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スキルアップカレッジ

月次決算の全体フロー——試算表から月次レポートまで

レッスン2:月次決算の全体フロー——試算表から月次レポートまで

このレッスンで学ぶこと

  • 月次決算の 6 ステップ(伝票入力→試算表→残高確認→決算整理→月次 P/L・B/S→月次レポート)を追える
  • 各ステップで経理担当者が何をして、どこで詰まりやすいかを把握できる
  • Excel と会計ソフトの役割分担を整理できる
  • 事業部データの回収スケジュールと経理部の処理スケジュールの依存関係を理解できる
  • 月次決算をチームで分業するときの区切り方をイメージできる

前レッスンでは月次決算の目的と年次決算との違い、翌月 10 営業日目の意味を整理しました。本レッスンでは、その 10 営業日をどう使うかを、6 ステップに分解して追いかけます。ここが月次決算の背骨です。

月次決算 6 ステップの全体像

月次決算は、ざっくり次の 6 ステップで進みます。会社の規模や業種で細部は変わりますが、骨格はどこも同じです。

flowchart LR
  A[1 伝票入力] --> B[2 試算表出力]
  B --> C[3 残高確認]
  C --> D[4 決算整理仕訳]
  D --> E[5 月次 P/L・B/S 確定]
  E --> F[6 月次レポート提出]

前半 3 ステップ(伝票入力→試算表→残高確認)が「入力と確認」の工程、後半 3 ステップ(決算整理→月次 P/L・B/S→月次レポート)が「整理と提出」の工程です。前半で数字を集め、後半で意味を持たせる、と整理すると全体像が掴みやすくなります。

ステップ 1:伝票入力

月次決算は「毎日の伝票入力の積み重ね」から始まります。月末になってから 1 か月分をまとめて入力する会社は、翌月 10 営業日目に月次を締めることは物理的に困難です。日次で回っていることが前提です。

伝票入力の主なソース

  • 売上伝票:販売管理システム・EC カート・受発注システムから会計ソフトへ連携
  • 仕入伝票:購買管理システム・請求書 OCR から会計ソフトへ連携
  • 経費伝票:経費精算システム(楽楽精算・Concur・freee 経費など)から会計ソフトへ連携
  • 給与伝票:給与計算システム(弥生給与・freee 人事労務・SmartHR など)から会計ソフトへ連携
  • 銀行取引:Bank Data の API 連携で会計ソフトへ自動取り込み

これらを都度、正しい勘定科目・部門・補助科目を付けて入力していきます。

💡 ポイント 「伝票入力」と一言で言っても、実務では「システム間連携で自動入力」される部分と、「経理担当者が手動で判断して入力」する部分の 2 種類が混在します。自動連携の比率を高めることが経理 DX の中心テーマで、本コースのレッスン 7 で詳しく扱います。

月次締めまでに入れきる工夫

事業部側からデータが上がってこないと、経理は入力できません。営業部門・購買部門・経費精算締切のスケジュールを事業部と合意しておくことが月次スピードの鍵です。

  • 売上:翌月第 1 営業日までに前月分の請求書発行を完了
  • 仕入:翌月第 3 営業日までに前月分の請求書受領・検収を完了
  • 経費:翌月第 5 営業日までに前月分の経費精算を締切

この 3 つの締切が守られれば、経理は 6 営業日目から後半の作業に入れます。

ステップ 2:試算表出力

すべての伝票が入力されたら、会計ソフトから試算表(合計残高試算表、TB: Trial Balance)を出力します。試算表とは、勘定科目ごとに借方貸方の合計額と残高を一覧で示した表です。

試算表の 2 つの形式

  • 合計試算表:各勘定科目の借方・貸方の合計金額のみ
  • 残高試算表:各勘定科目の残高(借方残高または貸方残高)のみ
  • 合計残高試算表:両方を並べた形式(実務ではこれが標準)

月次決算では、合計残高試算表を出して、期首残高+当月発生=当月末残高が正しく積み上がっているかを確認します。

試算表が合わないときの原因

複式簿記では借方合計と貸方合計は必ず一致します(貸借平均の原則)。会計ソフトを使っていれば強制的に一致するため、「試算表が合わない」ことはほぼありません。ただし、次のようなケースで違和感が出ることがあります。

  • ある勘定科目の残高が「マイナス」で表示される(貸借逆の入力)
  • 現預金残高が銀行残高と一致しない(未取込取引や誤入力)
  • 売掛金残高が売上補助元帳と一致しない(消込漏れ)

これらは次のステップ「残高確認」で捕捉します。

ステップ 3:残高確認

試算表を出したら、主要科目の残高を「実物」または「別システム」と突合します。この工程を怠ると、月次決算は「数字が並んでいるだけで意味を持たない書類」になってしまいます。

主要科目の突合先

勘定科目 突合先
現金 現金実査結果(金種表)
預金 銀行残高証明書・通帳・ネットバンキング残高
売掛金 販売管理システムの売掛金元帳・年齢別残高
買掛金 購買管理システムの買掛金元帳
棚卸資産 在庫管理システム・実地棚卸(原価計算体系の詳細は業種別の入門コースを参照)
貸付金・借入金 契約書・返済スケジュール表
有形固定資産 固定資産管理システム・固定資産台帳

差異が出たときの対処

差異が出た場合は、①差異の金額、②差異の発生時期、③差異の性質(時ズレか誤入力か)を分けて分析します。多くの場合、時ズレ(未取込・未計上)が原因で、翌月の入金や仕訳で解消します。誤入力の場合は当月内に修正仕訳を切ります。

⚠️ 注意 「差異が小さいから放置」は年次決算で大きな問題になります。数百円の残高不一致が長期に放置されると、原因追及が難しくなり、監査対応でも指摘の対象になります。月次のうちに解消するのが原則です。

ステップ 4:決算整理仕訳

伝票入力と残高確認が終わっても、まだ月次決算は完了しません。「月次で本来認識すべき費用・収益」を追加で計上する必要があります。これが決算整理仕訳です。本コースのレッスン 4・5 で詳しく扱いますが、代表的なものを先に列挙します。

  • 減価償却費の月次計上
  • 経過勘定(前払費用・未払費用・前受収益未収収益)の月次計上
  • 賞与引当金の月次繰入
  • 貸倒引当金の見直し
  • 外貨建て資産・負債の為替評価替え(外貨建取引がある場合)
  • 棚卸資産の実地棚卸調整(月次で実地しない場合は概算)

これらを月次で計上することで、月次 P/L・B/S が「経営判断に使える精度」に達します。

ステップ 5:月次 P/L・B/S 確定

決算整理まで済んだら、会計ソフトから月次 P/L(損益計算書)・月次 B/S(貸借対照表)を出力します。同時に部門別損益も集計します(本コースのレッスン 6 で詳述)。

月次 P/L の要点

  • 売上高、売上原価、売上総利益(粗利)、販管費、営業利益、経常利益、税引前利益
  • 前月比・前年同月比・予算比の 3 つの並列表示
  • 主要科目の異常値(前月比 ±30% 超など)にコメントを付ける

月次 B/S の要点

  • 流動資産・固定資産・繰延資産、流動負債・固定負債、純資産
  • 前月末との差異、主要科目(現預金・売掛金・在庫・買掛金・借入金)の推移
  • 運転資本(売掛金+在庫−買掛金)と CCC の月次推移

ステップ 6:月次レポート提出

最終的に、月次 P/L・B/S・部門別損益・KPI 推移をまとめた「月次経営レポート」を作成し、経営会議に提出します。本コースのレッスン 8 で詳しく扱いますが、要点は「結論ファースト・差異は要因分解」の型を守ることです。

Excel と会計ソフトの役割分担

月次決算の実務では、Excel と会計ソフトを併用します。両者の役割を明確に分けることが、効率と正確性の両立に効きます。

領域 会計ソフトの役割 Excel の役割
伝票入力・仕訳登録 ◎(正本) ×(原則使わない)
試算表・元帳出力 ◎(正本) ×(コピペ運用は禁物)
経過勘定の計算 △(テンプレ機能あり) ◎(計算表として)
部門別損益の集計 ◎(部門機能) ○(集計後の分析)
予算実績対比 △(機能差あり) ◎(柔軟に組める)
月次経営レポート △(テンプレ機能あり) ◎(可視化・コメント記述)

📝 補足 Excel での作業結果を会計ソフトに戻すときは、必ず「Excel の計算根拠を残す」ことが重要です。Excel 上で数字だけを作り、会計ソフトへは結果だけ入力すると、後で「なぜこの数字になったか」が追えなくなります。Excel の計算シートを月次で残す運用が実務の標準です。

チームで分業するときの区切り方

中堅企業の経理チーム(3〜10 名規模)では、月次決算を分業して回します。典型的な区切り方は次の 3 通りです。

分業パターン 1:勘定科目別

売掛金担当・買掛金担当・固定資産担当・給与担当のように、担当科目で分ける方式。深い専門性が身につく一方、担当が休むと業務が止まるリスクがあります。

分業パターン 2:事業部別

事業部 A・事業部 B・事業部 C のように、事業ごとに担当を割り当てる方式。事業部側とのコミュニケーションがスムーズになる一方、経理内の作業の統一感が失われがちです。

分業パターン 3:工程別

伝票入力担当・残高確認担当・決算整理担当のように、月次決算の工程で分ける方式。工程内でのスループットが高まる一方、全体を通した視点を持つ担当者が不足しがちです。

現実には 3 パターンを組み合わせるハイブリッド型が多く、経理マネジャーは各メンバーの成長段階に応じて役割を回転させます。

中核メッセージ 6 個の再掲

本コース全体を通じて、6 個のメッセージを繰り返します。

  1. 月次決算は「早く・正しく・意味を持って」——3 つのバランスを取る仕事
  2. 仕訳は結果ではなく判断の記録——なぜその科目を選んだかを説明できる状態にする
  3. 経過勘定は「期間帰属」の思想を守る道具——月をまたぐ取引を歪めない
  4. 引当金・減価償却は「未来の負担」を月々に分ける仕組み
  5. 部門別損益は責任会計——数字が動く場所と動かす人を対応させる
  6. 経理 DX は仕訳を減らす技術——電帳法・インボイスは制度対応ではなく業務再設計の起点

このレッスンで扱うのは主にメッセージ 1「早く・正しく・意味を持って」の「早く」の側面です。6 ステップを分解し、事業部との締切合意と工程分業で「翌月 10 営業日目」を実現する枠組みを扱いました。

次のレッスンで扱うこと

次のレッスン 3 では、月次決算の中身である「仕訳」の基礎を、企業経理視点で扱います。複式簿記の思想、借方・貸方の原則、勘定科目体系、仕訳日記帳総勘定元帳、会計ソフトへの入力実務、そして承認フローと内部統制の入口まで、経理担当者が毎日向き合う仕訳の判断軸を整理します。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。