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スキルアップカレッジ

所得控除と税額控除——節税は合法、賢く制度を使う

レッスン6:所得控除税額控除——節税は合法、賢く制度を使う

このレッスンで学ぶこと

  • 所得控除と税額控除の違いを理解する
  • 基礎控除(48 万円、合計所得 2,400 万円以下)の仕組みを把握する
  • 社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除の運用を理解する
  • iDeCo個人事業主の上限月額 68,000 円)の活用を学ぶ
  • ふるさと納税・医療費控除・生命保険料控除の使い方を整理する
  • 税額控除(住宅借入金等特別控除など)と定額減税(2024 年実施)を理解する

前回のレッスンでは、インボイス制度と消費税の判断軸を扱いました。本レッスンでは、所得税の計算における「控除」を扱います。控除は、節税の中核です。「合法的に税負担を減らす制度」の引き出しを増やせれば、フリーランスのキャッシュフローは大きく改善します。前回のレッスン 4 で触れたとおり、本コースの立場は「節税の制度を最大限に活用する一方で、脱税には絶対に手を出さない」です。本レッスンを通じて、合法的な節税の選択肢を一緒に整理します。

所得控除と税額控除の違い

所得税の計算は、おおむね次の流れです。

売上 − 経費 − 青色申告特別控除 = 事業所得
事業所得 − 所得控除 = 課税所得
課税所得 × 税率 = 算出税額
算出税額 − 税額控除 = 納付税額

ここで「所得控除」と「税額控除」は、適用される場所が違います。

種類 適用場所 効果
所得控除 課税所得を計算する前 税率がかかる前の所得を減らす → 節税額 = 所得控除額 × 税率
税額控除 算出税額から直接差し引く 算出税額を直接減らす → 節税額 = 税額控除額

例えば、所得税率 20% の方が 10 万円の所得控除を受けると、節税額は 2 万円。同じ方が 10 万円の税額控除を受けると、節税額は 10 万円。税額控除のほうが節税効果は大きいですが、適用される機会は限定的です。

💡 ポイント 所得控除は「課税対象を減らす」、税額控除は「税額を直接減らす」。両者を組み合わせて使うのが、節税の基本パターンです。

所得控除の全体像

主な所得控除を整理します。

控除 概要
基礎控除 48 万円(合計所得 2,400 万円以下)
社会保険料控除 国民健康保険国民年金国民年金基金などの全額
小規模企業共済等掛金控除 小規模企業共済・iDeCo・心身障害者扶養共済の掛金全額
生命保険料控除 一般・介護医療・個人年金の各最大 4 万円(合計最大 12 万円)
地震保険料控除 地震保険料の最大 5 万円
配偶者控除・配偶者特別控除 配偶者の所得に応じて最大 38 万円
扶養控除 扶養家族 1 人につき 38 万円〜 63 万円
障害者控除 27 万円〜 75 万円
ひとり親控除・寡婦控除 27 万円〜 35 万円
勤労学生控除 27 万円
医療費控除 年間の医療費が一定額超で適用
寄附金控除 ふるさと納税など、寄附金額に応じて
雑損控除 災害・盗難等で被災した場合

主要な控除を、順番に詳しく整理します。

基礎控除

すべての納税者が原則として受けられる控除です。

  • 控除額:48 万円(2026 年 6 月時点。所得税法上の基礎控除)
  • 適用条件:合計所得 2,400 万円以下(2,400 万円超は段階的に減額、2,500 万円超で適用外)

会社員時代は給与所得控除(55 万円)+ 基礎控除(48 万円)の二段階だったので、103 万円までの収入は所得税がゼロでした(給与のみの場合)。フリーランス(事業所得)では、給与所得控除がなく、青色申告特別控除(65 万円)+ 基礎控除(48 万円)の組み合わせで、売上 113 万円までなら所得税がゼロになる計算になります(事業所得から経費を差し引いた後の所得が 48 万円未満なら)。

社会保険料控除

国民健康保険・国民年金・国民年金基金などの社会保険料を、全額控除できます。

国民健康保険

  • 自治体ごとに計算式が異なる
  • 所得割(前年所得をもとに)・均等割(世帯人数)・平等割(世帯ごと)の組み合わせ
  • 上限額は自治体ごとに定められる(おおむね年間 70 万円〜 100 万円台)

国民年金

  • 定額(2026 年度は月額の最新値を国民年金機構の公式情報で確認)
  • 前納による割引制度(半年・1 年・2 年の前納がある)

国民年金基金(任意加入)

  • 国民年金に上乗せできる任意加入の制度
  • 月額の上限は 6 万 8,000 円(iDeCo と合算で上限)
  • 掛金は全額が社会保険料控除

社会保険料は 「払わなければ控除も使えない」ので、未納のメリットはありません。社会保険料控除はフリーランスの節税の出発点です。

小規模企業共済

中小機構が運営する、個人事業主・小規模法人役員向けの「退職金積み立て」制度。フリーランスにとっての節税の王道です。

仕組み

  • 月額 1,000 円〜 7 万円(500 円単位)で設定可能
  • 全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除
  • 廃業・引退時にまとまった額を退職所得として受け取れる

節税効果

  • 例えば月 7 万円(年 84 万円)を積み立てると、年 84 万円が所得控除
  • 所得税率 20%、住民税率 10% の方なら、節税効果は年 25.2 万円(84 万円 × 30%)
  • 同時に積み立て金は年 1.5% 程度の予定利率で運用される

加入の要件

  • 個人事業主、または小規模法人の役員
  • 業種・規模による要件あり

中小機構の公式サイト、または金融機関(銀行・信用金庫など)で加入できます。

💡 ポイント 小規模企業共済は、「節税」と「退職金積み立て」の両立。フリーランスの長期キャリアを考えるなら、検討の価値が高い制度です。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

国民年金基金連合会が運営する、私的年金制度。フリーランスは特に上限額が大きく設定されています。

仕組み

  • 個人事業主の上限:月額 6 万 8,000 円(年 81.6 万円、国民年金基金との合算)
  • 全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除
  • 自分で運用商品を選ぶ(投資信託、定期預金、保険など)
  • 60 歳まで原則引き出せない

節税効果

  • 年 81.6 万円を満額拠出すると、年 81.6 万円が所得控除
  • 所得税率 20%、住民税率 10% の方なら、節税効果は年 24.5 万円
  • さらに、運用益は非課税

注意点

  • 60 歳まで原則引き出せない(流動性が低い)
  • 元本割れの可能性がある運用商品もある
  • 加入手数料・運用手数料がかかる

iDeCo は、節税効果と資産形成の両立を狙うフリーランスの定番の選択肢です。

小規模企業共済と iDeCo の比較

項目 小規模企業共済 iDeCo
月額上限 7 万円(年 84 万円) 6 万 8,000 円(年 81.6 万円)
引き出し 廃業・引退時 60 歳以降
運用 予定利率(決まっている) 自分で運用商品を選択
受け取り時の課税 退職所得 or 公的年金等 退職所得 or 公的年金等
中途解約 一定条件で可能 原則不可

両方併用も可能で、それぞれの月額上限まで積み立てれば、年 165.6 万円の所得控除になります。

ふるさと納税(寄附金控除)

自分の好きな自治体に寄附することで、所得税・住民税の控除を受けられる制度。実質負担 2,000 円で、自治体から返礼品も受け取れる仕組みです。

仕組み

  • 自治体への寄附 → 翌年に確定申告 or ワンストップ特例
  • 寄附額 −2,000 円 が所得税・住民税から控除(控除上限あり、所得や家族構成により変動)
  • 自治体からは返礼品(おおむね寄附額の 30% 相当)

控除上限の目安

控除上限は、年収・家族構成により異なります。「ふるさと納税 シミュレーター」などのオンラインツールで計算するのが基本です。例えば、年間所得 400 万円の独身フリーランスなら、上限は概ね 4 万円〜 5 万円。

注意点

  • 個人事業主は確定申告で寄附金控除を申請(ワンストップ特例は給与所得者のみ)
  • 控除上限を超える寄附は、自己負担になる
  • 「節税」というより「自治体への寄附+返礼品」の制度

医療費控除

年間の医療費が一定額を超えた場合に、所得控除を受けられる制度。

計算式

  • 控除額 = 年間医療費 − 保険金等で補填された額 − 10 万円(または所得の 5% のいずれか低い額)
  • 上限:200 万円

対象になる医療費

  • 病院・歯科・薬局の支払い
  • 治療目的の通院費(電車・バス)
  • 治療目的の市販薬(一定範囲)

対象にならないもの

  • 美容目的の医療
  • 健康増進目的(サプリメント、ジムなど)
  • 通院のための自家用車のガソリン代

家族の医療費を合算できるため、扶養家族がいる方は合計額を計算してみてください。

セルフメディケーション税制

ドラッグストアで購入した特定の OTC 医薬品が年 1 万 2,000 円を超える場合、医療費控除の特例として「セルフメディケーション税制」を選択できます(医療費控除との併用は不可)。

生命保険料控除・地震保険料控除

生命保険料控除

区分 控除上限
一般生命保険料 4 万円
介護医療保険料 4 万円
個人年金保険料 4 万円
合計 最大 12 万円

新契約(2012 年 1 月 1 日以降の契約)の場合の上限。旧契約はさらに上限が異なります。

地震保険料控除

  • 控除上限:5 万円

税額控除

主な税額控除を整理します。

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)

住宅取得時のローン残高の一定率を、税額から控除する制度。

  • 一般住宅の控除率:年末ローン残高 × 0.7%(最大 13 年間)
  • 認定住宅は別の控除率
  • 適用要件:床面積・所得・借入期間など複数

フリーランス(事業所得)の方も、住宅ローン控除は適用できます。会社員時代と変わらず利用可能です。

寄附金特別控除(政党等寄附金特別控除)

政党・政治団体・認定 NPO 法人への寄附の一部は、税額控除として申告できます(所得控除と選択)。

配当控除

株式・投資信託からの配当所得に対する税額控除(一定条件)。

定額減税(2024 年実施)

2024 年に実施された一時的な減税。

  • 所得税:3 万円
  • 住民税:1 万円

個人事業主は、2024 年の予定納税からの減税という形で実施されました。会社員の場合は給与から減税されましたが、フリーランスは予定納税からの減税です。

2025 年以降の継続については、政府の方針を確認する必要があります。「2026 年 6 月時点」では一時的な減税として扱われています

節税の優先順位

控除を全部使うのは難しいので、優先順位を整理します。

優先度高

  1. 社会保険料控除:払わなければ控除も使えない
  2. 基礎控除:自動適用
  3. 青色申告特別控除:65 万円(前提:複式簿記+ e-Tax)

優先度中

  1. 小規模企業共済:節税+退職金積み立て
  2. iDeCo:節税+老後資産形成
  3. ふるさと納税:寄附+返礼品

優先度低(状況による)

  1. 医療費控除:医療費が多い年のみ
  2. 生命保険料控除:契約状況による
  3. 住宅ローン控除:住宅取得時のみ

💡 ポイント 「すべての控除を使い切る」のは難しいので、自分のキャッシュフロー・ライフプランとの整合性で判断します。小規模企業共済と iDeCo は、節税と将来資産形成の両立で、優先度が高い選択肢です。

講師の現場メモ

中堅税理士人時代、ある独立 2 年目のフリーランスの方(30 代男性、Web エンジニア、年商 900 万円、所得 600 万円程度)に、控除の活用をご提案した経験があります。それまで、社会保険料控除と基礎控除しか使っていませんでした。

ご相談時に、ご本人の希望をまず確認しました。「老後のお金が心配」「数年後に住宅を購入したい」「いまは生活費はそこまで多くない」とのこと。

これを踏まえて、次の組み合わせをご提案しました。

  • 小規模企業共済:月 5 万円(年 60 万円)
  • iDeCo:月 3 万円(年 36 万円)
  • ふるさと納税:年 5 万円程度

社会保険料控除(年 80 万円)+小規模企業共済(年 60 万円)+ iDeCo(年 36 万円)+ふるさと納税(年 4.8 万円)+基礎控除(48 万円)+青色申告特別控除(65 万円)。控除を組み合わせて、課税所得が大幅に減りました。節税効果は年約 30 万円、ご本人にとってもインパクトが大きい結果になりました。

「節税のために節約しないお金を、将来の資産形成と地域貢献に回せる」——彼の言葉が印象的でした。節税は「お金を増やす」のではなく、「同じ収入を有効に使う」発想です。

ただし、注意もお伝えしました。小規模企業共済も iDeCo も、生活費を圧迫してまで満額拠出してはいけない。手元のキャッシュフローを優先しつつ、無理のない範囲で拠出を続ける——これが長く続けるコツです。

まとめ

  • 所得控除と税額控除の違い:所得控除は「課税対象を減らす」(節税額 = 控除額 × 税率)、税額控除は「税額を直接減らす」(節税額 = 控除額)
  • 基礎控除:48 万円(合計所得 2,400 万円以下、2026 年 6 月時点)
  • 社会保険料控除:国民健康保険・国民年金・国民年金基金の全額。フリーランス節税の出発点
  • 小規模企業共済:月 1,000 円〜 7 万円、全額所得控除、退職金積み立てとの両立
  • iDeCo:個人事業主は月額上限 6 万 8,000 円(国民年金基金と合算)、全額所得控除、運用益非課税
  • ふるさと納税:個人事業主は確定申告で寄附金控除、控除上限は所得・家族構成で変動
  • 医療費控除:年間医療費 − 補填額 − 10 万円(または所得の 5%)、上限 200 万円
  • 住宅ローン控除(税額控除):年末ローン残高 × 0.7%、最大 13 年間
  • 定額減税(2024 年実施):所得税 3 万円+住民税 1 万円。個人事業主は予定納税からの減税

次のレッスンでは、確定申告の実務を扱います。申告期限、必要書類、e-Tax、納税方法、申告ミスへの対応、税務調査の備え、消費税申告まで、実際の手続きの流れを整理します。

確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックする 6 問です。