経済移行債:2024 年 2 月世界初国家発行、20 兆円規模
  • EU-ETS:2005 年開始、第 4 期(2021-2030)は年 4.3% 削減、価格 100 ユーロ/t-CO₂ 前後
  • J-クレジット:2013 年 4 月開始、省エネ・再エネ・森林由来の 3 種類
  • 非化石証書:2018 年 5 月導入、FIT・非 FIT 再エネ指定あり・なしの 3 種類
  • Scope 2:ロケーションベース(電源構成)とマーケットベース(契約反映)の 2 手法並行開示
  • 内部炭素価格:Shadow Price/Internal Carbon Fee/Implicit Price の 3 種類、CDP 中央値 $40〜100/t-CO₂

次のレッスンでは、CBAM 2026 年 1 月本格施行と国際規制——CSDDD、改正温対法の対応実務を扱います。

確認クイズ

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