リリースの構造——タイトル・リード・本文・ボイラープレート
レッスン3:リリースの構造——タイトル・リード・本文・ボイラープレート
このレッスンで学ぶこと
- プレスリリースの基本構造(6 つのブロック)を理解する
- タイトル 30 文字目安・サブタイトルの組み立てを把握する
- リード文の 5W2H と本文の流れ(背景・詳細・コメント・展望)を組み立てられる
- ボイラープレート(コーポレート概要)の役割と書き方を理解する
- お問い合わせ先・画像と動画のクレジットの作法を身につける
- A4 1 〜 2 ページの分量設計を学ぶ
前回のレッスンでは、ネタの発掘・トレンドへの便乗・ネタを「作る」発想・発信カレンダーを扱いました。本レッスンからは、いよいよ「書き方」の領域に入ります。プレスリリースには、業界で長年磨かれてきた標準的な構造があります。型を知らずに書くのは、サッカーで基本のフォーメーションを知らずに試合に出るようなものです。本レッスンでは、リリースの構造を 6 つのブロックに分解して、それぞれの役割と作法を整理します。
プレスリリースの基本構造
プレスリリースは、おおむね 6 つのブロックから構成されます。
flowchart TB
A["タイトル(30 文字目安)"] --> B["サブタイトル(任意)"]
B --> C["リード文(5W2H で 200 〜 300 字)"]
C --> D["本文(背景・詳細・コメント・展望)"]
D --> E["お問い合わせ先"]
E --> F["ボイラープレート(コーポレート概要)"]
媒体・配信プラットフォームによって細部は異なりますが、この 6 ブロックはほぼ業界標準として定着しています。記者は同じ構造のリリースを毎日大量に読んでいるため、構造から外れたリリースは「読みにくい」と判断され、選別の対象から外れる可能性が上がります。型は表現の制約ではなく、読み手を助ける道具です。
紙 vs Web の違い
近年は、A4 用紙 1 〜 2 ページの体裁で PDF として配布する形と、配信プラットフォーム(PR TIMES など)で HTML として公開する形が共存しています。HTML 形式では、画像が前に出ること、文字装飾の自由度が低いこと、SEO が効くこと、SNS でシェアされやすいことなどの違いがあります。現代は HTML 形式を主軸に置きつつ、PDF も用意する形が主流です。
ブロック 1:タイトル(見出し)
タイトルは、リリース全体のなかで最も読まれる場所です。記者は数十〜数百のリリースに目を通すなかで、タイトルで読むか読まないかを判断します。Web メディアでは、検索エンジン経由でタイトルだけが表示されるケースもあります。タイトルが立たないリリースは、本文がどんなに良くても読まれません。
タイトルの 5 条件(次レッスンで詳しく)
- 新規性:「初」「新」「過去最高」など、新しさが伝わる
- 具体性:抽象的な言葉ではなく、具体的な事実
- 主体性:誰が(自社が)何をしたかが明確
- 固有名詞:自社名・製品名・人物名が入っている
- 数値:数字が入ると説得力が増す
文字数の目安
- 30 文字目安:日本のメディア環境では 30 文字前後が標準。25 文字以下だと情報不足、40 文字以上だと冗長
- 検索エンジン:Google 検索結果のタイトル表示は 28 〜 32 文字程度(端末・状況により変動)
- SNS の文字制限:X(旧 Twitter)の表示制限を考慮すると、30 文字以内のタイトルは引用・シェアされやすい
悪いタイトル例 vs 良いタイトル例
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| 弊社新サービスのご案内 | 中堅企業向け労務管理 SaaS「△△」、月額 5,000 円で提供開始 |
| 業界に革新を起こす新製品の発表について | 業界初、AI で品質検査時間を 50% 削減する画像解析装置を発売 |
| 弊社の取り組みについて | 全社員 200 名の週休 3 日制を 4 月から正式導入 |
| お客様への重要なお知らせ | 個人情報の取り扱いに関する一部不適切な事象についてのお詫び |
悪い例は「自社の視点(弊社・お客様・案内)」で書かれ、固有名詞・数値・具体性に欠けています。良い例は「読み手の視点(何が・いつ・どうなる)」で書かれ、固有名詞・数値・具体性が入っています。
ブロック 2:サブタイトル(任意)
タイトルだけで伝えきれない補足情報を、サブタイトルに置きます。タイトルの直下に置かれ、文字サイズはタイトルより少し小さめです。
- 例:「業界初、AI で品質検査時間を 50% 削減する画像解析装置を発売」
- サブタイトル:「2026 年 7 月から国内中堅製造業を対象に、初期費用 0 円で提供」
サブタイトルは「販売開始時期」「対象」「料金」「規模」など、タイトルの脇を支える情報に向きます。必須ではないため、本文だけで十分なら省略しても問題ありません。
ブロック 3:リード文
リード文は、タイトルの直後に置かれる「冒頭の段落」で、200 〜 300 字を目安にします。リード文の役割は、「結論・主要な事実・記事化されたときの土台」を 30 秒で読めるようにまとめることです。
リード文の 5W2H
| 軸 | 内容 |
|---|---|
| Who(誰が) | 自社名(株式会社○○) |
| What(何を) | 発表する事実(新サービス開始、新製品発売、業務提携など) |
| When(いつ) | 日付(発売日、開始日、発表日) |
| Where(どこで) | 範囲(全国、関東、海外、特定店舗など) |
| Why(なぜ) | 背景・目的(市場ニーズ、社会的な課題、自社の戦略など) |
| How(どのように) | 提供方法、技術、仕組み |
| How much(いくらで) | 価格、規模、目標(売上、台数、ユーザー数) |
すべてをリード文に入れる必要はありませんが、5W2H のうち少なくとも 5 つは含まれているのが標準です。記者がリード文だけで記事を書けるレベルまで情報密度を上げるのが目標です。
リード文の例
株式会社○○(本社:東京都港区、代表取締役:山田太郎)は、中堅製造業向けの品質検査自動化サービス「△△」を、2026 年 7 月 1 日より国内市場で提供開始します。本サービスは、画像解析 AI を活用して品質検査の時間を従来比 50% 削減し、初期費用 0 円・月額 30 万円から導入できます。少子高齢化に伴う製造業の人手不足と検査員の高齢化に対応するもので、初年度 100 社・3 年で 500 社への導入を目指します。
このリード文には、Who(株式会社○○)、What(品質検査自動化サービス「△△」を提供開始)、When(2026 年 7 月 1 日)、Where(国内市場)、Why(人手不足と検査員の高齢化)、How(画像解析 AI で 50% 削減)、How much(初期費用 0 円・月額 30 万円、目標 100 社)の 7 軸が含まれています。
ブロック 4:本文
本文は、リード文の根拠と詳細を肉付けする本体部分です。長くなりすぎないよう、おおむね 1,000 〜 2,000 字を目安にします。
本文の標準的な流れ
- 背景:なぜいまこの発表なのか。社会的な課題、市場の動向、自社の戦略
- 詳細:発表内容の具体(製品の機能、サービスの提供条件、提携の詳細など)
- コメント:経営者・関係者・第三者のコメント
- 展望:将来の数値目標、ロードマップ、関連する取り組み
背景の書き方
「業界の動向」「社会的な課題」「自社の戦略」のいずれかから入り、なぜ「いま」発表する必要があるかを 200 〜 400 字で説明します。背景が弱いと、リリース全体が「自社の宣伝」に見えてしまいます。
詳細の書き方
製品・サービスのリリースであれば、機能、提供条件、料金、対象顧客、提供開始時期を整理します。箇条書きと小見出しを活用して、記者がどこを引用すればよいかわかりやすくします。
コメントの書き方
経営者・関係者のコメントは、リード文と詳細では伝えきれない「思い」「ビジョン」「業界への提言」を 100 〜 200 字で。コメント単体で「カギカッコの引用」として記事に使われることを意識します。「弊社は」「お客様には」など内向きの表現を避け、社会・業界・読み手に向かう言葉で書きます。
展望の書き方
具体的な数値目標(売上、ユーザー数、台数、海外展開のタイミングなど)と、関連する将来計画を提示します。「予定」「目指す」など断定を避ける表現を使い、将来の不確実性を匂わせるのが業界の作法です。
ブロック 5:お問い合わせ先
記者がリリースを読んで取材・追加情報を求めたいときの連絡先を明記します。
必須項目
- 部署名
- 担当者名(氏名と読み仮名)
- 電話番号(直通または代表)
- メールアドレス(個人または部署の代表アドレス)
- 受付時間の目安(記者は土日・夜間も連絡することがある)
任意項目
- 公式 Web サイトの URL
- SNS アカウント
- プレスルームの URL
- 取材用のオンラインフォームの URL
お問い合わせ先は本文の下、ボイラープレートの上に置くのが一般的です。記者が真っ先に探す場所のため、目立つ位置・読みやすい文字サイズで掲載します。
画像と動画のクレジット
リリースに画像・動画を添付する場合、それぞれにキャプション(説明文)と権利関係の表示(撮影者・著作権者・転載可否)を入れます。
- 例:「写真:新サービス『△△』のサービス画面イメージ/提供:株式会社○○/転載可」
画像の解像度は 72dpi 以上・3MB 程度・横長 1,200 〜 1,920 ピクセルが、Web 媒体での再利用に向きます。
ブロック 6:ボイラープレート(コーポレート概要)
ボイラープレート(boilerplate)は、リリース末尾に置かれる自社のコーポレート概要の定型文です。リリースごとに大幅に変更せず、半年〜 1 年で見直す程度に留めます。記者が会社の基本情報を確認するための「会社の自己紹介」として機能します。
標準項目
- 社名(正式名称・読み仮名)
- 所在地(本社住所)
- 代表者(代表取締役の氏名)
- 設立年月日
- 資本金
- 事業内容(150 〜 300 字)
- 従業員数(直近)
- 公式 Web サイト URL
例
■株式会社○○について
社名:株式会社○○(カブシキガイシャ○○)
所在地:東京都港区△△ 1-2-3
代表者:代表取締役 山田太郎
設立:2010 年 4 月 1 日
資本金:1 億円
事業内容:中堅製造業向けの品質検査自動化 SaaS の開発・提供
従業員数:150 名(2026 年 6 月末時点)
公式サイト:https://example.com
ボイラープレートは、社会全体に向けた「自社の正式な名刺」です。創業の経緯・主要な事業領域・社会的なビジョンを 150 〜 300 字程度で簡潔に示すのが、Web メディアでの再利用に向きます。
💡 ポイント ボイラープレートが定型文として整っていると、毎回リリースを書く負担が減ります。半年〜 1 年に 1 度、業績・規模・組織の変化を反映して見直すルーティンを作るのがおすすめです。
分量設計——A4 1 〜 2 ページ
リリース全体の分量は、おおむね A4 1 〜 2 ページに収まる範囲を目安にします。Web 配信では文字数換算で 1,500 〜 3,000 字程度です。
1 ページに収めるべきもの
- タイトル
- サブタイトル
- リード文
- 本文の前半(背景・詳細の核)
- お問い合わせ先(最低限)
2 ページに広げる場合
- 詳細の追加(製品スペック、サービス内容の比較表など)
- コメントの追加
- 画像・図表の挿入
- ボイラープレート
3 ページを超えるリリースは、よほどの理由(製品スペックの詳細、会見の議事録など)がない限り、避けたほうが選別を通過しやすくなります。
講師の現場メモ
私が PR 会社時代に、ある若手担当者の指導で印象に残っている出来事があります。担当の中小 IT 企業から、新サービスのリリース原稿が 8 ページで上がってきたのです。製品の魅力をすべて伝えたい気持ちで書かれていましたが、構造が崩れ、リード文がなく、お問い合わせ先がページの末尾の脇に小さく書かれているだけでした。「すごく頑張って書きました」とご本人。
私は、4 時間かけて若手担当者と一緒に書き直しました。8 ページの原稿を 2 ページに圧縮し、削除した素材は別のリリース(半年後の予定)の素材に回しました。タイトルを 4 文字短くし、サブタイトルを追加し、リード文を 250 字で組み直し、本文に背景・詳細・コメント・展望の小見出しを入れ、お問い合わせ先を本文末尾の目立つ位置に移動しました。
そのリリースは、業界紙 3 紙、Web メディア 8 媒体に取り上げられました。8 ページのままだったら、どれにも載らなかったと、いまでも思います。「全部書かないと伝わらない」と感じる気持ちはわかります。でも、記者の側から見ると、「全部書かれているリリース」より「30 秒で要点がわかるリリース」のほうが、圧倒的に取り上げやすい——20 年経ったいまも、それは変わりません。
リリースの構造は、皆さんの表現を制限するためにあるのではなく、皆さんの伝えたいことを記者・読み手に届けるための「道具」です。本レッスンで紹介した 6 ブロックの型は、業界で長年磨かれてきた「届ける技術」の結晶です。まずは型に沿って書いてみてから、慣れたところで自分の表現を加えていく——その順番が、私の 20 年の経験では最短ルートです。
まとめ
- プレスリリースの 6 ブロック:タイトル、サブタイトル(任意)、リード文、本文、お問い合わせ先、ボイラープレート
- タイトルは 30 文字目安。新規性・具体性・主体性・固有名詞・数値の 5 条件で組み立てる
- リード文は 200 〜 300 字、5W2H を意識して 7 軸のうち 5 つ以上を含める
- 本文の流れ:背景・詳細・コメント・展望。1,000 〜 2,000 字を目安に、箇条書きと小見出しで読みやすく
- お問い合わせ先は本文末尾の目立つ位置に、部署名・担当者・電話・メール・受付時間を明記
- 画像と動画のクレジット:キャプション、提供元、転載可否を明示
- ボイラープレート:コーポレート概要の定型文。社名・所在地・代表者・設立・資本金・事業内容・従業員数を半年〜 1 年で見直し
- 分量設計:A4 1 〜 2 ページ、1,500 〜 3,000 字。3 ページ超は避ける
次のレッスンでは、本レッスンで触れた「タイトル 30 文字」「リード文 5W2H」を、より深く実践レベルで扱います。良いタイトルの 5 条件、悪いタイトル例と良いタイトル例の比較、リード 1 文目で結論を出す発想、業界用語・社内用語の翻訳、生成 AI の下書きとの境界などを学びます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックする 6 問です。