クラウドの中核サービス——コンピューティング・ストレージ・ネットワーク・データベース
レッスン4:クラウドの中核サービス——コンピューティング・ストレージ・ネットワーク・データベース
このレッスンで学ぶこと
- クラウドの主要サービスを 4 つのカテゴリで整理できる
- コンピューティングの代表(仮想マシン)の意味を把握する
- ストレージの種類(オブジェクト・ブロック・ファイル)を区別できる
- ネットワークの基本要素(VPC・サブネット・DNS・ロードバランサー)の概念を理解する
- マネージドデータベースの種類(RDB・NoSQL・データウェアハウス)を区別できる
- リージョン・可用性ゾーンの考え方を把握する
前のレッスンでは、主要クラウドプロバイダー(AWS・Azure・GCP)と日本の選択肢を概観しました。今回のレッスンでは、クラウドが提供する具体的なサービスを、4 つのカテゴリで整理します。「コンピューティング」「ストレージ」「ネットワーク」「データベース」の 4 つは、クラウド事業者が必ず提供する中核領域で、業務システムの土台になります。本レッスンでは特定の操作画面や API には踏み込まず、「何のためのサービスか」「3 社で代表サービス名はどう違うか」を整理します。
4 つの中核カテゴリ
クラウドの数百あるサービスは、ざっくり 4 つの中核カテゴリで整理できます。
flowchart LR
C[クラウド] --> Comp[コンピューティング<br/>処理]
C --> Stor[ストレージ<br/>保存]
C --> Net[ネットワーク<br/>つなぐ]
C --> DB[データベース<br/>整理]
- コンピューティング:処理を担う(仮想マシン、コンテナ、関数)
- ストレージ:データを保存する(オブジェクト、ブロック、ファイル)
- ネットワーク:サービス同士・利用者とサービスをつなぐ(VPC、DNS、ロードバランサー)
- データベース:データを整理して扱えるようにする(RDB、NoSQL、データウェアハウス)
この 4 カテゴリの周辺に、セキュリティ・分析・AI ・IoT ・運用ツールなどが付属します。本レッスンでは中核 4 カテゴリに集中します。
💡 ポイント サービス名は事業者で違いますが、役割は 3 社でほぼ対応しています。「うちは AWS の EC2 を使っている」と言われたら「Azure なら Virtual Machines、GCP なら Compute Engine と同じ役割」と頭の中で対応づけられると、議論が早く進みます。
コンピューティング——仮想マシン
コンピューティングサービスの基本は「仮想マシン(virtual machine:VM)」です。
仮想マシンとは
物理的なサーバー 1 台の中に、論理的な「仮想のコンピューター」を複数作って動かす技術が、仮想化(virtualization)です。仮想化されたコンピューターを「仮想マシン」と呼びます。利用者から見ると、専有の物理サーバーを 1 台借りているのと同じ感覚で使えますが、実体は物理サーバーを多数の利用者で共有しています。
各社の仮想マシンサービス
| プロバイダー | サービス名 | 略称 |
|---|---|---|
| AWS | Amazon Elastic Compute Cloud | EC2 |
| Microsoft Azure | Azure Virtual Machines | VM |
| Google Cloud | Compute Engine | GCE |
3 社の仮想マシンサービスは、基本的な機能(OS の種類選択、サイズ選択、課金)が共通しています。サイズが大きいほど高性能で、料金も高くなります。
用語:インスタンス
仮想マシン 1 台のことを「インスタンス(instance)」と呼びます。「1 個の実体」というニュアンスです。「3 インスタンス起動した」と言えば、仮想マシンが 3 台動いている状態を指します。
📝 補足 仮想マシンの先に、コンテナ・サーバーレスといった「より細かい単位」のサービスがあります。これらはレッスン 5 で扱います。
ストレージ——3 つの種類
クラウドのストレージサービスは、保存方式の違いで 3 つに大別されます。
| 種類 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| オブジェクトストレージ | 写真・動画・ログ・バックアップなど、ファイル単位での保存 | 容量無制限、コスト低、頻繁な編集には不向き |
| ブロックストレージ | 仮想マシンの内蔵ディスク代わり | 高速、編集可、仮想マシンに付属して使う |
| ファイルストレージ | 複数の仮想マシンから共有する「ファイルサーバー」 | 既存システムから移行しやすい |
オブジェクトストレージ
オブジェクトストレージは、ファイルを「オブジェクト」として保存する仕組みです。一つひとつに一意の名前(キー)と中身(オブジェクト本体)を持ち、URL でアクセスできます。
各社の代表サービス:
- AWS:Amazon S3(Simple Storage Service)
- Azure:Azure Blob Storage
- Google Cloud:Google Cloud Storage(GCS)
写真・動画・ログ・バックアップなど、編集が少なく大量に保存するデータに向いています。容量は実質無制限で、料金は保存量と転送量の従量制です。S3 のように事実上の業界標準になっているサービスもあり、他社の独立系ストレージも「S3 互換」をうたうことが多いです。
ブロックストレージ
ブロックストレージは、仮想マシンの「内蔵ディスク」代わりに使うストレージです。OS から見ると、ローカルディスクと同じように扱えます。
各社の代表サービス:
- AWS:Amazon EBS(Elastic Block Store)
- Azure:Azure Managed Disks
- Google Cloud:Persistent Disk
仮想マシンが動作するときの OS・アプリ・データの置き場として使われます。
ファイルストレージ
複数の仮想マシンから共有する「ファイルサーバー」のような役割を担います。既存のオンプレ業務システム(複数サーバーから NFS や SMB でファイル共有していたもの)を、ほぼ手を入れずにクラウドへ移行する場合に役立ちます。
各社の代表サービス:
- AWS:Amazon EFS(Elastic File System)、Amazon FSx
- Azure:Azure Files
- Google Cloud:Filestore
⚠️ 注意 3 種類のストレージは「とりあえずどれか 1 つあればよい」ものではありません。用途で使い分けます。例えばオブジェクトストレージに頻繁な編集が発生するアプリを乗せると、性能・コストの両面で問題が出ます。
ネットワーク——VPC とサブネット
クラウドのネットワークサービスは、「仮想的なネットワーク空間」を作る発想が基本です。
VPC(Virtual Private Cloud)
VPC は、クラウド内に自社専用の論理的なネットワーク空間を切り出す仕組みです。「自社のクラウドの中の、自社専用の網」と捉えるとわかりやすいでしょう。VPC の中にサブネット(subnet:ネットワークの細分化)を作り、その中に仮想マシンを配置します。
各社の代表サービス:
- AWS:Amazon VPC
- Azure:Azure Virtual Network(VNet)
- Google Cloud:Virtual Private Cloud(VPC)
VPC とサブネットを論理的に分けることで、用途別にネットワーク境界を持てます(公開サブネット・内部サブネット・データベースサブネットなど)。
DNS(Domain Name System)
DNS は「ドメイン名(example.com など)」を「IP アドレス(203.0.113.10 など)」に変換する仕組みです。クラウド事業者は自社の DNS サービスを提供しています。
- AWS:Amazon Route 53
- Azure:Azure DNS
- Google Cloud:Cloud DNS
ロードバランサー
ロードバランサー(load balancer)は、複数の仮想マシンに通信を分散する仕組みです。利用者からのリクエストを 1 か所で受けて、後ろにある複数のサーバーに振り分けます。1 台のサーバーが落ちても、ほかが処理を続けられる利点(可用性向上)と、台数を増やすことで処理能力を上げられる利点(スケーラビリティ向上)があります。
- AWS:Elastic Load Balancing(ELB)
- Azure:Azure Load Balancer、Azure Application Gateway
- Google Cloud:Cloud Load Balancing
CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)
CDN は、ウェブサイトの画像・動画・スクリプトなどを世界中の「キャッシュ拠点」に分散配置し、利用者に近い場所から配信する仕組みです。表示速度の高速化と、元のサーバーへの負荷軽減の両方を狙えます。
- AWS:Amazon CloudFront
- Azure:Azure Front Door、Azure CDN
- Google Cloud:Cloud CDN
データベース——3 つの種類
クラウドのデータベースサービスは、データの扱い方で大きく 3 つに分けられます。
| 種類 | 用途 | 代表的なデータベース |
|---|---|---|
| RDB(リレーショナルデータベース)マネージド | 業務システムの中核データ | PostgreSQL、MySQL、SQL Server、Oracle DB |
| NoSQL | 大量の単純データ、JSON データ、キー・バリュー | DynamoDB、Cosmos DB、Firestore、MongoDB |
| データウェアハウス | 大量データの分析 | BigQuery、Redshift、Synapse、Snowflake |
マネージド RDB
RDB(Relational Database:リレーショナルデータベース)は、表(テーブル)の形でデータを整理する伝統的なデータベースです。SQL(Structured Query Language)でデータを操作します。
クラウドの「マネージド RDB」は、データベースエンジン(PostgreSQL、MySQL、SQL Server、Oracle DB など)を事業者が運用代行してくれるサービスです。バックアップ・パッチ適用・冗長化を事業者が担い、利用者はテーブル設計とアプリ開発に集中できます。
- AWS:Amazon RDS(Relational Database Service)、Amazon Aurora
- Azure:Azure SQL Database、Azure Database for PostgreSQL/MySQL
- Google Cloud:Cloud SQL、AlloyDB
NoSQL
NoSQL(「Not Only SQL」とも略される)は、表ではない形でデータを保存するデータベースの総称です。キーと値の組み合わせ(Key-Value)、ドキュメント、グラフ、カラム指向など、さまざまなタイプがあります。
大量データの読み書きを高速にこなしたい場合(チャットアプリ、IoT、ゲームのスコア管理など)に向きます。
- AWS:Amazon DynamoDB
- Azure:Azure Cosmos DB
- Google Cloud:Cloud Firestore、Cloud Bigtable
データウェアハウス
データウェアハウス(DWH:Data Warehouse)は、大量のデータを集約して分析するためのデータベースです。RDB とは異なるアーキテクチャ(カラム指向、分散処理)で、テラバイト〜ペタバイト級のデータでも高速に分析できます。
- AWS:Amazon Redshift
- Azure:Azure Synapse Analytics
- Google Cloud:BigQuery
- 独立系:Snowflake、Databricks
データウェアハウスは、業務システムから「事業分析のためのデータ集約場所」として独立した位置にあります。レッスン 7 でデータ系列の流れ(業務システム→DWH→ BI ツール→経営判断)に少し触れます。
📝 補足 業務システムには RDB、データを集めて分析するときは DWH、というのが現代的な使い分けです。両者の境界線は、ここ 5 年で曖昧になりつつあります(Snowflake・Databricks・BigQuery の進化)。
リージョンと可用性ゾーン
クラウドサービスを利用するときに、必ず登場する 2 つの概念があります。
リージョン(region)
リージョンは、クラウド事業者がデータセンターを集約している「地理的な地域」のことです。例えば AWS には「東京リージョン(ap-northeast-1)」「大阪リージョン(ap-northeast-3)」「シンガポールリージョン(ap-southeast-1)」など、世界に多数のリージョンがあります。
リージョンを選ぶ理由:
- 利用者が近い場所のほうが応答速度が速い(ネットワーク遅延が小さい)
- データを国内に置きたい(法規制対応)
- 災害対策で複数リージョンに分散
- リージョンごとに料金・サービス対応・規制が異なる
可用性ゾーン(AZ:Availability Zone)
1 つのリージョン内に、物理的に独立した「複数のデータセンター群」が用意されています。これを「可用性ゾーン」と呼びます(事業者によっては「ゾーン」とだけ呼ぶ)。AZ ごとに電源・空調・ネットワークが独立しており、1 つの AZ で大規模障害が起きても、ほかの AZ は影響を受けません。
業務システムの可用性を高めるには、複数の AZ にサーバーやデータを分散させる「マルチ AZ 構成」を採るのが基本です。
⚠️ 注意 「クラウドに乗せたから絶対に止まらない」は誤りです。実際、AWS・Azure・Google Cloud のいずれも、過去にリージョン規模の大規模障害を経験しています。マルチ AZ 構成や、災害対策としてのマルチリージョン構成は、利用者側で設計する必要があります。
SLA と SLO
クラウド事業者が提供する可用性の指標として、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)があります。例えば「月間 99.99% の稼働率を保証」のような数値で示され、達成できなかった場合に料金の一部返金が行われます。
利用者側が運用目標として持つ指標が SLO(Service Level Objective:サービス品質目標)です。SLA は事業者と利用者の契約上の数字、SLO は利用者が自社業務として目指す数字です。両者を区別して扱うのが現代的な運用の発想です。
講師の現場メモ:「小売業のブラックフライデー対応」
私(山下)が外資系クラウド事業者でソリューションアーキテクトをしていた頃、大手小売の EC サイトを支援していた話です。
毎年 11 月の最終週、米国発の「ブラックフライデー」セールが日本でも本格化していました。担当していた小売業は、この日の売上が通常日の 20〜30 倍。サーバー容量が足りなければサイトが落ち、機会損失と顧客の不信を招きます。
オンプレ時代、この日のために通常運用の 30 倍のサーバーを常時用意していました。1 年のほとんどの期間、サーバーは遊んでいる状態です。クラウド移行後の最初のブラックフライデーで、お客様の運用チームと相談しながら、
- 通常時:仮想マシン 30 台
- セール 1 週間前から段階的に増加
- セール当日:仮想マシン 600 台+オートスケーリング設定で 900 台まで自動拡張
- セール翌日から段階的に縮小
- 1 週間後:通常時の 30 台に戻る
という設計に切り替えました。当日のサイトは無事に持ちこたえ、過去最高売上を更新しました。
数か月後、お客様の情シス部長が呼んでくれて、「あのとき決めていただいた『使った分だけ』の発想が、うちの業務の見方を変えました」と話してくれました。1 年間 30 倍の設備を遊ばせるのではなく、当日だけ 30 倍にする——クラウドの「迅速な弾力性」が、ピーク需要を支える業務では何より効きます。
このときの経験から、私は「クラウドの中核サービスは、一つひとつの機能ではなく、組み合わせ方が本質」と考えるようになりました。仮想マシン・ロードバランサー・オートスケーリング・複数 AZ という 4 つの要素を組み合わせると、ピーク需要を 1 日だけ吸収できる仕組みになります。バラバラに覚えるのではなく、「業務でどう使うか」のシナリオで覚えていただくと、忘れにくくなります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- クラウドの中核サービスは、コンピューティング・ストレージ・ネットワーク・データベースの 4 カテゴリで整理できる
- コンピューティングの基本は仮想マシン(インスタンス)。3 社で EC2/VM/Compute Engine と呼ばれる
- ストレージはオブジェクト(S3/Blob/GCS)、ブロック(EBS/Managed Disks/Persistent Disk)、ファイル(EFS/Azure Files/Filestore)の 3 種類
- ネットワークは VPC、サブネット、DNS、ロードバランサー、CDN が基本要素
- データベースはマネージド RDB(RDS/SQL Database/Cloud SQL)、NoSQL(DynamoDB/Cosmos/Firestore)、データウェアハウス(Redshift/Synapse/BigQuery)の 3 種
- リージョン(地域)と可用性ゾーン(独立データセンター)の組み合わせで可用性を設計する
- SLA は事業者の契約上の保証、SLO は利用者の運用目標
次のレッスンでは、仮想マシンの先にある「コンテナ・サーバーレス・マネージドサービス」というモダンな実行環境を扱います。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。