食品衛生法・HACCP/食品表示法・特商法——飲食業の 3 法体系
レッスン3:食品衛生法・HACCP/食品表示法・特商法——飲食業の 3 法体系
このレッスンで学ぶこと
- 食品衛生法(1947 年制定・2018 年改正・2021 年 6 月 HACCP 完全義務化)の全体構造を理解する
- HACCP の 7 原則 12 手順と、営業許可 32 業種・営業届出制の区別を掴む
- 食品表示法(2015 年 4 月施行)とアレルギー表示、原料原産地表示、機能性表示食品の実務を扱う
- 食品ロス削減推進法(2019 年 10 月施行)と特商法(通信販売・訪問販売の広告表示)の要点を押さえる
前回のレッスンでは、飲食・宿泊業のバリューチェーンと業態別ビジネスモデル、5 領域別の収益モデル基本式、業態別組織構造、業界横断の 5 経営課題を扱いました。今回は、飲食業を規律する 3 法体系(食品衛生法・食品表示法・特商法)を、実務論点を軸に体系化していきます。
食品衛生法——飲食業のパスポート
食品衛生法は、飲食業界の営業許可・衛生管理・食品事故対応の中核をなす法律です。1947 年 12 月に制定され、2018 年 6 月に大改正が行われました。改正のポイントは 7 つあり、その中で最も影響が大きいのが「HACCP に沿った衛生管理の制度化」(2021 年 6 月 1 日完全義務化)です。
食品衛生法の目的は、法律の第 1 条で「食品の安全性を確保するために必要な規制と措置を講じ、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康の保護を図ること」と定められています。要は「食中毒などの食品事故を防ぐ」ための法律です。
食品衛生法は、飲食店営業・食品製造業・食品販売業のすべての事業者に適用されます。飲食店には営業許可、食品衛生責任者の設置、施設・設備の基準遵守、衛生管理計画の策定・実施、記録の保存が義務付けられます。違反した場合は営業停止、営業許可取消、罰則(食品衛生法違反として最高で懲役 3 年または罰金 300 万円)の対象となります。
2018 年改正の 7 ポイント
食品衛生法 2018 年改正の 7 ポイントは以下です。
1 つ目は HACCP に沿った衛生管理の制度化(2021 年 6 月 1 日完全義務化)。すべての食品等事業者に HACCP の考え方に基づく衛生管理計画の策定・実施・記録が義務付けられました。
2 つ目は営業許可制度の再編(2021 年 6 月 1 日施行)。従来の許可 34 業種を 32 業種に再編し、飲食店営業と喫茶店営業を「飲食店営業」に統合、菓子製造業に「あん類製造業」を含めるなどの整理が行われました。
3 つ目は営業届出制度の創設。許可対象外の食品等事業者(食品小分け業、包装食品販売業、食品運搬業など)に対して、都道府県への届出が新設されました。
4 つ目は食品リコール情報の届出義務化。食品の自主回収(リコール)情報を国に届け出る制度が創設され、消費者への迅速な情報提供体制が整備されました。
5 つ目は食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度導入。従来のネガティブリスト方式(有害物質を規制)から、安全性が担保された物質のみ使用可能なポジティブリスト方式へ移行しました。
6 つ目は輸入食品の安全性確保。HACCP に基づく衛生管理の実施を輸入食品にも求める仕組みが整備されました。
7 つ目は広域的な食中毒事案への対策強化。複数自治体にまたがる食中毒事案(O-157、ノロウイルスなど)への広域連携体制が整備されました。
💡 ポイント 食品衛生法 2018 年改正の中で、実務インパクトが最大なのは 1 つ目の HACCP 完全義務化です。従来は大企業のみが導入していた HACCP を、街の飲食店・食品事業者まですべて実施することが求められるようになりました。
HACCP——7 原則 12 手順の実務
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point、危害要因分析重要管理点)は、食品の製造・調理の各工程で起こりうる危害要因を分析し、重要管理点を継続的に監視・記録する衛生管理手法です。1960 年代に米国 NASA のアポロ計画で宇宙食の安全確保のために開発され、1993 年に FAO /WHO 合同食品規格委員会(CAC)が国際基準として採用しました。
HACCP は 7 原則 12 手順で構成されます。前段の 5 手順は準備段階、後段の 7 手順が HACCP の中核です。
準備の 5 手順:
- HACCP チームの編成
- 製品の説明書の作成
- 意図する用途と対象消費者の確認
- 製造工程一覧図の作成
- 製造工程一覧図の現場確認
HACCP の 7 原則(手順 6 〜 12): 6. 危害要因分析の実施 7. 重要管理点(CCP)の決定 8. 管理基準(CL)の設定 9. モニタリング方法の設定 10. 改善措置の設定 11. 検証方法の設定 12. 記録と保存方法の設定
実際の飲食店では、この 7 原則 12 手順をすべて厳密に実施するのは負担が大きいため、事業規模に応じた 2 つのアプローチが用意されています。
アプローチ A(HACCP に基づく衛生管理)は、コーデックス委員会の 7 原則 12 手順に完全準拠する方式で、大規模事業者や食品製造業に適用されます。
アプローチ B(HACCP の考え方を取り入れた衛生管理)は、業界団体が作成した手引書に基づき、小規模事業者・飲食店・小売店が実施する簡易版です。厚生労働省の Web サイトに 100 種類以上の業種別手引書が公開されています。
飲食店では、営業前の始業時衛生チェック、営業中の温度管理(冷蔵庫、加熱調理温度、盛付け時温度)、洗浄・消毒、従業員の健康管理、記録の保存(少なくとも 1 か月)が最低限のルーチンになります。
📝 補足 HACCP は「衛生管理を書類で残す」ことに慣れていない小規模飲食店にとって、当初は負担感の大きい制度でした。しかし記録によって「異常があった際の原因追跡」「従業員教育の標準化」「食品事故発生時の対応時間短縮」といった効果があるため、経営品質向上の観点で捉える経営者が増えています。
営業許可 32 業種と営業届出制
食品衛生法 2018 年改正で、営業許可の対象業種は従来の 34 業種から 32 業種に再編されました(2021 年 6 月 1 日施行)。営業許可が必要な業種を厚生労働省の告示で例示すると、以下のように整理できます。
飲食店営業(従来の飲食店営業と喫茶店営業を統合)、調理の機能を有する自動販売機による調理販売業、食肉販売業、魚介類販売業、魚介類競り売り営業、集乳業、乳処理業、特別牛乳搾取処理業、食肉処理業、食品の放射線照射業、菓子製造業、アイスクリーム類製造業、乳製品製造業、清涼飲料水製造業、食肉製品製造業、水産製品製造業、氷雪製造業、液卵製造業、食用油脂製造業、みそまたはしょうゆ製造業、酒類製造業、豆腐製造業、納豆製造業、麺類製造業、そうざい製造業、複合型そうざい製造業、冷凍食品製造業、複合型冷凍食品製造業、漬物製造業、密封包装食品製造業、食品の小分け業、添加物製造業の 32 業種です。
営業許可は保健所への申請、施設基準への適合、食品衛生責任者の設置、営業許可手数料の納付、5 〜 8 年ごとの更新が必要です。
営業届出は、営業許可対象外の食品事業者に対して 2021 年 6 月に新設された制度です。届出対象は食品運搬業、食品販売業(コンビニ、スーパー、青果店、鮮魚販売店など)、食品小分け業、包装食品販売業、乳類販売業、氷雪販売業、器具容器包装の製造業、その他公衆衛生に影響を与える食品を取り扱う業などです。届出は許可より簡易ですが、HACCP の実施と食品衛生責任者の設置は同様に義務付けられます。
食品衛生責任者と食品衛生管理者
食品衛生責任者は、営業許可対象の各営業施設に 1 名以上必ず配置しなければならない資格者です。都道府県知事等が実施する食品衛生責任者養成講習会(6 時間程度、受講料 1 万円前後)を修了することで取得できます。栄養士、調理師、製菓衛生師、食品衛生管理者、食鳥処理衛生管理者などの資格保有者は講習会免除で就任できます。
食品衛生管理者は、乳製品製造業、食肉製品製造業、添加物製造業などの特定 12 業種の製造・加工施設に 1 名以上配置が義務付けられる、より上位の国家資格です。医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、大学で医学・獣医学・畜産学・水産学・農芸化学の課程を修了した者、または厚生労働大臣登録の養成施設で講習を修了した者が就任できます。
飲食店に必要な人的資格は食品衛生責任者だけで、食品衛生管理者は不要です。
食品表示法——アレルギー表示・原料原産地表示
食品表示法は 2015 年 4 月 1 日に施行された、食品表示に関する統一法律です。旧来の食品衛生法・JAS 法・健康増進法の 3 法に分散していた食品表示ルールを 1 本化しました。
食品表示法の主要な表示対象は、加工食品・生鮮食品・添加物の 3 分類です。表示事項は名称、原材料名、内容量、消費期限または賞味期限、保存方法、原産地、製造者、栄養成分表示、アレルギー表示、遺伝子組換え表示など多岐にわたります。
アレルギー表示は、8 品目の義務表示と 20 品目の推奨表示に区分されます。義務 8 品目は卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに、くるみ(2025 年 4 月新規追加)です。推奨 20 品目はアーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンです。
原料原産地表示は、2017 年 9 月の告示改正で全加工食品への表示義務が導入され、2022 年 4 月 1 日に完全義務化されました。加工食品の最も重量割合が高い原材料の原産地表示が求められます。「国別重量順」または「一括原産国表示」で表示します。
機能性表示食品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示できる食品制度です。2015 年 4 月に施行され、事業者は科学的根拠を消費者庁に届出することで表示可能になります。特定保健用食品(トクホ)が国の審査を経た許可制なのに対し、機能性表示食品は事業者の責任・届出制で、より簡易な仕組みです。
飲食店の店内メニューには、法律による表示義務はありません。ただし、通信販売(宅配、EC)で提供する食品には食品表示法が適用されます。またアレルギー情報の任意表示は、消費者保護の観点から広く実施されています。
⚠️ 注意 アレルギー表示の義務 8 品目は、2025 年 4 月に「くるみ」が新規追加されました。従来 7 品目だった記憶で対応している事業者は、表示の見直しが必要です。10 年に 1 回程度、アレルギー表示品目の見直しが行われるため、最新情報の追跡が必要です。
食品ロス削減推進法と特商法
食品ロス削減推進法は 2019 年 10 月 1 日に施行され、事業者・消費者・自治体が食品ロス削減に取り組む枠組みが定められました。日本の食品ロスは年間約 472 万トン(2022 年推計)で、うち事業系が約 236 万トン、家庭系が約 236 万トンです。政府は 2030 年度までに事業系・家庭系ともに 2000 年度比で半減することを目標に掲げています。
事業者側の主な取り組みには、フードシェアリングサービス(TABETE 、Otameshi 、Kuradashi など)活用、賞味期限延長、3 分の 1 ルールの見直し、食品ドライブ、フードバンク寄贈、AI 需要予測、モバイルオーダーによる調理ロス削減などがあります。
特定商取引法(特商法)は、通信販売・訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引などを規制する法律です。飲食・宿泊業では、宿泊予約の通信販売(自社 EC /OTA 経由)、飲食店の宅配・テイクアウト予約 EC 、旅行商品の通信販売などで適用されます。
特商法における通信販売の広告表示義務は 11 項目あります。販売価格、送料、代金支払時期・方法、商品の引渡時期・引渡方法、返品特約、事業者の氏名・住所・電話番号、事業者代表者名(法人の場合)、法定申請等番号(許可・登録・届出)、販売条件、商品名・数量、キャンセルポリシーです。
コロナ禍以降のテイクアウト・宅配拡大に伴い、飲食店の EC 販売でも特商法違反が問題化するケースが増えました。自社 EC やフードデリバリーアプリの掲載情報に、これら 11 項目が漏れなく含まれているかの確認が実務となっています。
🔰 初学者の方へ 「食品事業者」「飲食店」「食品製造業」「食品販売業」といった区分けが混乱しやすいポイントです。食品事業者はすべての食品を扱う事業者の総称で、その中に飲食店・食品製造業・食品販売業・食品運搬業などが含まれます。食品衛生法・食品表示法・特商法の各法律ごとに「どの区分の事業者に適用されるか」の範囲が異なるため、実務では自社が該当する区分を法律ごとに確認する必要があります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 食品衛生法は 1947 年制定・2018 年大改正・2021 年 6 月 HACCP 完全義務化で飲食業のパスポート
- HACCP は 7 原則 12 手順で構成、飲食店は「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」の簡易版を実施
- 営業許可は 32 業種、営業届出制は 2021 年 6 月新設、食品衛生責任者は営業許可対象施設に 1 名以上必須
- 食品表示法は 2015 年 4 月施行、アレルギー義務 8 品目(2025 年 4 月にくるみ追加)、原料原産地表示は 2022 年 4 月完全義務化
- 機能性表示食品は 2015 年制度化、事業者責任・届出制でトクホより簡易
- 食品ロス削減推進法は 2019 年 10 月施行、2030 年度までに事業系・家庭系ともに半減目標
- 特商法の通信販売広告表示義務 11 項目は宅配・テイクアウト・OTA でも適用
次のレッスンでは、飲食業態分類(ファインダイニング/カジュアル/ファストフード/居酒屋/カフェ)と店舗経営 5 大 KPI(客単価・回転率・FL 比率・原価率・人時売上高)、フランチャイズ制度、セントラルキッチン、中食市場約 10 兆円を扱います。
確認クイズ
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