貸借対照表(B/S)——会社が何を持ち、何を借りているか
レッスン3:貸借対照表(B/S)——会社が何を持ち、何を借りているか
このレッスンで学ぶこと
- 貸借対照表(B/S)の役割と「左右が必ず一致する」構造を理解する
- 資産(流動資産・固定資産)の中身と意味を把握する
- 負債(流動負債・固定負債)の中身と意味を理解する
- 純資産(自己資本)の中身と「会社の自分のお金」の発想を持つ
- 流動性の発想と「短期で支払えるか」の見方を扱える
- 業種別の B/S の特徴を把握する
- B/S から見える「会社の体質」を読み取る発想を持つ
前回のレッスンで損益計算書(P/L)を扱いました。本レッスンは三表の第 2 弾、貸借対照表(B/S、Balance Sheet)を扱います。P/L が「一定期間の流れ」を表すフロー(流れ)の表だったのに対し、B/S は「ある時点の蓄積」を表すストック(蓄積)の表です。決算日(例:3 月 31 日)時点で、「会社が何を持ち、何を借りているか」のスナップショットを表します。新任の方が最初に戸惑いやすい表ですが、構造を理解すれば「会社の体質」が見えてきます。
貸借対照表(B/S)の役割と構造
B/S は「ある時点(決算日など)に、会社が何を持ち、何を借り、いくらが自分のお金かを表す表」です。
B/S が答える 3 つの問い
| 問い | B/S のどこを見るか |
|---|---|
| 会社は何を持っているか | 資産の部 |
| 何を借りているか(誰のお金で) | 負債の部 |
| 自分のお金はいくらあるか | 純資産の部 |
B/S の左右構造
B/S の最大の特徴は、左右が必ず一致することです。
(左側) (右側)
資産の部 負債の部
流動資産 流動負債
固定資産 固定負債
純資産の部
資本金
利益剰余金
資産合計 = 負債合計 + 純資産合計
なぜ左右が一致するか。これは「会社が持っているもの(左)は、調達したお金で買ったもの(右)」という会計の基本恒等式です。
資産 = 負債 + 純資産
「持っているもの」 = 「借りたお金」 + 「自分のお金」
例えば、会社が現金 1,000 万円を持っているとします。これはどこから来たか? 借りた(負債)か、自分で出資・稼いだ(純資産)か、のどちらかです。
B/S は「ある時点のスナップショット」
B/S は決算日(年に 1 度、または四半期ごとに 4 回)の「その瞬間」を表します。翌日には数字が変わっています。P/L のように 1 年分の合計ではなく、「ある瞬間の写真」が B/S です。
💡 ポイント B/S は「ある時点に会社が何を持ち、何を借り、いくらが自分のお金か」を表すストック(蓄積)の表。左右は必ず一致する(資産 = 負債 + 純資産)。会計の基本恒等式です。
資産の部——会社が「持っているもの」
資産の部は、会社が所有する「経済的価値のあるもの」をまとめます。流動性(現金に変えやすさ)で「流動資産」と「固定資産」に大きく区分されます。
流動資産——1 年以内に現金になるもの
流動資産
現金及び預金 200
受取手形・売掛金 300
有価証券 50
棚卸資産(在庫) 150
前払費用 20
流動資産合計 720
主な流動資産の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 現金・預金 | そのまま使えるお金 |
| 受取手形・売掛金 | 商品を売ったがまだ回収していないお金 |
| 有価証券 | 短期で売る予定の株式・債券 |
| 棚卸資産(在庫) | 仕入れたが売れていない商品、製造中の製品 |
| 前払費用 | すでに支払ったが、来期以降のサービス |
固定資産——長期で使うもの
固定資産
有形固定資産
建物 400
機械装置 200
車両運搬具 20
土地 150
建設仮勘定 10
無形固定資産
のれん 80
ソフトウェア 40
投資その他の資産
投資有価証券 100
関係会社株式 50
固定資産合計 1,050
主な固定資産の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 建物・機械装置・車両 | 業務で使う物理的な設備 |
| 土地 | 工場・店舗・本社の敷地 |
| のれん | M&A で買収した会社の「ブランド価値」「顧客基盤」など |
| ソフトウェア | 業務システム、自社開発ソフト |
| 投資有価証券 | 長期保有目的の株式・債券 |
| 関係会社株式 | 子会社・関連会社の株式 |
流動・固定の境界——「1 年ルール」
流動と固定の区別は、「1 年以内に現金化する予定か」が基本です(1 年ルール、ワン・イヤー・ルール)。
- 1 年以内に現金化 → 流動資産
- 1 年超で長期保有 → 固定資産
業種により例外はありますが、基本ルールとして覚えておきます。
💡 ポイント 資産は「流動資産(1 年以内に現金化)」と「固定資産(長期で使う)」に二分される。流動資産は現金・売掛金・在庫など、固定資産は建物・機械・土地・のれん・ソフトウェアなど。1 年ルールで区別します。
負債の部——会社が「借りているお金」
負債の部は、会社が「他者から借りているお金、いずれ返すべきもの」をまとめます。資産と同じく、流動性で「流動負債」と「固定負債」に区分されます。
流動負債——1 年以内に支払うべきもの
流動負債
支払手形・買掛金 200
短期借入金 150
未払金 30
未払法人税等 50
賞与引当金 40
流動負債合計 470
主な流動負債の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 支払手形・買掛金 | 商品を仕入れたがまだ支払っていない |
| 短期借入金 | 1 年以内に返す予定の借金 |
| 未払金 | サービスを受けたがまだ支払っていない |
| 未払法人税等 | 確定した税金で未払い |
| 賞与引当金 | 翌期に支払う賞与の見込み計上 |
固定負債——1 年超で返済するもの
固定負債
長期借入金 300
社債 200
退職給付引当金 130
固定負債合計 630
主な固定負債の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 長期借入金 | 1 年超で返す借金 |
| 社債 | 投資家に発行した借用証書 |
| 退職給付引当金 | 将来の従業員退職金の見込み計上 |
負債は「悪」ではない
新任の方が陥りやすい誤解が、「負債が多いと悪い会社」と決めつけることです。負債は適切に使えば、「他人のお金で投資して儲ける」レバレッジ効果を生みます。
- 銀行からの借入で工場を建て、その工場で利益を出す → 自己資金以上の事業ができる
- 社債を発行して大規模 M&A 投資 → 成長加速
ただし、負債が過大になると、返済負担と倒産リスクが増します。本レッスン後半で扱う「自己資本比率」「流動比率」で、負債の妥当性を判定します。
💡 ポイント 負債は「流動負債(1 年以内に支払い)」と「固定負債(1 年超で返済)」に二分される。流動負債は買掛金・短期借入金など、固定負債は長期借入金・社債・退職給付引当金など。負債は「悪」ではなく、適切に使えばレバレッジ効果を生むが、過大になると倒産リスクが増す。
純資産の部——「会社の自分のお金」
純資産は、会社が「他者に返す必要のない、自分のお金」です。資本金と利益剰余金を中心に構成されます。
純資産の主な構成
純資産の部
株主資本
資本金 300
資本剰余金 100
利益剰余金 350
自己株式 -20
その他の包括利益累計額
その他有価証券評価差額金 5
非支配株主持分 15
純資産合計 750
主な純資産項目の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 資本金 | 株主が会社に出資したお金 |
| 資本剰余金 | 株主出資のうち資本金にしなかった部分 |
| 利益剰余金 | 過去の利益の積み上げ(毎期の純利益から配当を引いた残り) |
| 自己株式 | 自社が買い戻した自社株(マイナス計上) |
「自己資本」と「他人資本」
- 自己資本 = 純資産
- 他人資本 = 負債
自己資本は「返さなくてよい自分のお金」、他人資本は「いずれ返すべき他人のお金」。会社の安全性は、この比率で測れます。
自己資本比率——会社の体力を測る
自己資本比率 = 自己資本(純資産)÷ 総資産 × 100%
自己資本比率の目安:
| 自己資本比率 | 評価 |
|---|---|
| 40% 以上 | 健全(業界による) |
| 20〜40% | 標準 |
| 10〜20% | やや脆弱(業界による) |
| 10% 未満 | 脆弱(要警戒) |
ただし、業種によって標準値が違います。金融業(銀行・保険)は規制で要求される自己資本比率があり、製造業・小売業とは比較が成立しません。同業種で比較するのが基本です。
💡 ポイント 純資産は「他者に返す必要のない、自分のお金」。資本金(株主出資)、利益剰余金(過去の利益の積み上げ)が中心。自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)で会社の体力を測る。業種により標準値が違う。
流動性の発想——「短期で支払えるか」
B/S を読む発想の中核に、「流動性」があります。
流動比率——1 年で見た支払能力
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100%
- 1 年以内に支払う必要がある負債(流動負債)に対して、1 年以内に現金化できる資産(流動資産)でカバーできるか
- 100% 以上が望ましい、200% 以上だと余裕がある
- 100% 未満は短期支払いに不安
当座比率——もっと厳しい見方
当座比率 = 当座資産(現金・売掛金・有価証券)÷ 流動負債 × 100%
- 流動資産から在庫(棚卸資産)を除いた「当座資産」だけで、流動負債をカバーできるか
- 在庫は売れないと現金にならないため、より厳しい支払能力の指標
- 100% 以上が望ましい
「儲かっているのに倒産」の典型
流動性が悪い会社の典型例:
- P/L 上は利益が出ている(売上 100、利益 10)
- けれども、売掛金回収が遅く、流動資産の大半が売掛金
- 流動負債(買掛金・短期借入金)が大きく、現金が枯渇
これが「黒字倒産」のパターンです。P/L だけ見ると順調ですが、B/S を見ると、流動性が悪く、支払いが滞っていることが見えてきます。本コースのレッスン 5(連環編)で詳しく扱います。
💡 ポイント 流動性は「短期で支払えるか」の発想。流動比率(流動資産 ÷ 流動負債、100% 以上が望ましい)、当座比率(在庫を除く、より厳しい)。P/L で利益が出ていても、B/S の流動性が悪いと「黒字倒産」のリスクあり。
業種別の B/S の特徴
業種により B/S の構造は大きく違います。
設備投資型(製造業、電力、通信、鉄道)
- 固定資産(建物・機械・土地)が巨大
- 長期借入金・社債で大規模調達
- 自己資本比率は 30〜50% 程度
トヨタ、東京電力、NTT などは、巨額の設備が B/S の中心を占めます。
在庫回転型(小売、卸売、商社)
- 棚卸資産(在庫)が大きい
- 売掛金・買掛金が回転して動く
- 自己資本比率は 20〜40% 程度
セブン&アイ、ファーストリテイリング、商社などは、在庫と売掛・買掛が中心です。
軽資産型(コンサル、SaaS、IT サービス)
- 固定資産が小さい(オフィスとサーバーくらい)
- 売掛金が中心の流動資産
- 自己資本比率は 50〜80% と高い
野村総合研究所、Salesforce、Workday などの IT サービス系は、物理資産が少なく、自己資本比率が高い傾向。
金融型(銀行、保険、証券)
- 資産の大半が貸付金・有価証券・保険資産
- 負債の大半が預金・保険準備金
- 自己資本比率は 5〜10%(業種特性)
銀行や保険は、業種特性として「他人のお金を預かって運用する」のがビジネスモデルなので、自己資本比率が低くて当たり前です。BIS 規制(バーゼル規制)で最低基準が定められています。
不動産型
- 土地・建物が中心
- 長期借入金が中心
- 開発・販売のサイクルで利益が出る
三井不動産、三菱地所などは、土地と建物が B/S の中心。
業種が違えば、B/S の見方も違います。「自己資本比率が低い銀行は危ない」というのは誤読で、銀行業の構造を理解すれば、低い自己資本比率は当たり前です。
💡 ポイント 業種により B/S の構造が大きく違う。設備投資型(製造業、巨大な固定資産)、在庫回転型(小売、在庫と売掛・買掛が中心)、軽資産型(IT、自己資本比率が高い)、金融型(銀行、自己資本比率が低くて当たり前)、不動産型(土地・建物中心)。業種を理解せずに数字を絶対値で比較しない。
B/S から見える会社の体質
P/L が「経営者の意志」を映すなら、B/S は「会社の体質」を映します。
「健全な成長期」の B/S
資産:成長に伴って増加
負債:適度に増えるが、自己資本比率は維持
純資産:利益剰余金が積み上がる
流動比率:150〜200%
このような B/S は、無理せず成長している会社の典型です。
「投資先行型」の B/S
固定資産:急増(M&A、設備投資)
長期借入金・社債:急増
自己資本比率:低下
営業 CF(次回扱う):プラス
将来への投資を、借入で実行している。経営判断が正しければ、3〜5 年後に利益が伸びて B/S も整います。
「衰退期・赤字続き」の B/S
利益剰余金:減少
(過去の累積赤字がマイナス計上)
自己資本比率:低下
固定資産:減損で減少
流動比率:低下
過去の赤字が累積し、自己資本が痩せている会社。改革か撤退の判断が必要な状況。
B/S は「過去のすべての結果」
B/S の数字は、創業以来のすべての経営判断の結果です。P/L は今期 1 年の結果ですが、B/S は会社の歴史の集積。長期にわたって良い経営をしてきたか、過去の失敗を引きずっているか、すべて B/S に表れます。
💡 ポイント B/S は「会社の体質」を映す表。健全な成長期・投資先行型・衰退期で、B/S の表情は変わる。B/S の数字は創業以来のすべての経営判断の結果で、会社の歴史の集積を表します。
講師の現場メモ:「B/S を見て M&A の真の姿が見えた瞬間」
私(浅野)が、独立後 2 年目に支援した、中堅企業(売上 80 億円、社員 300 名)の M&A 案件の話です。その会社は、ある中小企業(売上 20 億円、社員 80 名)の買収を検討していました。事業部長から「事業計画書を見たが、財務的に妥当か診断してほしい」という依頼でした。
私は、買収対象の会社の過去 3 期の決算書を分析しました。P/L だけ見ると、売上は安定的に 20 億円台、営業利益率も 8% 程度で、悪くない数字でした。「これなら買収しても問題なさそう」と思える数字です。
ところが、B/S を見たとき、私は強い違和感を覚えました。
(資産) (負債・純資産)
現金預金 2 短期借入金 8
売掛金 6 買掛金 4
棚卸資産 12 長期借入金 12
建物・機械 8 純資産 8
土地 2
資産合計 30 負債純資産合計 30
ここで気になったのは、3 点でした。
- 流動比率が低い:流動資産 20 / 流動負債 12 = 167% で一見問題ないが、棚卸資産(在庫)が 12 と大きく、当座資産(在庫を除く)で見ると 8 / 12 = 67% と当座比率は不健全
- 棚卸資産の中身:現場ヒアリングで、在庫の半分は 2 年以上動いていない「滞留在庫」と判明。実質的な価値は半額以下
- 自己資本比率:純資産 8 / 資産 30 = 26.7% で、過去の利益剰余金が十分に積み上がっていない。利益が出ているはずなのに、なぜ蓄積されていないのか
私は経営者にこれらの懸念を伝えました。経営者からは、追加で「在庫の実態調査」と「過去 5 期の配当・役員報酬の動き」を聞き取った結果、衝撃の事実が判明しました。
- 滞留在庫の実態:簿価ベースで在庫評価しているが、実態は売れない商品が半分以上
- 過去 5 期、安定的に利益が出ていたが、ほぼ全額を配当・役員報酬として社外に流出
- 結果、利益剰余金は積み上がっておらず、「身軽だが脆弱」な B/S になっていた
私は買収側の事業部長に、「買収後に滞留在庫の評価減(特別損失 6〜8 億円)が発生する可能性が高い」「過去の役員報酬の水準を踏まえると、買収後の経営陣の処遇調整が必要」と報告しました。これらを踏まえて、買収価格は当初想定の半額(5 億円)に修正されました。
経営者は半年後、私にこう話してくれました。「P/L だけ見ていたら、買収後に大きな評価減で大問題になっていたと思う。B/S を見て、過去の経営の実態が浮き彫りになった。財務諸表は会社の物語を映す鏡だと、改めて実感した」。
このとき私が改めて確信したのは、M&A・投資判断・取引先与信など、重要な経営判断では、P/L だけでなく B/S を必ず見るべき、ということです。B/S は会社の「過去のすべての結果」を映します。利益が出ていても、それがどこに使われたか、何が残っているか——B/S が答えを示します。
本コースで B/S をしっかり扱うのは、私自身がこのような事例を何度も見てきたからです。皆さんも、会社を評価するときは、必ず B/S を見て、「過去の経営判断の結果として、いま何が残っているか」を読み解く習慣を、本コースで身につけてください。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- B/S は「ある時点に会社が何を持ち、何を借り、いくらが自分のお金か」を表すストック(蓄積)の表
- 左右は必ず一致する(資産 = 負債 + 純資産)。会計の基本恒等式
- 資産は「流動資産(1 年以内に現金化、現金・売掛金・在庫など)」と「固定資産(長期で使う、建物・機械・土地・のれんなど)」に二分される
- 負債は「流動負債(1 年以内に支払い)」と「固定負債(1 年超で返済)」に二分される。負債は「悪」ではなく、適切に使えばレバレッジ効果を生む
- 純資産は「他者に返す必要のない、自分のお金」。資本金(株主出資)と利益剰余金(過去の利益の積み上げ)が中心
- 流動性の発想:流動比率(100% 以上が望ましい)、当座比率(在庫を除いた厳しい指標)。P/L で利益が出ていても B/S の流動性が悪いと「黒字倒産」のリスクあり
- 業種別の B/S の特徴:設備投資型・在庫回転型・軽資産型・金融型・不動産型。業種を理解せずに絶対値で比較しない
- B/S は「会社の体質」を映す。健全な成長期・投資先行型・衰退期で表情が違う。創業以来のすべての経営判断の結果が映る
次のレッスンでは、三表の第 3 弾、キャッシュフロー計算書(C/F)を扱います。なぜ P/L の利益と実際のお金の動きが違うのか、営業 CF・投資 CF・財務 CF の 3 区分、C/F の 8 パターン分類で経営の現実を読む方法を学びます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。