全社 KPI・OKR 設計
レッスン3:全社 KPI・OKR 設計
このレッスンで学ぶこと
- KGI から KPI ツリーを組み立てる 3 ステップを語れる
- BSC の 4 視点(財務・顧客・業務プロセス・学習と成長)を全社バランスの物差しとして使える
- KPI 選定の 5 基準で候補を絞り込める
- OKR の四半期運用の型を持てる
- 全社 KPI を部門 KPI へ分解する対話の要点を挙げられる
前レッスンでは中期経営計画を策定しました。本レッスンでは、中計で示した方向性を「日々の行動」に落とし込む道具である全社 KPI・OKR の設計に踏み込みます。中核メッセージ 3「全社 KPI は経営会議の共通言語——選んだ数字が組織の行動を決める」の実装編です。
KGI・KPI・KPI ツリーの整理
まず基本用語を整理します。
- KGI(Key Goal Indicator):最終目標。3〜5 年後の姿を数字で示す(例:営業利益 100 億円、ROE 10%、ARR 50 億円)
- KPI(Key Performance Indicator):KGI 達成の途中経過を測る中間指標
- KPI ツリー:KGI を頂点に、KPI を階層的に分解した構造図
KPI ツリーの 3 ステップ
flowchart TB
A[KGI<br/>営業利益 100 億円] --> B[売上高 500 億円]
A --> C[売上原価率 60%]
A --> D[販管費率 20%]
B --> E[顧客数 5,000 社]
B --> F[顧客単価 1,000 万円]
E --> G[新規獲得 500 社/年]
E --> H[既存維持率 95%]
- 頂点に KGI を置く:中期経営計画の主要目標を頂点に配置
- 論理的に分解:足し算・掛け算・引き算で KPI を分解(売上 = 顧客数 × 顧客単価、営業利益 = 売上 - 売上原価 - 販管費)
- アクション可能な粒度まで下ろす:部門長・チームリーダーが自分の意思決定でコントロールできる粒度に
BSC の 4 視点
KPI ツリーだけだと、財務指標(P/L・B/S)に偏りがちです。BSC(Balanced Scorecard)は Kaplan & Norton が 1992 年に HBR で提唱した枠組みで、4 つの視点からバランスよく KPI を選ぶ発想を提供します。
4 視点の内容
- 財務の視点:売上高、営業利益、ROE、CCC、ARR
- 顧客の視点:顧客数、顧客満足度、NPS、リピート率
- 業務プロセスの視点:生産性、リードタイム、品質不良率、稼働率
- 学習と成長の視点:従業員エンゲージメント、資格保有率、離職率、研修投資
4 視点の因果関係
- 学習と成長 → 業務プロセス改善 → 顧客満足向上 → 財務結果向上
「学習と成長」への投資が「業務プロセス」を改善し、「顧客」の満足度を高め、最終的に「財務」の成果につながる、という因果関係を可視化するのが BSC の思想です。
KPI 選定の 5 基準
KPI ツリーで候補を並べても、経営会議で追いかけるべき KPI は絞り込みが必要です。5 基準で判断します。
基準 1:戦略適合
中期経営計画の重点戦略に直結する KPI か。「あれば良い」ではなく「これがなければ戦略が語れない」ものに絞る。
基準 2:測定可能性
数値で客観的に測れるか。「顧客満足度が上がった気がする」ではなく「NPS が 20 → 30 に向上」といった定量化。
基準 3:影響力
数値の変化が事業成果に大きな影響を与えるか。統計的な誤差レベルの変化しか測れない KPI は避ける。
基準 4:アクション可能性
その KPI を追いかけている人が、自分の意思決定でコントロールできるか。「為替レート」といったコントロール不能な指標を KPI に置くのは不適切。
基準 5:シンプルさ
複雑な計算式・複数指標の合成が必要な KPI より、シンプルで直感的な KPI の方が組織で共通言語になりやすい。
⚠️ 注意 KPI の数が多すぎると、追いかける対象が散らばり、どれも中途半端になります。全社経営会議で追いかける KPI は 10〜15 個程度に絞るのが実務の目安です。多すぎる KPI は「KPI があるだけで実質何も見ていない」状態を生みます。
OKR の四半期運用
OKR(Objectives and Key Results)は Intel の Andy Grove が 1970 年代に生み出し、Google が 1999 年に John Doerr の導入で採用した目標管理の型です。近年、日本の中堅企業でも採用が広がっています。
OKR の基本構造
- Objective:定性的で野心的な目標(1 つの部門・チームで 3〜5 個)
- Key Results:Objective の達成度を測る 2〜5 個の定量指標
例:
- Objective:市場での圧倒的なリーダーポジションを確立する
- KR 1:シェアを 20% → 30% に拡大
- KR 2:業界メディアでの言及回数を月 50 件 → 100 件
- KR 3:主要顧客 100 社での取引拡大率を平均 30%
四半期運用の型
- Q 初め:Objectives と Key Results を設定、経営陣と部門長で合意
- 月次:進捗レビュー、必要なら軌道修正
- Q 終わり:達成度スコアリング(0.0〜1.0 の 5 段階など)、次 Q の学びに反映
KPI と OKR の使い分け
- KPI:継続的にモニタリングする定常指標(毎月・毎年比較)
- OKR:四半期ごとの野心的な挑戦を設定する道具
両者は競合ではなく補完関係です。KPI で会社の健康状態を毎月追いかけ、OKR で四半期ごとに次の一歩を挑む——という使い分けが実務の型です。
全社 KPI を部門 KPI へ分解する
全社の KPI を、事業部・機能部門の KPI に分解する作業が、経営企画の「繋ぐ」役割の中核です。
分解の 2 パターン
- 積み上げ型:全社売上 500 億円 → 事業部 A 200 億円 + 事業部 B 200 億円 + 事業部 C 100 億円
- 貢献度型:全社の顧客満足度向上に、事業部 A の解約率削減が寄与
積み上げ型は数字が明確ですが、部門間の依存関係(横断プロジェクトなど)を捉えにくいという弱みがあります。貢献度型はその弱みを補完しますが、責任の所在があいまいになりがちです。両者を組み合わせるのが実務の型です。
部門との対話
部門 KPI を経営企画から一方的に「割り当てる」形にすると、部門長の当事者意識が育ちません。次の対話ステップが必要です。
- 全社 KPI と方針を先に共有:中期経営計画の重点と全社 KPI を部門長に説明
- 部門から KPI 案を出してもらう:「全社目標に対して自部門で何ができるか」を部門長がドラフト
- 経営企画と部門で調整:足し算が全社目標に届くか、部門間で重複や漏れがないかを議論
- 経営陣で承認:最終的な部門 KPI を経営会議で決定
「決められた KPI を追いかける」より「自分たちで作った KPI を追いかける」方が、実行力が格段に上がります。
中核メッセージ 6 個の再掲
本コース全体を通じて、6 個のメッセージを繰り返します。
- 経営企画は「考える・繋ぐ・回す」の 3 役割——比重は会社の成熟度で変わる
- 中期経営計画は「Forecast × Backcast」の往復——数字と物語を両方作る
- 全社 KPI は経営会議の共通言語——選んだ数字が組織の行動を決める
- 予算編成は「配分」ではなく「合意形成」——数字より前に前提を揃える
- 取締役会は意思決定の場、経営会議は執行の場——2 つを混同しない
- 経営企画はゼネラリスト——専門性より「翻訳と接続」で価値を出す
このレッスンで扱うのはメッセージ 3「全社 KPI は経営会議の共通言語——選んだ数字が組織の行動を決める」です。KPI ツリー・BSC・OKR を組み合わせ、部門との対話を通じて、経営と現場が同じ数字を見ながら日々を動かす状態を作ることが目標です。
次のレッスンで扱うこと
次のレッスン 4 では、全社 KPI と中計の方向性を、単年度の予算に落とし込む作業を扱います。年間スケジュール(前年 9〜3 月)、トップダウン vs ボトムアップ、部門折衝の 4 論点、予算編成会議の型、修正予算のタイミングまで整理します。中核メッセージ 4「予算編成は配分ではなく合意形成」の実装編です。
確認クイズ
このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。