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スキルアップカレッジ

部門横断・メンタリング・スキップレベル 1on1

レッスン6:部門横断・メンタリング・スキップレベル 1on1

このレッスンで学ぶこと

  • 直属上司との 1on1 だけでは届かない領域を理解する
  • Kram メンタリング 2 機能と Higgins & Kram 発達的関係ネットワークを扱える
  • スキップレベル 1on1(部下の部下と話す)の設計と 5 つの落とし穴を学ぶ
  • クロスファンクショナル・リバースメンタリング・社外コーチの 1on1 を地図化する

前回のレッスンでは、ライフステージとキャリアステージ別の 1on1 最適化を扱いました。今回は、直属上司との 1on1 だけでは届かない領域として、部門横断・メンタリング・スキップレベル 1on1 を扱います。1on1 を「上司と部下の関係」から「組織内の発達的関係」に広げる発想です。

直属上司との 1on1 だけでは届かない領域

メンバーの成長と組織の知の循環を支えるには、直属上司との 1on1 だけでは届かない領域があります。本コースは 4 つの領域を整理します。

第 1 の領域は「直属上司との利害の重なり」です。直属上司は、メンバーの業務評価・昇給・昇進判断に直接関わるため、メンバーは率直に話せないテーマがあります。組織への不満、上司自身への異論、別部署への異動希望、退職検討などは、直属上司の前では話しにくくなります。

第 2 の領域は「直属上司の経験範囲を超えるテーマ」です。直属上司のキャリア背景や専門領域を超えるテーマ(メンバーが目指す別分野、海外赴任、グローバルキャリアなど)は、直属上司では助言できないことがあります。

第 3 の領域は「横断的な視点が必要なテーマ」です。組織全体の戦略、他部署の動向、業界横断のトレンドなどは、直属上司の視座では届きにくいテーマです。

第 4 の領域は「世代を超えた知の伝承」です。組織の歴史、暗黙知、過去の失敗からの教訓などは、直属上司との関係だけでは伝承されにくく、別の関係性が必要です。

💡 ポイント これら 4 つの領域に対応するために、直属上司以外との 1on1(スキップレベル・クロスファンクショナル・メンタリング・リバースメンタリング・社外コーチ)が、組織として整備されるようになりました。本レッスンは、それぞれの 1on1 の特性と設計を扱います。

Kram メンタリング 2 機能

メンタリングの古典的研究として、Kathy Kram が 1985 年に著書『Mentoring at Work』で示した「メンタリング 2 機能」を紹介します。

第 1 の機能「キャリア機能(Career Function)」は、メンタリーの職業的キャリアの進展を支援する機能です。具体的には、スポンサーシップ(昇進・登用の推薦)、コーチング、保護(リスクからの庇護)、挑戦的な仕事の付与、可視性の確保(重要な場での露出機会の提供)などが含まれます。

第 2 の機能「心理社会機能(Psychosocial Function)」は、メンタリーの個人的・心理的発達を支援する機能です。具体的には、役割モデルの提供、受容と確認、カウンセリング、友情などが含まれます。

📝 補足 直属上司との関係は、評価・昇進への直接関与があるため、心理社会機能(特にカウンセリングや友情)が機能しにくい構造があります。メンタリングは、評価権を持たない上位者または別部署の経験者が担うことで、心理社会機能を機能させやすくなります。

Kram のメンタリング 2 機能は、組織として「誰がメンタリングを担うべきか」を考える際の基盤になります。直属上司は主にキャリア機能の一部を担い、メンターは心理社会機能とキャリア機能の補完を担う、という分担設計です。

Higgins & Kram 発達的関係ネットワーク

Kram は 2001 年に Monica Higgins との共著論文「Reconceptualizing Mentoring at Work」で、「発達的関係ネットワーク(Developmental Network)」の概念を提示しました。1 人のメンターに依存する古典的なメンタリング観から、複数の発達的関係者で構成されるネットワークへの転換を示した重要な論文です。

発達的関係ネットワークの 4 つの類型として、Higgins & Kram は以下を示しました。

第 1 の類型「Receptive(受動的)」:限定的な発達関係を、限定的な範囲のメンターから受ける状態。

第 2 の類型「Traditional(伝統的)」:強い発達関係を、限定的な範囲(多くは同じ組織内の上位者)のメンターから受ける状態。

第 3 の類型「Opportunistic(機会的)」:限定的な発達関係を、多様な範囲(社内外のさまざまな人)から受ける状態。

第 4 の類型「Entrepreneurial(起業家的)」:強い発達関係を、多様な範囲から受ける状態。最もキャリア発達に有利とされる類型。

💡 ポイント 1 人のメンターに依存するのではなく、複数の発達的関係者をネットワークとして持つことが、現代のキャリア発達では重要です。直属上司、社内メンター、社外メンター、社外コーチ、ピア(同僚)、後輩、業界の知人など、多様な関係から多様な学びを得る発想です。

スキップレベル 1on1 の設計と 5 つの落とし穴

スキップレベル 1on1(Skip-level 1on1)は、直属上司を「飛ばして」その上位者がメンバーと持つ 1on1 です。例えば、部長が課長を飛ばして、課のメンバーと直接 1on1 を持つ形です。

スキップレベル 1on1 の目的は、組織の全体状況を上位者が直接把握すること、メンバーが直属上司の前では話せないテーマを共有する場を作ること、上位者がメンバーの可能性を直接見て後継者育成や登用判断に役立てることなどです。

ただし、スキップレベル 1on1 には 5 つの典型的な落とし穴があります。

第 1 の落とし穴「密告ルート化」:メンバーが直属上司への不満を上位者に話す場として運用されると、組織内の信頼が損なわれます。

第 2 の落とし穴「直属上司の権威侵食」:上位者がメンバーに直接指示を出してしまうと、直属上司の役割が空洞化します。

第 3 の落とし穴「頻度過多」:スキップレベルの頻度が高すぎると、上位者の時間が逼迫し、直属上司との 1on1 も含めてメンバーへの過剰関与が起きます。

第 4 の落とし穴「情報処理過負荷」:上位者がスキップレベルで得た情報を処理しきれず、判断の質が下がります。

第 5 の落とし穴「対話目的の曖昧化」:「とりあえず話す」スキップレベル 1on1 は目的を欠き、メンバーも上位者も時間の浪費を感じます。

flowchart TD
  S[スキップレベル 1on1]
  S --> P1[密告ルート化を避ける]
  S --> P2[直属上司の権威を侵食しない]
  S --> P3[頻度を適正化する]
  S --> P4[情報処理の負荷を管理する]
  S --> P5[対話の目的を明確化する]

図 1:スキップレベル 1on1 の 5 つの落とし穴と、それぞれを避ける運用設計のポイント。

⚠️ 注意 スキップレベル 1on1 を導入する際、直属上司と上位者の役割分担を組織として明文化することが必須です。「上位者は何を扱い、直属上司は何を扱うか」「上位者がスキップレベルで聞いた内容をどう直属上司と共有するか(または共有しないか)」を、事前に合意します。

本コースが推奨するスキップレベル 1on1 の頻度は、半期に 1 回または四半期に 1 回、45〜 60 分です。毎月や毎週の運用は、5 つの落とし穴のリスクが高すぎます。

クロスファンクショナル 1on1

クロスファンクショナル 1on1 は、異なる部署の同階層メンバー同士が持つ 1on1 です。営業部の課長と開発部の課長、人事部の係長と財務部の係長、などの組み合わせです。

クロスファンクショナル 1on1 の目的は、部署を越えた相互理解、組織横断の課題発見、ピアラーニング(同階層の学び合い)、孤独感の軽減などです。同じ階層の他部署メンバーは、自分と似た立場でありながら別の視点を持つため、対話が新しい気づきを生みやすい関係です。

運用としては、半期に 1 回または四半期に 1 回、ペアを組み合わせて 60〜 90 分の対話を持つ形が標準的です。組み合わせは固定ではなく、半期ごとに変えると、ネットワークが広がります。

リバースメンタリング

リバースメンタリング(Reverse Mentoring)は、若手メンバーが上位者やシニアメンバーに対してメンターとして関わる形式です。デジタル技術、Z 世代の価値観、新しい業界トレンドなど、若手の方が知見を持つ領域で、上位者・シニアが学ぶ場として設計されます。

1999 年に当時 GE の CEO だったジャック・ウェルチが、若手社員を経営陣のメンターに任命したことが、リバースメンタリングの広がりの起点として広く参照されています。

リバースメンタリングの設計ポイントは 3 つあります。

第 1 のポイント「学ぶ側の謙虚さ」:上位者・シニアが、若手の知見を本気で学ぶ姿勢を持つこと。表面的に話を聞くだけでは、若手メンターも組織も時間の浪費になります。

第 2 のポイント「若手メンターの育成効果」:若手メンターは、教える経験を通じて自分の知見を体系化し、上位者との対話で組織の視座を学びます。リバースメンタリングは双方向の学びです。

第 3 のポイント「フォーマルな仕組みとしての位置づけ」:個人的な好意ではなく、組織として制度化することで、若手メンターの選定基準、対話の目的、頻度、評価への影響などが明確になります。

社外メンター・コーチとの 1on1

組織内の関係だけでなく、社外のメンター・コーチとの 1on1 も、現代のキャリア発達では重要な選択肢になりました。社外関係の特性は、組織の利害から距離を取れることです。

社外メンターは、別の組織で同様の役割を経験した方、業界の先達、過去の同僚で別組織に移った方などが該当します。社外メンターとの関係は、評価権・人事権を持たない関係のため、組織内では話せないテーマを率直に扱えます。

社外コーチは、コーチング資格(ICF ACC/PCC/MCC、CTI CPCC、Co-Active など)を持つプロフェッショナルで、有料契約での対話を提供します。組織が福利厚生として社外コーチング契約を提供する事例も増えています。

🔰 初学者の方へ 社外メンター・コーチを持つことは、特定の階層・職位だけの特権ではありません。20 代の若手であっても、業界の先達やプロのコーチとの定期対話を持つことで、キャリア発達のスピードが大きく変わります。組織が制度として提供していない場合、自費で社外メンター・コーチを持つ選択も増えています。

Action Learning

組織内の発達的関係を構造化する手法として、Action Learning を紹介します。Reg Revans が 1940 年代に英国の炭鉱で開発した実践的学習手法で、現在も世界中で活用されています。

Action Learning の基本構造は、4〜 8 名の小グループ(「セット」と呼ばれる)が定期的に集まり、各メンバーが直面する実際の課題を持ち寄り、質問と内省を中心とした対話で解決に向かう、というものです。コーチ(Action Learning Coach)がセットの進行を支えます。

Action Learning が 1on1 と接続する場面は、セットでの対話の中身を、メンバー自身が後の 1on1(直属上司、メンター、コーチとの 1on1)に持ち込み、深掘りすることです。複数の発達的関係を組み合わせた学習の循環が、Action Learning の効果を最大化します。

3 種類の 1on1 を地図化する

本レッスンで扱った直属上司以外の 1on1 を、メンバーの視点で「3 種類の 1on1」として地図化します。

第 1 種「直属上司との 1on1」:業務 1on1(隔週 30 分)とキャリア 1on1(四半期 60 分など、レッスン 2 参照)。評価権を持つ関係。

第 2 種「組織内の上位者・横断・若手との 1on1」:スキップレベル(半期 1 回)・クロスファンクショナル(半期 1 回)・リバースメンタリング(月 1 回など)。

第 3 種「社外メンター・コーチとの 1on1」:社外メンター(不定期)・社外コーチ(月 1〜 2 回など)。

💡 ポイント 3 種類の 1on1 を組み合わせて持つことが、Higgins & Kram の「Entrepreneurial(起業家的)」な発達的関係ネットワークを形成します。マネジャー自身が 3 種類の 1on1 を持ち、メンバーにも 3 種類の機会を提供する設計が、組織として推奨されます。

講師の現場メモ

独立後、ある大手 IT 企業で、スキップレベル 1on1 の制度設計を支援しました。クライアントの組織では、CEO が「現場の声を直接聞きたい」とスキップレベル 1on1 を全マネジャー階層で導入することを決めましたが、半年運用したところで「密告ルート化」と「直属上司の権威侵食」の問題が顕在化していました。

私はマネジャー 80 名と経営層 8 名にヒアリングし、5 つの落とし穴を整理しました。データを共有すると、最大の問題は「対話目的の曖昧化」でした。スキップレベル 1on1 で何を扱うべきかが組織として明文化されておらず、上位者は「とりあえずメンバーの状況を聞く」、メンバーは「直属上司への不満を言える場」と理解していました。

私はクライアントの人事責任者と、スキップレベル 1on1 の目的を 3 つに絞る再設計を進めました。第 1 に「組織全体の戦略・方針の現場への浸透状況を上位者が直接確認する」、第 2 に「組織横断の課題発見」、第 3 に「上位者がメンバーの中長期キャリア展望を直接聞く」。直属上司への不満や個別業務問題は、別の経路(人事面談、社外コーチング、EAP)で扱う設計に分けました。

頻度も再設計しました。それまで月 1 回だったスキップレベルを、四半期に 1 回 60 分に削減し、上位者の負荷とメンバーの「密告の場」化リスクを下げました。直属上司には、スキップレベル 1on1 で得た情報のうち「組織全体に関わる学び」のみを共有し、個別のメンバー情報は共有しない、というルールも明文化しました。

再設計から 1 年後、クライアントの組織で、スキップレベル 1on1 への満足度(上位者・メンバー・直属上司の 3 者)が、目的明確化前の 35% から 78% に上がりました。組織横断の課題発見の件数も増え、CEO が「現場の戦略浸透状況を直接把握できる」効果が確認されました。

リバースメンタリングの事例として、ある製造業の経営層支援も印象に残っています。クライアントの組織では、60 代の経営層と 20 代の Z 世代社員のペアを組み、毎月 1 回の対話を半年継続しました。経営層は若手のデジタル感覚と価値観を学び、若手は経営層の組織観と長期視座を学びました。半年後、両者が「自分の視座が確実に変わった」と振り返り、組織全体に「世代を超えた対話の習慣」が広がる起点になりました。

直属上司との 1on1 だけでは届かない領域に、組織として複数の 1on1 を整備することは、メンバーの成長と組織の知の循環を支える基盤です。本コースが、皆さんの組織で 3 種類の 1on1 を設計する素材になることを願っています。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 直属上司との 1on1 だけでは届かない 4 つの領域:直属上司との利害の重なり、経験範囲を超えるテーマ、横断的視点が必要なテーマ、世代を超えた知の伝承
  • Kram メンタリング 2 機能(1985 年):キャリア機能(スポンサーシップ、コーチング、保護、挑戦的仕事の付与、可視性)と心理社会機能(役割モデル、受容と確認、カウンセリング、友情)
  • Higgins & Kram 発達的関係ネットワーク(2001 年):4 類型(Receptive・Traditional・Opportunistic・Entrepreneurial)。Entrepreneurial が最もキャリア発達に有利
  • スキップレベル 1on1 の 5 つの落とし穴:密告ルート化・直属上司の権威侵食・頻度過多・情報処理過負荷・対話目的の曖昧化
  • スキップレベル 1on1 の推奨頻度は半期 1 回または四半期 1 回 45〜60 分
  • クロスファンクショナル 1on1 は同階層他部署メンバー同士のピアラーニング
  • リバースメンタリングは若手がメンターとなり、上位者・シニアが学ぶ双方向の関係(1999 年ジャック・ウェルチが起点として広く参照される)
  • 社外メンター・社外コーチは組織の利害から距離を取れる関係として、組織内対話を補完する
  • Action Learning(Reg Revans 1940 年代)は小グループでの実践的学習手法で、1on1 と接続して学習の循環を作る
  • メンバーの視点で 3 種類の 1on1(直属上司/組織内の上位者横断若手/社外)を組み合わせると、Entrepreneurial な発達的関係ネットワークを形成できる

次のレッスンでは、1on1 の継続・習慣化と組織レベルの測定、評価面談との結合/分離の判断軸を扱います。IF-THEN プランニング、Goodhart の法則、サーベイ設計、評価面談との 4 基準による 4 パターンの設計を学びます。


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