引当金・減価償却の月次計上
レッスン5:引当金・減価償却の月次計上
このレッスンで学ぶこと
- 減価償却の月割計算(定額法・定率法)を組み立てられる
- 貸倒引当金の 3 区分(一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等)を判別できる
- 賞与引当金・退職給付引当金の月次繰入の考え方を語れる
- 引当金の 4 要件を確認して、計上可否を判断できる
- 税効果会計の入口(一時差異と繰延税金)をイメージできる
前レッスンでは経過勘定で「サービスと現金のズレ」を月次で調整しました。本レッスンでは、「未来の負担を月々に分ける」もう 1 つの決算整理仕訳、引当金と減価償却を扱います。
減価償却の月次計上
減価償却は、建物・機械・車両・ソフトウェアなど、複数年にわたって使う資産の取得費用を、使用期間に按分して費用計上する処理です。中核メッセージ 4「引当金・減価償却は『未来の負担』を月々に分ける仕組み」の代表例です。
なぜ減価償却するのか
例えば 1,000 万円の機械を買って 10 年使う場合、購入した月に 1,000 万円全額を費用にしてしまうと、その月だけ大赤字になり、翌月以降は「機械のコストがゼロ」に見えます。実際には 10 年間使い続けているのに、費用が 1 か月に集中してしまい、経営判断に使えません。減価償却は、この費用を 10 年間に按分することで、機械を使っている期間の実力を正しく示す道具です。
定額法と定率法
主な計算方法は 2 つです。
定額法:耐用年数の間、毎年同じ金額を費用計上
- 年間償却額 = 取得価額 ÷ 耐用年数
- 建物・ソフトウェアなど、比較的緩やかに価値が減る資産に使う
定率法:残存簿価に一定の率をかけて費用計上(初年度が多く、年々減る)
- 年間償却額 = 期首簿価 × 償却率
- 機械・車両など、初期に価値が大きく落ちる資産に使う
月次への月割
年間償却額が計算できたら、12 か月で割って月次計上します。
例:1,000 万円の機械、耐用年数 10 年、定額法
- 年間償却額 = 10,000,000 ÷ 10 = 1,000,000 円
- 月次償却額 = 1,000,000 ÷ 12 = 約 83,333 円
月次仕訳
- 借方:減価償却費 83,333 円
- 貸方:減価償却累計額 83,333 円(間接法)
- 【または】貸方:機械装置 83,333 円(直接法)
💡 ポイント 月次計上は年次決算のときにまとめて計上する会社もありますが、月次経営レポートで正しい営業利益を出すためには、月次計上が必須です。月次計上を怠ると、決算月だけ費用が急増して赤字になり、経営判断が歪みます。
期中取得資産の扱い
年度の途中で買った資産は、月割で按分します。10 月に 1,200 万円の機械(耐用年数 10 年、定額法)を買った場合、当年度は 10 月〜3 月の 6 か月分だけ計上します。
- 年間償却額 = 12,000,000 ÷ 10 = 1,200,000 円
- 月次償却額 = 1,200,000 ÷ 12 = 100,000 円
- 10 月〜3 月の当年度計上額 = 100,000 × 6 = 600,000 円
貸倒引当金の月次計上
売掛金・受取手形・貸付金など「相手から回収する予定の債権」は、相手企業が倒産すれば回収不能になります。この将来の損失に備えて、あらかじめ費用計上しておくのが貸倒引当金です。
貸倒引当金 3 区分
金融商品会計基準では、債権を 3 つに区分して、それぞれ異なる方法で貸倒引当金を計算します。
| 区分 | 対象 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 一般債権 | 正常な取引先 | 過去の貸倒実績率で一括計算 |
| 貸倒懸念債権 | 経営困難な取引先 | 個別に回収可能額を評価 |
| 破産更生債権等 | 倒産・再生手続中の取引先 | 個別に回収可能額を評価(原則ほぼ全額引当) |
一般債権の貸倒実績率法
過去 3 年間の実績で「売掛金のうち何%が回収不能になったか」を計算し、当期末の売掛金残高に掛けて引当額を算定します。
例
- 過去 3 年の貸倒率平均:0.5%
- 当期末売掛金残高:500,000,000 円
- 貸倒引当金:500,000,000 × 0.005 = 2,500,000 円
前月末の引当金残高との差額を月次で繰入・戻入します。
月次仕訳(繰入の場合)
- 借方:貸倒引当金繰入額 100,000 円
- 貸方:貸倒引当金 100,000 円
貸倒懸念債権・破産更生債権等
特定の取引先について、経営情報(開示情報・取引継続性・支払状況)で懸念が生じた場合、個別に「回収可能額」を評価して引当てます。破産手続開始・民事再生手続開始などが公になった場合は、破産更生債権等として原則ほぼ全額を引当てます。
⚠️ 注意 貸倒懸念の判断は財務諸表監査で最も指摘を受けやすい領域の 1 つです。「大丈夫だと思う」で引当を後回しにすると、実際に貸倒が発生したときに「知っていたのに引当てなかった」という重大な指摘につながります。判断根拠は必ず書面で残すのが実務の型です。
賞与引当金の月次繰入
賞与は「支給時に費用にする」のではなく、「支給対象期間に按分して費用にする」のが発生主義の原則です。
賞与引当金の考え方
例えば、6 月支給の夏季賞与(支給対象期間:前年 12 月〜当年 5 月の 6 か月)が総額 6,000 万円の見込みなら、12 月から 5 月まで毎月 1,000 万円ずつ引当計上します。
月次仕訳(12 月〜5 月まで毎月)
- 借方:賞与引当金繰入額 10,000,000 円
- 貸方:賞与引当金 10,000,000 円
6 月支給時
- 借方:賞与引当金 60,000,000 円
- 貸方:預金 48,000,000 円(源泉徴収後)
- 貸方:預り金 12,000,000 円(源泉所得税・社会保険料の従業員負担分)
こうすることで、6 月だけ大きな費用が計上されるのではなく、対象期間に費用が按分され、月次 P/L が実態を映します。
支給見込額の算定
賞与引当金の計算には、支給見込額の予想が必要です。実務では、①賞与規定に基づく標準支給倍率、②業績連動係数、③人員数、を掛け合わせて毎月末に更新します。予想と実績にズレがあれば、翌月以降で調整します。
退職給付引当金の月次繰入
退職金・退職年金は、従業員が退職したときにまとめて支払いますが、費用の実質は「毎月の労務提供に対応」しています。したがって発生主義では、退職時に費用にするのではなく、勤務期間に按分して費用にするのが原則です。
中堅企業の実務
退職給付引当金の計算は、退職給付債務(PBO)・年金資産・数理計算上の差異など、精算的な計算が必要になり、外部の年金数理コンサルタントに依頼するのが一般的です。中堅企業の経理担当者は、年 1〜2 回の数理計算結果を受け取って、月次では 12 分の 1 ずつ繰入する運用が多く見られます。
月次仕訳
- 借方:退職給付費用 500,000 円
- 貸方:退職給付引当金 500,000 円
中小企業の特例
従業員 300 人未満の中小企業では、簡便法(自己都合要支給額方式)が使えます。この場合、期末に「もし全員が今月末で自己都合退職したらいくら払う必要があるか」を計算し、前期末との差額を費用計上します。
引当金計上の 4 要件
引当金は「未来の費用を先に計上する」ため、恣意的に計上すると利益操作の温床になります。企業会計原則では、引当金の計上は 4 要件を満たす場合に限られます。
- 将来の特定の費用または損失であること
- 発生が当期以前の事象に起因すること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額を合理的に見積もれること
この 4 要件を満たさない「将来かもしれない費用」を引当計上すると、企業会計原則違反になります。判断に迷う場合は、監査法人・税理士に確認するのが安全です。
税効果会計の入口——一時差異と繰延税金
引当金・減価償却で「会計上の費用計上」と「税務上の損金算入」がズレると、税効果会計の対象になります。
例:賞与引当金の一時差異
会計上は 12 月〜5 月まで毎月 1,000 万円ずつ賞与引当金を繰り入れて費用計上しますが、税務上は「引当金は原則損金にならず、支給時に損金算入」です。したがって、会計と税務で費用計上のタイミングがズレます。このズレを「一時差異」と呼び、将来の税金の減額効果(繰延税金資産)または増額効果(繰延税金負債)として B/S に計上します。
月次仕訳(繰延税金資産の増加)
- 借方:繰延税金資産 3,000,000 円
- 貸方:法人税等調整額 3,000,000 円(実効税率 30% で計算)
📖 もっと詳しく 税効果会計の詳細は、日本公認会計士協会「会計制度委員会報告第 10 号 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」に体系的に整理されています。中堅企業経理担当者としては「会計と税務は違う、そのズレを B/S で調整する」という概念の理解が第一歩で、細かい計算は年次で税理士と組んで整理する運用が一般的です。
中核メッセージ 6 個の再掲
本コース全体を通じて、6 個のメッセージを繰り返します。
- 月次決算は「早く・正しく・意味を持って」——3 つのバランスを取る仕事
- 仕訳は結果ではなく判断の記録——なぜその科目を選んだかを説明できる状態にする
- 経過勘定は「期間帰属」の思想を守る道具——月をまたぐ取引を歪めない
- 引当金・減価償却は「未来の負担」を月々に分ける仕組み
- 部門別損益は責任会計——数字が動く場所と動かす人を対応させる
- 経理 DX は仕訳を減らす技術——電帳法・インボイスは制度対応ではなく業務再設計の起点
このレッスンで扱うのはメッセージ 4「引当金・減価償却は未来の負担を月々に分ける仕組み」です。減価償却で複数年の投資を、賞与引当金で 6 か月の労務対価を、退職給付引当金で数十年の勤務期間を、月々の費用に按分することで、月次 P/L が実力を反映するようになります。
次のレッスンで扱うこと
次のレッスン 6 では、月次で作った数字を「部門別」に切り分ける実務を扱います。部門コードの設計、共通費配賦、月次予実レビュー、差異分析、責任会計の原則までを整理します。全社の月次数字を、事業部単位・拠点単位の意思決定に使える形にするための工程です。
確認クイズ
このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。