伝える技術——わかりやすく構造化する
レッスン7:伝える技術——わかりやすく構造化する
このレッスンで学ぶこと
- 結論ファーストと PREP 法を使い分けられる
- 構造的に話す技法(ナンバリング・見出し化)を持つ
- ピラミッドストラクチャーで書く発想を整理する
- 簡潔さの 3 つの工夫を身につける
- 図解(フロー・ツリー・マトリクス・ベン図)を使い分ける
- 音声と文書での伝え方の違いを理解する
前のレッスンでは、演繹・帰納と論理的誤りを扱いました。今回のレッスンでは、「伝える技術」を深く扱います。レッスン 4 で結論ファーストとピラミッドの基本を学びましたが、本レッスンではそれを応用して、会議・資料・メール・プレゼンといった具体的な場面で使う技術を整理します。
結論ファーストと PREP 法
PREP 法の構造
PREP 法(プレップほう)は、結論ファーストの代表的な型です。4 つの要素を順番に並べます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| P:Point(結論) | 主張・結論を最初に提示 |
| R:Reason(理由) | 主張の理由を説明 |
| E:Example(例) | 具体的な例・データで裏付け |
| P:Point(結論再掲) | もう一度結論を強調 |
PREP の例
「リモートワークを週 2 日認めるべき」を PREP で:
- P(結論):リモートワークを週 2 日認めることを提案します
- R(理由):3 つの理由があります。1 つ目は社員の満足度向上、2 つ目は通勤時間の有効活用、3 つ目は採用競争力の強化です
- E(例):他社の事例では、リモート週 2 日を導入した A 社で、社員満足度調査が 15 ポイント上がりました。当社の社員アンケートでも、リモート希望者が 70% にのぼります
- P(結論再掲):以上から、リモートワーク週 2 日の導入をお願いしたいです
PREP は、5 分程度の口頭発表、メール、報告書のセクション、会議発言などに広く使えます。
PREP が向く場面・向かない場面
| 場面 | 向き |
|---|---|
| 提案・依頼 | ◎ |
| 報告 | ◎ |
| 説明 | ○ |
| 物語・体験談 | × |
| 共感を求める場面 | △ |
| 創造的な議論 | △ |
💡 ポイント PREP は強力な型ですが、すべての場面で最適とは限りません。物語・体験談・共感の場面では、別の構造(時系列、感情の流れなど)が向きます。
構造的に話す技法
ナンバリング
「3 つあります。1 つ目は……、2 つ目は……、3 つ目は……」と数を先に示してから列挙する技法です。
効果:
- 聞き手が「3 つ聞く心の準備」をする
- 途中で混乱しない
- 聞き手が「あと 1 つ」と進捗を把握できる
- 全体像が見える
例:
「新規事業 A への投資理由は 3 つです。1 つ目は市場の魅力、2 つ目は自社との適合性、3 つ目は財務インパクトの許容性です。順に説明します」
見出し化
長い文章や資料では、見出しを付けて構造を可視化します。
- 1 段落 = 1 つの主張
- 見出しは「主張の要約」
- 見出しだけ追うと全体像がわかる
良い見出しの例:
- ×「市場について」
- ◎「市場規模は 1,000 億円で年 15% 成長」
見出しが「主張」になっていると、忙しい読者でも要点をつかめます。
接続詞で論理関係を明示
- 追加:また、さらに、加えて
- 理由:なぜなら、というのは、その理由は
- 逆接:しかし、ただし、一方で
- 結論:したがって、よって、つまり
接続詞で論理関係を明示すると、読み手が構造を追いやすくなります。ただし、多用しすぎると逆に読みにくくなるので、要所に絞って使います。
ピラミッドストラクチャーで書く
レッスン 4 で扱ったピラミッドストラクチャーを、実際の文書作成で使う方法を整理します。
文書の組み立て手順
- 書くテーマを決める
- 主張(結論)を 1 文で書く
- 主張を支える根拠を 3 つ並べる
- 各根拠を裏付ける事実・データ・例を集める
- ピラミッドを上から下へ書き下ろす
文書での見え方
(タイトル):リモートワーク週 2 日の導入提案
(リード):リモートワーク週 2 日の導入を提案します。理由は 3 つあります。
(見出し 1):社員満足度の向上
本文…
(見出し 2):通勤時間の有効活用
本文…
(見出し 3):採用競争力の強化
本文…
(まとめ):以上の 3 点から、リモートワーク週 2 日の導入をお願いします。
リードで全体の主張と構造を示し、各見出しで根拠を展開、最後にまとめる。これがピラミッドの文書化です。
1 段落 = 1 つの主張
長い段落の中に複数の主張が混ざると、読み手が追いにくくなります。1 段落で 1 つの主張を扱い、必要なら段落を分けるのが鉄則です。
📝 補足 段落の冒頭にトピックセンテンス(その段落で言いたい 1 文)を置くと、忙しい読み手は段落の冒頭だけ追えば全体像がわかります。
簡潔さの 3 つの工夫
伝わる文章・話し方には、簡潔さが欠かせません。3 つの工夫を整理します。
工夫 1:不要な前置きを削る
業務文書でよく見る不要な前置き:
- ×「お疲れ様です。本日はお忙しいところ恐縮ですが、ご相談がありまして、というのも先週から……」
- ◎「ご相談があります。新規事業 A への投資の判断についてです」
「お疲れ様です」「お忙しいところ」のような社交辞令は、メールの冒頭 1 行に収め、本文では用件に入ります。
工夫 2:抽象と具体のセット
抽象的な言葉だけでは伝わりません。具体例をセットで提示します。
- ×「市場が魅力的です」
- ◎「市場が魅力的です。具体的には、市場規模 1,000 億円、年 15% 成長、競合 2 社のみです」
抽象(市場が魅力的)と具体(数字)をセットにすると、聞き手が納得しやすくなります。
工夫 3:一文一意
1 つの文に複数の意味を詰め込まないことです。
- ×「市場規模が 1,000 億円で、当社のシェアは 10% を目指して、財務インパクトは 3 年で回収できる見込みで、リスクも限定的です」
- ◎「市場規模は 1,000 億円です。当社のシェア目標は 10% です。財務インパクトは 3 年で回収できる見込みです。リスクは限定的です」
一文一意にすると、読み手の負担が減ります。冗長に見えるかもしれませんが、伝わりやすさは大きく上がります。
⚠️ 注意 簡潔さは「短さ」ではありません。「無駄を削った正確さ」です。短くしすぎて意味が伝わらないのは、簡潔ではなく不十分です。
図解の使い分け
文章だけでは伝わりにくい構造は、図で示します。主要な図解の種類と使い分けを整理します。
フローチャート
順序や流れを示す図です。プロセス・手順・分岐の説明に向きます。
向く例:業務フロー、判断ルール、手続きの流れ
ツリー(ロジックツリー、組織図など)
階層構造を示す図です。分解、構成、組織を示すのに向きます。
向く例:ロジックツリー、組織図、製品カテゴリ
マトリクス
2 軸での分類を示す図です。比較、優先順位付け、ポートフォリオ分析に向きます。
向く例:「重要度 × 緊急度」マトリクス、「コスト × 効果」、「リスク × 影響」
ベン図
要素の集合と重複を示す図です。共通点・相違点の整理に向きます。
向く例:「自社の強み」と「市場ニーズ」の重なり、「3 社の共通領域と独自領域」
棒グラフ・折れ線グラフ
数量の比較や時系列変化を示す図です。
- 棒グラフ:カテゴリ別の数量比較
- 折れ線グラフ:時系列の変化
円グラフ
構成比を示す図ですが、近い数値の比較に弱いので注意。3〜5 項目程度に絞るのが推奨です。
図解を使うかどうかの判断基準
| 場面 | 図解が向く |
|---|---|
| 関係構造の説明 | ◎ |
| 順序・流れの説明 | ◎ |
| 数量比較 | ○ |
| 単純な事実列挙 | × |
| 感情の表現 | × |
「図解があるほうが必ず良い」ではなく、「文章だけでは伝わりにくいときに使う」のが基本です。
💡 ポイント 図解の目的は「読み手の理解を助ける」ことです。装飾や見栄えのために図解を入れると、かえって本筋を弱めます。
音声と文書の違い
伝える技術は、媒体によって工夫が変わります。
音声(会議発言、プレゼン、電話)の特徴
- 戻れない(聞き直しできない)
- ゆっくり進む
- 表情・声のトーンが情報を伝える
- 集中力が続く時間が短い
音声では、
- 結論を先に、何度も繰り返す
- ナンバリングを強く使う
- 1 文を短く
- 専門用語を控える
- 「重要なのは……」「ポイントは……」と明示する
文書(メール、報告書、資料)の特徴
- 戻れる(読み返せる)
- 自分のペースで読める
- 表情・声のトーンがない
- 一度に複数の情報を提示できる
文書では、
- 見出しで構造化
- 段落で 1 主張
- 図表で関係を示す
- 詳細は読みたい人だけが追える形に
- 検索可能にする(重要キーワードを散らす)
📝 補足 同じ内容でも、音声と文書で表現を変えるのが現代の業務リテラシーです。「音声で話したことをそのまま文書化」「文書をそのまま読み上げる」は、両方とも伝わりにくくなります。
講師の現場メモ:「『あ、これは PREP だ』と気づいた瞬間」
私(中野)が外資系コンサルにいた頃、新人時代の話です。配属 1 年目の冬、初めて大きな提案会議でプレゼンする機会を得ました。私は前夜、原稿を 10 回読み直して、暗記するつもりで準備しました。
当日、私はスライドを使いながら、ナンバリングを使って整然と説明していきました。「3 つあります。1 つ目は……、2 つ目は……、3 つ目は……」。質疑応答も「結論から申し上げますと……、理由は 3 つあり……」と答えました。
会議が終わってマネジャーが言いました。
「中野さん、今日のプレゼン、PREP がきれいに使えていたね」
私はその瞬間、「あ、これは PREP だったんだ」と気づきました。何度も練習しているうちに、無意識に PREP の構造で話していたのです。「結論ファースト」「理由 3 つ」「具体例」「結論再掲」が、口から自然に出るようになっていました。
その後の私のプレゼンは、毎回 PREP で組み立てるようになりました。3 か月後には、原稿を読まずに 30 分のプレゼンができるようになりました。型が体に染み込んだからです。
「型は不自由」と思っていたのに、実際は「型が自由を生む」ものだと痛感しました。型を覚えてから、応用できるようになる。型を覚えずに「自由に話そう」とすると、話があちこちに飛びます。本コースで PREP やピラミッドを丁寧に扱うのは、型を体に染み込ませてほしいからです。
最初は「型に縛られている」と感じても、しばらく続けると、型が「考えと話を支える地図」になります。地図を持っていれば、迷子になりません。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- PREP 法:Point(結論)→ Reason(理由)→ Example(例)→ Point(結論再掲)の 4 要素
- PREP は提案・依頼・報告・説明に向き、物語・体験談・共感には別の構造が向く
- ナンバリングで列挙を構造化、見出し化で全体像を可視化
- 接続詞で論理関係を明示(多用しすぎない)
- ピラミッドの文書化:リードで主張、見出しで根拠、本文で事実
- 1 段落 = 1 主張の原則
- 簡潔さの 3 つの工夫:不要な前置きを削る、抽象と具体のセット、一文一意
- 図解の使い分け:フロー(順序)、ツリー(階層)、マトリクス(2 軸分類)、ベン図(重複)
- 図解は「文章だけでは伝わりにくいときに使う」が基本
- 音声と文書では伝え方を変える:音声は結論を繰り返し、ナンバリング強く、1 文短く。文書は見出しと段落、図表、詳細階層
- 型は「不自由」ではなく「自由を生む地図」
次のレッスンでは、業務での実践(会議・資料・報告・メール)と、ロジカルシンキングが効かない場面、AI 時代の位置づけ、修了後の学習方向を案内します。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。