Web3 とは何か——Web1→Web2→Web3 の系譜
レッスン1:Web3 とは何か——Web1→Web2→Web3 の系譜
このレッスンで学ぶこと
- 本コースの守備範囲(技術構造とエンタープライズ活用・税務)と、扱わない範囲を区別できる
- Web1→Web2→Web3 の系譜と、それぞれの「主人公」の違いを整理できる
- Gavin Wood が 2014 年に提唱した Web3 の「Read/Write/Own」の意味を説明できる
- 「所有権をコードに書く」思想が Web3 の背骨であることを理解できる
- 暗号資産と Web3 の違いを、技術と金融サービスの分離で捉えられる
Web3 は 2014 年、Ethereum の共同設立者 Gavin Wood が提唱した用語です。「所有権をコードに書く」思想を中心に、ブロックチェーン、スマートコントラクト、DAO、DID、分散型ストレージなどの技術群を包括します。本コースの背骨は「暗号資産と Web3 は同義ではない——技術と金融サービスは分けて考える」です。ハイプと実装のずれを解消し、事業判断で使える判断軸を持ち帰っていただきます。
本コースの位置づけ——「技術構造とエンタープライズ活用・税務」の視点
本コースは Web3・ブロックチェーンを「技術構造とエンタープライズ活用・税務」の視点で扱う入門です。銀行・証券・保険での暗号資産・DeFi・CBDC・STO の金融サービス論点、国内暗号資産交換業者の紹介、Ripple による国際送金など、金融業の実務に近い論点は業種別入門コースで扱います。本コースはそれらを前提として、「事業会社として Web3 技術をどう検証し、どう法務対応し、どう非金融領域で活用するか」の判断軸を、事業企画・法務・情シス・広報・DX 推進・スタートアップ経営者の 6 職種に届く形で整理します。
💡 ポイント 本コースは「金融サービスとしての DeFi」ではなく「技術としてのブロックチェーン」を主軸に置きます。銀行・証券・保険での暗号資産の位置づけを詳しく知りたい方は、業種別入門コースをご参照ください。本コースはその補完として、非金融ユースケース・DAO の実験・DID の思想・暗号資産税務の実務に軸足を置きます。
対象読者の 3 つの視点
本コースは 3 つの視点を意識的に交錯させます。第 1 は、事業企画の視点です。Web3 で何ができるか、費用対効果はどこで出るか。第 2 は、法務・情シスの視点です。契約・規制・セキュリティのどこにリスクがあるか。第 3 は、スタートアップ経営者の視点です。Web3 発の事業機会をどう見極めるか。3 つの視点を持ち帰って、はじめて社内での議論が成立します。
Web の 3 世代——Read / Write / Own
Web の歴史を「主人公」の違いで整理すると、3 つの世代に分けられます。
flowchart LR
A[Web1<br/>1990s-<br/>Read<br/>読むだけ<br/>主人公: 企業サイト] --> B[Web2<br/>2000s-<br/>Read + Write<br/>読み書き・SNS<br/>主人公: プラットフォーム]
B --> C[Web3<br/>2014-<br/>Read + Write + Own<br/>読み書き・所有<br/>主人公: ユーザー本人(理念)]
Web1(1990 年代〜)——「Read」
企業や組織が公開する静的な Web サイトを、ユーザーが「読む」時代。CNN、Yahoo!、企業ホームページなど、少数の発信者と多数の閲覧者が明確に分離していました。技術的には HTML と HTTP が中核で、双方向性は限定的でした。
Web2(2000 年代〜)——「Read + Write」
ユーザーが「書き込む」時代の始まり。ブログ、YouTube、Twitter、Facebook、Instagram など、SNS とプラットフォームが主人公になりました。ユーザーはコンテンツを作れるようになりましたが、そのコンテンツと個人データはプラットフォーム側に集中し、プラットフォームがルールを決める構造になりました。
Web3(2014 年〜)——「Read + Write + Own」
ユーザーが自分のデータ・アイデンティティ・資産を「所有」する時代を目指す思想。Gavin Wood が 2014 年に提唱した用語で、Read(読む)+ Write(書く)に Own(所有する)が加わります。技術的にはブロックチェーンによる分散型台帳、スマートコントラクトによる契約の自動執行、DAO による組織の自動運営、DID による自己主権 ID などが中核です。
📝 補足 Web3 は「Web2 を置き換える」というより「Web2 の上に新しいレイヤーを加える」性質を持ちます。多くのユーザーは Web2 の便利さ(SNS、EC、動画配信)を手放さないため、Web3 は当面「Web2 と共存する形で拡張される」道が現実的です。「すべてが Web3 化する」ではなく「Web3 で置き換える価値がある部分は何か」を問う視点が実務では重要です。
「所有権をコードに書く」——Web3 の背骨
Web3 の背骨は「所有権をコードに書く」思想です。従来、モノやサービスの所有権は法律と契約書、そして事業者の記録によって担保されていました。Web3 では、所有権をコード(スマートコントラクト)とブロックチェーン上のトークンで表現し、事業者やプラットフォームに依存せずに所有権の証明・移転ができる仕組みを目指します。
具体例として、NFT を挙げます。従来のデジタルコンテンツは、購入しても実際にはプラットフォームのライセンス(限定的な使用権)にすぎず、プラットフォームが停止すればアクセスできなくなります。NFT は「このデジタルアセットの所有権が今このアドレスにある」ことをブロックチェーンに記録するため、プラットフォームの停止に耐えられる(理論上は)所有権表現になります。
ただし、この「所有権をコードに書く」思想は 2026 年 7 月時点でも法的裏付けが不完全です。NFT を購入しても、法的な意味での所有権が完全に保証されるわけではなく、多くの場合は利用契約に基づくライセンスと組み合わされます。「思想としての Web3」と「法制度としての現状」のギャップを理解した上で導入判断をすることが実務では不可欠です。
Gavin Wood と 2014 年の Web3 提唱
Gavin Wood(1980 年生まれ)は、Ethereum の共同設立者の 1 人で、2014 年に「Insights into a Modern World」というブログ記事で「Web3」を提唱しました。同記事で Wood は、現在の Web を「情報格差と権力集中」の場と批判し、次世代 Web の要件として次の 4 点を挙げました。
- 信頼できるサーバーを必要としない(Trustless)
- 開放的で透明である(Transparent)
- 暗号技術で個人データを守る(Encrypted)
- 国境と規制を横断する(Peer-to-Peer)
Wood はその後 2015 年に Ethereum の Yellow Paper(技術仕様書)を執筆し、2016 年に Web3 Foundation を設立、2020 年に Polkadot を立ち上げました。Web3 という語彙の思想的な発信源は Wood にあり、彼の主張を辿ることが本コースの補助線になります。
暗号資産と Web3 は同義ではない
日本の一般的な報道では「Web3 = 暗号資産の話」と扱われがちですが、これは正確ではありません。
- 暗号資産:Bitcoin、Ethereum などのブロックチェーン上のトークン
- Web3:ブロックチェーン、スマートコントラクト、DAO、DID、分散型ストレージなどの技術と思想を包括する概念
暗号資産は Web3 の一部ですが、Web3 全体ではありません。逆に、暗号資産取引所のような Web2 型のサービスも、暗号資産を扱いつつ Web3 の思想(分散化・自己所有)とは対極の中央集権的な構造をしています。この区別ができないと、「暗号資産の価格が下がった= Web3 が終わった」という誤読につながります。実際には 2022 年の暗号資産急落後も、DID・分散型ストレージ・エンタープライズ Web3 の実装は着実に進んでいます。
⚠️ 注意 本コースを読む上で、「暗号資産の価格の話」と「ブロックチェーン技術の話」を区別してください。Bitcoin の価格が上がった/下がったは、本コースの主題ではありません。技術としてのブロックチェーン、思想としての Web3、実装としての DAO・DID・エンタープライズ活用——これらが本コースの中心です。
講師の現場メモ——「暗号資産の税務相談から始まる Web3 相談」
私が独立してから伴走した 25 社のうち、意外に多かったのが「経理担当者から暗号資産の会計処理について質問を受けた」という入り方でした。営業活動で受け取った暗号資産(PR 対価、コンサル報酬)の処理、社員が個人で保有していた暗号資産の税務相談から始まって、「そういえば、うちも Web3 で何かできないか」という順序で相談に発展するケースです。技術先行ではなく、税務・会計の実務対応から入って、そのまま自社の Web3 検証に進む——この経路が、日本の事業会社での Web3 導入の現実的な始まり方の 1 つです。本コースのレッスン 4 と 8 で、この税務・会計の実務を扱います。
中核メッセージ 6 個の再掲
本コース全体を通じて、6 個のメッセージを繰り返します。
- Web3 は「特定の技術」ではなく「所有権をコードに書く」思想
- ブロックチェーンは「信頼を最小化する台帳」——コストと引き換えに不変性を得る
- 暗号資産と Web3 は同義ではない——技術と金融サービスは分けて考える
- NFT はデジタル所有権の実験——ハイプの死から本質へ
- DAO は組織の実験——法人ではなく契約の集合
- Web3 は金融以外に本命がある——エンタープライズ活用・DID・分散型ストレージ
このレッスンでは 1 と 3 に触れました。次のレッスンから残りのメッセージも順に扱います。
次のレッスンの予告
次のレッスンでは、ブロックチェーンの技術構造を扱います。ブロック・ハッシュチェーン・マークル木、PoW / PoS / PoA コンセンサス、The Merge 2022 年 9 月 15 日、ノード種類、パブリック型とパーミッション型の違い——を、非技術系の読者にも通じる言葉で解きます。
確認クイズ
理解の定着のために、6 問のクイズを解いてみてください。