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スキルアップカレッジ

プレスリリースとは何か——「載せたい」から「使ってもらえる」発想へ

レッスン1:プレスリリースとは何か——「載せたい」から「使ってもらえる」発想へ

このレッスンで学ぶこと

  • プレスリリースの定義と「対外発信の公式文書」としての役割を理解する
  • 広告・記事・ニュースの違いから、PR の位置づけを整理する
  • メディアの仕組み(記者・編集・編成・読者・視聴者)の全体像を把握する
  • リリースが目的を達成する 3 つの条件を理解する
  • ニュース価値の 7 軸(新規性・社会性・話題性・季節性・人物性・地域性・意外性)を知る
  • 本コースの守備範囲と「載せたい」から「使ってもらえる」への発想転換を共有する

「リリースを書いてみたけれど、どこにも載らなかった」「PR TIMES に出してみたが反響がなかった」「記者に送ったメールが返ってこない」——プレスリリースに関わる方の多くが経験する悩みです。原因は、書く技術より「発想」にあることがほとんどです。リリースは「載せたい」という発信者の都合で書くものではなく、「使ってもらえる」という読み手側の視点で組み立てるものだからです。本レッスンでは、コース全体の前提として、プレスリリースの定義、メディアの仕組み、ニュース価値の考え方を共有することから始めます。

プレスリリースの定義

本コースでは、プレスリリース(press release)を次のように定義します。

企業・組織が、自社の活動や情報を、報道機関や社会に向けて発表する公式文書。報道で取り上げてもらうこと、社会に直接届くこと、その両方を目的とする。

この定義の鍵は 3 つです。

1. 「企業・組織からの公式文書」

リリースは、個人の発信ではなく、企業・組織として発する公式の声です。広報担当者が書く場合も、創業者・経営者が自ら書く場合も、組織を代表する文書である点は変わりません。発信した瞬間から、その内容は会社の意志・立場として社会に流通します。だからこそ、ファクト(事実)の正確性、表現の品位、ステークホルダーへの配慮が、ふつうの業務文書よりはるかに厳しく問われます。

2. 「報道機関や社会に向けて」

リリースの宛先は、報道機関の記者だけではありません。配信プラットフォーム(PR TIMES、@Press、Dream News、ValuePress! など)を通じて、配信と同時に Web サイト上で社会に直接公開されます。記者が取り上げなくても、検索エンジン経由で生活者・取引先・株主・採用候補者など、さまざまな読み手に届きます。「報道されること」と「社会に直接届くこと」、その両方が今のリリースの目的です。

3. 「発表する」公式の文書

リリースは「お願い」ではなく「発表」です。報道機関に「載せてください」と頼むのではなく、「こういう事実があります」と知らせるのが本義です。だからこそ、書き手の都合(載せたい・取り上げてほしい)ではなく、読み手の関心(読者・視聴者・社会にとっての意味)で組み立てる発想が求められます。

💡 ポイント プレスリリースは「企業・組織が、報道機関や社会に向けて発表する公式文書」。「載せたい」という発信者の都合ではなく、「使ってもらえる」という読み手側の視点で組み立てる発想が、すべての出発点です。

広告・記事・ニュース・PR の違い

リリースを理解するうえで欠かせないのが、対外発信の 4 つの形態の整理です。

形態 出し手 信頼性の源 費用
広告 企業が出す 媒体に枠を買って掲載 企業が「言っている」 高額(媒体に支払う)
記事 記者・編集者が書く 媒体の編集面 編集者が「選んだ」 媒体経由では発生しない
ニュース 記者が取材して書く 媒体のニュース面 記者が「事実を確認した」 媒体経由では発生しない
プレスリリース 企業が出す 報道機関に届け、配信プラットフォームでも公開 企業が「事実として公表した」 配信プラットフォーム費用程度

広告は「枠を買って自社の主張を載せる」もの、記事・ニュースは「記者・編集者が独自に書く」もの、リリースは「企業が出した一次情報を、記者が取材の土台に使う」ものです。「広告は買う、PR は得る」という対比はよく使われます。ただし現代は、ペイド PR(広告枠を購入したうえで PR 記事を載せる)、スポンサードコンテンツ、ネイティブ広告など、境界が曖昧な発信形態も増えています。本コースでは「狭義のプレスリリース」を扱い、ペイド PR や広告は守備範囲外とします。

メディアの仕組みを理解する

リリースを「使ってもらえる」発想にするには、メディア側の仕組みを理解することが欠かせません。

記者・編集・編成の役割

新聞・雑誌・テレビ・Web メディア、いずれも複数の役割が連携して紙面・番組・記事を作っています。

  • 記者:取材して原稿を書く人。担当業界(業界記者)や担当領域(社会・経済・政治・文化など)を持つ
  • 編集者・デスク:原稿を取捨選択し、見出しを付け、紙面・サイトに並べる人
  • 編成(テレビ・ラジオ):番組全体の組み立てを統括する人
  • 校閲:事実関係と表記を最終チェックする人

リリースが届くのは多くの場合、記者またはニュース受け付けデスクです。記者は1 日に数十〜数百のリリースに目を通し、その中から取材すべきもの・記事化すべきものを選びます。取捨選択の質を上げるのは、リリース自体の「ニュース性」と「読みやすさ」です。

取材体制の現在地

2026 年 6 月時点で、新聞社・雑誌社の取材記者数は長期的な減少傾向にあります。一方、Web メディア(経済系・IT 系・ライフスタイル系・業界専門系)は急速に増加し、Web メディアの記者・編集者の人数は数千名規模に達しています。テレビ局は番組制作会社への外注比率が高まり、リサーチャー・構成作家を含めた取材体制になっています。「リリースの読み手」の総数は減っていません。むしろ、媒体の多様化で増えていると捉えてよい状況です。

業界記者と関係性

新聞社・通信社・主要 Web メディアには、担当業界を持つ「業界記者」がいます。家電業界担当、IT 業界担当、医薬品業界担当——彼ら・彼女らとの中長期的な信頼関係が、リリース掲載の鍵を握ります。1 回の取材で終わらず、業界の動向情報を定期的に提供し続けることで、いざというときの記事化につながりやすくなります。

💡 ポイント リリースは、記者・編集者の取捨選択を経て記事化されます。担当業界を持つ記者との中長期的な信頼関係が、長期的な掲載確率を上げる土台になります。

リリースが目的を達成する 3 つの条件

プレスリリースが「使ってもらえる」ためには、3 つの条件があります。

条件 1:ニュース性(読み手にとって新しい価値があるか)

「新製品を出した」「サービスを開始した」だけでは、ニュース性は低い場合があります。「なぜ、いま、これを伝える必要があるのか」という問いに、社会的な意味で答えられる内容でなければ、記者は取り上げません。新しい事実・新しい切り口・新しい組み合わせ——どれかひとつでも、確実に「新しい」要素が必要です。

条件 2:読みやすさ(30 秒で要点が伝わるか)

記者は 1 日に数十〜数百のリリースに目を通します。読みやすさが悪いリリースは、内容に関わらず読まれません。タイトル 30 文字、リード 5W2H、本文 1,000 〜 2,000 文字程度という標準的な型を守ることで、記者の読み切り率を上げられます。

条件 3:信頼性(事実が確かか、固有名詞が正確か)

固有名詞の誤り、日付の誤り、数字の誤り——これらは記者の信頼を一発で失う原因です。発表内容のファクトチェックは、リリース公開前に必ず複数人で実施します。「事実が確認できないリリース」は、たとえ取り上げられても、後の修正・お詫び対応で広報の信用が大きく毀損します。

ニュース価値の 7 軸

「ニュース性」をもう少し具体的に分解すると、リリースが取り上げられる際に判断される 7 つの軸があります。

内容
新規性 業界・社会で初めての要素があるか 業界初の新サービス、世界初の技術
社会性 社会的な意味・公共性があるか 環境問題、少子高齢化、教育、医療など
話題性 世間で話題のテーマと関連するか トレンド、流行、世論の関心事
季節性 季節・時期と関連するか 新生活、年末年始、夏休み、防災
人物性 注目される人物が関わるか 著名な経営者、有識者、専門家
地域性 特定地域に関わるか 地方創生、地域限定の取り組み
意外性 通常の想定を裏切る要素があるか 業界の常識を覆す、異業種コラボ

リリースを企画する段階で、この 7 軸のうち少なくとも 2 〜 3 軸を満たすかチェックするのが基本です。1 軸も満たさないリリースは、ニュース性が低く、記者の関心を引くことが難しい場合が多くなります。次のレッスン 2 で、この 7 軸を使ってネタを作る発想を具体的に扱います。

本コースの守備範囲

本コースは「プレスリリースの実践」を中核に据えています。具体的には、リリースの位置づけ(L1)、ネタ作り(L2)、構造(L3)、タイトルとリードの作法(L4)、配信先選定(L5)、配信後のフォロー(L6)、SNS・動画・オウンドメディアとの連動(L7)、生成 AI 時代の倫理(L8)の 8 領域を扱います。

一方で、次の領域は本コースの守備範囲外です。

  • 一般的なビジネス文書(メール・報告書・企画書)の作法:別の入門コースを参照
  • SEO・Web マーケティング:別の入門コースを参照
  • 業務全般での生成 AI 活用:別の入門コースを参照
  • 危機広報・レピュテーション管理:本コース修了後の発展領域
  • IR(投資家向け広報):本コース修了後の発展領域
  • メディアリレーション(記者との中長期的な関係構築)の深掘り:本コース修了後の発展領域
  • インターナルコミュニケーション(社内広報):本コース修了後の発展領域

本コースを終えたあと、皆さんの関心・職務に応じて、上記の発展領域に進んでいただける構成です。

講師の現場メモ

私が PR 会社時代、入社 2 年目に担当した化粧品ブランドのリリース失敗が、いまも忘れられません。新商品の発売を、社内で「画期的な成分配合」と自負していました。タイトルに「画期的」「革新的」「驚異の」と修飾語を並べ、本文も「業界の常識を変える」「これまでにない」と煽った 3 ページのリリースを 100 媒体に配信しました。結果は——掲載ゼロ。某新聞の業界担当記者に翌週お会いしたとき、率直に教えていただきました。「橋本さん、あれは『載せたい』が透けて見えますよ。私たちが知りたいのは、何が新しい事実かであって、御社の思いではないんです」。

その日から、私は「載せたい」を頭から消すように意識を変えました。先輩の助言で、リリースを書く前に必ず「なぜ、いま、これを伝える必要があるのか」「これを読んだ読者は何が得をするか」「業界全体にとっての意味は何か」の 3 つを書き出すルールを作りました。修飾語を半分以下に減らし、固有名詞と数値で語る癖をつけ、1 ページに収まる構成を徹底しました。半年後、同じブランドの次のリリースで、業界紙 2 紙、Web メディア 5 媒体に取り上げられました。中身は前回より地味な情報だったのに、です。

それから 25 年。広報の現場で実感しているのは、リリースは「自分が言いたいこと」を発信する場ではなく、「読み手にとっての意味」を翻訳する場だ、ということです。本コースを通じて、その「翻訳の技術」を皆さんと共有していきたいと思います。

まとめ

  • プレスリリースは「企業・組織が報道機関・社会に向けて発表する公式文書」。「載せたい」ではなく「使ってもらえる」発想で組み立てる
  • 広告・記事・ニュース・PR の違い:広告は「枠を買って自社主張」、記事・ニュースは「記者が独自に書く」、PR は「企業が一次情報を出し、記者が記事化の土台に使う」
  • メディアの仕組み:記者・編集者・編成・校閲の役割と、業界記者との中長期的な信頼関係が長期的な掲載確率を上げる
  • 目的達成の 3 条件:ニュース性(読み手にとっての新しい価値)、読みやすさ(30 秒で要点が伝わる)、信頼性(事実とファクトチェック)
  • ニュース価値の 7 軸:新規性・社会性・話題性・季節性・人物性・地域性・意外性。少なくとも 2 〜 3 軸を満たすことを目指す
  • 本コースの守備範囲:プレスリリース実践に集中。一般的なビジネス文書、SEO、生成 AI 業務全般、危機広報、IR、メディアリレーションの深掘り、インターナルコミュニケーションは守備範囲外

次のレッスンでは、ニュース価値の 7 軸を実際に使って、「ネタがない」から「ネタを作る」発想を扱います。社内のネタの掘り起こし方、業界・社会のトレンドへの便乗、調査リリース記念日リリースコラボリリースの作り方を学びます。

確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックする 6 問です。