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スキルアップカレッジ

社内規程の整備と運用

レッスン4:社内規程の整備と運用

このレッスンで学ぶこと

  • 規程体系の 3 階層(定款取締役会規則・社内規程)を俯瞰できる
  • 主要な社内規程の位置づけと関係部署の分担を持てる
  • 規程ドラフト起草の 5 ステップと改訂サイクルを組み立てられる
  • 規程が運用されない 5 パターンと対策を持ち帰れる

前レッスンでは契約書レビューの型を扱いました。契約書が「対外的な守り」だとすれば、社内規程は「対内的な守り」です。本レッスンでは、社内規程の体系と主要規程の位置づけ、ドラフト起草の手順、そして「書いて終わりではなく回して機能させる」ための考え方を扱います。規程は書いた瞬間から陳腐化が始まる文書であり、運用不能な条項は書かないという発想が重要です。

なぜ社内規程が必要か

社内規程は、次の 3 つの機能を持ちます。

  • 意思決定基準の明文化:どの意思決定を誰が行うか、どの金額から取締役会付議が必要か、稟議はどう回すか
  • 業務の標準化:契約書のレビュー依頼手順、経費精算のルール、情報管理の分類基準
  • リスク管理反社対応、利益相反、個人情報取扱い、内部通報の運用

規程が整備されていない会社では、案件ごとに判断がぶれ、属人化が進み、事故発生時に「なぜこう判断したのか」を後追いできない状態になります。したがって、法務担当者にとって規程整備は契約書レビューと並ぶ中核業務です。

規程体系 3 階層

社内規程は、上位法規範から下位運用基準までの階層構造で整理されます。

graph TD
    A[定款] --> B[取締役会規則<br/>株主総会規則<br/>監査役会規則]
    B --> C[社内規程<br/>就業規則・情報管理規程<br/>反社対応規程・利益相反規程<br/>稟議規程・経理規程]
    C --> D[マニュアル・ガイドライン<br/>チェックリスト・雛形]

第 1 階層:定款

会社の基本的な組織と運営に関する根本規則です。会社法により作成が義務付けられ、変更には株主総会の特別決議(会社法 466 条・309 条 2 項)が必要になります。

  • 商号・事業目的・本店所在地
  • 発行可能株式総数・株式の種類
  • 機関設計(取締役会・監査役・会計監査人の設置)
  • 事業年度
  • 公告方法

第 2 階層:取締役会規則・株主総会規則監査役会規則

各機関の運営ルールです。取締役会規則は、取締役会の付議基準・招集手続・議事進行・議事録作成を定めます。会社法 362 条 4 項の必置事項(重要な財産の処分、多額の借財、支配人の選任、支店の設置など)を取締役会規則に組み込みます。

第 3 階層:社内規程

日常業務のルールを定める規程群です。法務担当者の中核業務がこの階層です。

第 4 階層:マニュアル・ガイドライン

規程を具体的な業務手順に落とし込んだ運用文書です。契約書レビュー依頼フォーム、経費精算マニュアル、反社チェック手順書などが該当します。法務担当者は規程を書くだけでなく、この階層まで整備して初めて規程が現場で回るようになります。

主要な社内規程

規程の名称は会社ごとに異なりますが、標準的な社内規程セットは次のとおりです。

就業規則

労働基準法 89 条により、常時 10 人以上の労働者を使用する事業場では作成と労働基準監督署への届出が義務付けられます。人事部が主管し、法務は労働法との整合性をチェックする関係です。

  • 労働時間・休憩・休日
  • 賃金・退職金
  • 服務規律
  • 懲戒
  • 育児休業・介護休業

📝 補足 就業規則の起草・改訂実務は、労働基準法・労働契約法・育児介護休業法など労働法の詳細を要するため、社内は人事部主管、社外は社会保険労務士・弁護士が担うのが一般的です。法務担当者は労働法との整合性チェックと、経営判断が絡む重大な改訂の際に関与します。

情報管理規程

情報資産の分類・取扱い・アクセス権限を定めます。情報セキュリティ部門と法務が共同で主管することが多い規程です。

  • 情報分類(公開・社外秘・機密・極秘)
  • 情報の取扱い基準(アクセス権限・複製・持ち出し)
  • 個人情報の取扱い
  • 情報漏洩時の対応フロー

反社対応規程

反社会的勢力(暴力団・特殊詐欺グループなど)との取引を排除するための規程です。金融庁の「反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007 年)を受けて、多くの企業で整備されています。

  • 反社チェックの対象範囲(新規取引先・継続取引先・雇用時)
  • チェック手順(社内データベース・外部データベース・帝国データバンク・東京商工リサーチ)
  • 反社と判明した場合の取引解消フロー
  • 反社対応窓口(総会屋・要求行為者への対応)

利益相反規程

役員・従業員個人の利害と会社の利害が対立する可能性がある取引を管理する規程です。特に会社法 356 条の競業避止義務・利益相反取引の承認手続きを実装します。

  • 役員の競業取引・利益相反取引の事前承認
  • 従業員の副業・兼業と会社の利害調整
  • 親族関係のある取引先との取引の開示
  • 監査役への報告義務

稟議規程

社内の意思決定手続きを定めます。金額基準・種類基準で誰が決裁するか(担当者・課長・部長・役員・社長・取締役会)を明文化します。

  • 決裁権限マトリクス(金額別・案件種別)
  • 稟議書の必須項目
  • 起案から決裁までの日数目安
  • 事後報告・事後承認のルール

経理規程・購買規程・情報開示規程 ほか

会社の規模と業種に応じて、経理規程・購買規程・情報開示規程・内部監査規程・内部通報規程・接待贈答規程・海外出張規程などが加わります。法務単独で整備するのではなく、経理・情報システム・IR・監査室と役割分担して整備します。

規程ドラフト起草 5 ステップ

新規規程の起草または既存規程の大幅改訂を行う際は、次の 5 ステップで進めます。

Step 1:目的と適用範囲の明確化

  • なぜこの規程が必要か(法令改正・不祥事発生・業務標準化・上場準備)
  • 適用対象(全従業員・特定部門・役員のみ)
  • 適用開始時期と経過措置

Step 2:既存規程との整合性チェック

  • 上位規程(定款・取締役会規則)との整合性
  • 関連する既存規程との重複・矛盾
  • 削除・改訂が必要な既存条項の特定

Step 3:ドラフト作成

  • 他社の同種規程を参考にしつつ、自社の実態に合わせる
  • 法令引用は正確に(法令改正で条番号が変わることがあるため注意)
  • 「〜することができる」と「〜しなければならない」の使い分けを明確に
  • 定義規定を冒頭に置き、以降の条文で用語を統一

Step 4:関連部署との調整

  • 人事・経理・情報システム・監査室・事業部との事前調整
  • 労働条件の変更を含む場合は労働組合・従業員代表への説明
  • 経営陣(取締役会付議前)への根回し

Step 5:承認と施行

  • 承認機関(社長決裁・取締役会付議)を規程の性質で選ぶ
  • 施行日を明示(施行前に社内周知期間を設ける)
  • 施行後の運用モニタリング体制を先に決める

規程改訂サイクル

規程は書いた瞬間から陳腐化が始まります。次のトリガーで改訂を検討します。

  • 法令改正:会社法・個情法・下請法・労働関連法など。年 1 回の総点検を推奨
  • 不祥事・トラブル発生:発生後の再発防止として規程改訂が求められる
  • 業務プロセスの変化:DX 化・組織再編・新規事業立ち上げ
  • 上場審査対応:IPO 準備で規程整備が必須になる
  • 他社事例の参照:業界内の他社改訂事例から学ぶ

年間サイクルとしては、10 月〜 12 月に翌年 4 月 1 日施行の改訂ドラフトを起草し、1 月〜 3 月に取締役会付議と社内周知、4 月 1 日施行という流れが一般的です。

規程が運用されない 5 パターンと対策

規程を書いても運用されない状態は、法務担当者が最も避けたい事態です。運用されない代表的な 5 パターンと、それぞれの対策を整理します。

パターン 1:現場が規程の存在を知らない

  • 対策:規程集の社内ポータル公開、新入社員研修・管理職研修での定期周知、規程改訂時の全社通知

パターン 2:規程を読んでも意味がわからない

  • 対策:規程本文と別に「実務ガイドライン」「Q&A」「チェックリスト」を用意。法務用語を避けた業務者向けの説明を添える

パターン 3:規程どおりに運用すると業務が回らない

  • 対策:規程起草時に業務プロセスを実地で確認し、運用不能な条項は書かない。運用開始後 3 か月・半年でヒアリングを行い、実態と乖離があれば改訂する

パターン 4:規程違反があってもチェックされない

  • 対策:内部監査による定期チェック、業務システムでの自動チェック(決裁権限マトリクスをワークフローシステムに反映)

パターン 5:規程改訂が長期間行われず、法令や業務実態と乖離する

  • 対策:年 1 回の総点検、法令改正情報の追跡ルーチン化、規程管理台帳による改訂履歴の記録

次のステップ

本レッスンでは社内規程の体系と整備・運用の考え方を扱いました。次のレッスンでは、社内規程の中でも特に重要な株主総会・登記・IPO 準備法務を取り上げ、会社法まわりの節目業務を扱います。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。