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スキルアップカレッジ

バリューチェーンと業態別ビジネスモデル

レッスン2:バリューチェーンと業態別ビジネスモデル

このレッスンで学ぶこと

  • 農業・林業・漁業の 3 業種別バリューチェーンを理解する
  • 業態別収益モデル(家族経営/法人経営/JA 系統流通/産地直販/EC /輸出)を比較する
  • 業態別組織構造と主要 KPI を掴む
  • 業界横断の 5 経営課題(担い手不足・気候変動・輸入依存・農林漁業金融・CBAM 対応)を把握する

前回のレッスンでは、農林水産業の 3 領域と 3 大機能、日本経済における位置(合計約 36 兆円・就業者約 200 万人)、業界を取り巻く 4 構造変化、本コースの 3 共通言語(制度・自然・時間)を扱いました。今回は、業界の経済構造を「バリューチェーン」と「業態別ビジネスモデル」の視点から読み解きます。

農業のバリューチェーン

農業のバリューチェーンは、生産・出荷・流通・小売の 4 段階で整理できます。

第 1 段階の生産は、種苗調達→農地準備→播種/植付→栽培管理(施肥・農薬・水管理・除草)→収穫の一連のプロセスです。稲作、野菜作、果樹作、畜産、酪農、養鶏で作業内容と時間軸が大きく異なります。

第 2 段階の出荷は、収穫物の乾燥・選別・包装・冷蔵の作業です。JA の共同利用施設(カントリーエレベーター、選果場、集荷場)を利用する場合と、農家が独自の出荷設備を持つ場合に区分されます。

第 3 段階の流通は、以下の 3 主要ルートで消費地に届けられます:

  • JA 系統流通:農家→JA(農協)→経済連(都道府県連合会)→全農(全国連合会)→卸→小売
  • 産地直販:農家→道の駅・直売所・EC ・ふるさと納税→消費者
  • 契約栽培:農家→食品加工業・大手小売・外食チェーンへの直接契約販売

第 4 段階の小売は、食品スーパー・百貨店食品売場・生協・ドラッグストア・コンビニ・食品 EC ・外食チェーン・給食などが該当します。

支援活動としては、農機(クボタ・井関農機・ヤンマー)、農薬(住友化学・クミアイ化学・日本農薬)、肥料(片倉コープアグリ・多木化学)、種苗(サカタのタネ・タキイ種苗・カネコ種苗)、農業金融(日本政策金融公庫農林水産事業・JA バンク)、農業保険(JA 共済・NOSAI )が主活動を支えます。

林業のバリューチェーン

林業のバリューチェーンは、造林・保育・伐採・素材生産・製材の 5 段階で整理できます。

第 1 段階の造林は、苗木植栽・地拵え・下刈り。第 2 段階の保育は、間伐・枝打ち・除伐(20-40 年)。第 3 段階の伐採は、主伐(30-60 年後)。第 4 段階の素材生産は、集材・造材・運搬。第 5 段階の製材は、丸太→板材・角材・合板・LVLCLT への加工です。

林業の特徴は、時間軸が 30-60 年と極めて長いことです。今日植えた苗が伐採可能になるのは 2050-2080 年頃で、投資回収期間の長さから民間資本が入りにくく、国有林・森林組合・地方自治体・大手林業(住友林業・王子ホールディングス)が主要プレイヤーです。

漁業のバリューチェーン

漁業のバリューチェーンは、漁獲/養殖・水揚げ・産地卸・消費地卸・小売の 5 段階で整理できます。

第 1 段階の漁獲/養殖は、漁船漁業(沖合・遠洋・沿岸)と養殖業(マグロ・ブリ・カキ・ホタテ・海苔・真珠・エビ)の 2 系統。第 2 段階の水揚げは、産地魚市場(築地→豊洲市場、下関、境港、銚子、焼津など全国 300 か所)での競り。第 3 段階の産地卸は、産地仲買から地域市場・大手水産商社へ。第 4 段階の消費地卸は、大都市の中央卸売市場(豊洲・大阪本場・名古屋本場)→仲卸→小売。第 5 段階の小売は、鮮魚専門店・食品スーパー・回転寿司チェーン・外食寿司店です。

近年は「相対取引」(産地から大手小売・外食チェーンへの直接取引)が増え、卸市場の位置づけが相対的に低下しつつあります。

業態別収益モデル比較

農林水産業の業態別の収益モデルは大きく異なります。

家族経営(農業約 85 万経営体)の基本式は「売上 = 生産物量 × 販売単価 − 生産コスト」で、規模は年間売上数百万〜数千万円が中心。JA 系統出荷が主要チャネルで、農業所得は補助金・共済金・農地補助が加わって年間 200-500 万円程度が中心帯です。

農業法人(約 3.4 万法人)の基本式は家族経営と同じですが、規模が大きく(年間売上数千万〜数十億円)、複数農地の一体運営、正社員雇用、複数作物のポートフォリオ、6 次産業化などで効率化を図ります。農地所有適格法人(旧・農業生産法人)は、農地法上で農地取得が可能な法人形態です。

集落営農(約 1.4 万経営体)は、集落単位で農地を一体運営する組織で、農作業の共同化、機械の共同購入、集落内相互扶助を担います。多くは任意組織で、一部は法人化しています。

JA 系統流通は、農産物流通の伝統的な主流ルートですが、市場シェアは低下傾向にあります。米は約 40 %、野菜は約 30 %、果実は約 40 % が JA 系統経由(他は市場外取引)です。

産地直販・EC は、道の駅・ファーマーズマーケット・食べチョク(2017 年設立、ビビッドガーデン)・ポケットマルシェ(2016 年設立、雨風太陽)・JA タウン・ふるさと納税(2008 年制度化、市場約 1.1 兆円)などで急拡大中です。

輸出は、農産物・食品輸出額 2024 年約 1.5 兆円(2030 年 5 兆円目標)で、香港・中国・米国・台湾への輸出が主流。牛肉、水産物、果実、ホタテ、日本酒、清涼飲料水が主要輸出品目です。

業態別組織構造と主要 KPI

農業法人の組織構造は、経営者(代表理事・社長)+営農責任者+作業責任者+現場作業員(正社員+パート+外国人労働者)で、規模により 5-100 人体制。主要 KPI は 10a 当たり収量(kg)、単位面積当たり労働時間、単位面積当たり売上、経営耕地面積、平均年齢、外国人労働者比率などです。

林業事業体の組織構造は、森林所有者、森林組合、素材生産業(伐採専業)、造林請負業、製材業の垂直分業構造です。主要 KPI は素材生産量(m³)、林道整備率、機械化率、人時生産性、雇用継続率などです。

水産業の組織構造は、漁船経営体(船主+漁労長+乗組員 5-30 人)と養殖業経営体(家族経営 or 法人経営)の 2 系統。主要 KPI は漁獲量(トン)、単価、水揚げ額、経費率、漁船稼働日数、養殖歩留まり、餌料コスト比率などです。

大手食品メーカーの組織構造は、経営本部+事業本部(食品・飲料・調味料・冷凍・水産等)+研究開発本部+原料調達部+工場(全国複数拠点)+営業本部+管理本部の複数部門体制で、従業員 5,000-10,000 人規模が中心です。

大手水産の組織構造は、経営本部+水産部門(漁業・養殖・水産商事)+食品部門(冷凍食品・缶詰・調理食品)+調達部(世界の水産商流)+物流部+営業本部+管理本部で、従業員 5,000-15,000 人規模が中心です。

業界横断の 5 経営課題

農林水産業のプレイヤーが 2020 年代後半に直面する経営課題は、業種を跨いで共通する 5 つがあります。

第 1 の担い手不足です。基幹的農業従事者は 2010 年 205 万→2024 年 111 万と 46 % 減少、林業就業者は 2000 年 6.8 万→2024 年 4 万、漁業就業者は 2003 年 24 万→2024 年 12 万と、いずれも大幅減少しています。規模拡大、法人化、スマート農業、外国人労働力の活用が対応策として広がっています。

第 2 の気候変動です。水稲の高温障害(コシヒカリ栽培北上)、果樹の栽培適地北上(りんご→青森→北海道、みかん→静岡→千葉)、集中豪雨・干ばつ・台風の頻発、水産資源の変化(サンマ・スルメイカの不漁、ホタテ・カツオの豊漁)が業界横断で進行しています。品種改良、栽培技術のイノベーション、リスク管理が対応策です。

第 3 の輸入依存です。カロリーベース自給率 38 % は、穀物 29 %、油脂 3 %、砂糖 34 %、畜産物 17 %(飼料自給率考慮)と、主要品目で輸入依存が大きい構造です。2022 年ロシア・ウクライナ以降の穀物価格高騰、円安、地政学リスクで、食料安全保障が国家的テーマになりました。

第 4 の農林漁業金融です。日本政策金融公庫農林水産事業(融資残高約 3 兆円)、JA バンク(貯金残高約 110 兆円、農業融資残高約 3.5 兆円)、農林中央金庫(総資産約 90 兆円)が主要な融資元です。近年は農業スタートアップへの VC 投資(Universal Materials Incubator、リアルテックファンド、AgFunder)も拡大しています。

第 5 の EU CBAM 対応です。EU CBAM(炭素国境調整措置、2023 年 5 月採択・2026 年 1 月本格施行、対象 6 分野:鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素)で、肥料が対象となっており、日本の肥料メーカーは EU 輸出時の CO₂ 排出量算定・報告が必要になりました。将来的に食品・農産物への対象拡大も議論されています。

⚠️ 注意 5 経営課題は独立ではなく相互に絡み合います。担い手不足で規模拡大・法人化が加速し、気候変動で栽培技術のイノベーションが必要になり、輸入依存で輸出戦略と国内生産強化の両輪が求められ、農林漁業金融でスタートアップへの資金供給が広がる中で、EU CBAM 対応で環境負荷低減の可視化が求められます。多重課題への同時対応が業界の中長期テーマです。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 農業バリューチェーンは 4 段階(生産・出荷・流通・小売)、JA 系統流通/産地直販/契約栽培の 3 主要ルート
  • 林業バリューチェーンは 5 段階(造林・保育・伐採・素材生産・製材)、時間軸 30-60 年で民間資本入りにくい
  • 漁業バリューチェーンは 5 段階(漁獲/養殖・水揚げ・産地卸・消費地卸・小売)、産地魚市場約 300 か所
  • 業態別収益モデル:家族経営(年間 200-500 万円が中心)/農業法人約 3.4 万(数千万〜数十億円)/集落営農約 1.4 万/JA 系統流通(米 40 %・野菜 30 %・果実 40 %)/産地直販・EC(食べチョク 2017 年/ポケットマルシェ 2016 年/ふるさと納税 2008 年約 1.1 兆円)/輸出約 1.5 兆円(2030 年 5 兆円目標)
  • 業態別組織構造:農業法人 5-100 人体制/林業事業体は垂直分業/水産業は漁船経営体+養殖業経営体/大手食品メーカー・水産は 5,000-15,000 人規模
  • 業界横断 5 経営課題:担い手不足・気候変動・輸入依存・農林漁業金融・EU CBAM 対応

次のレッスンでは、農業を規律する 3 法体系(農地法・農業経営基盤強化促進法農協法)と JA グループ農業委員会、水田活用交付金、食糧法を扱います。


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