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スキルアップカレッジ

SaaS 導入プロジェクトの全体像

レッスン1:SaaS 導入プロジェクトの全体像

このレッスンで学ぶこと

  • 買い手 PM の役割と、売り手側 CS との違いを俯瞰できる
  • SaaS ライフサイクル 6 段階(企画→選定→契約→導入→運用→解約/リプレース)を持てる
  • 中堅企業における SaaS 導入プロジェクトの体制モデルを持つ
  • 本コースの守備範囲と、既刊の情シス担当者向け入門コースとの境界を持ち帰れる

SaaS の導入は「選定してサインしたら終わり」ではありません。むしろ、契約後の導入プロジェクト・社内浸透・利用モニタリング・解約リプレース判断こそが、SaaS の投資対効果を決めます。本レッスンでは、SaaS 導入プロジェクトの全体像を俯瞰し、買い手 PM としての役割、SaaS ライフサイクル 6 段階、そして本コース全体で扱う範囲と扱わない範囲を整理します。

買い手 PM の役割

SaaS 導入プロジェクトの現場には、次の 3 者が絡みます。

  • 買い手 PM(本コースの主役):発注企業側でプロジェクトを回す担当者
  • 売り手 SI/コンサル:ベンダー側で導入支援を提供する担当者
  • 売り手 CS(カスタマーサクセス):ベンダー側で契約後の伴走を担う担当者

売り手 SI・CS は「複数の顧客を横断する立場」で、汎用的な導入手順とベストプラクティスを持っています。一方、買い手 PM は「自社の業務・組織・文化を深く知る立場」で、標準的な導入手順を自社に合わせてカスタマイズし、社内ステークホルダーを巻き込む役割を担います。

売り手だけに任せると「マニュアル通りの導入」で終わり、社内の業務プロセスに馴染まないまま利用率が伸びません。買い手 PM が主導することで、業務プロセス変更・社内浸透までを含む「使われる SaaS 導入」が実現します。

💡 ポイント SaaS 導入の 8 割は「使われずに死ぬ」というのが業界の共通認識です。契約したものの利用率が 20 % に届かず、更新時期に解約されるケースが後を絶ちません。買い手 PM の存在は、この失敗パターンを回避するための最大の予防策です。

SaaS ライフサイクル 6 段階

SaaS の導入から終了までを、6 段階のライフサイクルで捉えます。

graph LR
    A[企画] --> B[選定]
    B --> C[契約]
    C --> D[導入]
    D --> E[運用]
    E --> F[解約/リプレース]
    F -.-> A

段階 1:企画(本コース:レッスン 2 前半)

  • 業務課題の特定と SaaS 導入の必要性検証
  • 概算予算とスケジュールの設定
  • 上位承認(部長・役員・投資委員会)

段階 2:選定(本コース:レッスン 2〜3)

  • RFI(Request for Information:情報提供依頼書)で市場を把握
  • RFP(Request for Proposal:提案依頼書)で複数ベンダーに提案要請
  • PoC で機能と業務適合を検証
  • ベンダー選定と契約交渉開始

段階 3:契約(既刊譲り)

  • 契約条件の交渉(自動更新・データ返還・SLA・NDA など)
  • 法務・情シス・購買部門との連携
  • 契約締結

段階 4:導入(本コース:レッスン 4〜6)

  • プロジェクトキックオフ
  • WBS 策定と体制構築
  • データ移行と業務プロセス変更
  • 社内浸透とトレーニング
  • カットオーバー(本番稼働開始)

段階 5:運用(本コース:レッスン 7)

  • 利用状況モニタリング
  • ライセンス最適化(SaaS Ops
  • iPaaS・API 連携による他 SaaS との統合
  • ユーザーサポートとヘルプデスク(既刊譲り)

段階 6:解約 / リプレース(本コース:レッスン 8)

  • 継続 vs 更新交渉 vs リプレースの判断
  • 解約手続きとデータエクスポート
  • 後継 SaaS への移行

このライフサイクルは、多くの企業で複数の SaaS が並行して異なる段階にある状態になります。買い手 PM は自社の SaaS ポートフォリオを俯瞰し、それぞれの段階に応じた業務を回します。

SaaS 導入プロジェクトの体制モデル

中堅企業(従業員 300〜1,000 名規模)で SaaS 導入プロジェクトを回す標準的な体制は次のとおりです。

プロジェクトオーナー(役員クラス)

  • 意思決定の最終権限を持つ
  • 予算承認・契約承認
  • 経営会議・取締役会への報告

プロジェクトマネジャー(買い手 PM・本コースの主役)

  • プロジェクト全体の推進責任
  • スケジュール・予算・品質管理
  • ステークホルダー調整

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)

  • 進捗管理・課題管理・リスク管理
  • 議事録・タスク管理・ドキュメント管理
  • PM のサポート

IT 側担当者

  • SSOSCIM 連携
  • 既存システムとの連携(iPaaS・API)
  • セキュリティ要件のチェック

業務側担当者(キーユーザー)

  • 業務プロセスの Before/After 定義
  • テスト参加
  • 社内浸透の推進役

ステアリング委員会(月次)

  • プロジェクトオーナー・関連部長・IT 部長
  • 重要意思決定と課題エスカレーションの場

中堅企業では、PM と PMO を兼務するケースも多く、5〜 8 名の少数体制で回すことが一般的です。

コースの守備範囲と境界

本コースは SaaS を「買い手 PM としてプロジェクトを回す」視点で扱います。既刊コースや関連する専門領域と明確に区別して学ぶ必要があります。

本コースで扱う領域:SaaS ライフサイクル 6 段階・買い手 PM の役割・RFI/RFP 設計と発行・PoC 設計と実施・キックオフと WBS・データ移行と業務プロセス変更・社内浸透とチェンジマネジメント・iPaaS と API 連携・SaaS Ops(ライセンス最適化)・解約とリプレース判断

本コースで扱わない領域(別の入門コースや専門教材で扱う):

  • SaaS 選定の要件定義 3 軸・比較評価 3 軸・契約交渉 4 点(自動更新・データ返還・SLA・NDA)・シャドー IT 対処・解約 5 ステップは、情シス担当者向けの入門コースを参照してください
  • IdP(Entra ID・Okta・Google Workspace)の選定と SCIM プロビジョニング設計、SSO 統合、オンボーディング/オフボーディング運用は、情シス担当者向けの入門コースを参照してください
  • ヘルプデスク・ITSM/ITIL(Jira Service Management・Zendesk・Freshservice)とチケット管理・SLA 優先度・ナレッジベース運用は、情シス担当者向けの入門コースを参照してください
  • IT 予算 3 分類(守り・攻め・維持)とベンダー評価年次サイクル・IT 資産管理は、情シス担当者向けの入門コースを参照してください
  • SaaS 売り手側の販売プロセス(SDR・AE・CSM 分業、MEDDIC、エンタープライズ調達要件 SOC 2/ISO 27001/ISMAP)は、業種別実務の IT・SaaS 入門コースを参照してください
  • クラウド設計思想(IaaS/PaaS/SaaS の責任分界、FinOps、責任共有モデル)は、IT 基礎の入門コースを参照してください
  • SaaS 契約書レビューの型は、法務担当者向けの入門コースを参照してください

⚠️ 注意 本コースは資格試験対策コースではありません。PMP・ITIL・情報処理技術者試験などの資格取得を目的とする方は、それぞれの資格専門の予備校教材を参照してください。本コースは資格ではなく、SaaS 導入プロジェクトの実務に集中します。

SaaS 導入プロジェクトの典型的な失敗パターン

失敗を先に知ることで、成功への道筋が見えます。本コース全体で扱う型は、これらの失敗を回避するために設計されています。

  • 失敗 1:要件定義に業務側を巻き込まず、IT 主導で選定した結果、業務に馴染まない
  • 失敗 2:PoC を機能デモで終わらせ、業務適合を検証しなかった結果、本番稼働後にギャップ発覚
  • 失敗 3:社内浸透計画を軽視し、キックオフ後は放置。利用率が 20 % に届かず更新時に解約
  • 失敗 4:既存 SaaS との連携を後回しにし、データが分断された「使えない SaaS」になる
  • 失敗 5:解約時のデータエクスポートを契約時に取り決めておらず、リプレース時に高額請求される

次のステップ

本レッスンでは SaaS 導入プロジェクトの全体像を俯瞰しました。次のレッスンでは、SaaS 導入プロジェクトの入口である企画・RFI/RFP 発行の実務を扱い、複数ベンダーコンペを運営する型を組み立てます。

確認クイズ

このレッスンで学んだ内容を確認しましょう。