企画・RFI/RFP 発行
レッスン2:企画・RFI/RFP 発行
このレッスンで学ぶこと
- 企画書の 4 要素(背景・目的・スコープ・成功基準)を持てる
- RFI と RFP の使い分けを俯瞰できる
- RFP テンプレ 8 項目を組み立てられる
- 複数ベンダーコンペの運営の型を持ち帰れる
前レッスンでは SaaS 導入プロジェクトの全体像を扱いました。本レッスンでは、SaaS 導入プロジェクトの入口である企画・RFI/RFP 発行を扱います。ここで手を抜くと、選定後のプロジェクト全体が迷走します。買い手 PM の武器は「粒度の細かい RFP」であり、粒度の細かさが返ってくる提案の質を決めます。
企画書の 4 要素
RFI/RFP の前に、まず社内向けの企画書を作ります。企画書は上位承認と関係部署の巻き込みのための起点となります。
要素 1:背景
- 現在の業務課題(数字で示す:処理件数・エラー率・処理時間)
- 既存ツールの限界(機能不足・保守終了・拡張困難)
- SaaS 導入の必要性(内製 or 従来型パッケージ vs SaaS の比較)
要素 2:目的
- 導入で解決したい課題(3〜5 個に絞る)
- 想定効果(コスト削減・生産性向上・顧客体験改善)
- 上位経営目標との整合(中期経営計画・KPI との紐付け)
要素 3:スコープ
- 対象部門・対象業務・対象人数
- 対象データ範囲
- 段階導入の場合はフェーズ分け
要素 4:成功基準
- 導入後 3 か月・6 か月・12 か月の到達基準
- 定量指標(利用率・処理時間・エラー率)
- 定性指標(ユーザー満足度・現場からのフィードバック)
企画書は「概算予算とスケジュール」まで含めて、10〜15 ページ程度でまとめます。上位承認を得た後、この企画書が RFI/RFP の元ネタとなります。
RFI と RFP の使い分け
RFI と RFP は目的が違います。
RFI(Request for Information:情報提供依頼書)
- 目的:市場の情報を集める
- タイミング:企画段階〜選定初期
- 対象ベンダー:5〜 10 社
- 依頼内容:会社概要・製品概要・機能一覧・価格帯・導入実績
- 期間:発行から回答期限まで 2〜 3 週間
RFI は「市場調査」の性格が強く、選定を絞り込む前の情報収集に使います。
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)
- 目的:具体的な提案を依頼する
- タイミング:選定中盤〜終盤
- 対象ベンダー:2〜 5 社(RFI で絞り込んだ候補)
- 依頼内容:機能要件への回答・提案書・見積書・体制・スケジュール
- 期間:発行から回答期限まで 4〜 6 週間
RFP は「本命候補への提案要請」の性格が強く、比較評価と契約交渉に直結します。
RFI/RFP を発行しない選択肢
小規模導入や既存の指名ベンダーが明確な場合、RFI/RFP を発行せず、1〜 2 社に直接見積もりを依頼するケースもあります。ただし、社内の予算承認プロセスや監査対応の観点から、10 名以上の全社展開型 SaaS では複数社比較を経ることが標準です。
RFP テンプレ 8 項目
RFP の標準構成は次の 8 項目です。
項目 1:概要
- 発注企業の会社概要
- プロジェクトの背景と目的
- 導入予定スケジュール
項目 2:機能要件
- 必須機能一覧(Must)
- 望ましい機能一覧(Should)
- 将来的な要望(Nice to Have)
各機能について、ベンダー側で「標準対応 / カスタマイズ対応 / 対応不可」の 3 段階で回答してもらう形式が実務標準です。
項目 3:非機能要件
- パフォーマンス(同時利用ユーザー数・レスポンス時間・スループット)
- セキュリティ(暗号化・アクセス制御・監査ログ)
- 可用性(SLA・障害時対応・データバックアップ)
- 拡張性(API・iPaaS 対応・エクスポート機能)
- コンプライアンス(改正個情法・GDPR・業界規制)
項目 4:提案手順
- 提案書の項目立て
- 補足資料(画面キャプチャ・デモ動画・導入事例)
- プレゼン日程(RFP 発行 3〜 4 週間後にプレゼン設定が一般的)
項目 5:評価基準
- 機能適合度(40 %)
- コスト(30 %)
- 導入・運用体制(15 %)
- セキュリティ・コンプライアンス(10 %)
- 導入実績(5 %)
比重は会社ごとに調整しますが、事前に評価基準を明示することで、ベンダー側が提案の力点を理解できます。
項目 6:スケジュール
- RFP 発行日
- 質問受付期間
- 回答期限
- プレゼン日程
- 選定結果通知
- 契約締結目標日
項目 7:契約条件
- 契約期間の希望
- 支払条件
- 秘密保持義務
- 反社会的勢力排除条項
項目 8:回答様式
- 提出形式(PDF・Excel テンプレート)
- 提出方法(メール・共有ストレージ)
- 提出先窓口
RFP は「50〜 100 ページ規模」になることもあります。ボリュームが増えるほど、選定作業と回答比較の工数が増えるため、必要十分な粒度を意識します。
複数ベンダーコンペの運営
RFP を複数ベンダーに発行した後、コンペ運営が始まります。
コンペ運営の 5 ステップ
- Step 1:RFP 発行と発行時説明会(オンラインで 60 分程度、質疑応答含む)
- Step 2:質問受付期間(1〜 2 週間、全社共通の Q&A シートで管理し、質問と回答は全ベンダーに公開)
- Step 3:回答期限(RFP 発行から 4〜 6 週間)
- Step 4:一次評価(提案書と見積書の書面評価、評価シートで点数化)
- Step 5:プレゼン・PoC・二次評価と決定
評価シートの作り方
- RFP の評価基準に沿った点数項目を作る
- 複数の評価者(IT・業務・法務)が別々に採点
- 採点結果を集計し、コメント欄で理由を残す
- 上位 2〜 3 社を PoC 対象とする
質問受付の運営
- 質問と回答は全ベンダーに公開する(「Ben 社の質問への回答」を A・B・C 社全員が見られる)
- ベンダー間の情報格差を防ぎ、公平な選定を実現する
- 質問への回答は、担当者の主観ではなく「公式回答」として社内で調整する
📝 補足 質問受付を非公開で個別対応すると、あるベンダーだけに追加情報が渡ってしまい、公平性が損なわれます。監査対応の観点でも問題になるため、Q&A は必ず全社公開が原則です。
次のステップ
本レッスンでは企画・RFI/RFP 発行と複数ベンダーコンペの運営を扱いました。次のレッスンでは、RFP 選考の中で最も重要な PoC(Proof of Concept)の設計と実施を扱い、「動くか」ではなく「使えるか」の目線で検証する型を組み立てます。
確認クイズ
このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。