CVP 分析と損益分岐点
レッスン3:CVP 分析と損益分岐点
このレッスンで学ぶこと
- CVP 分析の公式(利益 = 貢献利益単価 × 数量 − 固定費)を扱える
- 損益分岐点(BEP)を数量ベース・売上高ベースで算出できる
- 安全余裕率・価格弾力性・複数製品の加重平均貢献利益率を持てる
- 感度分析で価格・数量・費用構造の変化の影響を試算できる
前レッスンでは変動費と固定費の分離、貢献利益の考え方を扱いました。本レッスンでは、貢献利益を土台とする CVP 分析(Cost-Volume-Profit Analysis)と損益分岐点(Break-Even Point:BEP)を扱います。CVP は管理会計の中で最も応用範囲が広い意思決定支援ツールで、価格設定・数量計画・費用構造見直しのシミュレーションに毎日使う枠組みです。
CVP 分析とは
CVP 分析は、費用(Cost)・数量(Volume)・利益(Profit)の 3 要素の関係を数式化し、いずれか 1 つを動かした時のほかの 2 つへの影響を試算する枠組みです。管理会計担当者が経営陣に「価格を 5 % 下げたらどうなるか」「数量が 20 % 増えたらどうなるか」といった問いに答える基礎となります。
CVP の基本公式
- 売上高 = 単価 × 数量
- 変動費 = 変動費単価 × 数量
- 貢献利益 = 売上高 − 変動費 = (単価 − 変動費単価)× 数量 = 貢献利益単価 × 数量
- 営業利益 = 貢献利益 − 固定費 = 貢献利益単価 × 数量 − 固定費
例:単価 1,000 円、変動費単価 600 円、固定費 400 万円の製品
- 貢献利益単価 = 1,000 − 600 = 400 円
- 数量 10,000 個の営業利益 = 400 × 10,000 − 4,000,000 = 0 円
- 数量 12,000 個の営業利益 = 400 × 12,000 − 4,000,000 = 800,000 円
損益分岐点(BEP)の算出
損益分岐点は、営業利益がちょうどゼロになる数量・売上高です。「最低限これだけ売らないと赤字」の水準を示します。
BEP 数量
- BEP 数量 = 固定費 ÷ 貢献利益単価
- 上の例:4,000,000 ÷ 400 = 10,000 個
BEP 売上高
- BEP 売上高 = 固定費 ÷ 貢献利益率
- 貢献利益率 = 貢献利益単価 ÷ 単価 = 400 ÷ 1,000 = 40 %
- BEP 売上高 = 4,000,000 ÷ 0.4 = 10,000,000 円
graph LR
A[売上高] --> B[変動費]
A --> C[貢献利益]
C --> D[固定費]
C --> E[営業利益]
F[BEP<br/>営業利益=0] -.-> C
F -.-> D
安全余裕率
BEP からどれだけ売上に余裕があるかを示す指標です。
- 安全余裕率 =(実際売上高 − BEP 売上高)÷ 実際売上高
安全余裕率が高いほど、売上減少への耐性が高い会社です。業種の目安として、製造業で 20 %、小売業で 15 %、SaaS で 30 % 以上あれば健全とされます。
価格弾力性と CVP の組み合わせ
CVP 分析の応用で最も頻繁に問われるのが「価格を下げたら数量はどう変わり、利益はどうなるか」というシミュレーションです。ここで登場するのが価格弾力性です。
- 価格弾力性 = 数量変化率 ÷ 価格変化率(絶対値)
- 弾力性 > 1:価格に敏感(下げれば数量が大きく増える)
- 弾力性 = 1:価格変化率と数量変化率が等しい
- 弾力性 < 1:価格に鈍感(下げても数量はあまり増えない)
シミュレーション例
前述の例(単価 1,000 円、変動費単価 600 円、固定費 400 万円、現在数量 12,000 個、営業利益 80 万円)で、価格を 5 % 下げた場合の 2 シナリオ:
弾力性 = 1.5 の場合(数量 +7.5 %)
- 新単価 950 円、新数量 12,900 個
- 貢献利益単価 = 950 − 600 = 350 円
- 営業利益 = 350 × 12,900 − 4,000,000 = 515,000 円
- → 従来 80 万円から 51.5 万円に減少(悪化)
弾力性 = 3 の場合(数量 +15 %)
- 新単価 950 円、新数量 13,800 個
- 営業利益 = 350 × 13,800 − 4,000,000 = 830,000 円
- → 従来 80 万円から 83 万円に微増(改善)
弾力性が読めない場合は、この 2 パターンを並べて経営陣に判断材料として提示します。
複数製品の加重平均貢献利益率
現実には 1 製品ではなく複数製品を扱います。複数製品の CVP 分析では、加重平均貢献利益率で全社の BEP を算出します。
加重平均貢献利益率の算出
売上構成比で加重した貢献利益率です。
例:
- 製品 A:売上構成比 40 %、貢献利益率 50 %
- 製品 B:売上構成比 35 %、貢献利益率 30 %
- 製品 C:売上構成比 25 %、貢献利益率 20 %
加重平均貢献利益率 = 0.4 × 0.5 + 0.35 × 0.3 + 0.25 × 0.2 = 0.2 + 0.105 + 0.05 = 35.5 %
固定費 3,000 万円の場合、BEP 売上高 = 30,000,000 ÷ 0.355 ≒ 84,507,000 円
売上構成比が変わると加重平均貢献利益率も変わるため、製品ミックスの変化がどう利益に効くかを試算するときにも使います。
感度分析(Sensitivity Analysis)
CVP 分析の真骨頂は感度分析です。単価・変動費単価・数量・固定費の 4 つの入力それぞれに変化を与え、営業利益がどう動くかを表にします。
| 変化させる要素 | −10 % | 現状 | +10 % |
|---|---|---|---|
| 単価 | 営業利益 X 万円 | 営業利益 Y 万円 | 営業利益 Z 万円 |
| 変動費単価 | 営業利益 X 万円 | 営業利益 Y 万円 | 営業利益 Z 万円 |
| 数量 | 営業利益 X 万円 | 営業利益 Y 万円 | 営業利益 Z 万円 |
| 固定費 | 営業利益 X 万円 | 営業利益 Y 万円 | 営業利益 Z 万円 |
Excel のデータ・シミュレーション機能(「What-If 分析」→「データテーブル」)を使うと、この表を数分で作れます。感度分析の表を見ることで、経営陣は「どの要素が利益に最も効くか」を直感的に理解できます。
💡 ポイント CVP 分析の答えは「1 つの数字」ではなく「感度分析の表」です。経営陣に単一の予測値を出すと外れた時に信頼を失いますが、感度分析の表を出せば「前提が変わったらどうなるか」を経営陣自身が判断できます。管理会計担当者の付加価値は、答えを出すことではなく判断材料を出すことにあります。
次のステップ
本レッスンでは CVP 分析と損益分岐点、感度分析を扱いました。次のレッスンでは、より長期の意思決定として設備投資評価(NPV・IRR・Payback)を扱います。時間軸が数年に伸びると割引率と時間価値の概念が加わりますが、根っこにあるのは同じ「意思決定に使う数字を作る」という発想です。
確認クイズ
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