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スキルアップカレッジ

経費計上の作法——何を経費にできるか、家事按分、減価償却

レッスン4:経費計上の作法——何を経費にできるか、家事按分減価償却

このレッスンで学ぶこと

  • 「経費にできるもの/できないもの」の判断軸を持つ
  • 家事按分の発想(家賃・水道光熱費・通信費・自動車費用)を身につける
  • 減価償却の基本と少額減価償却資産の特例(30 万円未満)を理解する
  • レシート・領収書の保存と電子帳簿保存法の関係を整理する
  • 税務調査の発想(証憑と説明責任)を把握する
  • 節税」と「脱税」の境界を明確にする

前回のレッスンでは、帳簿付けの基本と会計ソフトの活用を扱いました。本レッスンは、独立後の日常で最も判断に迷う領域——「これは経費になりますか?」のテーマです。「経費に入れて節税したい」気持ちと、「税務署に否認されるリスク」のあいだで揺れる方が多い領域です。本レッスンでは、判断軸を整理しながら、「合法的に経費を取る」「グレーゾーンに手を出さない」発想を一緒に身につけていきます。

経費の定義

所得税法における経費(必要経費)の定義は、概ね次のとおりです。

事業所得を生ずべき業務について生じた費用のうち、その事業の収入を得るために直接要した費用、およびその年における販売費・一般管理費・その他これらの業務について生じた費用。

ポイントは「事業のために」「直接要した」の 2 つです。事業と関係ない出費、事業に間接的・遠回りに関わるだけの出費は、経費になりません。

判断軸

「経費になるか」を判断する基本軸は、次の 3 つです。

  1. 事業との関連性:その出費は、自分の事業の収入を得るために直接的に必要だったか
  2. 業務との連動:日付・目的・相手先が、業務と整合的に説明できるか
  3. 証憑(しょうひょう)の存在:領収書・請求書・契約書などで、出費の事実と内容が証明できるか

3 つすべてを満たす出費が「経費」になります。1 つでも欠けると、税務調査でグレーになる可能性があります。

💡 ポイント 「事業との関連性」「業務との連動」「証憑の存在」の 3 つが、経費判断の三本柱です。「節税のために」ではなく、「事業のために」が出発点です。

経費にできるもの・できないもの

具体的なケースで整理します。

経費にできる典型例

  • 事業所家賃(自宅兼事務所の場合は家事按分)
  • 水道光熱費(自宅兼事務所の場合は家事按分)
  • 通信費(業務用の携帯・インターネット)
  • 旅費交通費(業務目的の出張、顧客訪問、移動)
  • 消耗品費(10 万円未満の備品、コピー用紙、文具)
  • 広告宣伝費(業務の広告、Web 広告、印刷物)
  • 会議費・接待交際費(業務目的の食事、贈答)
  • 外注費(業務委託費、業務協力費)
  • 租税公課事業税、印紙代、自動車税の事業使用分など)
  • 減価償却費(10 万円以上の備品の取得価額)
  • 書籍・新聞(業務に関連する書籍、業界紙)
  • 研修費・セミナー費(業務スキルの向上に直結するもの)
  • 支払手数料(振込手数料、決済手数料)

経費にできない典型例

  • 本人の生活費(食費、衣服、医療費など、業務と関係ない出費)
  • 本人の所得税・住民税(事業税は経費になるが、所得税・住民税は経費にならない)
  • 本人の国民健康保険国民年金(経費ではなく所得控除の対象)
  • 本人の小遣い(生活費)
  • 家族との食事(業務と関係ない場合)
  • 業務目的を装った娯楽費(業務と関係ないレジャー、旅行)
  • 本人の医療費(経費ではなく医療費控除の対象)

グレーゾーン(要判断)

  • 業務と私用が混在するスマートフォン(家事按分が必要)
  • 業務と私用が混在する自動車(家事按分が必要)
  • 取引先との会食(業務目的が明確なら経費、純粋な親交目的なら経費にならない)
  • 業務スーツ・業務用衣服(業務と私用の境界が曖昧、原則として経費否認の傾向)
  • 業務目的の出張に伴う観光(業務部分のみ経費)

グレーゾーンの取り扱いに迷ったら、「税務調査で説明できるか」を基準に判断します。

家事按分の発想

「家事按分」は、業務用と私用が混在する出費を、業務分のみ経費にする発想です。

家事按分が必要な典型例

出費 按分基準の例
家賃(自宅兼事務所) 業務に使用する面積 ÷ 自宅全体面積
水道光熱費 業務時間 ÷ 24 時間、または家賃と同じ割合
通信費(インターネット) 業務使用時間 ÷ 総使用時間
携帯電話料金 業務使用時間 ÷ 総使用時間
自動車費用(ガソリン、車検、保険) 業務走行距離 ÷ 総走行距離
自動車本体(減価償却) 業務走行距離 ÷ 総走行距離

按分の根拠を残す

家事按分の比率は、自分で決めることができます。ただし「税務調査で説明できる根拠」が必要です。

  • 面積按分:間取り図、業務用デスクの位置、業務時間
  • 時間按分:1 日の業務時間、業務カレンダー、メールやチャットの利用記録
  • 距離按分:業務用 ETC 履歴、移動記録、業務メモ

「家賃の 30% を経費に」というだけでは、税務調査で根拠を示せません。「業務専用部屋が 6 畳、自宅全体が 60 平方メートル、業務専用部屋の面積比は 16%。共用部分の 30% も業務使用と判断して、合計 25% を按分」のように、計算ロジックを残します。

💡 ポイント 家事按分は「自分で決める」ものですが、根拠が説明できる比率にします。書類で残せない比率は、税務調査で否認されるリスクがあります。

家事按分の代表的な比率

明確な「正解の比率」はありませんが、業界での目安は次のとおりです。

  • 家賃・水道光熱費:自宅兼事務所で 20% 〜 40% 程度(業務専用部屋の有無で変動)
  • 通信費(業務専用契約なし):50% 〜 70% 程度
  • 携帯電話料金(プライベートと業務兼用):50% 〜 70% 程度
  • 自動車費用(業務兼用):30% 〜 60% 程度

「業界の目安」を基準に、自分の事業の実態に合わせて調整します。極端に高い比率(自宅兼事務所で 80% 経費など)は、税務調査で疑問符が付くケースが多いです。

減価償却

10 万円以上の備品(パソコン、カメラ、自動車、応接セットなど)は、購入年に全額を経費にできず、耐用年数にわたって分割して経費計上します。これが減価償却です。

減価償却の基本

  • 対象:10 万円以上の固定資産
  • 耐用年数:国税庁が定める「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で資産ごとに定められている
  • 計算方法:定額法(毎年同額を計上)と定率法(最初は多く、徐々に減らす)

よく使う耐用年数

資産 耐用年数
パソコン(4 年) 4 年
スマートフォン 10 年(携帯電話)
ソフトウェア(業務用) 5 年(複写販売以外)
自動車(普通車) 6 年
自動車(小型・軽自動車) 4 年
自転車 2 年
応接セット 8 年
カメラ 5 年

例:パソコンを 12 万円で購入

  • 耐用年数:4 年
  • 定額法での計算:12 万円 ÷ 4 年 = 3 万円/年
  • 4 年間にわたって、毎年 3 万円を経費(減価償却費)に

少額減価償却資産の特例(30 万円未満)

青色申告者には、10 万円以上 30 万円未満の備品を、購入年に一括で経費にできる特例があります(年間 300 万円まで)。

  • :20 万円のパソコンを購入 → 20 万円を購入年に全額経費にできる
  • 要件:青色申告者、年間 300 万円まで、決算書に明細書を添付

これは青色申告の大きな魅力の 1 つです。少額減価償却資産の特例を使うかどうかは、その年の所得・税率と相談して判断します。

10 万円未満の備品

10 万円未満の備品は、購入年に全額経費(消耗品費など)にします。減価償却の対象外です。

💡 ポイント 「10 万円未満は消耗品費」「10 万円以上 30 万円未満は少額減価償却資産の特例で一括経費(青色のみ)」「30 万円以上は減価償却」のリズムを覚えれば、ほとんどの備品購入で対応できます。

レシート・領収書の保存

経費の根拠となるのが、レシート・領収書・請求書などの証憑(しょうひょう)です。

必須項目

項目 内容
取引日 出費の日付
取引先 支払先(店舗名、企業名)
金額 税込/税抜の表示
取引内容 何を購入・利用したか
(適格請求書の場合)登録番号 インボイス対応の請求書

レシートが薄れて読めなくなりやすい店舗の場合は、写真撮影で保存するなどの工夫を。

電子取引データの電子保存(電帳法)

前回のレッスン 3 で扱ったとおり、電子で受け取った請求書・領収書は電子データのまま保存するのが、2024 年 1 月 1 日からのルールです(電子帳簿保存法)。

  • メール添付 PDF の請求書 → メール + PDF を電子保存
  • クラウド請求書(クラウドサインなど) → ダウンロードして電子保存
  • アマゾン・楽天の領収書 → 注文履歴をダウンロード or スクリーンショット保存

会計ソフトの「証憑保存機能」を使うと、これらを一元管理できます。

紙の保存

紙の領収書は、原則として紙のまま保存します。スキャナ保存制度(スキャンしてデータで保存)も選択できますが、要件が複雑なため、フリーランス規模では紙のまま保存することが多いです。

税務調査の発想

「税務調査が入ったら……」は、フリーランスにとって不安要素の 1 つです。実際の調査の発想を共有しておきます。

税務調査の現実

  • 個人事業主の税務調査は、売上規模・取引内容・申告内容の整合性などから対象が選ばれます
  • 売上 1,000 万円以下の小規模な個人事業主への調査は、頻度としては高くない一方で、ゼロではありません
  • 調査の事前通知が来てから、実際の調査までは数日〜数週間の準備期間があります

調査で確認されること

  • 帳簿と証憑の整合性
  • 売上の漏れがないか
  • 経費の正当性(事業との関連性、家事按分の根拠)
  • 消費税の取り扱い
  • 源泉徴収の有無

調査に備える日常の習慣

  • 領収書を 7 年保管
  • 家事按分の根拠を文書で残す
  • 不明な取引にはメモを残す(後から「これは何だったか」を思い出せるように)
  • 大きな支出はその場で事業との関連性を考える

💡 ポイント 税務調査が来てから対応するのではなく、日常から「説明できる帳簿」を作るのが基本です。会計ソフトに証憑のリンクや業務メモを残しておくと、調査時に説明がスムーズです。

節税と脱税の境界

経費の話で必ず触れておきたいのが、節税と脱税の境界です。

節税(合法)

  • 制度を正しく理解して、合法的に税負担を減らす
  • 例:青色申告 65 万円控除、家事按分、減価償却、所得控除、税額控除の活用
  • 例:少額減価償却資産の特例の活用、専従者給与の活用

脱税(違法)

  • 売上を意図的に除外する(売上の隠蔽)
  • 架空の経費を計上する(経費の水増し)
  • 領収書を捏造する
  • 二重帳簿(白帳簿と裏帳簿)の作成

「経費を多めに入れる」のうち、事業と関連のない出費を経費に入れることは、脱税にあたります。「これくらいいいだろう」が積み重なると、税務調査で大きな追徴になる可能性があります。

💡 ポイント 節税は「制度を理解して使う」、脱税は「事実を歪める」。両者の境界はとても明確で、「グレーゾーンを攻める」発想は危険です。本コースの立場は、節税の制度を最大限に活用する一方で、脱税には絶対に手を出さないです。

講師の現場メモ

中堅税理士人時代に、フリーランスの方の税務調査に同席した経験があります。30 代の Web デザイナーの方で、独立 5 年目、売上 800 万円程度。きっかけは、所得と生活スタイルの不一致——SNS で目立つ生活ぶりだったのが、税務署に「申告所得との整合性」を疑問視された可能性がありました。

調査では、3 つの論点が問われました。第 1 に、自宅兼事務所の家事按分(家賃の 70% を経費にしていた点)。第 2 に、業務目的の海外出張中の私的観光部分の取り扱い。第 3 に、私用と業務用が混在するスマートフォン料金の按分根拠。

第 1 の家賃 70% は、調査で 40% に減額されました。「業務専用部屋が 1 室」「自宅全体は 3LDK」「共用部分の業務使用は説明できる範囲で 20%」という再計算の結果です。第 2 の海外出張は、業務部分(取引先訪問、業務商談、業務リサーチ)と私的観光部分を時間ベースで按分し、業務分のみ経費に。第 3 のスマートフォンは、業務関連の通話・メール記録を提示して 50% の按分が認められました。

最終的に、追徴税額は数十万円。重加算税までは課されませんでしたが、加算税と延滞税で本来の納税額より上乗せされました。彼は、「家事按分の根拠をきちんと持っていなかった」と反省されていました。

このご経験から、私は顧問先のフリーランスの方々に必ずお伝えしています——「家事按分は、自分で決められる」「ただし、根拠が説明できる比率にする」「『なんとなく 70%』では、調査で必ず減額される」

経費は「グレーを攻める」発想ではなく、「制度を正しく使う」「業務との関連性を明確にする」「根拠を残す」発想で組み立ててください。それが、長期的に安心できるフリーランス経営の土台です。

まとめ

  • 経費の判断軸 3 つ:事業との関連性、業務との連動、証憑の存在
  • 経費にできないもの:本人の生活費、所得税・住民税、本人の社会保険料、本人の医療費、業務と無関係な出費
  • 家事按分:業務用と私用が混在する出費の按分。家賃・水道光熱費・通信費・自動車費用が代表例。根拠を残すのが鉄則
  • 減価償却:10 万円以上の備品は耐用年数で分割。青色申告者は少額減価償却資産の特例(30 万円未満を一括経費、年間 300 万円まで)が使える
  • 電子帳簿保存法:電子で受け取った請求書・領収書は電子データのまま保存
  • 税務調査:日常から「説明できる帳簿」を作るのが基本
  • 節税と脱税:節税は制度を理解して使う、脱税は事実を歪める。境界は明確、グレーゾーンは攻めない

次のレッスンでは、インボイス制度と消費税を扱います。消費税の仕組み、課税事業者免税事業者の判断、適格請求書発行事業者の登録、2 割特例の経過措置、簡易課税制度、取引先との交渉まで、フリーランスの最大の判断ポイントを学びます。

確認クイズ

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