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スキルアップカレッジ

水産業(漁業法・改正 TAC /IQ /水産流通適正化法・養殖・水産物輸出)

レッスン7:水産業(漁業法・改正 TACIQ /水産流通適正化法・養殖・水産物輸出)

このレッスンで学ぶこと

  • 漁業法(1949 年制定・2018 年 12 月抜本改正・2020 年 12 月施行)と 70 年ぶりの大改正を理解する
  • 改正 TAC /IQ 制度(8 魚種→2030 年 80 % 目標)と資源管理型漁業を掴む
  • 水産流通適正化法(2020 年 12 月成立・2022 年 12 月施行)と IUU 漁業対策を扱う
  • 大手水産 4 社と養殖業(マグロ・ブリ・カキ・ホタテ・海苔)を把握する

前回のレッスンでは、林業(森林・林業基本法木材自給率J-クレジットCLT)を扱いました。今回は、農林水産業の 3 番目の柱——水産業の全体像を扱います。

日本の水産業の現在地

日本の漁業産出額は約 1.5 兆円(2023 年、水産庁 漁業産出額調査)で、就業者は約 12 万人(2023 年、水産庁 漁業就業動向調査)です。かつては世界最大の水産国の 1 つでしたが、以下のような大幅減少を経てきました:

  • 漁業就業者:1953 年 79 万人→1988 年 40 万人→2003 年 24 万人→2023 年 12 万人(70 年で 85 % 減少)
  • 漁業生産量:1984 年ピーク 1,282 万トン→2023 年 388 万トン(40 年で 70 % 減少)
  • 世界のマグロ消費量に占める日本の比率:1980 年約 60 %→2020 年約 15 %

主要な減少要因は、漁業資源の枯渇、乱獲、地球温暖化による海洋環境変化、外国漁船との競合、水産業の高齢化・後継者不足です。

漁業種別構造

日本の漁業は 5 分類されます:

  • 沖合漁業(1 か月未満の航海、まき網・底引き網・棒受け網・かつお一本釣り・イカ釣り):漁業生産量約 200 万トン(52 %)
  • 遠洋漁業(1 か月以上の航海、まぐろ延縄・かつお一本釣り・トロール):約 30 万トン(8 %)、大手水産の中核
  • 沿岸漁業(日帰り操業、小型漁船・定置網・磯漁):約 100 万トン(26 %)
  • 養殖業(海面養殖+内水面養殖):約 100 万トン(26 %)、マグロ・ブリ・カキ・ホタテ・海苔・真珠が主要
  • 内水面漁業(河川・湖沼):約 5 万トン(1 %)、鮎・鰻・鯉・鮒

漁業法の 70 年ぶり大改正

漁業法は 1949 年制定の日本の漁業を規律する基本法で、2018 年 12 月に 70 年ぶりに抜本改正され、2020 年 12 月に施行されました。改正の主要ポイント:

資源管理型漁業への転換

改正前の漁業法は「漁業者の権益保護」に軸足を置いていましたが、改正後は「資源管理型漁業への転換」に軸足を移しました。具体的には:

  • TAC(Total Allowable Catch、漁獲可能量)制度の対象魚種拡大(1996 年制度化 7 魚種→改正後 8 魚種、段階拡大 2030 年 80 % 目標)
  • IQ(Individual Quota、漁船別割当)の本格導入
  • 資源管理計画の策定義務化
  • 資源評価の科学的根拠強化

漁業権制度の改革

改正前の漁業権制度(沿岸海域の漁業権を漁業協同組合=漁協が独占)が改正で以下のように変更されました:

  • 沿岸漁業権(区画漁業権・共同漁業権)の付与プロセスの透明化
  • 新規参入者(民間企業・IT 系新興)の参入促進
  • 漁業権の効率的利用を優先する仕組み
  • 漁協への漁業権付与の見直し

これは伝統的な漁協・漁業者団体からの強い反発を招きましたが、水産業の担い手不足と資源枯渇への対応として法改正が実施されました。

TAC /IQ の対象魚種

現在 TAC 対象は 8 魚種:サンマ・サバ類・スケトウダラ・マアジ・マイワシ・ズワイガニ・スルメイカ・クロマグロ(大型魚 30 kg 以上)。政府は 2030 年までに漁獲量の 80 % 以上を TAC /IQ で管理することを目標にしており、順次拡大中です(2023 年時点では約 60 %)。

水産流通適正化法(IUU 漁業対策)

水産流通適正化法(正式名称:特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律、2020 年 12 月 4 日成立・2022 年 12 月 1 日施行)は、IUU(Illegal, Unreported, Unregulated、違法・無報告・無規制)漁業への対策法です。

対象魚種は当初 4 種(アワビ・ナマコ・シラスウナギ・特定水産動植物)で、2024 年 12 月にサケ・マス・タコの追加が予定されています。主な規定:

  • 漁業者の届出制(漁獲情報の記録)
  • 事業者間流通の記録義務
  • 販売時の情報伝達義務
  • 輸入水産物の適法漁獲証明書要求
  • 違反への罰則

背景は、密漁・違法漁獲された水産物の流通防止と、国際的な IUU 漁業対策強化の要請です。EU IUU 規制(2010 年施行)、米国 SIMP(Seafood Import Monitoring Program、2018 年施行)との整合性確保も目的です。

大手水産 4 社

日本の大手水産業は 4 社に集約されています。

マルハニチロ

マルハニチロは 2007 年にマルハ(大洋漁業系)とニチロ(旧・日本水産系)の統合で発足した、日本最大の水産会社。売上約 1 兆円(2024 年 3 月期)、従業員約 12,000 人。事業は水産(漁業・養殖・水産商事)+食品(冷凍食品・缶詰・調理食品)+物流の統合構造です。主要ブランドは「あけぼの」(サケ缶)、「aqli」(水産ブランド)、「マルハニチロ 冷凍食品」など。

ニッスイ(旧・日本水産)

ニッスイは 1911 年設立、2022 年 12 月社名変更(旧・日本水産→ニッスイ)。売上約 8,000 億円(2024 年 3 月期)、従業員約 10,000 人。マルハニチロ同様、水産+食品+物流の統合企業。主要ブランドは「北海道浜ゆで」(ホタテ・カニ)、「日本のギョーザ」、「大人のグラタン」など。

極洋

極洋は 1937 年設立、売上約 2,700 億円(2024 年 3 月期)、従業員約 1,500 人。マグロ・カツオ・エビ・イカなどの水産物流通・加工が主力。すし・弁当向け食材の大手供給者で、外食チェーンとの取引が中核です。

宝幸

宝幸は 2010 年設立(旧・日本ハムグループの水産子会社統合)、売上約 1,000 億円、日本ハムの傘下。缶詰(サバ・イワシ・シーチキン)、冷凍食品の水産加工が主力です。

養殖業

日本の養殖業は、海面養殖と内水面養殖に区分されます。

海面養殖の主要魚種

  • ブリ類:ハマチ・カンパチ、生産量約 14 万トン、養殖業の中核
  • クロマグロ:畜養(天然幼魚を養殖)と完全養殖(近畿大学 2002 年世界初)、生産量約 2 万トン
  • カキ:広島県・宮城県が主産地、生産量約 15 万トン
  • ホタテ:北海道(サロマ湖・噴火湾)、宮城県、生産量約 20 万トン、輸出主力品目
  • 海苔(ノリ):有明海・瀬戸内海が主産地、生産量約 7 万トン
  • 真珠:三重県(アコヤガイ)・愛媛県が主産地
  • サーモン:主に「銀サケ」(ギンザケ)、宮城県・北海道が主産地
  • 太刀魚・タイ・ヒラメ・トラフグの陸上養殖

内水面養殖の主要魚種

  • ニジマス(マス養殖の中核)
  • 鰻(ウナギ、シラスウナギから養殖、静岡県・鹿児島県・愛知県が主産地)
  • 鮎、鯉、フナ

完全養殖の広がり

完全養殖(人工孵化→養殖→採卵→再度人工孵化のサイクル)は、天然資源に依存しない持続可能な養殖方式として注目されています。近畿大学水産研究所が 2002 年に世界初のクロマグロ完全養殖を達成したことを契機に、日本でも複数魚種の完全養殖化が進行中:

  • クロマグロ(近畿大学 2002 年→2015 年商用化)
  • ウナギ(水産研究・教育機構 2010 年完全養殖成功、商用化には未達)
  • アマゴ、ヒラメ、マダイ、シマアジ

水産物輸出と 2024 年中国禁輸

日本の水産物輸出は、2013 年 2,216 億円→2023 年 3,901 億円(78 % 増)と成長してきました。主要輸出品目:

  • ホタテ:689 億円(対中国が中心だったが 2023 年 8 月禁輸で減少)
  • ブリ・カンパチ:402 億円
  • サバ:188 億円
  • サケ・マス:174 億円
  • 真珠:262 億円

2023 年 8 月中国禁輸ショック

2023 年 8 月 24 日、中国は福島第一原発の処理水放出を理由に、日本産水産物の全面輸入禁止を発表しました。これにより:

  • ホタテの対中国輸出額 640 億円 / 年が急停止
  • 北海道・青森・宮城など主要産地に大打撃
  • 中国依存の輸出構造の脆弱性が露呈

政府と業界は輸出先多角化に取り組み、2024 年後半には東南アジア(ベトナム・タイ・シンガポール)、米国、EU、中東への転換が進んでいます。2024 年時点で中国は日本産水産物輸入禁止を継続していますが、部分的な緩和(他国経由)や規制対象の見直しの動きもあります。

水産庁の資源管理政策

水産庁は 2020 年 3 月に「水産資源の管理政策(新たな資源管理システム)」を策定し、以下の目標を掲げました:

  • 2030 年までに漁獲可能量(TAC /IQ )による資源管理を漁獲量の 80 % に拡大
  • 資源評価の科学的根拠強化(水産研究・教育機構による評価対象魚種の拡大)
  • MSY(Maximum Sustainable Yield、最大持続生産量)ベースの資源管理
  • 減船補償と新船建造支援
  • 漁業経営体の法人化・大規模化

一方、伝統的な沿岸漁業者からは「大企業に有利で家族漁業を追いやる政策」との批判もあり、政策実施のバランスが問われています。

大手商社の水産事業

大手商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅)は、水産事業でも大きな存在感を持ちます:

  • 三菱商事:ノルウェーサーモン養殖(Cermaq)を子会社化 2014 年、世界的な水産事業展開
  • 三井物産:チリのサーモン養殖会社 SalmonChile への投資、Blue Green Alliance
  • 伊藤忠商事:食品部門で水産物調達・加工の垂直統合
  • 住友商事:チリ・ペルーの水産事業、養殖業への投資
  • 丸紅:東南アジアのエビ養殖への投資

商社の水産事業は「世界のバリューチェーン統合」を強みに、日本の水産商流を支えています。

📝 補足 日本の水産業は「担い手不足」「資源枯渇」「気候変動による資源変化」「国際競争」の 4 重苦に直面しています。1980 年代の世界最大水産国から、2020 年代には中国・インドネシアに次ぐ位置に後退しました。ただし、養殖業・水産物輸出・大手水産の統合・完全養殖など、新たな戦略も進行中で、日本の水産業の再定義期に入っています。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 日本の漁業産出額約 1.5 兆円、就業者約 12 万人(1953 年 79 万→2023 年 12 万で 70 年で 85 % 減少)
  • 漁業生産量:1984 年ピーク 1,282 万トン→2023 年 388 万トン(40 年で 70 % 減少)
  • 漁業種別:沖合漁業 52 %/養殖業 26 %/沿岸漁業 26 %/遠洋漁業 8 %/内水面漁業 1 %
  • 漁業法は 1949 年制定・2018 年 12 月 70 年ぶり抜本改正・2020 年 12 月施行、資源管理型漁業への転換
  • TAC 対象 8 魚種(サンマ・サバ類・スケトウダラ・マアジ・マイワシ・ズワイガニ・スルメイカ・クロマグロ)、政府目標 2030 年 80 %
  • 水産流通適正化法 2020 年 12 月 4 日成立・2022 年 12 月 1 日施行、対象 4 種(アワビ・ナマコ・シラスウナギ・特定水産動植物)+2024 年 12 月にサケ・マス・タコ追加予定
  • 大手水産 4 社:マルハニチロ(2007 年統合、売上約 1 兆円)/ニッスイ(1911 年設立、2022 年 12 月社名変更、8,000 億円)/極洋(1937 年、2,700 億円)/宝幸(2010 年、1,000 億円)
  • 主要養殖魚種:ブリ 14 万トン・クロマグロ 2 万トン(近畿大学 2002 年世界初完全養殖)・カキ 15 万トン・ホタテ 20 万トン・海苔 7 万トン・銀サケ・真珠
  • 水産物輸出:2013 年 2,216 億円→2023 年 3,901 億円、主要品目 ホタテ 689 億円・ブリ 402 億円・サバ 188 億円・サケ 174 億円・真珠 262 億円
  • 2023 年 8 月 24 日中国禁輸ショック:ホタテ対中国輸出 640 億円 / 年急停止、東南アジア・米国・EU・中東への多角化進行
  • 大手商社水産事業:三菱商事(Cermaq ノルウェーサーモン)/三井物産(SalmonChile)/伊藤忠/住友/丸紅

次のレッスンでは、スマート農業アグリテック・スタートアップ、外国人労働力(EPA /技能実習/育成就労/特定技能)、農林漁業金融、修了後の継続学習方向を扱います。


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