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スキルアップカレッジ

複数チームの統括——直接マネジメントから間接マネジメントへ

レッスン4:複数チームの統括——直接マネジメントから間接マネジメント

このレッスンで学ぶこと

  • 直接マネジメントの限界とスパン・オブ・コントロールの古典理論を再考する
  • 間接マネジメントの 5 つの発想を身につける
  • 課長を介した運用とダブルヘッダー(兼任)の罠を学ぶ
  • 横並びチーム間のリソース配分と、チーム間の不公平感への対処方法を扱える

前回のレッスンでは、戦略を現場に翻訳する技術を学びました。今回は、中間管理職の最大の壁である「複数チームの統括」を扱います。レッスン 1 で「最大の壁」と位置づけた直接マネジメントから間接マネジメントへの移行を、具体的な運用レベルまで掘り下げます。

直接マネジメントの限界

新任マネジャーとして数名〜十数名のチームを率いていた方は、自分の目で全員を見て、自分の言葉で全員に伝え、自分の判断で全員を動かす経験を持っています。これが直接マネジメントです。中間管理職に上がる前は、この直接マネジメントが「マネジメントそのもの」だと感じていた方が多いはずです。

しかし、複数チームを統括する立場になると、直接マネジメントには物理的な限界が訪れます。3 つの課(合計 30 名)を統括する次長を例に考えてみます。週に 1 回 30 分の 1on1 を全員と行うとすれば、毎週 15 時間を 1on1 に費やすことになります。日常の業務指示、会議、資料確認、上司との対話を加えると、現実的には不可能です。

💡 ポイント 直接マネジメントの限界は「努力不足」ではなく「物理的制約」です。中間管理職が消耗するパターンの 1 つは、努力で限界を突破しようとして長時間労働に陥り、結果として全体の判断の質が下がることです。限界を制約として認め、別の運用に切り替えるのが中間管理職の知恵です。

スパン・オブ・コントロールの古典理論を再考する

組織論の古典的な概念に「スパン・オブ・コントロール」(管理可能な部下数の範囲)があります。1 人の管理職が直接マネジメントできる部下の数を指し、英国の経営学者リンドール・アーウィックが 1956 年の論文で「5 〜 6 人が適切」と主張したことが広く知られています。さらに古い時代には、軍隊や教会の組織論で「7 人説」「8 人説」も語られてきました。

ただし、この理論はそのまま現代の中間管理職に適用できるわけではありません。背景には 3 つの変化があります。

第 1 に、業務内容の多様化です。1950 年代の工場現場と異なり、現代のオフィスワークは標準化が難しく、メンバー一人ひとりの仕事の独自性が高くなっています。同じ管理範囲でも、扱う情報量と判断の質が大きく変わります。

第 2 に、コミュニケーション手段の変化です。Slack や Teams のような非同期コミュニケーションツール、ビデオ会議、文書共有などにより、物理的な距離や時間の制約は緩和されました。一方で、情報量が増えて選別の負荷は高まりました。

第 3 に、自律的なメンバーの増加です。詳細な指示を必要とせず、目標と方向性さえ共有されれば自走するメンバーが増えました。これは管理範囲を広げる効果を持ちます。

📝 補足 現代の中間管理職にとって、スパン・オブ・コントロールは「絶対的な数字」ではなく「自分の置かれた状況での目安」として扱うのが現実的です。直接マネジメントするチーム数は 3 〜 5 が現実的な上限という経験則は多くの管理職が共有していますが、業種・業務内容・メンバーの自律度によって変わります。

スパン・オブ・コントロールを論じる本当の意味は、「直接マネジメントには限界がある」という制約を制度として認め、その上に間接マネジメントの仕組みを設計することにあります。

間接マネジメントの 5 つの発想

間接マネジメントを運用するための 5 つの発想を整理します。

第 1 の発想は「任せる範囲を明確にする」です。課長や係長に何を任せ、何を自分が判断するかの境界を、暗黙ではなく明示的に決めます。「予算 100 万円までの案件判断は課長に任せる」「人事考課の素案作成は課長が行い、最終決定は自分が責任を持つ」のように、具体的な線引きを文書化します。境界が曖昧だと、課長は判断を保留して自分に戻し、間接マネジメントが崩れます。

第 2 の発想は「情報の流れを設計する」です。3 つの課で起きていることを自分が把握するには、課長から自分への報告経路を設計する必要があります。週次の課長会議、隔週の 1on1、緊急時の即時連絡など、複数の経路を組み合わせます。情報が偶然届くのを期待するのではなく、必要な情報が自分のもとに集まる仕組みを意識的に作ります。

第 3 の発想は「指標で組織を見る」です。自分の目で全員を見られないからこそ、業績指標、進捗指標、エンゲージメント指標などの数字を使って組織の状態を読み取ります。指標は完全ではなく、見えない情報も多くありますが、複数の指標を組み合わせることで、組織の状態を一定の精度で把握できます。指標で異常値が出たときに、初めて自分の目を直接向けます。

第 4 の発想は「例外で介入する」です。日常の判断は課長に委ね、自分は例外的な状況(戦略上重要な意思決定、複数チームをまたぐ問題、課長が判断に迷う案件、コンプライアンス上の論点など)にのみ介入します。介入の頻度を絞ることで、課長は自分の判断で動く経験を積み、自走力が育ちます。「全部見たい」誘惑に勝つことが、間接マネジメントの実装条件です。

第 5 の発想は「仕組みで動かす」です。個別の指示で動かすのではなく、目標設定の枠組み、評価制度、会議体、報告フォーマットなどの仕組みを通じて組織を動かします。仕組みが整えば、自分が直接動かなくても組織は機能し続けます。中間管理職の付加価値の 1 つは、この仕組みの設計と改善にあります。

課長を介した運用

5 つの発想の中でも、課長を介した運用が間接マネジメントの中核です。具体的な運用の仕方を 3 つの場面で整理します。

第 1 の場面は、現場メンバーへの直接介入を避けることです。次長として現場メンバーと話す機会は当然ありますが、業務上の指示や判断は課長を介して伝えます。現場メンバーから直接相談されたとき、自分で答える前に「これは課長と相談しましたか」と尋ね、課長に判断機会を返します。次長が現場メンバーに直接指示を出すと、課長の権威が失われ、課長が育ちません。

第 2 の場面は、課長会議の運営です。3 課を統括する次長なら、3 人の課長が集まる会議を週次または隔週で持ちます。この場で課題共有・情報交換・横断調整を行い、課長同士が直接対話する機会を作ります。次長は司会と総括に徹し、課長たちが議論する場として設計します。課長会議が機能すれば、次長を介さない横の連携が育ちます。

第 3 の場面は、1on1 の階層化です。次長は課長と 1on1 を持ち、課長は係長または現場メンバーと 1on1 を持ちます。次長が現場メンバーと 1on1 を持つのは、年 1 回程度の人事考課時期や、特別な配慮が必要なケースに限ります。階層化された 1on1 によって、各階層が自分の役割で機能します。

⚠️ 注意 次長が課長を飛び越して現場メンバーと頻繁に 1on1 を持つと、課長は「次長に直接話されてしまうなら、自分の役割は何か」と感じます。情報のショートカットは短期的には効率的に見えますが、長期的には階層構造を壊します。

ダブルヘッダー(兼任)の罠

中間管理職が複数チームの統括に移行する際、組織の都合で「次長兼課長」「部長代理兼グループリーダー」のような兼任が一時的に発生することがあります。本レッスンではこれを「ダブルヘッダー」と呼びます。

ダブルヘッダーは短期的には組織の都合で必要になることがありますが、長く続けると 3 つの問題を引き起こします。

第 1 の問題は、役割の混同です。次長として複数チーム統括の意思決定をしているのか、課長として 1 つのチームを直接マネジメントしているのか、自分でも区別がつかなくなります。混同が続くと、本来の次長業務が後手に回ります。

第 2 の問題は、部下の混乱です。次長兼課長の上司は、次長として動いている時と課長として動いている時で求めるものが違います。部下は「今どちらの上司として話しかけているのか」を読み取らないと適切な対応ができません。

第 3 の問題は、間接マネジメントの学習機会の喪失です。兼任の課長としての直接マネジメントが心地よくて、本来育てるべき間接マネジメント技術の習得が遅れます。「自分でできてしまう」ことが、長期的な階層移行の足かせになります。

ダブルヘッダーへの対処として、3 つの原則を持ちます。1 つ目は、期限を切ることです。「3 か月以内に課長を任命する」「半期中に兼任を解消する」と上司と合意します。2 つ目は、課長業務の比重を意識的に下げ、次長業務に時間を寄せます。3 つ目は、課長業務の一部を係長や副課長相当のメンバーに段階的に委譲し、後継者育成と兼任解消を同時に進めます。

横並びチーム間のリソース配分

複数チームを統括する中間管理職には、横並びのチーム間でリソースを配分する責任が生じます。人員、予算、設備、案件機会など、限られた資源をどのチームに振り分けるかの意思決定です。

リソース配分の 3 つの基準を整理します。

第 1 の基準は、戦略的優先度です。今期の事業戦略上、最も重要なチームに資源を厚く配分します。すべてのチームに等しく配分する平等は、戦略の不在を意味します。中間管理職には「どこに張るか」を選ぶ責任があります。

第 2 の基準は、機会と難度です。同じ戦略テーマでも、達成までの難度や成果の規模はチームによって違います。難度の高い挑戦に取り組むチームには、相応の資源を配分します。

第 3 の基準は、チームの成長段階です。立ち上げ期のチームは厚い投資が必要で、成熟期のチームは効率化が中心になります。チームのライフサイクルに応じた配分が、長期的な組織健全性を保ちます。

3 つの基準を組み合わせると、「すべてを平等に分ける」発想からは離れます。配分の不均衡は不可避であり、中間管理職の責務はこの不均衡を選び取り、説明できる形にすることです。

チーム間の不公平感への対処

リソース配分が不均衡である以上、配分の少ないチームから不公平感が出ることは避けられません。中間管理職の役割の 1 つは、この不公平感を構造的に扱うことです。

不公平感への対処として、3 つの段階を意識します。

第 1 段階は、配分の透明化です。各チームへの配分の論理を、隠さずに開示します。「今期は A 課に重点投資する。理由は経営戦略上の最優先テーマであり、ここで成果を出すことが全社の方針だからです」と説明します。透明性が、納得の前提になります。

第 2 段階は、配分の少ないチームの位置づけを言語化することです。資源が少ないチームの存在意義、長期視点での役割、次期の配分予定などを明示します。「今期は配分が少ないが、貴チームには既存事業の安定運営という戦略上不可欠な役割がある。来期は新規領域への配分を予定しており、その準備を今期から始めてほしい」のように、将来の見通しと併せて伝えます。

第 3 段階は、配分とは別の認知で報いることです。資源配分が少ないチームに対して、別の形での評価や認知(成果の社内発信、上位者からのねぎらい、来期の機会優先など)で補います。資源は有限ですが、認知は有限ではありません。

🔰 初学者の方へ 不公平感を「不満だから抑え込む」と扱うと、現場の信頼を失います。不公平は事実として認め、その上で説明と認知で対処するのが中間管理職の作法です。隠そうとすると、後でより大きな問題になります。

講師の現場メモ

事業部長代理として 4 つの課を統括していたとき、最大の難題が「予算配分」でした。

年度始めの予算策定で、4 課のそれぞれが「うちにもっと予算を」と要求してきました。第 1 課は新規顧客開拓を強化したい、第 2 課は既存業務の自動化を進めたい、第 3 課は人員を増やしたい、第 4 課は研修投資を厚くしたい。全部叶えるには予算が 1.5 倍必要で、現実にはそれぞれを部分的に削るしかありませんでした。

最初の年、私は 4 課に「均等に 5% ずつ減らす」配分をしました。誰からも不満が出ない代わりに、誰も納得しませんでした。第 1 課の課長は「新規開拓は強化すべきと方針で言われたのに、予算は逆に減った」と不満を口にし、第 3 課の課長は「人員増がないなら今期の目標は届かない」と諦めの表情を見せました。均等配分は、戦略不在の代名詞でした。

翌年、私はやり方を変えました。本部の経営方針を読み込み、「今期は新規領域の開拓を最優先する」「既存業務は維持しつつ効率化する」という方向を抽出しました。その上で、4 課に対して優先度を明示しました。第 1 課(新規顧客開拓)には 20% 増の予算を投入する。第 2 課(業務効率化)には現状維持の予算で目標は 10% 増を求める。第 3 課(人員)は今期は増員しないが、来期の機会優先を確約する。第 4 課(研修)は研修内容を絞って 10% 減でも質は保つ設計をする。

各課の課長との 1on1 で、配分の論理を 1 時間ずつかけて説明しました。第 3 課の課長には「今期人員を増やせないのは経営判断であり、私の判断ではない。来期に向けて、人員増の必要性を上司に伝える材料を一緒に作りたい」と話し、来期の人員計画書の準備を始めました。

結果は劇的でした。第 1 課は予算を厚く配分された分の成果を出そうと自走し、第 3 課は人員不足の中での運用改善に取り組み、来期の人員増に向けて準備を進めました。配分は不均衡でしたが、各課が「自分たちの位置づけ」を理解した上で動きました。

この経験から私が学んだのは、配分の不均衡そのものが問題なのではなく、不均衡を説明できないことが問題だということです。中間管理職は「選び取る責任」と「説明する責任」を一対で持ちます。説明できる選び方ができれば、不均衡は組織の活力になります。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 直接マネジメントには物理的な限界があり、複数チーム統括の段階では間接マネジメントへの転換が必須になる
  • スパン・オブ・コントロールは絶対値ではなく、現代では「直接マネジメントには限界がある」という制約を認める論理の土台
  • 間接マネジメントには 5 つの発想がある:任せる範囲を明確にする、情報の流れを設計する、指標で組織を見る、例外で介入する、仕組みで動かす
  • 課長を介した運用は、現場メンバーへの直接介入を避け、課長会議を運営し、1on1 を階層化する 3 場面で実装する
  • ダブルヘッダーは期限を切る・課長業務の比重を下げる・段階的に委譲する 3 原則で扱う
  • 横並びチーム間のリソース配分は、戦略的優先度・機会と難度・成長段階の 3 基準で行う
  • 不均衡への不公平感は、配分の透明化・位置づけの言語化・別の認知で報いる 3 段階で対処する

次のレッスンでは、複数チーム統括の中核である「部下マネジャーの育成」を扱います。部下が部下を持つ構造、ピーターの法則の再考、後継者育成と 9 ボックス、部下マネジャーへの権限委譲を学びます。


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