月次予実管理と経営会議運営
レッスン5:月次予実管理と経営会議運営
このレッスンで学ぶこと
- 月次予実レビューの 5 ステップを組める
- 差異分析の要因分解(数量差・単価差・時間差)を実務で使える
- 経営会議のアジェンダ設計の型を持てる
- 事務局の 5 役割(企画・準備・進行・記録・フォロー)を回せる
- 議事録の書き方(決定事項・アクションアイテム・意思決定の経緯)を語れる
前レッスンでは単年度予算編成の実務を扱いました。本レッスンでは、その予算が始まった後の月次サイクルに踏み込みます。中核メッセージ 3「全社 KPI は経営会議の共通言語」の日常運用編です。
月次予実レビューの 5 ステップ
月次予実レビューは、経営陣・部門長・経営企画が集まって、前月の実績と予算を対比し、次のアクションを決める場です。次の 5 ステップで運営します。
flowchart LR
A[1 数字を並べる] --> B[2 異常値を捕捉]
B --> C[3 要因を分解]
C --> D[4 アクション決定]
D --> E[5 翌月フォロー]
ステップ 1:数字を並べる
- 予算・実績・差異・差異率・累計を一覧化
- 全社と事業部別・機能部門別で並列表示
- 前月比・前年同月比も並べる
ステップ 2:異常値を捕捉
- 差異率 ±10% 超、金額 ±100 万円超などの閾値で自動フラグ
- 特に営業利益に影響する項目に注目
ステップ 3:要因を分解
- 差異を「数量差 × 単価差 × 時間差」の 3 要素で説明
- 「売上マイナス 500 万円」ではなく「販売数量マイナス 300 万・単価マイナス 200 万」と分解
ステップ 4:アクション決定
- 要因に応じた打ち手を決める
- 責任者と期限を明示
- 経営会議で経営陣の合意を取る
ステップ 5:翌月フォロー
- 打ち手の効果を翌月の月次で検証
- 想定通りの効果が出ない場合、追加打ち手を検討
差異分析——数量差・単価差・時間差
売上・費用の差異は、多くの場合「数量差 × 単価差 × 時間差」の 3 要素で説明できます。既刊の経理系入門コースで扱う内容ですが、経営企画の視点でも重要な道具です。
例:売上が予算 1,000 万円、実績 850 万円で 150 万円マイナスの場合
- 予算:100 個 × 平均単価 10 万円 = 1,000 万円
- 実績:90 個 × 平均単価 9.4 万円 = 846 万円
要因分解:
- 数量差:10 個減少 × 予算単価 10 万円 = 100 万円マイナス
- 単価差:実績数量 90 個 × 単価差 0.6 万円 = 54 万円マイナス
- 時間差:大型受注 1 件が翌月へズレ = 4 万円マイナス(合計調整)
分解の意義
「販売数量」「単価」「時間」に分けて示すことで、打ち手が具体化します。
- 数量差 → 営業活動強化、顧客獲得
- 単価差 → 値付け見直し、上位モデル販売強化
- 時間差 → 受注管理改善、翌月には戻る
「なぜ悪いか」より「何をどう変えるか」に議論の焦点を絞ることが、月次予実レビューを機能させます。
経営会議のアジェンダ設計
経営会議は、経営陣が執行判断を集中的に行う場です。月 1〜2 回の開催が典型的で、アジェンダの設計が会議の質を決めます。
アジェンダの 5 ブロック
- 前月月次予実レビュー(30 分):全社と主要事業の予実、差異要因、対応状況
- 戦略テーマ議論(60 分):中期経営計画の進捗、新規事業、投資判断
- 各種報告(20 分):人事、コンプライアンス、リスク管理などの定型報告
- 決議事項(10 分):形式的な意思決定(正式承認が必要な事項)
- その他(10 分):追加議題、次回予告
アジェンダ設計の原則
- 議題は絞る:1 回の経営会議で議論できる戦略テーマは 1〜2 個
- 時間配分を明示:ダラダラ議論を防ぐため、議題ごとに時間を割り振る
- 事前資料の共有:会議当日に資料を配ると読む時間で議論時間が奪われる、原則 2〜3 日前に配布
事務局の 5 役割
経営企画が経営会議の事務局を担うのが多くの企業の運用です。事務局の役割は 5 つあります。
役割 1:企画
- アジェンダの立案(経営陣・部門長との事前調整)
- 議題の優先順位付け
- 時間配分の設計
役割 2:準備
- 資料作成・依頼・取りまとめ
- 事前配布
- 会議室・オンライン環境の準備
役割 3:進行
- ファシリテーション
- 時間管理
- 脱線を戻す
役割 4:記録
- 議事録の作成
- 決定事項・アクションアイテムの明確化
- 決定に至った経緯の記録
役割 5:フォロー
- 決定事項の実行状況追跡
- アクションアイテムの進捗確認
- 次回会議での報告依頼
事務局は「議論の運営者」であり、経営会議の質を後方から支えます。
議事録の書き方
議事録は経営会議の成果物です。次の 3 要素を必ず含めます。
要素 1:決定事項
「何が決まったか」を明確に書く。
- 決定内容
- 決定日
- 責任者
- 期限
要素 2:アクションアイテム
「誰が、いつまでに、何をやるか」のタスクリスト。
- タスク内容
- 担当者
- 期限
- 完了条件
要素 3:意思決定の経緯
「なぜこの判断に至ったか」の議論の記録。
- 提示された選択肢
- 賛否の意見と根拠
- 最終判断の理由
意思決定の経緯を残す意義
決定事項とアクションだけでは、後から「なぜこの判断に至ったか」がわかりません。1 年後・3 年後に振り返って学ぶための土台として、議論の経緯を残すことが経営企画事務局の重要な仕事です。特に大型投資判断・組織変更・戦略転換では、経緯の記録が会社の意思決定の質を高める資産になります。
📝 補足 議事録は「あった発言をすべて記録する」ものではなく、「意思決定の質を高める記録」です。個別発言の再現より、論点・選択肢・判断の 3 要素を整理して書くことが重要です。
中核メッセージ 6 個の再掲
本コース全体を通じて、6 個のメッセージを繰り返します。
- 経営企画は「考える・繋ぐ・回す」の 3 役割——比重は会社の成熟度で変わる
- 中期経営計画は「Forecast × Backcast」の往復——数字と物語を両方作る
- 全社 KPI は経営会議の共通言語——選んだ数字が組織の行動を決める
- 予算編成は「配分」ではなく「合意形成」——数字より前に前提を揃える
- 取締役会は意思決定の場、経営会議は執行の場——2 つを混同しない
- 経営企画はゼネラリスト——専門性より「翻訳と接続」で価値を出す
このレッスンで扱うのはメッセージ 3「全社 KPI は経営会議の共通言語」の運用実装と、メッセージ 5「経営会議は執行の場」の運営実務です。月次予実レビュー・経営会議アジェンダ・議事録の 3 点セットを回すことが、経営企画の「回す」役割の中核業務です。
次のレッスンで扱うこと
次のレッスン 6 では、経営会議の上位機関である取締役会の運営を扱います。取締役会と経営会議の役割分担、付議基準(会社法・定款・取締役会規則)、招集手続・議案の組み方、議事録(会社法 369 条 3 項)、社外取締役対応、モニタリング型ボードまで整理します。中核メッセージ 5「取締役会は意思決定の場、経営会議は執行の場——2 つを混同しない」の実装編です。
確認クイズ
このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。