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スキルアップカレッジ

契約書レビューの型

レッスン3:契約書レビューの型

このレッスンで学ぶこと

  • 契約書レビューを 6 ステップの型で回せる
  • 契約書 4 分類(取引基本・業務委託・NDA・SaaS)ごとの共通論点を持ち帰れる
  • 修正マーカーとトラック変更の運用ルールを組み立てられる
  • リーガルテック(契約審査支援ツール・電子契約サービス)の位置づけを理解できる

前レッスンでは事業部からの相談を受ける場面の型を扱いました。本レッスンでは、法務担当者の時間の 40〜70 % を占める中核業務である契約書レビューを取り上げます。契約書レビューは、網羅性を追求するとキリがなく、優先順位を付けなければ全案件が同じ品質で終わりません。「網羅より優先順位」の発想を持てるかどうかが、契約書レビューの型を身につけたかどうかを分けます。

なぜ契約書レビューに型が必要か

契約書レビューは、突き詰めれば「1 文字ずつ全条項を疑う」作業になります。しかし、一人の法務担当者が 1 日に受ける契約書は複数本、月に数十本になる会社もあります。すべてを同じ深度で見ることは不可能で、優先度を付けずに見ると次のいずれかが起きます。

  • 網羅を追求し、レビューが数日〜数週間かかる。事業部から遅いと不満が出る
  • 表面的に流し、リスクを見落として後で問題化する
  • 案件ごとの品質にムラが出て、法務チーム内の判断基準が揃わない

したがって、契約書レビューには「どこを重点的に見るか」を決める型が必要です。

契約書レビュー 6 ステップ

契約書レビューを次の 6 ステップで回します。

graph LR
    A[Step 1<br/>目的確認] --> B[Step 2<br/>網羅チェック]
    B --> C[Step 3<br/>リスク評価]
    C --> D[Step 4<br/>優先度付け]
    D --> E[Step 5<br/>修正コメント]
    E --> F[Step 6<br/>戻し]

Step 1:目的確認

契約書を受け取ったら、まず事業部と次の 5 点を確認します。

  • どういう取引か(契約書のタイトルだけでは判断できないことが多い)
  • 相手方はどういう会社か(規模・信用力・過去取引の有無・海外か国内か)
  • 金額規模と契約期間
  • 締結期限(相手方の都合か自社の都合か)
  • 交渉余地の有無(相手方が雛形として一切修正を受け付けないケースもある)

事業部が急いでいても、この 5 分を惜しむと後で全体をひっくり返す修正が必要になります。

Step 2:網羅チェック(必須条項の有無)

契約書に含まれるべき必須条項を機械的にチェックします。抜けている条項は、リスク評価の前に事業部に照会が必要です。

  • 契約当事者と代表者
  • 契約の目的
  • 対価(金額・支払方法・支払時期)
  • 契約期間と更新条項
  • 秘密保持義務
  • 損害賠償の範囲と上限
  • 契約解除条項
  • 準拠法と裁判管轄
  • 反社会的勢力排除条項(反社条項)

Step 3:リスク評価

各条項について、次の観点でリスクを評価します。

  • 経済的リスク:損害賠償の上限、支払遅延の利息、契約解除時の違約金
  • 法的リスク:業法規制への該当性、独占禁止法・下請法との整合性
  • オペレーションリスク:自社の履行能力(納期・仕様変更対応)、二次委託の可否
  • レピュテーションリスク:知財侵害、個人情報漏洩、労働紛争
  • 紛争リスク:紛争発生時の裁判管轄と準拠法

Step 4:優先度付け

リスク評価に基づき、修正コメントを次の 3 優先度に分けます。

  • 必須修正(Must):この修正が受け入れられなければ契約締結不可
  • 強く要望(Should):交渉次第で撤退可能だが、原則として修正したい
  • 参考コメント(Nice to Have):修正されなくても致命的ではない

一つの契約書で Must を 3 個以上出すと、相手方は「難しい相手だ」と警戒します。したがって、Must は本当に譲れないものに絞り、Should と Nice to Have で温度感を分けて伝えます。

Step 5:修正コメント

修正コメントを付ける際は、次の 3 要素を明確にします。

  • 修正案(テキスト):具体的にどう書き換えたいか
  • 理由(背景):なぜこの修正が必要か
  • 代替案:相手方が受け入れない場合の落としどころ

「削除希望」だけを書いて理由を書かないコメントは、相手方の弁護士に「何を懸念しているかわからない」と受け取られ、交渉が長引きます。

Step 6:戻し

修正コメントを事業部に返す際は、次の 3 点を添えます。

  • Must・Should・Nice to Have の温度感を明確に伝える
  • 交渉の想定シナリオ(相手方がここを拒否したらどうするか)
  • 事業部への確認事項(法務判断ではなく事業判断が必要な項目)

契約書 4 分類の共通論点

契約書の種類は数十種類ありますが、頻度の高い 4 分類の共通論点を押さえておくと、日常業務の 8 割はカバーできます。

分類 1:取引基本契約(マスター・アグリーメント)

継続的な取引関係を規律する基本契約です。個別注文書(Purchase Order)で個別取引を定め、取引基本契約で共通条項をまとめます。

  • 個別契約との優劣関係(矛盾時にどちらが優先するか)
  • 支払条件(月末締め翌月末払い・振込手数料負担者)
  • 検収条件と検収期限
  • 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任、2020 年 4 月民法改正)
  • 損害賠償の上限と免責事項
  • 契約期間と自動更新条項

分類 2:業務委託契約

サービス提供を委託する契約です。準委任か請負かで法律関係が大きく変わります。

  • 準委任契約か請負契約か(成果物の完成義務の有無)
  • 成果物の権利帰属(著作権特許を受ける権利)
  • 二次委託の可否と事前承諾要否
  • 個人情報の取扱い(個人情報保護法上の委託先管理)
  • 労働者派遣法との整合性(偽装請負にならないか)
  • 中途解約時の清算方法

分類 3:NDA(秘密保持契約

秘密情報を交換する際の契約です。取引開始前の段階で最初に締結されることが多く、法務の窓口業務としても頻度が高い契約です。

  • 秘密情報の定義(すべての情報が対象か、書面で秘密指定したものだけか)
  • 秘密保持期間(3 年・5 年が標準、10 年以上は要交渉)
  • 目的外使用の禁止範囲
  • 一方的か相互かの区分
  • 派生情報・派生成果物の取扱い
  • 契約終了時の返却・破棄義務

分類 4:SaaS 契約・利用規約

クラウドサービスの利用契約です。自社が買い手(利用者)の立場か、売り手(提供者)の立場かで論点が変わります。

  • サービスレベル合意(SLA)の稼働率・障害時対応・違約金
  • データの所有権とサブプロセッサーの明示
  • 契約終了時のデータ返還・削除義務
  • 個人情報保護法上の委託先管理と国際的な越境移転
  • 自動更新条項と解約通知期限
  • 責任制限条項の適法性
  • 準拠法と裁判管轄(海外事業者との契約時)

📖 もっと詳しく 契約書 4 分類の詳細な条項別チェックポイントは、本コースでは全体像の把握に留めます。各条項の具体的な修正例・雛形の作り方は、司法試験・司法書士試験の教材や、契約書実務の専門書を参照してください。本コースは「担当者としての優先度付けと戻しの型」に集中します。

修正マーカー運用(トラック変更・カラーコード)

契約書レビューは Word のトラック変更機能を使って行うのが業界標準です。Word の校閲タブから「変更履歴の記録」をオンにして修正すると、追加・削除・コメントが色分け表示されます。

修正マーカーの標準ルール

  • 本文の修正:トラック変更で追加・削除を記録
  • コメント:Word コメント機能で、Must(赤)・Should(黄)・Nice to Have(青)に色分け
  • 相手方への戻し:コメントの温度感を保ったまま、トラック変更をオン状態で送付
  • 確定版:交渉完了後、すべての変更履歴を承諾して確定版として保存

電子契約サービスとの連携

契約締結段階では、電子署名法(2001 年 4 月施行)に基づく電子契約サービスが標準となっています。DocuSign・Adobe Sign・クラウドサイン・GMO サイン・freee サインなどが主要な選択肢で、選定時は次の観点で評価します。

  • 電子署名の類型(当事者署名型・立会人型)と電子帳簿保存法との整合性
  • 相手方が同じサービスを持っている必要があるか
  • API 連携で契約管理システムと繋げられるか
  • 契約書検索・保管の機能
  • 費用体系(従量課金・定額)

リーガルテックの位置づけ

契約審査支援ツール(リーガルテック)は 2020 年代に本格普及しました。国内主要サービスとして LegalOn Cloud(リーガルオンテクノロジーズ、旧 LegalForce)・LegalForce・ContractS CLM・Hubble・GMO 契約レビュー・OLGA などがあります。

リーガルテックが担う 3 領域

  • 雛形チェック支援:契約書を自動解析し、雛形との差分・欠落条項を検知
  • 契約管理(CLM):契約書のライフサイクル管理(作成→レビュー→締結→更新→終了)
  • AI レビュー:生成 AI による条項ドラフト・修正案の提案

リーガルテック活用の注意点

  • ツールは「網羅チェックの補助」であり「判断そのもの」ではない
  • AI レビューの提案をそのまま採用せず、必ず人間の法務担当者が判断する
  • 個別事案の断定的な法的判断は弁護士業務にあたるため、AI ツールで完結させない
  • 秘密情報の取り扱いに関するツール側のプライバシーポリシーを確認する

リーガルテックは、契約書レビューの 6 ステップのうち Step 2(網羅チェック)を効率化する補助ツールとして位置づけるのが実務的です。Step 3〜 5(リスク評価・優先度付け・修正コメント)は、事業と会社の文脈を持つ法務担当者にしかできません。

次のステップ

本レッスンでは契約書レビューの 6 ステップと契約 4 分類の共通論点を扱いました。次のレッスンでは、契約書の背後にある社内規程の整備と運用を取り上げます。契約書と社内規程は「対外的な守り」と「対内的な守り」の両輪であり、両者の整合性が法務の品質を決めます。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。