メンバーの役割——発言と聴く力
レッスン6:メンバーの役割——発言と聴く力
このレッスンで学ぶこと
- 心理的安全性は「リーダー任せ」ではなく、メンバーの行動でも作られることを理解する
- 「言ってもいいかわからない」状態を抜けるための小さな手がかりを持ち帰る
- 発言のハードルを下げる小技(前置き・チャット併用・事前共有)を使いこなす
- 同僚の発言に「応答する」ことが、チーム文化をどう変えるかを知る
- 「聴く力」「質問する力」を、メンバー側のリーダーシップとして身につける
レッスン 4・5 でリーダーの 3 ステップを扱いました。本レッスンでは視点を切り替えて、メンバーの役割を扱います。スキルアップカレッジは「働く個人」をターゲットにした学習プラットフォームですから、「自分はメンバーだから、リーダーが変わるまでどうにもならない」と思ってほしくありません。実際には、メンバーの小さな行動が、チームの心理的安全性を上下させる影響は、思っているよりずっと大きいのです。
心理的安全性は「リーダーが作って降りてくる」ものではない
ありがちな誤解に、「心理的安全性はリーダーが作るもの。メンバーは作られた環境を享受する立場」というものがあります。これは正確ではありません。研究は次のことを示しています。
- 同じリーダーが率いる隣り合うチームでも、心理的安全性に差が出ることがある
- リーダーが代わっても、メンバーの応答の型が残っていれば、安全感は引き継がれる
- メンバー同士の応答(互いに反応するか・無視するか・否定するか)が、その場の安全感を大きく動かす
- リーダーが「招き入れ」「応答」を頑張っていても、メンバーが互いに冷笑し合っていたら、安全性は崩れる
つまり、心理的安全性は「リーダーが作って降りてくる」ものではなく、「リーダーとメンバー全員の応答が編んでいく」ものです。メンバー側にも、固有の役割があります。
💡 ポイント 「自分はリーダーじゃないから関係ない」と思った瞬間、自分は心理的安全性の作り手から降りています。リーダーシップは役職ではなく、行動です。発言する・聴く・反応する、という日常の行動が、メンバー側のリーダーシップそのものです。
「言ってもいいかわからない」状態を抜ける
メンバーが発言しないとき、心の中ではどんなことが起きているのでしょうか。実際に多くの 1on1 で聞いてきた声を整理すると、こんな順序の独白になっています。
- 「何か言ったほうがいいかもしれない」
- 「でも、これは的外れかもしれない」
- 「言って『そんなのは前提だ』と言われたら恥ずかしい」
- 「ほかの人も黙っているのに、自分だけ口を開くのは目立ちすぎる」
- 「考えがまとまるまで時間がかかる。今出すのは半端だ」
- 「次に発言するチャンスがあったら出そう」
- (結局、出ないまま会議が終わる)
これは特殊な人の独白ではなく、多くのメンバーが日常的に通っている思考プロセスです。レッスン 1 で触れた「対人関係のリスク」が、無意識のうちに瞬時に計算されている状態です。
この状態を抜けるためには、「考えがまとまってから」を待たない、というのが最大のコツです。発言は、思考の結論ではなく、思考の途中経過でも出してよい、と自分にルールづけることです。
「半端なまま」出すための言い回し
「半端な発言は無責任」と感じる方も多いので、発言を出しやすくする言い回しを身につけておくと楽になります。
- 「まだ整理しきれていないんですが」
- 「素朴な質問なんですが」
- 「半分は思いつきなんですが」
- 「外している可能性が高いんですが、念のため」
- 「これは私の観察なんですが、ほかの方はどうですか」
こうした「前置き」を添えるだけで、発言のハードルは下がります。前置きは「逃げ」ではなく、「自分の発言の重みづけ」をリスナーに伝える役割を果たします。受け止める側も、半端な発言として受けられるので、議論が広がりやすくなります。
🔰 初学者の方へ 「前置きが多すぎる発言は信頼を落とすのでは」と心配する方もいますが、適度な前置きは「自分の発言を客観視できている人」というシグナルとして、信頼を上げる方向に働くこともあります。一律にどちらが上、ではないので、自分の置かれた場で実験してみるとよいでしょう。
発言のハードルを下げる小技
「発言する勇気を持とう」は、根性論になりがちで実装しにくいアドバイスです。本レッスンでは、勇気の話ではなく、ハードルの話として、具体的な小技を 4 つ紹介します。
①事前に発言の準備をしておく
会議の前に、議題に対して「自分の観察」「気になること」「質問」を 1〜2 個だけメモしておきます。会議でいきなり考え始めると、まとまる前に時間が過ぎてしまうので、事前に「言えるネタ」をストックしておくと、出すハードルが下がります。
5 分の事前準備で発言量は明らかに変わります。
②チャットを併用する
声で発言するのが苦手な人は、会議のチャット欄を併用します。「気になっています」「これは確認したいです」と、簡単なテキストで意思表示するだけでも、会議の空気は変わります。
ハイブリッドや完全リモートの会議では、チャットでの発言が「公式の発言」として扱われやすくなっています。書くことが楽な方は、まずチャットから始めるのが効きます。
③「最初の発言者」になる
会議の冒頭、誰も口を開かない時間の最初に発言すると、その後の発言量が増えやすくなります。「みんなが黙っているから自分も黙ろう」が「沈黙の連鎖」を生むので、最初に切る役を引き受けると、場全体が動きます。
最初の発言は、意見でなくても構いません。「議題の確認なんですが、これは結論を出す会議ですか、論点を広げる会議ですか」のような確認質問でも、空気を切り替えるには十分です。
④事後に追加発言する
会議中に発言できなかったとき、終了後にチャットやメールで「会議では言えなかったんですが」と追加することができます。「あの場でしか言えない」と思い込まないことが、ハードルを下げます。
リーダーが応答上手なら、こうした事後発言を歓迎してくれます。レッスン 4 で触れたように、リーダー側の招き入れ・応答とセットで機能します。
反対意見・違和感を出す技術
メンバーの発言の中でも、ハードルが高いのが「反対意見・違和感の表明」です。「同調圧力」「邪魔だと思われる不安」が強く働く場面で、ここを越える技術が、チームを「学習ゾーン」に押し上げます。
詳細は次のレッスン 7「反対意見と建設的衝突」で扱いますが、ここでは「メンバー側の入り口」として 3 つの方法を紹介します。
①「賛成 + 1 つだけ違和感」の型
完全な反対ではなく、「全体には賛成だが、1 つだけ気になる点がある」という形で出します。「全体の方向性は賛成です。1 点だけ、◯◯のところが気になっています」のような言い回しです。
これは、自分の中で反対意見が完全に整理できていなくても、違和感の段階で出せます。違和感は、後から重要な論点に育つことがよくあります。
②「観察を共有する」型
「反対です」ではなく、「こういう観察があります」と事実を共有する形で出します。「お客様と話していて、ここに不安を感じている方が複数いました」「現場のメンバーから、こういう声を聞きました」など。
意見は対立しますが、観察は対立しません。観察を共有することで、議論を「立場の対立」ではなく「事実の積み上げ」に切り替えられます。
③「質問」として出す型
反対意見を、断定ではなく質問として出します。「これは反対なんですが」ではなく、「念のため確認なんですが、◯◯の場合はどう対応する想定でしょうか」と聞きます。
質問の形は、自分の意見を出しつつも、対話の余白を残せます。リーダーが応答上手なら、質問から重要な論点に発展することが多いのです。
⚠️ 注意 これらの技術は、「反対意見を遠慮せよ」という話ではなく、「対立を恐れて沈黙するくらいなら、入りやすい形でテーブルに乗せよう」という話です。最終的には率直な議論が望ましいので、入門の段階として位置づけてください。
同僚への「応答」が文化を作る
レッスン 5 で「リーダーの応答が次の発言を呼ぶ/止める」と学びました。同じことは、メンバー同士の応答にも当てはまります。
会議で同僚が何か発言したとき、ほかのメンバーがどう反応するかが、その同僚の「次の発言」を決めています。
- うなずく、メモを取る → 「聴いてくれている」と感じ、続けやすい
- 「いいですね」「私も気になっていました」と声を上げる → 「価値ある発言だった」と感じる
- 質問を返す → 「考えを深めてくれた」と感じ、対話に発展する
- 無反応、視線を合わせない、スマホを見ている → 「不要な発言だった」と感じ、次は黙る
- 即座に否定する、冷笑する → 「言うと損をする」と感じ、決して話さない
つまり、メンバー同士の応答が、その場の心理的安全性を作っています。リーダーがどれだけ「招き入れ」「応答」をしても、メンバー同士が無反応や冷笑のチームは、安全性が崩れます。
逆に、リーダーが少し雑な応答をしても、メンバー同士が互いに「いいですね」「もう少し聞きたい」と応答し合うチームは、十分に安全感を保てます。
メンバーの応答の型——3 つだけ覚える
メンバーが意識すべき応答の型として、次の 3 つだけ覚えておけば十分です。
①うなずく・視線を返す
声を出さなくても、うなずいたり視線を合わせたりするだけで、発言者は「聴いてもらっている」と感じます。リモートのビデオ会議では特に、うなずきが意図的に大きめでないと伝わりません。
②「面白い」「私も気になっていました」と声を上げる
短くてもよいので、声で反応します。「面白いですね」「同感です」「私も似たことを感じていました」など。発言が孤立しなくなり、議論に発展しやすくなります。
③「もう少し聞きたい」と質問する
発言を引き出す側に回ります。「もう少し詳しく聞かせてもらえますか」「具体的にはどんな場面ですか」と質問することで、発言者は「価値ある発言として扱われた」と感じます。
💡 ポイント リーダーが応答を頑張るだけでは、心理的安全性は半分しか作れません。メンバー同士が「うなずき・声・質問」で応答し合うことで、もう半分が成り立ちます。リーダーシップは役職ではなく、応答する側に回るという行動です。
「聴く力」「質問する力」がメンバーのリーダーシップ
メンバー側のリーダーシップは、「発言する力」と同じくらい、「聴く力」「質問する力」に表れます。聴く・質問するは、地味に見えますが、チームの議論の質を最も大きく動かします。
聴く力——3 つの段階
聴くにも段階があります。ここでは便宜的に 3 つに整理します。
①事実を聴く
相手が「何を言ったか」を、正確に拾います。要約・確認質問で、認識のずれを潰します。「つまり◯◯ということでしょうか」と確認するだけで、聴く力は明らかに上がります。
②感情を聴く
相手が「どう感じているか」を聴きます。「それは大変でしたね」「もどかしいですよね」と、感情を言葉にして受け止めます。事実だけ拾うより、対話が深まります。
③意図を聴く
相手が「なぜそれを今、自分に伝えているのか」を聴きます。表面的な言葉ではなく、その奥にある意図・希望・困りごとを推測します。意図が見えると、応答の質が変わります。
質問する力——「広げる質問」と「深める質問」
質問にも、おおむね 2 種類あります。
①広げる質問
「ほかにはどんな選択肢がありますか」「もし制約がなければ、どんなふうにしたいですか」など、視点を広げる質問です。議論が一方向に流れているときに、広げる質問が論点を増やします。
②深める質問
「それはなぜですか」「具体的にはどんな場面ですか」「いちばん引っかかっているのはどこですか」など、論点を深掘りする質問です。議論が表面的なときに、深める質問が本質に近づけます。
両方を場面に応じて使い分けることで、メンバーは「議論のファシリテーター」のような役割を、リーダーでなくても担えるようになります。
講師の現場メモ:若手社員が変えた会議の話
私(松木)が独立後、ある中堅 SaaS 企業のチームコーチを担当していた話です。クライアントは部長クラスのリーダーでしたが、現場で印象に残ったのは部下の若手社員の方でした。
その会議は、月 1 回の事業部全体ミーティングで、約 30 名が参加していました。部長が事業状況を共有し、その後「何か質問・意見は?」と聞くものの、いつも沈黙が続く、というのが定番でした。
新卒 3 年目のある社員が、ある回から少しずつ動き始めました。彼女がしていたのは、ごく小さなことです。
- 部長が発言するたびに、はっきりうなずく。視線を合わせる
- ほかのメンバーが発言したら、「面白いですね」「私も気になっていました」と短く声を上げる
- 自分は「半端な質問なんですが」と前置きして、確認質問を 1 つだけ出す
- 会議後に、発言した同僚にチャットで「あの発言、よかったです」と一言送る
これを 3 か月続けたところ、その会議の発言量が明らかに増え始めました。彼女自身が大きな発言をしたわけではなく、「ほかの人の発言を価値あるものとして扱う」応答を増やしただけです。場全体に「応答してもらえる安心感」が広がり、ほかのメンバーも徐々に発言するようになっていきました。
このときに痛感したのが、「メンバーが心理的安全性を作れる」ということでした。役職や年次ではなく、応答する側に回る、という意思があれば、誰でもチーム文化を動かす側に立てます。
その後、彼女は同期の若手にもこの「応答の習慣」を伝え、社内のいくつかの場で、応答密度の高いチームが生まれていきました。本コースの読者にも、ぜひ「応答する側に回る」発想を持ち帰ってほしいと願っています。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 心理的安全性は「リーダーが作って降りてくる」ものではなく、「リーダーとメンバー全員の応答が編む」もの
- 「言ってもいいかわからない」状態を抜けるコツは、考えがまとまる前に、半端なまま出すこと
- 前置き(「まだ整理しきれていないんですが」「素朴な質問なんですが」)が、発言のハードルを下げる
- 発言の小技:①事前準備、②チャット併用、③最初の発言者になる、④事後追加発言
- 反対意見・違和感の入り口:①賛成 + 1 つだけ違和感、②観察を共有、③質問として出す
- メンバー同士の応答(うなずき・声・質問)が、心理的安全性のもう半分を作る
- メンバーのリーダーシップは「発言」と同じくらい「聴く力」「質問する力」に表れる
- 聴く力の 3 段階:事実を聴く・感情を聴く・意図を聴く
- 質問する力:「広げる質問」と「深める質問」を場面で使い分ける
次のレッスンでは、「反対意見と建設的衝突」を扱います。優しい職場と学習する職場の違い、健全な対立の作り方、デブリーフィング(事後ふりかえり)、同調圧力の崩し方を、リーダー・メンバー双方の視点から学びます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。