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スキルアップカレッジ

リーダーの役割①——枠組み設定と招き入れ

レッスン4:リーダーの役割①——枠組み設定と招き入れ

このレッスンで学ぶこと

  • エイミー・エドモンドソンが整理した「リーダーの 3 ステップ」を理解する
  • ステップ 1「フレーミング(枠組み設定)」で何をするのかを説明できる
  • ステップ 2「招き入れ」で使う質問と聴き方の型を持ち帰る
  • リーダー自身の限界・わからなさを開示する意味と方法を理解する
  • 「指示するリーダー」から「対話を引き出すリーダー」への発想転換を意識できる

レッスン 1〜3 で土台を整理しました。本レッスンからは、いよいよ「では、どう動かすか」の実践編に入ります。エドモンドソンは『The Fearless Organization』の中で、心理的安全性を高めるリーダーの仕事を 3 つのステップに整理しました。本レッスンではその最初の 2 つ、フレーミングと招き入れを扱います。3 つ目の応答とフィードバックは、次のレッスン 5 で詳しく扱います。

エドモンドソンの「リーダーの 3 ステップ」

エドモンドソンが整理した、心理的安全性を高めるリーダーの 3 ステップは、次のとおりです。

flowchart LR
  A[ステップ1<br/>フレーミング<br/>仕事と失敗の<br/>捉え直しを共有]
  B[ステップ2<br/>招き入れ<br/>発言を引き出す]
  C[ステップ3<br/>応答<br/>発言を受け止める]
  A --> B --> C
  C -. 次の発言の<br/>呼び水になる .-> A

この 3 ステップは「一度やったら終わり」ではなく、日々のあらゆる場面で繰り返し回すものです。会議のはじまり・終わり、1on1、ふりかえり、雑談、チャット、すべての対話が小さなサイクルになります。

本レッスンではステップ 1・2、次のレッスンでステップ 3 を扱います。

💡 ポイント 3 ステップは、リーダーの「キャラクター」を変える話ではありません。優しいリーダー・厳しいリーダー、内向的・外向的、いずれのスタイルでも実行できる「行動の型」です。自分のスタイルを否定するのではなく、行動の型を上に乗せるイメージで取り組んでください。

ステップ 1:フレーミング(枠組み設定)

フレーミング(framing)は「枠組み設定」と訳されます。これは、仕事の性質・失敗の意味・発言の役割を、リーダーがチームに対して言語化し、繰り返し共有することです。

エドモンドソンは、フレーミングがなぜ大事かを次のように説明しています。同じ出来事でも、それを「何の枠組みで捉えるか」によって、メンバーの反応は大きく変わります。例えば、新規プロジェクトでの試行錯誤を、「失敗が許されない一発勝負」と捉えるか、「学習の過程に必ず失敗が含まれる挑戦」と捉えるかでは、メンバーがどこまでリスクを取るかが変わります。

リーダーの仕事は、「うちの仕事はこういう性質のものだから、こういう発言・行動が望ましい」という枠組みを、何度も言語化することです。

フレーミングの代表的な 3 つの軸

エドモンドソンは、フレーミングで触れるべき軸として、おおむね次の 3 つを挙げています。

①仕事の性質を共有する

「うちの仕事は、答えがわかっている作業ではなく、不確実な中で試行錯誤するものだ」「お客様のニーズは多様で、私たち一人ひとりの観察と判断が要る」「市場が動くスピードが速く、計画通りに進めるよりも、走りながら直すほうが現実的だ」など、仕事の性質を率直に共有します。

これは「不確実なんだから失敗してよい」という免罪符ではなく、「不確実な仕事だから、率直な情報共有と協力が要る」という前提を作るための言語化です。

②失敗の扱い方を共有する

レッスン 2 で学んだ「失敗の 3 分類」を、リーダー自身がチームに翻訳して伝えます。

  • 予防可能な失敗は、再発防止と仕組み改善の対象である
  • 複雑系の失敗は、誰のせいでもない場合が多く、早期発見と学習が大事である
  • 知的失敗は、新しい挑戦の中で必然的に生まれるもので、学習対象として歓迎する

その上で、「責められるのは隠したときであって、報告したときではない」というメッセージを、繰り返し共有します。

③発言の役割を共有する

「気づいたことを、小さなうちに口にしてほしい」「わからないことは、その場で聞いてほしい」「反対意見こそ、考えるチャンスになる」など、メンバーの発言を「ありがたいもの」「価値あるもの」として位置づけ直します。

逆に言うと、「あなたの発言は、価値あるものとして扱う」というメッセージを、行動と言葉の両方で示し続けることです。

フレーミングの実例

抽象的な話に聞こえるかもしれませんので、具体的にフレーミングの言葉の例を挙げます。

  • 「うちの仕事は、答えがわかっていることをこなす仕事ではない。だから、迷い・疑問・反対は、ぜひ表に出してほしい」
  • 「失敗そのものを責めることはない。責めるのは、報告が遅れて手当てができなくなったときだ」
  • 「会議で発言が出ないのは、メンバーが悪いんじゃない。私の聞き方や場の作り方が悪い」
  • 「経験豊富な人ほど、自分の経験を疑う発言をしてほしい」
  • 「わからない、と言える人が、このチームでは強い」

これらは「一度言って終わり」ではなく、毎週のミーティング、1on1、雑談、メール、Slack の発言など、あらゆる機会に繰り返し出てくることで意味を持ちます。

⚠️ 注意 フレーミングと「言葉だけのフレーミング」は別物です。リーダーがどれだけ「失敗を歓迎する」と言っても、実際に失敗報告に対して不機嫌になったり、評価を下げたりすれば、メッセージは一瞬で打ち消されます。フレーミングは、次の「応答」(レッスン 5)と一貫していて初めて効きます。

ステップ 2:招き入れ(invitation)

招き入れは、メンバーの発言・質問・意見を、リーダーが意図的に引き出す行為です。「自由に発言してください」と一度宣言するだけでは、ほとんど何も起きません。場の作り方・問いの立て方・聞き方を含めて、リーダーが能動的に招き入れる必要があります。

招き入れる前提:リーダーの「わからなさ」の開示

招き入れに先立って、リーダー側がやるべきことが 1 つあります。自分の「わからなさ」「迷い」「能力の限界」を開示することです。エドモンドソンも、ブレネー・ブラウンの「vulnerability(脆弱性、自分の弱さを見せる力)」の議論を引きながら、リーダー側の弱さの開示が、発言を呼び込む最大の準備だと述べています。

リーダーが「私はこの問題の答えを持っていない」「私もこの判断に迷っている」「以前、似た状況で間違えたことがある」と先に開示すると、メンバーは「自分もわからない・迷っていることを口にしてよい」と感じやすくなります。逆に、リーダーが完璧な答えを持っているフリをするほど、メンバーは黙ります。

💡 ポイント 「弱さの開示」は、リーダーの権威を失う行為ではありません。むしろ、人として信頼を得る行為です。自分の能力・経験・判断に正直であるリーダーの方が、結果として大きな影響力を持ちます。「わからない」を言える上司を、メンバーは見捨てません。

招き入れに使う問いの型

リーダーがメンバーを招き入れるとき、どんな問いを立てるかが大きく結果を左右します。「何かありますか?」と聞いて沈黙が返ってきても、それはメンバーの問題ではなく、問いの問題であることが多いのです。

招き入れに効きやすい問いの型を、いくつか紹介します。

①「考えを聞く」問い

  • 「この方針について、引っかかっているところがあれば聞きたい」
  • 「自分なら違うやり方を選ぶ、というところがあれば、聞かせてほしい」
  • 「もう少し時間が欲しい、という気持ちがあれば、いつでも教えてほしい」

「いいですか?/だめですか?」のような二者択一の質問よりも、「どこが」「どんなふうに」と具体を聞く問いの方が、考えを引き出しやすくなります。

②「観察を聞く」問い

  • 「現場で見ていて、最近気になっていることはありますか」
  • 「お客様との対話で、当初の想定と違うと感じたところはありますか」
  • 「ほかのチームと比べて、うちはどこが弱いと思いますか」

抽象的な意見ではなく、「観察」を聞くと、答えが具体的になり、発言のハードルが下がります。「意見を求められると気が引けるが、観察を求められると話せる」というメンバーは多いです。

③「懸念を聞く」問い

  • 「今の進め方で、いちばん心配なところはどこですか」
  • 「うまくいかないとしたら、どこから崩れそうですか」
  • 「お客様から見たときに、いちばん不安な点はどこでしょうか」

「うまくいくか」を聞くと前向きな答えしか出ませんが、「うまくいかないとしたら」と聞くと、懸念やリスクが表に出やすくなります。

④「沈黙を埋めない」問い

問いを立てたあと、リーダーは沈黙を「数秒待つ」必要があります。日本の会議では、3〜5 秒の沈黙を「気まずい」と感じて、リーダー自身が答え始めてしまうことが多いのですが、メンバーが言葉を組み立てるには時間がかかります。

「沈黙を埋めない」だけで、発言量は明らかに増えます。

🔰 初学者の方へ 問いを立てたあと、心の中で「7 秒数える」習慣を持ってみてください。最初は気まずく感じますが、それを越えたあたりで、メンバーが口を開き始めることが多いです。「沈黙=失敗」ではなく、「沈黙=メンバーが考えている時間」と捉え直すと、楽になります。

名指しの招き入れ

会議で全員に向けて問いを投げても答えが出ないとき、特定のメンバーを名指しで招き入れる手法があります。エドモンドソンは、これを慎重に使うべきだとしつつ、効果的な方法として紹介しています。

名指しのコツ:

  • 詰問にならないよう、「観察を聞く」「経験を聞く」形にする
  • 役割や立場に紐づける(「現場で見ている◯◯さんの感覚はどうですか」「お客様と直接話している◯◯さんに聞きたいんですが」)
  • 「答えが出なくてもよい」と前置きする(「もし思いつかなければ後で構いません」)
  • 名指しした人を、あとで「振ってくれてありがとう」と感謝のメッセージで承認する

詰問のような名指しは逆効果ですが、「あなたの観察を聞きたい」というメッセージを丁寧に届ければ、心理的安全性を上げる方向に働きます。

場の設計——招き入れの下地

招き入れがうまくいくかどうかは、場そのものの設計にも左右されます。本レッスンでは詳細には立ち入りませんが、リーダーが配慮すべき場の設計ポイントを 4 つ挙げておきます。

①会議の冒頭での枠組み共有

会議の最初の数分で、リーダーが「今日の目的」「議論で歓迎したいこと」を共有します。「今日は答えを出すより、論点を広げたい」「私はまだ案を持っていないので、皆さんの意見が欲しい」など。

②発言量の偏りに気づく

会議中、発言量の偏りに意識を向けます。少ない人がいたら、無理に振らなくてもよいので、「あとで個別に話したい」と一言伝えるだけでも、「見ている」というメッセージになります。

③チャット・事前共有の併用

会議だけで発言を引き出すのは難しいことが多いので、チャットや事前共有を併用します。「この資料について、事前に気づいたことがあれば、明日の朝までにチャットに書いてほしい」など。

④記録と承認

招き入れて出た発言を、議事録・チャット・1on1 などで「拾った」ことを示します。「先週◯◯さんが出してくれたこの懸念について、これから議論したい」など。発言が「拾われない」と、次の発言は出てきません。

講師の現場メモ:「うちのチームは発言しない」と嘆く部長の話

私(松木)が HRBP として、ある事業部の組織開発を支援していたときの話です。営業企画部の部長から、「うちの定例会議で、誰も発言しない。挙手で意見を求めても沈黙が続く。うちのメンバーはおとなしすぎる」という相談を受けました。

私は数回その会議に同席させてもらいました。観察して見えたのは、メンバーの性格ではなく、場の設計と問いの立て方の問題でした。

  • 会議は、部長の数値説明から始まり、約半分の時間を部長が話す
  • 議題はすべて事前に決まっており、結論も含めて部長案がすでに出ている
  • 終盤に「何か質問・意見は?」と全員に向けて投げる
  • 沈黙が 5 秒続くと、部長自身が「では、これで進めます」と打ち切る
  • 1on1 のヒアリングでは、メンバーは「会議で言っても変わらないから、言わない」と語っていた

これは典型的な、フレーミングなし・招き入れなしの会議でした。発言を求めながら、発言を阻む構造があらゆる側面にありました。

私は部長と数回の対話を重ね、次の 3 点を試してもらいました。

  1. 会議冒頭の 2 分間、「今日の目的」「私が迷っている論点」「どんな視点が欲しいか」を共有する
  2. 終盤の「何か意見は?」を、「◯◯さんが現場で気になっていることがあれば」「◯◯さんがお客様と話していて感じたこと」など、観察・経験ベースの問いに変える
  3. 出てきた発言は議事録に残し、次回冒頭で「先週出た◯◯について、こう動かしたい」と返す

3 か月後、その会議の発言量は明らかに増えました。部長は「うちのメンバーは発言する人たちだったんだな」と笑っていました。何も変わっていないのは、部長の聞き方と場の設計だけです。

このときに痛感したのが、「うちのメンバーは発言しない」と嘆くリーダーのほとんどは、メンバー側ではなくリーダー側の発信・問い・応答の設計に課題があるということでした。本コースでも、同じ視点を貫いていきます。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • エドモンドソンのリーダー 3 ステップ:フレーミング → 招き入れ → 応答。本レッスンは前半 2 つ
  • フレーミングは、仕事の性質・失敗の扱い方・発言の役割を、リーダーが繰り返し言語化する行為
  • 仕事の不確実性・失敗の 3 分類・発言の価値、を伝え続けることが土台
  • 招き入れの前に、リーダー側の「わからなさ」「迷い」を開示することが効く
  • 招き入れの問いの型:「考えを聞く」「観察を聞く」「懸念を聞く」「沈黙を埋めない」
  • 名指しの招き入れは、観察・経験・役割に紐づけ、答えが出なくてよい前置きとセットで使う
  • 場の設計:会議冒頭での枠組み共有、発言量の偏りへの気づき、チャット・事前共有の併用、発言を拾って返す

次のレッスンでは、リーダーの 3 ステップのうち最後の「応答」を扱います。発言を受けたときの反応が、次の発言を呼ぶか止めるかを決めます。SBI フィードバック、悪い知らせへの反応の型、1on1 の使い方を、運用できる粒度で学びます。


確認クイズ

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