初期チーム作り——共同創業者と最初の 10 人
レッスン4:初期チーム作り——共同創業者と最初の 10 人
このレッスンで学ぶこと
- 共同創業者の選び方の 4 つの軸と、Tribe(同志)という発想
- 共同創業者間のすれ違いの原因と、未然に防ぐための仕組み
- 初期社員の採用の鉄則と、1 号社員・5 号社員・10 号社員の質的違い
- ストックオプションの基本と、2024 年改正の税制適格 SO
- Founder/Market Fit と Team/Mission Fit の発想
前回のレッスンでは、法人設立、創業者間契約、ベスティングを扱いました。今回は、創業者の周りに集まる「人」をどう選び、どう報いるかの判断軸を作ります。
共同創業者の選び方——4 つの軸
スタートアップを 1 人で始める単独創業(ソロ・ファウンダー)も成立しますが、Y Combinator や a16z(Andreessen Horowitz)など主要 VC のデータでは、2〜3 人の共同創業者で始めるチームのほうが、その後の生存率と成長率が高い傾向が知られています。例えば Noam Wasserman の『The Founder's Dilemmas』(2012 年)は、米国の創業 9,900 件超を分析し、共同創業者がいるチームの優位を示しました。
ただし、共同創業者を選ぶことは、結婚相手を選ぶより難しいといわれます。事業に集中している時間は配偶者よりも長く、共有する責任は重く、退出のコストは大きいためです。共同創業者の選び方には、4 つの軸があります。
第 1 の軸は、Why の共有です。「なぜこの事業をやるのか」「5 年後・10 年後にどんな景色を作りたいか」が一致していることです。Why が一致していないと、戦略の意思決定で価値観の対立が生じます。「とにかく早く出口に出たい」と「業界の構造を変えるまで時間をかけたい」が同居すると、3 年目以降に必ず衝突します。
第 2 の軸は、スキルの補完性です。1 人で全領域をカバーできる創業者はまれで、CEO(事業全体・資金・対外)、CTO(プロダクト・技術)、COO(オペレーション・組織)の役割を、共同創業者間で分担するのが標準的なパターンです。「同じスキルを持つ 3 人」では、責任の所在が曖昧になり、互いに踏み込めない領域が生まれます。
第 3 の軸は、性格相性です。意思決定のスタイル(直感型と分析型)、リスク許容度、コミュニケーションの好み、ストレス対処の方法などが、共同創業者間で大きく違うと、緊急時に衝突します。性格相性は事前に完全には測れませんが、いっしょに短期プロジェクトを試すことで一定程度は確認できます。
第 4 の軸は、関係性の歴史です。創業前にすでに関係性があるか、いっしょに困難な仕事をした経験があるか。関係性の歴史がない共同創業者(出会って 3 ヶ月で創業を決めるなど)は、創業 1 年目の困難で破綻するリスクが高いとされます。Y Combinator は応募時に「いつから知り合いか」「いっしょに何の仕事をしたか」を必ず聞きます。
💡 ポイント 共同創業者の選択は、Why の共有、スキルの補完性、性格相性、関係性の歴史の 4 軸で評価します。4 つすべてが揃わなくても創業はできますが、欠けた軸ほど後で問題化します。
Reid Hoffman の「Tribe」の発想
LinkedIn の共同創業者 Reid Hoffman は、自著『The Start-Up of You』(2012 年)で、創業者は「Tribe(同志、共同体)」を持つべきだと述べています。Tribe とは、創業者が困難に直面したときに支えになる、生涯にわたる関係性のことです。共同創業者はその一部にすぎず、ほかにメンター、過去の同僚、業界の友人、家族など、複数の輪が重なります。
Hoffman は、Tribe の意味を「Networked Intelligence(網状の知性)」と表現します。1 人の創業者が知り得る情報は限定的ですが、Tribe を通じて広がる情報・人脈・支援は、創業者個人を超えた規模になります。スタートアップは情報の非対称性を活かす事業であり、Tribe の質と量は、その情報優位性を支えます。
Tribe の作り方の原則は、「Give First(先に与える)」です。自分が誰かに助けてもらいたいときだけ連絡する関係は、Tribe になりません。日常的に、自分の知識・紹介・時間を相手に提供する習慣が、Tribe を作ります。創業期は時間が貴重ですが、月に数時間でもほかの創業者やメンターに「お返し」する時間を組み込むのが、長期で見ると最も投資効率の高い時間の使い方です。
📝 補足 Tribe は意図的に作るものです。創業者は「事業の話だけする関係」に閉じこもりがちですが、Tribe には事業外の関係も含まれるべきだと Hoffman は強調しています。家族、配偶者、長年の友人を Tribe の中核に置くことが、孤独に対する最大の防御になります。
共同創業者間のすれ違い——Y Combinator のデータが示すもの
Y Combinator は、過去に投資した数千社のデータを公開セッションで共有してきました。スタートアップの失敗原因として繰り返し上位に挙がるのが、「共同創業者間の衝突」です。具体的には、Y Combinator のパートナーが何度も語っているように、「失敗したスタートアップの 60 % 以上に、共同創業者間の重大な衝突がある」という観察があります(出典:CB Insights「The Top 12 Reasons Startups Fail」)。
衝突の典型パターンは次の 4 つです。
- 持株比率と貢献度の不均衡:時間が経つにつれて、創業者間で「私のほうがコミットしている」「あなたの貢献は思っていたほどでない」という感覚のずれが生まれる
- 戦略方針の対立:ピボットすべきか、調達すべきか、採用方針はどうするかで、根本的な意見対立が長期化する
- 役割の重複と空白:誰が何の責任を負うかが曖昧で、重複(同じ仕事を 2 人がやる)と空白(誰もやらない仕事が放置される)が同時に起きる
- ライフイベントの変化:結婚、子育て、家族の介護、本人の健康問題などで、コミット度合いが変化する
これらの衝突を未然に防ぐには、創業時の意識的な仕組み化が効きます。次の 4 つが代表的です。
- 創業者間契約とベスティング(前回のレッスンで扱いました)
- 役割と意思決定権限の明文化:CEO が最終決定権を持つ領域、合議制で決める領域を分けます
- 月次の創業者間 1on1:定期的に「いま不満に思うこと」「次に頼みたいこと」を交換する時間を持ちます
- 外部メンター・コーチの起用:創業者間の対話だけで解決しない場面で、第三者の介在を仕組み化します
私が VC として伴走した 60 社超のうち、共同創業者問題で停滞した会社は約 4 割あり、そのうち未然防止できたケースは「月次 1on1 と外部メンターの 2 点を仕組み化していた会社」でした。
初期採用の鉄則
共同創業者が決まり、事業の検証が始まると、創業者の手だけでは回らなくなります。最初の社員採用が始まる場面です。
初期採用には、後の採用と質的に異なる難しさがあります。社員側にとってのリスクが大きいためです。給与は会社員時代より低く、有給休暇や福利厚生は整っておらず、会社が 1 年後に存続している保証もありません。それでも参加してくれる方は、「給与だけでは説明できない理由」で来ている方です。
初期採用の 5 つの鉄則を整理します。
第 1 は、自分のネットワークから始めることです。創業者の元同僚、大学時代の友人、業界知人、Tribe のメンバーの中から、「今やっていることに惹かれて参加できるか」を探します。エージェント経由や転職サイトでの採用は、シリーズ A 以降に本格化します。創業初期の数名は、創業者の信頼で集める段階です。
第 2 は、カルチャー・フィットを最優先することです。スキルの高さよりも、Why への共感と性格相性を重視します。スキルは入社後に学べますが、価値観は変えられません。Brian Chesky(Airbnb 創業者)は、初期 7 人の採用に各 1 時間以上面接した話で知られ、「将来 100 人になったときの会社のカルチャーは、最初の 10 人が決める」と語っています。
第 3 は、フルタイムを原則とすることです。副業ベースの参加は、創業初期にはコミットが浅すぎて成立しません。本人の生活リスクを伴うフルタイムの覚悟があるかを、事前に確認します。
第 4 は、リファラル(紹介)の連鎖を意識することです。初期社員 1 人が、過去の同僚や友人を 1〜2 人連れてきてくれるルートは、初期チームの拡大の主軸です。優秀な方を 1 人採れば、その方の信頼ネットワークから次の 1 人が来ます。
第 5 は、報酬設計をストックオプションで補完することです。給与の不足を埋めるのが SO で、SO の意味と価値を本人が理解しているかを確認します。SO の詳細は次節で扱います。
ストックオプション——初期社員にどう報いるか
ストックオプション(Stock Option、SO)は、社員が将来の時点で自社の株式を、あらかじめ決めた価格(権利行使価額)で取得できる権利です。会社の株式価値が上がっても、SO 保有者は安い権利行使価額で株式を取得でき、上場や M&A の際に売却益を得られます。
スタートアップで SO が標準化している理由は、給与で報いられない部分を「成功時の上振れ」で補えるためです。初期社員は給与が市場水準より低い分、SO で会社の成長から利益を受け取る設計です。
SO の主要な設計要素は次の 5 つです。
- 付与株数:何株分の SO を付与するか。会社全体の発行済株式数の何 % に当たるかで規模感が決まる
- 権利行使価額:将来 SO を行使して株式を取得する際の 1 株あたりの価格。原則として付与時点の株式時価
- 権利確定期間(ベスティング):SO を実際に行使できるようになるまでの期間。標準は 4 年・1 年 Cliff
- 行使期限:SO の権利を行使できる最終期限(通常は付与から 10 年)
- 退職時の扱い:社員が退職した際の SO の扱い(権利確定済み分は維持か失効か)
SO の付与規模は、ステージと役割に依存します。例えば、シード期に CTO 候補として最初に参加する社員には、発行済株式の 2〜5 %、ジュニアレベルの初期社員には 0.1〜0.5 % が一般的なレンジです。シリーズ A 以降は、新規採用者の SO は徐々に小さくなります。
💡 ポイント SO はゼロサムではありません。会社が大きく成長すれば、全員が大きな価値を得ます。創業者の持株比率が薄まることを過度に恐れず、初期社員に十分な SO を割り当てることが、結果として全員の利益になります。
税制適格 SO と 2024 年改正
日本の SO には「税制適格 SO」と「税制非適格 SO」があります。税制適格 SO は、租税特別措置法第 29 条の 2 の要件を満たすことで、行使時の課税が繰り延べられ、株式売却時に「譲渡所得(約 20 %)」として課税される制度です。税制非適格 SO は、行使時に「給与所得(最大 55 %)」として課税され、社員の税負担が重くなります。
スタートアップが社員に SO を付与する場合、税制適格 SO の要件を満たす設計が標準です。要件には、付与対象者の制限(取締役・使用人など)、権利行使価額(時価以上)、年間行使価額の上限、保管委託、付与から 2 年経過後 10 年以内の行使などが含まれます。
2024 年の税制改正で、税制適格 SO の年間行使価額の上限が大幅に引き上げられました(設立から一定期間内のスタートアップは、年間 2,400 万円〜3,600 万円まで)。同時に、信託型 SO に関する税務上の議論を経て、株主総会決議による SO の活用が広がっています。最新の要件は税理士・弁護士に必ず確認しますが、創業者は「税制適格 SO が標準である」「2024 年改正で枠が大きく広がった」「設計は専門家に依頼する」という 3 点を押さえておけば、初期判断は十分です。
📝 補足 信託型 SO は、信託会社が SO を保有し、後から付与対象者を決められる柔軟な仕組みでしたが、国税庁の見解変更(2023 年)で給与所得課税の解釈が示され、現在は新規での導入が限定的です。創業期の SO は税制適格 SO を中心に設計するのが現実的です。
1 号社員・5 号社員・10 号社員の質的違い
初期社員には、入社順による質的な違いがあります。同じ「初期社員」でも、創業者が期待する役割と、本人が引き受けるリスクの大きさが異なります。
1 号社員(最初の社員)は、創業者と最も近い距離で働く社員です。プロダクト、営業、採用、対外対応など、創業者と一緒にあらゆる場面に関わります。給与・SO ともに最も手厚く、創業者に準じた立場で扱われます。1 号社員は、創業者から見れば「もう 1 人の共同創業者」に近く、本人にとっては「失敗時のリスクが大きい」役割です。
5 号社員ごろになると、機能の分担が始まります。プロダクト担当、営業担当、コーポレート担当など、役割が明確になっていきます。5 号社員はまだ高リスク・高 SO の段階で、創業者から直接フィードバックを受ける距離にいます。
10 号社員になると、組織の形が見え始めます。チーム間のコミュニケーションが必要になり、入社時のオンボーディング、評価制度、人事制度の設計が問われるようになります。10 号社員以降は、シリーズ A の前後で組織として整え始める段階です。
⚠️ 注意 1〜10 号社員のあいだに、創業者がカルチャーを意図的に設計しないと、無意識のうちにできあがったカルチャーが固定化します。Brian Chesky の「最初の 10 人が会社のカルチャーを決める」という発言は、この事実を端的に表しています。
Founder/Market Fit と Team/Mission Fit
PMF(Product-Market Fit)と並んで、創業者と事業を語るときに使われる概念が、Founder/Market Fit と Team/Mission Fit です。
Founder/Market Fit は、Andy Rachleff(Benchmark Capital 共同創業者)が提唱した発想で、「創業者がその市場に対して、深い知識・関係性・情熱を持っているか」を問うものです。同じ事業アイデアでも、創業者が当該市場の知見を持っていれば顧客の痛みの理解が深く、Customer Discovery が高速で回り、PMF への到達が早くなります。「あの市場をやりたい」ではなく、「自分はあの市場のことを誰よりも知っている」と言える状態が、Founder/Market Fit が高い状態です。
Team/Mission Fit は、共同創業者と初期社員のチーム全体が、会社のミッションに対してフィットしているかを問うものです。1 人の創業者の Founder/Market Fit が高くても、共同創業者と初期社員のチーム全体としてのフィットが低いと、戦略実行が止まります。例えば、CEO は深い情熱を持つが、CTO は技術的興味だけで参加している場合、緊急時に CTO が早期に離脱するリスクが高まります。
flowchart LR
FF[Founder/Market Fit<br/>創業者と市場の適合]
TF[Team/Mission Fit<br/>チームとミッションの適合]
PF[Product-Market Fit<br/>製品と市場の適合]
FF --> PF
TF --> PF
FF -.-> TF
図1:3 つの Fit の関係。Founder/Market Fit と Team/Mission Fit が、Product-Market Fit に先行する
3 つの Fit を意識すると、創業時のチーム作りで何を優先するかが変わります。事業ピボットを覚悟するなら、Team/Mission Fit の高さが救いになります。市場の選び直しが必要になったとき、ミッションへの共感で結ばれたチームは、新しい市場に一緒に向かえるためです。
講師の現場メモ
私が VC として投資判断するとき、ピッチで真っ先に確認するのは事業のアイデアではなく、創業チームの関係性です。共同創業者が何年いっしょに働いたことがあるか、どんな困難を共有してきたか、ストレス下での意思決定を見たことがあるか。これらの問いに答えられないチームに、シリーズ A 相当の資金を入れることは、ほぼありません。
私自身の経験から、共同創業者間の月次 1on1 は、創業 2 年目以降に効果が顕著になります。1 年目は事業の立ち上げに集中しているため対立が顕在化しにくいのですが、2 年目に「これまでの貢献度」「これからの役割」「持株比率の妥当性」に関する感覚のずれが、表面化します。月次 1on1 を仕組み化していないチームは、この時期にメンターや外部相談者を急いで探すことになり、対処が遅れます。
初期社員の採用では、私自身が 1 社目で「スキル重視で 1 号社員を採った」失敗を経験しました。スキルは確かに高かったのですが、Why への共感が薄く、創業者間の方針対立が起きると 1 号社員は中立を保とうとし、結果として意思決定が停滞しました。1 年で離脱されたとき、引き継ぎコストと社内の動揺が大きく、Brian Chesky の「最初の 10 人がカルチャーを決める」を身をもって理解しました。
2 社目では、1 号社員を選ぶときに「Why の共感が 70 %、スキルが 30 %」という比重で評価し、結果として 1 号社員が退職するまでに 4 年あり、その期間に組織のカルチャーの土台を作ってくれました。スキルは入社後に学べる、Why は変えられない——という原則は、私自身の失敗から学んだ実感です。
ストックオプションについては、創業者がもっと早く知っておくべきだったと感じることが多い領域です。「初期社員に 0.5 % の SO は多いか少ないか」という相談を受けると、私は「シリーズ A で評価額 10 億円になったときに 500 万円、シリーズ B で評価額 50 億円なら 2,500 万円、IPO で評価額 200 億円なら 1 億円」と数字で示します。SO の規模感は、ステージごとの評価額で具体化したほうが、本人にとっても創業者にとっても判断しやすくなります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 共同創業者は Why の共有・スキルの補完性・性格相性・関係性の歴史の 4 軸で選ぶ
- Reid Hoffman の Tribe は、生涯にわたる支援関係で、Give First の原則で作る
- 共同創業者間の衝突は失敗原因の上位で、月次 1on1 と外部メンターが未然防止に効く
- 初期採用はネットワーク採用、カルチャー・フィット優先、フルタイム原則、リファラル連鎖、SO 補完の 5 鉄則
- ストックオプションは付与株数・行使価額・ベスティング・行使期限・退職時扱いの 5 要素で設計する
- 税制適格 SO は 2024 年改正で年間行使価額の上限が大幅に引き上げられた
- 1 号社員・5 号社員・10 号社員には質的違いがあり、最初の 10 人がカルチャーを決める
- Founder/Market Fit と Team/Mission Fit が PMF への到達に先行する
次のレッスンでは、創業初期の重大な意思決定の一つである「資金調達」のシード期を扱います。自己資金・補助金・銀行融資・エンジェル・VC の選択肢、SAFE・J-KISS・タームシートを順に学びます。
確認クイズ
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